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ロジャース王城 アンソニーside

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ロジャースでは王城もやはりスタークとは違った作りだった。

スタークの王宮は石造りの城であるが、ロジャースでは城も木で作られている。スタークで木の家といえば石の家に住むことのできない人が住むほったて小屋のイメージしかない。
木で作られた建物がこれほど荘厳で立派だとはスタークの民は誰も思わない。王城が木で作られているなだと聞いたらスタークの民はバカにするのだろう。

王城の中に行くと王家のメンバーが迎えてくれた。
王と王妃、そしてマーガレットの兄である王太子だ。

皆、この国の民族衣装を着ている。
ここに来るまでの間に国内の様々な施設で王家の肖像画が掲げてあったので、アンソニーは一方的にみんなを知っていて、なんだか不思議な気分だった。

『はじめまして。スタークから来ましたアンソニー・ハロルド・スタークです。今後、長い付き合いになりますのでよろしくお願いします。』
そうロジャースの言葉で挨拶をすると3人は驚いた様子だった。
『お久しぶりです。トニー様はロジャース語を勉強して下さっているのよ』
マーガレットがロジャース語で捕捉する。

『なんと。スタークの王太子にロジャース語を学んでいただけるなんて光栄です。ロジャース国の王だったジェームズじゃ。今はただのおじさんだがな。』
王が挨拶のために握手を求める。
アンソニーも握手に応じた。
『妻のナタリアです』
『長男のフィリップです』
アンソニーは他の二人とも握手を交わした。

晩餐でもアンソニーは積極的にロジャース語を話した。王家のメンバーもスターク語を話してくれたりで通訳を介さずにコミュニケーションが取れるのは大変有意義だった。

次の日はマーガレットが家族水入らずで過ごすためアンソニーは1人でスターク国の統治軍の本部に見学に行く事になっていた。そのため、アンソニーは晩餐を先に中座した。
ロジャースでは晩餐は長く続く。中座することは特に不躾なことではないらしい。家族で積もる話もあるだろう。

「温泉があるそうです。準備いただいているようなので今から入りましょう。疲れが取れるそうですよ。」
外交官にそう言われて温泉に入る事になった。温泉に行くまでの途中で晩餐の間の前を通る。

この国では廊下と部屋の間の壁が可動式になっていて声が聞こえる作りになっている。普段は部屋の位置などで漏れ聞こえないようにするらしいが、今日はアンソニーがスタークの王太子ということもあり、アンソニーの居室から温泉までの間に晩餐会場があるような並びになったのだろう。

晩餐の間からマーガレットの声が漏れ聞こえてきた。
アンソニーは思わず足を止めてしまう。

『・・・手紙を・・・』
『そう、それで中身には何と?』
『まだ、覚悟がなくて読めてないのよ。明日読む時間を取りたいと思っているの』

アンソニーがこの国の言葉を学ぶきっかけとなったあの手紙の話をしているのだろう。明日読むのか・・・アンソニーはぼんやり考える。

「アンソニー様・・・?」
道案内をしていた従者がアンソニーに声をかける。

「あぁ。すまない。」
アンソニーは促されて温泉に向かったが、手紙の事が気になって疲れは全く取れなかった。




マーガレットは15とは思えぬ程しっかりしている。
王宮で蔑ろにされていた時も学園で他の貴族達に無視されていた時も自分の役割を見つめ凛と立っていた。
もちろん、肉体的に限界が来て倒れたことはあったが、その時でも心は常に凛としていた。


そのマーガレットの心が唯一傾いたのがあの手紙だった。その時ばかりはマーガレットが年相応の少女に見えた。
そして、マーガレットは未だアンソニーにこれっぽっちも心を許していないのだという事実を認識してしまった。

アンソニーはマーガレットの事など何とも思ってはいない。だからマーガレットが自分に心を開こうと開くまいとどうでもいいはずである。

政略で結ばれた婚約者との関係なんてそんなものだろう、と思う一方で何かが自分の心に引っかかっている。


引いては寄せ、寄せては返す波のように「どうでもよい」と思う自分と一歩踏み込んでマーガレットとちゃんと対話するべきだと思う自分とが心の中で行ったり来たりしていた。
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