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ロジャースの娼婦

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マーガレットは学園で仲の良い友人もできず、妃教育では重箱の隅をつつくようなことで注意をされ、心休まることはほとんどなかった。
しかし、自分がこのような扱いを受けていることをロジャースの民が知れば再度戦争になるだろう。自分から婚約を解消するなどできるはずもなかった。

自分一人が耐えれば多くの犠牲が守れると思うとなんとか耐えることができた。

マーガレットはどうしても我慢ができなくなった時、目を閉じてスティーブンの事を十秒だけ思い出す事にしていた。

スティーブンのような被害者を出さないためにも自分が耐えれば良いのだと心を強く持つためだ。

十秒以上スティーブンのことを考えてしまったら、現実になかなか戻って来れなくなってしまう。

マーガレットにはとにかく時間がないのだ。


妃教育では毎晩、文字の書き取りの課題が出る。

ロジャースでは招待状などに書き記す字に関してはそれ専門の職がありそこで一手に引き受けていた。だから文字に関してはある程度綺麗であればそれで許されたが、スターク国では伝統的に文字の流麗さが教養の一旦を担っており、貴族は必ず書取りをするらしい。

そのために毎日同じ文章を100も書いてこいと言われるのだ。

はじめはちょっとした単語だったが今は招待状の文章などを毎日書き写す事になっていて、一つ仕上げるのに5分はかかる。100書こうと思うとそれだけで8時間はかかるのだが、教育係のフューリー夫人はそのことがわからないらしい。

一度、うっかり寝てしまって70しか書けなかった時には罵倒され、鞭で叩かれ、酷い目にあった。

王女としてのプライドはないのかと罵られ、マーガレットは王女としての意地で毎晩の課題をこなしていた。


しかし、学園に行き、そこでの宿題もある上に、学園から帰ってきてから妃教育があり、その後にこの課題があるのだ。
マーガレットは毎日寝不足だった。寝不足のせいで顔色が悪く、その顔色を隠すために厚化粧になってしまう。

その厚化粧のせいで学園では最近、マーガレットのことを「ロジャースの娼婦」と呼んでいるらしい。

もっとも、娼婦・・なんて言葉もマーガレットの習った言葉の中にはなかったので、意味を知るようになったのはつい最近で、その時にはロジャースの娼婦というあだ名はすっかり定着してしまっていた。


アンソニーは同じ学園の最終学年に在籍しているらしいが学園で見かけることはなかった。というのも、マーガレットは学園でクラスの外に出ることがほとんどないからだ。
時間のないマーガレットは休み時間を惜しんで宿題をこなしていた。


「塞ぎ込んでいるらしいな。」

数ヶ月ぶりに会ったアンソニーは鼻でマーガレットのことを嘲笑いながら言った。

「何のことでしょうか?」

マーガレットは毎日必死に過ごしているだけで塞ぎ込んでいるつもりはない。

「学園で誰とも話さず毎日机に向かっていると聞いた。せっかくの学園なのに社交も出来ないのか。それに娼婦などと噂を流されても否定もせずに放置しているらしいな。そんなことで将来の妃が務まるのか。」

「申し訳ございません。」

王女として言い訳はしてはいけないと言われて育ったマーガレットは素直に謝った。アンソニーは大きなため息をついた。

「お前はいつもそれだな。お前のような女を妃に迎えてやるのだ。もう少しうまく立ち回れ。」

「精一杯つとめさせていただきます。」

しかし、何をどうしていいのか皆目見当がつかず、マーガレットの手は震えるばかりだった。
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