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無知 ヴァージニアside

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ヴァージニア・ポッツはポッツ公爵家の令嬢でこの国の王太子アンソニーの婚約者だった。

幼い頃に結ばれた婚約で激しい恋というわけではなかったが、確かに愛情はあったと思う。

しかし、戦争で打ちまかした相手国の王女とアンソニーを婚約させる事になり二人の関係は解消された。

ヴァージニアはそこまで落ち込んだわけではなかったが周りの怒りは凄まじかった。アンソニーとヴァージニアの美男美女のカップルは貴族の中で憧れだったのだ。
それが、隣国の王女が婚約者となるとあって、令嬢たちの思いが歪んだ形で噴出したようだ。

しかも相手がロジャースの王女であるというのも悪いように作用した。世界のいろんな隣国同士がそうであるように、スタークとロジャースはそれほど仲が良くない。
特にスタークの民はロジャースのことを蛮族と言って蔑んでいる。ロジャースでは生肉を食す文化があったり、スタークとは食器の使い方が違い、それをスタークより劣っていると見なす人がいるのだ。

しかも、学園に現れた元王女は娼婦のような厚化粧で、傲慢でワガママだと噂になった。


本来であれば婚約者であるアンソニーがフォローすべきなのであろうが、ロジャースにいい感情を持っていないアンソニーは率先してマーガレットの悪口を言いふらす有様だった。


ヴァージニアはアンソニーと婚約する前の幼い頃、ロジャースに行ったことがある。海の幸も肉の生食も大変美味しかった。人々も優しく情に厚く、スタークで言われているような蛮族だとは思えなかった。

そして、ロジャースではスターク以上に王族が国民に尊敬されているのを感じた。ホテルにも店にも王族の肖像画が掲げてあったし、宝石店でも王家の紋章を模したペンダントが一番人気だということだった。

肖像画の中で見た小さな少女は幸せそうに朗らかに笑っていて美しかった。その少女が敵だらけのこの国に来てどう過ごしているのだろうか、とヴァージニアは少し気にかけていた。


しかし、ヴァージニアがマーガレットに会う機会はなかった。マーガレットはヴァージニアより年下で学年が違うし、登下校の時くらいしか教室から出てこないのだ。
マーガレットのクラスメイトにお茶会でマーガレットの様子をたずねたところ、誰にも話しかけず静かに勉強している、と言う事だった。

スタークとロジャースは使っている言語も違うし勉強について行くのも大変だろう、友人となり助けてやればどうかとヴァージニアが促しても、「ヴァージニア様はお優しいですね」と言われて誰も動かなかった。

このままではマーガレットは学園生活を誰とも交流することなく終えるのではないか、それはあまりに不憫だと思いアンソニーにマーガレットがクラスでうまくいっていないようだと進言した。

それがきっかけになったのかはわからないが、それから数日後、マーガレットが教室から出て中庭でランチを食べているという話が耳に入った。ヴァージニアが中庭に様子を見に行ったときには中庭の周りでマーガレットの様子を伺っている生徒がかなり居た。
中庭は普段、ランチを取ったり休憩したりする生徒で溢れている。しかし、マーガレットが居るために皆様子を伺っていたのだろう。

マーガレットは噴水を見つめながら静かに涙を流していた。

その様子はあまりに儚く、今にも消えて無くなりそうだった。だから思わず声をかけてしまったのだ。
二人のやりとりを多くの生徒が見たことだろう。噂とは違いかなり腰の低いマーガレットの様子を見て、他の生徒はどう思ったのだろうか。

泣いて化粧の落ちた彼女は顔色が悪く、まるで死人のようだった。ロジャースの国民が彼女の顔色を見ただけで戦争が勃発しそうだ。

彼女の顔色が悪いのは王宮での扱いが原因だろう。彼女が王宮でどのような扱いをされているのだろうかと思うと恐ろしかった。

王宮での様子をたずねようと、ヴァージニアはマーガレットに付き添った。馬車の中で「マーガレットさん、お疲れのようですから少しお眠りになったらどうですか?」と言うと彼女はおとなしく目を閉じた。

もう誰かに何かを言われて抵抗する気力もないのだろう。
馬車の中でヴァージニアはマーガレットの腕が折れそうに細い事に気付いた。

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