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プロローグ
『夜の路地裏に響く音』
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──これは、流石にマズイかも。
不吉な予感に背中を押されながら、銀髪の少女は夜の路地裏を駆け抜ける。
状況は最悪だ。視界は闇で一歩先もままならず、足元に散乱する空きビンやダンボールで何度も足を掬われそうになる。
おまけに両腕に抱えたシルバーのアタッシュケースのせいで頗る走りにくく、曲がり角の度に擦り傷が増えていった。
なにより極め付けは──。
「待てッ、逃げるなぁッ!」
「このクソガキィ! 荷物を返せ!」
背後から飛ぶ二つの怒声。振り返らずとも分かる、かれこれ数十分近く鬼ごっこを続けている男たちのものだ。
声はそれほど遠くない。角を曲がる直前にチラリと後方に視線を向ければ、暗闇の中でも二つの人影が見える。一つは壁のように大柄なのに対し、もう片方はかなり小柄だ。
……もう既に、目視可能な距離まで迫られている。
それを確認した少女は、スパートを掛けるように更なる力を足に込めた。
しかし、
「っ!」
パシュンッ──くぐもった破裂音。そして続け様に響く、ガキャンッバキンッと硬い何かが激しくぶつかり合う甲高い音。
それは発砲時の音を極限まで抑えた、特殊な銃による銃声だった。ならば、その後に響いた音は跳弾によるもので間違いない。
直後にガラスを踏む音が聞こえるに、どうやら転がっているビンに着弾したようだ。
「撃ってきた……いよいよ本格的にヤバいかも」
少女の額に、疲労とは異なる汗が浮かぶ。
追い詰められていることは理解していた。けれど立ち向かうための武器も、力も、体力も、今の少女には残っていない。
このままでは追い付かれるのも時間の問題だ。
「……いいや焦るな、わたし。大丈夫、この角を曲がれば、出口までもうすぐ……!」
しかし少女も無策ではなかった。
ただ闇雲に駆け回っていた訳じゃない。どこを進めばどの通路に繋がっているのか、常に自分の現在地を意識して走り続けていた。
本来は男たちを撒くために飛び込んだ路地裏で、ここまで追い詰められたのは想定外だったが、それももうすぐ終わるだろう。
目的の角まで続く直線を駆け抜けるべく、少女は最後の力を振り絞る。
しかし──パシュンッ。
「ぐぅっ!?」
脇腹に走った、強烈な痛み。直後に生暖かい液体が肌を伝って足元に流れていく。
撃たれたと理解するのに時間は掛からなかった。
──あと少し、なのに……。
身体から一気に力が抜け、酔っぱらいのように足がフラつく。
そこからは、ほとんど的撃ちのようなものだった。
繰り返し放たれる銃弾が、服を、脚を、腕を掠める。
暗闇に助けられているのか、はたまた苦しめられているのか。視界が定まらない中では、どれも傷を増やすばかりで致命打には至らない。
それが一層の恐怖を煽り、少女の精神を苦しめる。
それでも気合いで前へと進み続けた少女は、ついに目的の角を曲がった。
そして──。
「──もしかして、子供か?」
「ハァ…………ハァ……。……っ!」
出口付近に立つ三人目の影が現れた時、限界を迎えた少女の身体は、アタッシュケースを下敷きにして伏せるように横たえた。
不吉な予感に背中を押されながら、銀髪の少女は夜の路地裏を駆け抜ける。
状況は最悪だ。視界は闇で一歩先もままならず、足元に散乱する空きビンやダンボールで何度も足を掬われそうになる。
おまけに両腕に抱えたシルバーのアタッシュケースのせいで頗る走りにくく、曲がり角の度に擦り傷が増えていった。
なにより極め付けは──。
「待てッ、逃げるなぁッ!」
「このクソガキィ! 荷物を返せ!」
背後から飛ぶ二つの怒声。振り返らずとも分かる、かれこれ数十分近く鬼ごっこを続けている男たちのものだ。
声はそれほど遠くない。角を曲がる直前にチラリと後方に視線を向ければ、暗闇の中でも二つの人影が見える。一つは壁のように大柄なのに対し、もう片方はかなり小柄だ。
……もう既に、目視可能な距離まで迫られている。
それを確認した少女は、スパートを掛けるように更なる力を足に込めた。
しかし、
「っ!」
パシュンッ──くぐもった破裂音。そして続け様に響く、ガキャンッバキンッと硬い何かが激しくぶつかり合う甲高い音。
それは発砲時の音を極限まで抑えた、特殊な銃による銃声だった。ならば、その後に響いた音は跳弾によるもので間違いない。
直後にガラスを踏む音が聞こえるに、どうやら転がっているビンに着弾したようだ。
「撃ってきた……いよいよ本格的にヤバいかも」
少女の額に、疲労とは異なる汗が浮かぶ。
追い詰められていることは理解していた。けれど立ち向かうための武器も、力も、体力も、今の少女には残っていない。
このままでは追い付かれるのも時間の問題だ。
「……いいや焦るな、わたし。大丈夫、この角を曲がれば、出口までもうすぐ……!」
しかし少女も無策ではなかった。
ただ闇雲に駆け回っていた訳じゃない。どこを進めばどの通路に繋がっているのか、常に自分の現在地を意識して走り続けていた。
本来は男たちを撒くために飛び込んだ路地裏で、ここまで追い詰められたのは想定外だったが、それももうすぐ終わるだろう。
目的の角まで続く直線を駆け抜けるべく、少女は最後の力を振り絞る。
しかし──パシュンッ。
「ぐぅっ!?」
脇腹に走った、強烈な痛み。直後に生暖かい液体が肌を伝って足元に流れていく。
撃たれたと理解するのに時間は掛からなかった。
──あと少し、なのに……。
身体から一気に力が抜け、酔っぱらいのように足がフラつく。
そこからは、ほとんど的撃ちのようなものだった。
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それが一層の恐怖を煽り、少女の精神を苦しめる。
それでも気合いで前へと進み続けた少女は、ついに目的の角を曲がった。
そして──。
「──もしかして、子供か?」
「ハァ…………ハァ……。……っ!」
出口付近に立つ三人目の影が現れた時、限界を迎えた少女の身体は、アタッシュケースを下敷きにして伏せるように横たえた。
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