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第9章<アンナの幸せ>

7、景色

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 セイフィード様は今度は、ゴブリンさん2名を引き連れて部屋に入ってきた。
ゴブリンさんはお湯が入った大きなタライを持っている。
初めてゴブリンさんを見たけど、想像してたより小さい、120センチもなさそう。
緑色の肌に一瞬びっくりするけど、見慣れれば意外に可愛いいかも。
いや、正直に感想を述べるとしたら、キモ可愛いだ。
このゴブリンさん達が、城の縁の下の力持ち的存在なんだよね。
私の事、認めてくれるかな⋯⋯。

 そしてゴブリンさん達は、タライをテーブルの上に置くとお辞儀をして部屋から出て行ってしまった。

「セイフィード様、今度きちんとゴブリンさん達に挨拶したいです」

「そのうちな」

 セイフィード様はタライのお湯に、液体を一滴垂らした。
すると、ふんわりと藤のいい香りがしてくる。
そのお湯に、タオルを浸す。
そしてセイフィード様がベットに腰掛け、いきなり私の寝巻の胸元の紐を解こうとした。

「まさかとは思いますが、セイフィード様が私の体を拭くのですか?」

 私は寝巻きの紐を解かれないように、その部分をギュッと両手で掴む。

「あぁ、そうだ」

「私、自分で自分の体拭けます。だからセイフィード様はあっちに、どこかに行ってて下さい」

「遠慮しなくていい。当分、俺はアンナの世話してやる」

「遠慮なんてしてませんっ。恥ずかしいんです」

「恥ずかしがることはない。もう俺はアンナの裸を見ている」

 ひっ、ひぇ~。
そうだった⋯⋯、セイフィード様はエロ変態魔人だった⋯⋯。
どうしたら、このエロい状況を打破できるんだろう。
何も思いつかない。
って、またセイフィードの手が私に迫ってくるっ。
私は急いで、仰向けからうつ伏せになった。

「無理です。ムリムリムリっ」

「だから言っただろう。覚悟しろって」

「えぇっ!? 覚悟の種類が違いますよ」

「こういうのも含んだ覚悟だ」

 セイフィード様がそう言うと、私のうなじから背中にかけて指でなぞる。
その瞬間、私の体がビクっとなる。

「私だって、私だってそういう覚悟は出来ていますっ。でも、これとそれとは違いますっ」

「違わないと思うけどな⋯⋯」

「でもでも、今はダメですっ。絶対に自分で拭きます」

「今は、か。なら近々なら問題ないな」

 セイフィード様はそう言うと、私のうなじにキスをした。
そして、お湯に浸したタオルを軽く絞り私に手渡した。

「俺は反対側を向いているから、アンナが自分で拭くといい」

「はっ、はい」

 私は急いでタオルを受け取り体を拭く。
何度かタオルを交換しつつ、体を満遍なく拭く。
その間、セイフィード様はタオルを濯いだり、絞ったりしてくれた。

「スッキリしました。ありがとうございます」

「この後は少し休むといい」

「はい⋯⋯」

 本当は城内を案内して欲しかったけど、寝ないと小言を言われそう。
テリア様にも、きちんとまだお礼言ってないし⋯⋯。
でも、確かに少し眠いかもしれない。

「おやすみ、アンナ」

 セイフィード様は私のおでこにキスをし、ベットの傍の椅子に腰掛けた。
そして静かに本を読み始める。
いつも見慣れていた光景だ⋯⋯。
本を静かに読むセイフィード様、大好きな姿だ。
私も早く元気になって、セイフィード様の傍で本を読みたい。
そして、セイフィード様のお母様の病気を治す研究もしたい。
もう、セイフィード様のご両親と一緒にケーキを食べる夢は難しくなってしまったけれど研究は続けたい。
そんな取り留めない事を考えていたら、すぐに睡魔に襲われ、私は眠りについた。

 夕刻に目覚めると、セイフィード様がまた甲斐甲斐しく夕食を私に食べさせてくれた。
デザートは別室に用意してあり、移動することになったけど、当然のようにセイフィード様は私をお姫様抱っこする。

「あの、セイフィード様。私、歩けますから下ろしてください」

「転移するから、このままでいい」

 セイフィード様がそう言うと一瞬のうちに、私達は大きなテラスがある部屋に来た。
ここは、城の一番高い場所にある部屋で、城や領地、遠くの方まで見渡せる。
魔界の植物や花は自ら発光するものが多いため、テラスからの眺めはまるで広大なイルミネーションを見ているよう。
なんてロマンチックなんだろう。
この景色を見ながらプロポーズされたら、即OKしてしまうに違いない。

「素敵ですっ、セイフィード様。この景色を見るだけで、心が洗われます」

「魔界の景色なのにか?」

「確かに魔界なのに、可笑しいですね。でも、私の心は、この景色を見るだけで癒されて、浄化されます」

「アンナの心が変なんだな」

「あっ、セイフィード様。あそこに立ち昇っている湯気はなんですか?」

 城のすぐ隣に小さな建物があり、その横から黙々と白い湯気が立ち込めていた。

「あれは⋯⋯、あの場所からお湯が吹き出しているんだ。随分前の守人が作ったらしいが、野外の風呂らしい」

 それって、ズバリ温泉だー。
魔界には温泉があるんだっ!
もう、すごく嬉しい、それも露天風呂だなんて、最高。

「私も、そのお風呂に入りたいです」

「は? ダメだ」

「どうしてですか?」

「誰が見るか、わからないだろう」

「そこは、セイフィード様の魔法でなんとか見られないようにして下さい。お願いです、入らせて下さい」

「考えとく」

「楽しみにしてます」

「考えるだけだ。別にいいと言ったわけじゃない」

 ぬぬぬ⋯⋯、この返答だと、いつ温泉に入れるか分かったものではない。
どうしても、温泉に入りたい。
しょうがない、奥の手だ。

「セイフィード様も一緒に入りましょうよ」

「善処する」

「ありがとうございます」

 やったー。
思った通り、セイフィード様ってエッチだ。
セイフィード様と混浴露天風呂⋯⋯、エッチな響き⋯⋯。
私の妄想容量をオーバーしそう。
でも、妄想は楽しいけど、現実は何故あんなにも恥ずかしいんだろう。
本当に一緒に温泉へ入ることになったらどうしよう。
大丈夫かな⋯⋯、私。

「それじゃあ、デザート食べるか」

 テラスのテーブルの上に用意されていたのは、12種類の小さなお菓子を可愛らしく盛り付けされたものだった。
チョコレートケーキ、果物のタルト、チーズケーキ、マドレーヌ、色々ある。

「はい。あ、あと私、魔界に行く前にクッキーを作ってきたんです。それも一緒に食べましょう」

「アンナは、本当に呑気だな」

「それとですね⋯⋯、実はゾフィー兄様からお手紙を預かってきました。セイフィード様に会ったらすぐに渡すようにと言われています」

「すぐに⋯⋯。もうだいぶ時間が経ったな」

 私はセイフィード様にゾフィー兄様から預かってきた手紙を渡す。
セイフィード様はすぐに、その手紙を読んだ。
険しい表情をしながら、セイフィード様は読んでいる。
ニコリともしない。
何て書いてあるのか、物凄く気になる。
渡す前にこっそり読んでしまいたかったが封に蝋印がしてあっため開封出来なかった。

「セイフィード様、手紙には何て書いてあるんですか? 教えてください」

 セイフィード様は手紙から私に視線を移し、じっと見つめる。

「ゾフィーは手紙の中身について、何も言わなかったのか?」

「はい。セイフィード様から聞くようにと言われました」

「ふーん。読みたい?」

「はい、読みたいです」

「まぁ、いいか。はい、どうぞ」

 セイフィード様は私にゾフィー兄様が書いた手紙を渡してくれた。
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