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涙月⑦

無垢な令嬢は月の輝く夜に甘く乱される~駆け落ちから始まった結婚の結末は私にもわかりませんでした。

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「あなたの言っている意味は判るんだけど、実際にどうすれば良いのか判らないの」
「身体の力を抜くんだ。何も考えずに俺に任せてくれ」
「これが終わったら、もうおしまいよね。こんなことをしなくても良いんでしょう」
 サヨンの無邪気な台詞に、トンジュの表情が微妙に翳った。しかし、すぐに笑顔で頷いて見せた。
「ああ、そうしよう」
 その時、サヨンがかすかに身をよじった。
「トンジュ、あなたの言うとおりにしようと思うのに、うまくできないわ」
 と、トンジュが眉を寄せた。
「サヨン、今、動くのは止めてくれないか。さもなければ、俺が我慢できなくなってしまう」
 が、サヨンはトンジュの言葉は耳に入っておらず、身体をもぞもぞと動かし続けている。その度に、サヨンの腰が揺れた。
「おい、サヨン。俺の声が聞こえないのか?」
 トンジュの声が切羽詰まったものになった。
 それでもトンジュはサヨンの細腰を掴み、歯を食いしばって耐えていた。だが、ついに限界が来た。
「くそう、もう抑えられない」
 トンジュが突然狂ったように腰を動かし始め、サヨンは眼を見開いた。彼は二、三回勢いつけて動いたかと思うと、次に勢いをつけて一挙にサヨンの奥深くまで深々と貫いた。
 初めの方の痛みとは比較にならない鋭い痛みが下半身を直撃する。
「あぁ、ああっ」
 サヨンのか細い身体がのけぞった。
 その時、サヨンの胎内深くに挿入されたトンジュの一部から熱い飛沫が飛び散った。
「うぅ―」
 熱い液体に胎内が濡らされてゆく感覚に、サヨンは身を震わせる。ゾクゾクとした快感とも呼べるような感覚が身体中に拡散していった。
 サヨンはこの時、悟ったのだ。これがトンジュの言っていた〝女になる〟という意味だったのだ、と。
 サヨンの中に入ったトンジュ自身はまだ熱い飛沫をまき散らし続けている。漸く終わっても、彼のものはまだ固く大きく、サヨンの身体の中で、その存在を彼女に思い知らしめていた。
 その生々しい感触に、ついに彼を受け容れさせられたのだと思い知らされ、サヨンは瞳に涙を一杯溢れさせた。
 涙を一杯に溜めた眼で見つめると、トンジュがまだ彼自身を彼女の中に収めたまま、そっと引き寄せた。
「痛かった?」
 あやすように髪を撫でながら優しく訊ねてくる。サヨンは小さく頷いた。
「―ごめん。初めてだから優しくしようと思っていたのに、どうしても途中で辛抱しきれなくなった。悪かった」
 トンジュがサヨンの頬に口づけを落とす。優しい接吻は頬だけでなく、額、首筋、鎖骨から胸のふくらみと各所に落とされた。
 一体、トンジュという男は、相手が自分の思いどおりになって素直に従えば、幾らでも優しくなれる質であった。
「もう誰にも渡さない」
 呟いたトンジュの声には、烈しすぎるほどの所有欲がはっきりと滲み出ていた。



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