【完結】自分のことを覚えていなかった幼馴染をそれでも一途に愛し続ける

ゴールデンフィッシュメダル

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私の一番古い記憶は兄のサンダースと一緒に汽車に揺られながらヒースの風景を眺めているものだった。それまでどうやって暮らしていたのかはあまり覚えていない。
その時、白のお気に入りのワンピースを着ていたことと初めての旅行にワクワクしていたことはなんとなく覚えている。

兄との旅は長く、いろんなところに行ったが何故行くのか、どこに向かっているのか私はあまり理解出来ていなかった。
旅の中でいくつかの季節が過ぎ、私が7つになった頃、兄はハロー家で住み込み家庭教師として働くことになった。

私は兄と共にハロー家にお世話になりながらハロー家の子息たちと共に育った。

ハロー家の子供は3人で1番上が私より1つ年上のサミュエル、2番目が私より1つ年下のダニエル、そして3番目がダニエルより3つ下のアンことアンジェリカだった。

ハロー家は王都の一等地でデパートや劇場を経営している他、さまざまな商売に手を出している商家で平民ながらその辺の貴族よりもお金も人脈も影響力もある家だった。

我々が身を寄せる事になったハロー家の館は返爵した貴族が所有していた大きな屋敷をハロー家が買い取った立派な建物だった。

湖のほとりに建ち、大きな庭園があった。湖を見下ろす小高い芝生の丘と広大な森に囲まれていて、夏場に避暑地として人気のシープシャーの中で最も威厳があった。

はじめてサミュエルに出会ったのは到着したその日、ハロー家の裏庭だった。
「おい!お前!!」
どうやら直前まで海賊ごっこでもしていたのだろう。腰におもちゃの剣を携え、正義のヒーローが悪役に立ち向かうような雰囲気で話しかけてきた。
緩やかにウェーブのかかった茶髪に自信に満ち溢れた威厳のある姿は本当にヒーローのようで少しカッコいいと思った。

「お前がサマンサか」
「...は、はい」
「いいか、よく聞け。この屋敷でサムと言えば俺だ。なのにお前が来たせいで俺はサミュエルと呼ばれるようになった。」
「は、はぁ。」
「サミュエルとサマンサ両方サムだとややこしいからだそうだが、いい気になるなよ」


どうやらサマンサが来たことで呼び名が変わったことが気に入らないらしい。

「歳だって俺の方が上だし、俺はこの家の子どもでお前はただの家庭教師の妹だということを忘れるな」
それだけ言うとサミュエルは颯爽と走り去って行った。
(なにあれ。ちょっとかっこいいと思ったのが馬鹿みたい)

サミュエルとの出会いは最悪だった。



「サマンサ、どうしたんだい?」
サマンサがプリプリと怒りながら兄と共に暮らすための住み込みの従業員用の別館にある部屋に戻ると兄のスティーブンが次の日の仕事の準備をしながら話しかけてきた。
「さっき、サミュエルさまにあったのだけれど。わたしが来たせいでサムがサミュエルになったと言っておこられたの。でもわたし、わるくないとおもうわ」
「なるほど。サマンサという名前は変えるのことが出来ないもんな。そんな事で怒られたら理不尽だ。
こっちへおいで」
そう言われてお兄さまにハグしてもらった。
サミュエルに対するもやもやは抱きしめてもらっているうちに消えて行った。
兄は金髪碧眼の美男子でサマンサより14歳上。家庭教師の面接ではまだスクールを卒業したてだと言っていた。
1年間カッコいい兄様と過ごした秘事のような旅が普通の兄妹関係よりも少し深いものにしていた。

食事はハロー家の子供達3人と共に取ることになった。兄が家庭教師の職を見つける時の条件が私を屋敷の子供達と同等の扱いをするというものだったからだ。
部屋こそ従業員用の離れだったが、それ以外はドレスや身の回りのものもきちんと与えられ、ガヴァネスからのマナー教育も共に受けた。

その日の夕食の場でサミュエル、ダニエルを正式に紹介してもらった。サミュエルは先程のことなど無かったかのように振る舞っていた。
サマンサはサミュエルが自分より一つ年上なだけだという事に驚いた。
体が大きいだけではなく、顔つきや態度も既に子供っぽさがなかったからだ。
どこかお高くたまったところがあったが、その日の付け合わせのインゲン豆を懸命に避けているところを見つかって怒られていた様子は年相応でかわいらしく感じた。

次の日のマナー教育が終わった午後、庭を散歩をしていたサマンサは裏庭の方に足をのばしてみた。そこでサミュエルとダニエルことダンが立派なツリーハウスで遊んでいるところに遭遇した。
「おい!お前!!」
またサミュエルに引き止められてしまった。
「この悪党め!大切なものを返してもらうぜ!!野郎どもかかれ!!」
そう言って左手で足場にしていた枝につかまり、左手を軸にくるりと半周しながら右手の剣を振り下ろし、結構な高さからふわりと舞い降りた。
いかにも決まった!かっこいいだろうという雰囲気のサミュエルだったが、同世代の子と遊んだことのなかった私は訳がわからず呆然としてしまった。
すると、サミュエルは
「悪党はお前の方だ!だろ?お前、海賊シリーズ読んだ事ないのか」
と言い、まるで新人類を見るような視線を向けてきた。
「よし、わかった。お前は大切なもの、姫さま役だ。ダンは海兵、俺が海賊だ!」


当時、海賊シリーズという児童向けの本が流行っていて、サミュエルとダンの遊びはほとんど毎日海賊ごっこだった。
そして、私はサミュエルに流されるままその遊びに加えてもらうことになった。

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