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第9章<アンナの幸せ>
11、懇願
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火竜の来訪があった日が遠い過去に感じられるぐらい、私は、毎日平穏な日々を過ごしている。
セイフィード様は、執務室で仕事をし、私は隣で色々な勉強をする。
ストラス3号とテリア様は毎日のように喧嘩しているが、喧嘩する毎に仲良くなっている気がする。
また、私に専属メイドさんが付き、着替えを手伝って貰ったり、髪を結んで貰ったりしている。
もちろんこのメイドさんもゴブリンで、以前仲良くなった8歳のルンのお母さんだ。
ルンのお母さんだが、いくら私が話を振っても返事は一切ない。
相変わらず、ルン以外のゴブリンは私を無視している。
そして今、私はルンと一緒に城の中庭にいる。
この中庭には噴水があり、魔界の毒がない花々が咲いている。
私のお気に入りの場所の1つだ。
「ルン、今日は算数のお勉強をしようか」
私はルンに算数や読み書きを教えている。
反対に私はルンから魔界の事について教えて貰っている。
「う、うん⋯⋯」
いつも元気なルンが大人しい。
目も虚ろで、ぼーっとしている。
「ルン、どうしたの? 大丈夫? 辛そうだけど⋯⋯」
私がルンの肌に触れると、明らかに熱い。
多少、人間とゴブリンに体温差はあるにしても、ルンの熱さは尋常じゃない。
「ルン、凄い熱だよ。どこか具合が⋯⋯っ」
ルンはガクリと、突然倒れこんでしまう。
大変だっ、急いでお医者さんに診せないと。
私は、ルンを抱きかかえ、ルンのお母さんがいると思われる部屋に急いで向かう。
「すっ、すみませんっ。ルンのお母さんはいますか? お父さんでもいいです。ルンが大変なんです」
私は、大声を出しながら助けを求めた。
何事かとゴブリン達は私に近ずき、ルンの様子に気付くと、大変だ、大変だっと言いながらルンのお母さん、お父さんを呼びに行ってくれた。
ルンの両親は直ぐに見つかり、私に駆け寄ってきた。
私はルンを、ルンのお母さんに手渡し、近くの空いている部屋のベットにルンを寝かせた。
「ルンっ、そんなっ」
「なんてこった。ルンがバグラニになるなんて」
ルンのご両親は動揺しているが、ルンのこの病状について何か知っている様子。
心配して集まって来ているゴブリンさん達も口々に「バグラニ」と囁いている。
皆、この病状について知っているらしい。
「ルンを早くお医者さんに見せないと。ゴブリンのお医者さんはいないんですか?」
「そんなのいねえ」
「そだそだ、バグラニは自然に治るのを待つしかねえ」
「ルンは、安静にしていれば治るんですか?」
「どうだか⋯⋯。バクラニになったら半分は死ぬ」
「うちの婆さんもそれで死んだ」
「仕方ねえんだ」
「そんな⋯⋯、私、セイフィード様を呼んでくる」
私は急いで執務室に行き、今までの出来事をセイフィード様に説明した。
「セイフィード様、お願いです。ルンに治癒魔法を施して下さい」
「人間の治癒魔法がゴブリンに効くかは不確かだ。それにそこまでゴブリンに関わらなくていい」
「私とルンは友達です。もう、深く関わっています。だからお願いです、セイフィード様。治癒魔法を施して下さい。お願いです」
私はセイフィード様に擦り寄り、精一杯懇願した。
「しょうがないな。やってみるが効果が無いかもしれない。一応、医者のガルミエも呼んでおく」
「ありがとうございます」
私はセイフィード様を引き連れ、ルンが寝ている部屋に急いで向かう。
セイフィード様は直ぐに治癒魔法を施した。
『サーナ・サーナ・光の精霊よ・息吹を注げ』
セイフィード様が魔法を施すとルンの体がほのかに光る。
それまで苦しそうにしていたルンだったが、少し表情が和らぐ。
「有難うございます。ご主人様」
ルンのご両親が、セイフィード様にお礼を言う。
そこに集まったゴブリン全員がセイフィード様を崇めるように見つめている。
やっぱりセイフィード様って凄い。
私は医術を勉強してるのに、全く役に立たない。
なんて情けないんだろう⋯⋯。
でも、今は落ち込んでいる場合じゃない。
ルンのために出来ることをしないと。
私は台所に行き、お水やタオルなどを用意して再度、ルンがいる部屋に戻った。
すると、医者のガルミエさんが、ルンを診察している。
「先程のセイフィード様の魔法が良く効いているようです。これならルンは大丈夫でしょう。バクラニに良く効く薬も、後で送り致しますので飲ませて下さい」
「本当に、本当に、有難うございます」
ルンのご両親は泣きながらガルミエさんにお礼を言っている。
良かった⋯⋯。
ルンは助かるんだ。
その後、ガルミエさんは薬を作るために自国に戻るので、私とセイフィード様はお見送りすることにした。
城の一画に大きなバルコニーがあり、そこに大きな銀色の鳥が待機している
この銀色の鳥は城で飼っていて、要人を連れて来たり、セイフィード様がどこか出かける時に使う。
「ガルミエさん、来て頂いてありがとうございました。感謝しきれません」
「病人を見るのは医者の務めですから。でも、まさか人間がゴブリンのために治癒魔法を施すとは、驚きましたよ」
「アンナに頼まれたからだ」
「クスクスっ。そのようですね。セイフィード様はアンナさんに頼まれると断ることが出来ないようですね」
「ガルミエ、余計な事は言わなくていい。では、また頼む」
「では、またお会いしましょう」
ガルミエさんが銀の鳥に乗ると、銀の鳥は高く舞い上がり、ひかり輝き出した。
その光が弓矢のように一直線になると、突然消えた。
「セイフィード様、消えちゃいました」
「ああ、あの鳥は短い距離を転移しながら飛ぶんだ」
「凄いですね。私もいつかあの鳥に乗ってみたいです」
「恐らく乗った事を後悔すると思うぞ」
「え⋯⋯。結構怖いんですか?」
「まあ、乗ればわかる」
やっぱり乗るのは遠慮しとこう。
高い所、そんなに得意じゃないし。
「私、ルンの様子を見てきます」
「あまり根を詰め過ぎるなよ」
「はい。わかりました」
それから私は毎日、ルンを看病した。
日に日に回復してくるルンを見ると、私まで元気になる。
セイフィード様もルンが気になるのか、ちょくちょく顔を出してくれる。
医者のガルミエさんも先程、ルンを診察してくれて、もう大丈夫だと教えてくれた。
「ルン、気分はどう? 果物持ってきたから食べさせてあげる」
「もう、大丈夫だよ。早く遊びたい」
「そうだね。もう明日からは普通にしていいって。だから明日になったら、また遊ぼう」
「うん。約束だよ」
ルンに果物を食べさせていると、ルンのご両親と、執事ゴブリンが部屋に入って来た。
3人とも神妙の面持ちで固まっている。
「あ、ルンに用事がありますか? 私、部屋から出ますね」
「いや、その⋯⋯、おまっ、アンナ様に話があります」
執事ゴブリンがモジモジしながら言う。
アンナ様って、様って⋯⋯、なんか怖いんですけど⋯⋯。
「私ですか? なんでしょうか?」
「私の息子を、ルンを助けて頂き有難うございます」
「一族を代表して礼を言います。誠に有難うございます」
ルンの両親が頭を下げる。
執事ゴブリンも、両親に続き頭を下げる。
「あの、ルンを治したのは私ではなくセイフィード様とガルミエさんです。私は何もしていません。だからお礼はセイフィード様とガルミエさんにお願いします」
「そんなことは、ありません。アンナ様がお願いしなければ誰もルンを助けてはくれませんでした」
ルンのお母さんが私の手を取り、膝をついてさらに深く頭を下げる。
ルンのお父さんも、執事ゴブリンも膝をつき頭を下げる。
「そんなっ。私は、ルンのご両親と同じく、ルンが元気になって欲しかったんです。ルンは私にとって大切な友人ですから。だからもう、頭をあげて下さい。お気持ちは充分わかりましたから」
「ルンを大切な友人だなんて。私達はゴブリンなのに⋯⋯」
「あの、私、できれば皆さんとも、もう少し会話をしたいです」
「はい。勿論でございます。これまでの非礼をお許しください。これからは何でもお申し付け下さい」
執事ゴブリンが下げていた頭を上げると、私に対してニコリと笑う。
初めて笑った顔を見たけど、笑うと愛嬌があって親しみやすい。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
それからは、ゴブリンさんは私を無視する事はなくなった。
ルンのお母さんは元々お喋りな性格なのか、私の世話をしながら、毎日、面白可笑しい話をしてくれる。
また、火竜のためのクッキー作りも手伝ってくれ、とても助かっている。
けれど、私がゴブリンと仲良くなればなるほど、何故かセイフィード様の束縛が日に日に強くなってきている。
今日も勉強がひと段落したので、執務室を出ようとしたら、後ろから抱きしめられてしまった。
「どこに行くんだ?」
「ルンの所です」
「またか」
「今日はルンに魔界の花について教えて貰おうと思っているんです」
「魔界の花なら、俺だって知識がある。俺に聞けばいいんじゃないか?」
「だって、セイフィード様、お仕事が忙しそうですし⋯⋯」
「 アンナの質問に答えるぐらいの時間はある」
「あの、私⋯⋯、セイフィード様にお願いがあるんです」
「なんだ?」
「私、セイフィード様のお仕事のお手伝いがしたいです。私だって、セイフィード様の役に立ちたいんです。お願いします。何でもいいんです、書類整理でも何でも⋯⋯」
「アンナは、俺の側に居るだけでいいんだが⋯⋯。じゃあ、そうだな。まずは書類の封を開ける作業をして貰おうかな」
「はい! 頑張ります」
「今は人間界のだけでいい。魔界の書類は少し厄介だからな」
「はい。セイフィード様」
嬉しい。
なんか、共働き夫婦みたい。
⋯⋯夫婦じゃないか。
私達って、何なんだろう。
このままずっと、あやふやなままなのかな⋯⋯。
また、セイフィード様の婚約者になりたい。
愛人じゃなく、私はセイフィード様の婚約者なんですよーって堂々と叫びたい。
セイフィード様は、執務室で仕事をし、私は隣で色々な勉強をする。
ストラス3号とテリア様は毎日のように喧嘩しているが、喧嘩する毎に仲良くなっている気がする。
また、私に専属メイドさんが付き、着替えを手伝って貰ったり、髪を結んで貰ったりしている。
もちろんこのメイドさんもゴブリンで、以前仲良くなった8歳のルンのお母さんだ。
ルンのお母さんだが、いくら私が話を振っても返事は一切ない。
相変わらず、ルン以外のゴブリンは私を無視している。
そして今、私はルンと一緒に城の中庭にいる。
この中庭には噴水があり、魔界の毒がない花々が咲いている。
私のお気に入りの場所の1つだ。
「ルン、今日は算数のお勉強をしようか」
私はルンに算数や読み書きを教えている。
反対に私はルンから魔界の事について教えて貰っている。
「う、うん⋯⋯」
いつも元気なルンが大人しい。
目も虚ろで、ぼーっとしている。
「ルン、どうしたの? 大丈夫? 辛そうだけど⋯⋯」
私がルンの肌に触れると、明らかに熱い。
多少、人間とゴブリンに体温差はあるにしても、ルンの熱さは尋常じゃない。
「ルン、凄い熱だよ。どこか具合が⋯⋯っ」
ルンはガクリと、突然倒れこんでしまう。
大変だっ、急いでお医者さんに診せないと。
私は、ルンを抱きかかえ、ルンのお母さんがいると思われる部屋に急いで向かう。
「すっ、すみませんっ。ルンのお母さんはいますか? お父さんでもいいです。ルンが大変なんです」
私は、大声を出しながら助けを求めた。
何事かとゴブリン達は私に近ずき、ルンの様子に気付くと、大変だ、大変だっと言いながらルンのお母さん、お父さんを呼びに行ってくれた。
ルンの両親は直ぐに見つかり、私に駆け寄ってきた。
私はルンを、ルンのお母さんに手渡し、近くの空いている部屋のベットにルンを寝かせた。
「ルンっ、そんなっ」
「なんてこった。ルンがバグラニになるなんて」
ルンのご両親は動揺しているが、ルンのこの病状について何か知っている様子。
心配して集まって来ているゴブリンさん達も口々に「バグラニ」と囁いている。
皆、この病状について知っているらしい。
「ルンを早くお医者さんに見せないと。ゴブリンのお医者さんはいないんですか?」
「そんなのいねえ」
「そだそだ、バグラニは自然に治るのを待つしかねえ」
「ルンは、安静にしていれば治るんですか?」
「どうだか⋯⋯。バクラニになったら半分は死ぬ」
「うちの婆さんもそれで死んだ」
「仕方ねえんだ」
「そんな⋯⋯、私、セイフィード様を呼んでくる」
私は急いで執務室に行き、今までの出来事をセイフィード様に説明した。
「セイフィード様、お願いです。ルンに治癒魔法を施して下さい」
「人間の治癒魔法がゴブリンに効くかは不確かだ。それにそこまでゴブリンに関わらなくていい」
「私とルンは友達です。もう、深く関わっています。だからお願いです、セイフィード様。治癒魔法を施して下さい。お願いです」
私はセイフィード様に擦り寄り、精一杯懇願した。
「しょうがないな。やってみるが効果が無いかもしれない。一応、医者のガルミエも呼んでおく」
「ありがとうございます」
私はセイフィード様を引き連れ、ルンが寝ている部屋に急いで向かう。
セイフィード様は直ぐに治癒魔法を施した。
『サーナ・サーナ・光の精霊よ・息吹を注げ』
セイフィード様が魔法を施すとルンの体がほのかに光る。
それまで苦しそうにしていたルンだったが、少し表情が和らぐ。
「有難うございます。ご主人様」
ルンのご両親が、セイフィード様にお礼を言う。
そこに集まったゴブリン全員がセイフィード様を崇めるように見つめている。
やっぱりセイフィード様って凄い。
私は医術を勉強してるのに、全く役に立たない。
なんて情けないんだろう⋯⋯。
でも、今は落ち込んでいる場合じゃない。
ルンのために出来ることをしないと。
私は台所に行き、お水やタオルなどを用意して再度、ルンがいる部屋に戻った。
すると、医者のガルミエさんが、ルンを診察している。
「先程のセイフィード様の魔法が良く効いているようです。これならルンは大丈夫でしょう。バクラニに良く効く薬も、後で送り致しますので飲ませて下さい」
「本当に、本当に、有難うございます」
ルンのご両親は泣きながらガルミエさんにお礼を言っている。
良かった⋯⋯。
ルンは助かるんだ。
その後、ガルミエさんは薬を作るために自国に戻るので、私とセイフィード様はお見送りすることにした。
城の一画に大きなバルコニーがあり、そこに大きな銀色の鳥が待機している
この銀色の鳥は城で飼っていて、要人を連れて来たり、セイフィード様がどこか出かける時に使う。
「ガルミエさん、来て頂いてありがとうございました。感謝しきれません」
「病人を見るのは医者の務めですから。でも、まさか人間がゴブリンのために治癒魔法を施すとは、驚きましたよ」
「アンナに頼まれたからだ」
「クスクスっ。そのようですね。セイフィード様はアンナさんに頼まれると断ることが出来ないようですね」
「ガルミエ、余計な事は言わなくていい。では、また頼む」
「では、またお会いしましょう」
ガルミエさんが銀の鳥に乗ると、銀の鳥は高く舞い上がり、ひかり輝き出した。
その光が弓矢のように一直線になると、突然消えた。
「セイフィード様、消えちゃいました」
「ああ、あの鳥は短い距離を転移しながら飛ぶんだ」
「凄いですね。私もいつかあの鳥に乗ってみたいです」
「恐らく乗った事を後悔すると思うぞ」
「え⋯⋯。結構怖いんですか?」
「まあ、乗ればわかる」
やっぱり乗るのは遠慮しとこう。
高い所、そんなに得意じゃないし。
「私、ルンの様子を見てきます」
「あまり根を詰め過ぎるなよ」
「はい。わかりました」
それから私は毎日、ルンを看病した。
日に日に回復してくるルンを見ると、私まで元気になる。
セイフィード様もルンが気になるのか、ちょくちょく顔を出してくれる。
医者のガルミエさんも先程、ルンを診察してくれて、もう大丈夫だと教えてくれた。
「ルン、気分はどう? 果物持ってきたから食べさせてあげる」
「もう、大丈夫だよ。早く遊びたい」
「そうだね。もう明日からは普通にしていいって。だから明日になったら、また遊ぼう」
「うん。約束だよ」
ルンに果物を食べさせていると、ルンのご両親と、執事ゴブリンが部屋に入って来た。
3人とも神妙の面持ちで固まっている。
「あ、ルンに用事がありますか? 私、部屋から出ますね」
「いや、その⋯⋯、おまっ、アンナ様に話があります」
執事ゴブリンがモジモジしながら言う。
アンナ様って、様って⋯⋯、なんか怖いんですけど⋯⋯。
「私ですか? なんでしょうか?」
「私の息子を、ルンを助けて頂き有難うございます」
「一族を代表して礼を言います。誠に有難うございます」
ルンの両親が頭を下げる。
執事ゴブリンも、両親に続き頭を下げる。
「あの、ルンを治したのは私ではなくセイフィード様とガルミエさんです。私は何もしていません。だからお礼はセイフィード様とガルミエさんにお願いします」
「そんなことは、ありません。アンナ様がお願いしなければ誰もルンを助けてはくれませんでした」
ルンのお母さんが私の手を取り、膝をついてさらに深く頭を下げる。
ルンのお父さんも、執事ゴブリンも膝をつき頭を下げる。
「そんなっ。私は、ルンのご両親と同じく、ルンが元気になって欲しかったんです。ルンは私にとって大切な友人ですから。だからもう、頭をあげて下さい。お気持ちは充分わかりましたから」
「ルンを大切な友人だなんて。私達はゴブリンなのに⋯⋯」
「あの、私、できれば皆さんとも、もう少し会話をしたいです」
「はい。勿論でございます。これまでの非礼をお許しください。これからは何でもお申し付け下さい」
執事ゴブリンが下げていた頭を上げると、私に対してニコリと笑う。
初めて笑った顔を見たけど、笑うと愛嬌があって親しみやすい。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
それからは、ゴブリンさんは私を無視する事はなくなった。
ルンのお母さんは元々お喋りな性格なのか、私の世話をしながら、毎日、面白可笑しい話をしてくれる。
また、火竜のためのクッキー作りも手伝ってくれ、とても助かっている。
けれど、私がゴブリンと仲良くなればなるほど、何故かセイフィード様の束縛が日に日に強くなってきている。
今日も勉強がひと段落したので、執務室を出ようとしたら、後ろから抱きしめられてしまった。
「どこに行くんだ?」
「ルンの所です」
「またか」
「今日はルンに魔界の花について教えて貰おうと思っているんです」
「魔界の花なら、俺だって知識がある。俺に聞けばいいんじゃないか?」
「だって、セイフィード様、お仕事が忙しそうですし⋯⋯」
「 アンナの質問に答えるぐらいの時間はある」
「あの、私⋯⋯、セイフィード様にお願いがあるんです」
「なんだ?」
「私、セイフィード様のお仕事のお手伝いがしたいです。私だって、セイフィード様の役に立ちたいんです。お願いします。何でもいいんです、書類整理でも何でも⋯⋯」
「アンナは、俺の側に居るだけでいいんだが⋯⋯。じゃあ、そうだな。まずは書類の封を開ける作業をして貰おうかな」
「はい! 頑張ります」
「今は人間界のだけでいい。魔界の書類は少し厄介だからな」
「はい。セイフィード様」
嬉しい。
なんか、共働き夫婦みたい。
⋯⋯夫婦じゃないか。
私達って、何なんだろう。
このままずっと、あやふやなままなのかな⋯⋯。
また、セイフィード様の婚約者になりたい。
愛人じゃなく、私はセイフィード様の婚約者なんですよーって堂々と叫びたい。
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