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第8章<最後の戦い>

【セイフィード視点】魔界での回想2

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 アンナが成長するにつれ、俺はアンナを直視出来なくなった。
なぜなら、アンナの体は少女から、女性特有の丸みのある大人の女性へと変化したから。
もともと、アンナは可愛らしい少女だったが、年が経つにつれ、ますます可愛さに拍車がかかった。
アンナのキラキラと光る好奇心旺盛な瞳、からかう度に、口を尖らせてムッとする仕草、全てが愛おしかった。

 だからその頃の俺は、アンナに対して常に邪で、最低な思いを巡らせていた。
魔法でアンナを眠らせてしまおうか⋯⋯。
図書室からでれなくし、襲ってしまおうか⋯⋯。
どうせなら、俺の部屋に転移してベットに押し倒してしまおうか⋯⋯。
いくら勉強に集中しようとしても、自制するだけで精一杯だった。

 それなのに、アンナはわざわざ、自分では開けない本を持って来て、俺に開かせ、隣にくっ付いて座った。
その瞬間、アンナの髪がふわりと揺れ、いい香りがしてきた。
いつも太陽のように笑っていて、幸せそうにしていたアンナ。

 そんな俺のアンナを、あいつは⋯⋯、ルシウスは傷づつけたんだ。

 魔法陣コンテスト結果発表当日、ルシウスに傷つけられたアンナを見たとき、俺は生まれて初めて殺意を抱いた。
そして、実際、ルシウスを殺そうとした。
だが、もしルシウスを本当に殺してしまったら、アンナは罪悪感を感じ、そのせいで笑顔が失われてしまうかもしれない、そう思ったら、殺せなかった。

 同時に俺は、人を簡単に殺せてしまう力があると悟った。
元々、魔力が高かった俺は好奇心もあり、幼い時から、メデオの日には必ず魔物退治に出かけた。
退治するだけでなく、魔物を生きたまま捕らえ、その魔物を使い、日々、剣の鍛錬もした。
勿論、様々な魔法も試した。
魔法を色々と駆使する過程で、俺は様々な魔法道具も作り上げた。
その魔法道具が父を通じて輸出され始めると、輸出業で大成しているオズロー男爵のご令嬢、オリヴィアと俺は接点を持ち始めた。

 オリヴィアは、俺に対して好意を向けてきたが、それが偽りだと初めからわかっていた。
俺と初めて会い、俺を見た時、一瞬だけだがオリヴィアは嫌悪の表情を浮かべた。
しかし、それ以降のオリヴィアの振る舞いは完璧で、男心をくすぐる様な振る舞いをした。
恐らく、普通の男ならすぐに恋に落ちたはずだ。

 そんな時、オリヴィアから第二王子の舞踏会でパートナーとして出席して欲しいとの誘いがあった。
勿論、断ろうと思ったが、アンナも出席すると執事から聞き、どうしても気になりオリヴィアの誘いを受けた。

 しかし、第二王子の舞踏会では、アンナは特にパートナーを連れておらずシャーロット一家と一緒に出席していた。
俺は心底、安堵した。
ただ、アンナは、俺とオリヴィアが一緒にいることに、明らかに焼き餅を妬いていた。
そんなアンナが可愛くて、俺は調子に乗り、オリヴィアとダンスをした。
すると、在ろう事か、アンナはラウル先生とダンスし始めた。
俺は焼き餅どころでなく、ラウル先生をどうしたら抹殺できるのか、と脳裏を過ぎった。

 だが、アンナに焼き餅を妬かせたのは失敗だった。
俺とオリヴィアが婚約すると勘違いしたアンナが、まさか俺からはなれようと、自立しようとして、俺の腕輪を外すとは思わなかった。

 アンナが俺の腕輪を外し、拉致された時⋯⋯、俺はその時ずっとアンナが俺の図書室に来るのを待っていたんだ。
俺が来いと言ったのに、一向に現れないアンナに対し怒りを覚え、また、待っている間、図書室の無音が俺の耳に鳴り響き、俺を非常にイラつかせた。
だが、日が落ちても現れないアンナに、流石の俺も狼狽うろたえた。
そしてすぐにシャーロットがメイドを引き連れ俺の屋敷に現れた。

「セイフィード様、いい加減にして頂けないかしら。早くアンナを帰して下さい」

 俺も怒っていたが、シャーロットも怒っていた。
シャーロットは、アンナが俺の屋敷にいない事が分かると激しく動揺し、一目散に帰り、すぐに親衛隊であるゾフィーに助けを求めた。

 俺も、初めて体が震えるほど恐怖し動揺した。
アンナに何か悪い事が起きたのは明白だった。
俺はすぐに探索の魔法をかけたが、引っかからなかった。
俺の探索の魔法範囲は首都全域をカバーしていたが、これに引っかからないという事は、アンナはどこか遠くに行ってしまったという事だ。
俺もすぐに登城し、城内にある広範囲の探索が出来る魔法陣を発動させ、アンナの居場所を突き止めた。

 俺はすぐに転移し、アンナのもとに駆けつけたが、アンナは殺されそうになっていた。
その光景を思い出す度、怒りと恐怖に手が震える。
何とか、アンナを助け出す事は出来たが、恐怖に怯え涙を流すアンナを見たとき、もう二度と、アンナを泣かせない、傷つけさせないと俺は誓ったんだ。

 それなのに⋯⋯、俺は最後の最後で、アンナを傷つけ、泣かせてしまった。
アンナと別れて、魔界に来て、どれくらい経ったのだろう。
アンナはもう立ち直っただろうか、泣いていないだろうか、また変なことをやらかしてないだろうか、もう俺が心配しても仕方がないのに、俺はまだアンナのことばかり考えてしまう。

 そういえば、アンナはお腹が空くといつも、お腹を鳴らしていた。
機嫌がいいと、よく変な歌も歌っていた。
アンナの足音、笑い声、胸の鼓動⋯⋯、全てが愛おしい。
なぜ、手放してしまったのだろうか。

 あんなにも、アンナは魔界に来たがっていたのに。
もし、アンナが魔界に来たら、どうなっていただろう⋯⋯。
あの気味の悪いゴブリンでさえ、アンナは平気だろうか。
俺の闇の精霊ストラスを実際に見た時でさえ、アンナは全く怖がらなかった。
それどころか、抱きしめていた。
アンナに抱きしめられたストラスは、たいそう嬉しそうだったな。
以前、俺が試しに、俺の髪を触媒にしてストラスを実体化させた時、ストラスはあからさまに不機嫌だった。

「お前の髪、不味い、要らない。アンナの髪よこせ」

「喋れるのか?」

「アンナと話す。だから学ぶ」

 俺は心底驚いた、ストラス3号が言葉を話したことに。
精霊が言葉を話せるのは、仙人級の精霊だけだ。
そして俺はストラスを操り、捕らえておいた魔物を倒そうと試みた。
しかし、ストラス7体を操るのは容易ではなかった。
魔力の消費は凄まじく、立ちくらみを生じるほどだった。
自分自身は無防備になるし、他の魔法も使えない、戦闘時には全く使えないと思われた。
すると、ストラス3号が俺にある提案をしてきた。

「アンナの髪、よこせ。アンナ守る、戦う」

「アンナの髪をやれば、アンナを守り、戦うということか?」

「そうだ」

 仕方がなく俺は、執事経由で、アンナの家のメイドに依頼し、アンナの髪の毛を調達した。
俺はその髪の毛を使い、ウォーレン戦闘時にストラスを実体化させた。
ストラスの言葉通り、ストラスはアンナを守り、戦った。
あの時、ストラスが自分自身で動いていなければ、おそらくウォーレンに負けていただろう、それくらいストラスは大活躍した。

 アンナの髪の毛を触媒にしてストラスを実体化した事は、自分でも気味悪いと思うから、アンナには絶対に秘密だ。
まぁ、もう話すこともないが⋯⋯。
ただ、毎日思うことがある。
もしかしたら⋯⋯、アンナだったら⋯⋯、ストラスに好かれたアンナだったら、魔界にも馴染むのではないかと⋯⋯。

 けれどすぐに俺はその考えに反論する。
いや、駄目だ、アンナが魔界に来たらきっと後悔する。
シャーロットやゾフィー、誰もいない魔界に絶望するに違いないと。
最初のうちはいいかもしれない、けれど時が経つにつれ、やっぱり魔界は無理だと、やっぱり人間界に戻りたいとアンナが思ってしまった時、そう容易く帰ることも出来ない。
それに、いくらアンナが貴族でも、魔界帰りとなると世間は冷たいだろう。
俺もきっと、その頃にはアンナを手放せない、アンナを閉じ込めてしまうかもしれない。

 そう、だからあの時、ギリギリの思いでアンナを手放した俺の判断は正しかったんだ。
アンナには陽の当たるところで幸せになって欲しい。
俺はその為だけに、魔界で孤独に耐え、日々過ごしている。

 けれど、もう限界だ⋯⋯。
一人生きていくのが辛い。
何も音がしない日々、発狂しそうだ⋯⋯。
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