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第8章<最後の戦い>

5、守人

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 家に戻り、私は早速魔界に行く準備をしようとしたが、メイドさん達が妙に騒がしい。
私はシャーロットを見つけ、訊いてみた。

「シャーロット、どうかしたの? 家の中が騒がしいね」

「アンナ⋯⋯。魔界の守人のことは聞いたかしら?」

「うん。さっきセイフィード様のお屋敷で聞いたよ。セイフィード様も、セイフィード様のお父様も魔界の選抜に参加するんだって」

「アンナはその事を聞いて大丈夫なの?」

「私、もしセイフィード様が守人に選ばれたら、私も魔界について行くって決めているから」

「そう⋯⋯。ゾフィー兄様も守人の選抜に参加するの。それを聞いたエレナ姉様はショックで倒れてしまって、それで家の中が騒がしくなってしまっているの」

「エレナ様が⋯⋯。そんな⋯⋯。私、エレナ様の様子を見てくる」

「えぇ、そうして頂戴」

 エレナ様は実は今、二人目を妊娠中だ。
待望の二人目の妊娠で、とても喜んでいたのに。
もし、ゾフィー兄様が今、魔界の守人になってしまったら⋯⋯、離れ離れになってしまうのだろうか⋯⋯。
そんなこと、絶対にダメだ。
でも、エレナ様も、エレナ様の長男スカイも、魔界に行くことは容易でないだろう。

 私とシャーロットは、そっとエレナ様の部屋に入る。
エレナ様は大きなベットで一人、お腹に手を当て、涙を流し寝ていた。
エレナ様のお腹の赤ちゃんは、シャーロットの話だと、問題ないらしい。

 毎晩、この大きなベットでゾフィー兄様と一緒に寝てるんだろうな⋯⋯。
エレナ様一人じゃ、このベットは大きすぎる⋯⋯。
早く、ゾフィー兄様が帰宅して、エレナ様を慰めてあげて欲しい。
守人には選ばれなかったよ、大丈夫だよってエレナ様に早く言ってあげて欲しい。

 暫く、私とシャーロットはエレナ姉様を見守っていたけれど、シャーロットのお母様に呼び出されたので部屋を出ることにした。
すると、すぐにシャーロットのお母様は私をギュッと抱きしめ、背中を優しくさする。

「アンナ。きっと、きっと大丈夫よ」

 シャーロットのお母様は私を慰めてくれている。
でも、私は魔界に行くことに、全く躊躇ためらいがないのに。
どうして、シャーロットも、シャーロットのお母様も、私を哀れんでいるんだろう。
私は大丈夫なのに⋯⋯。

 その後、私は自室に戻り、魔界に持って行くものを、大きな鞄に入れ始めた。
魔法陣ノート、ネックレス、ドレス⋯⋯、どれもセイフィード様から貰ったものばかり。
でも、このドレス一人で着られないんだよね⋯⋯。
うーん、取り敢えず持って行くだけ持って行こう。
やっぱり、自分で着られる服とか多く持って行くほうがいいよね。
あと、お菓子も。
もしかしたら今後、食べられなくなるかもしれないから、多めに持って行こうかな。
大きな鞄が物でパンパンに膨れ上がった時、私の部屋の真ん中に突如魔法陣が現れた。
その魔法陣中央にセイフィード様が現れた。

「セイフィードさまっ、びっくりしました」

「アンナ。決まったよ」

 セイフィード様の顔は真っ青で、魂が抜けたような虚ろな目をしている。
話し方もいつもの優しさはなく、私を拒絶するような響きがある。

「決まったって、魔界の守人の事ですか? 誰に決まったんですか?」

「俺に決まった。魔界の守人は俺に決まった。だからアンナとの婚約は解消する」

「⋯⋯⋯⋯どうしてですか? 私はセイフィード様と一緒に魔界に行きたいです。だから婚約解消なんて絶対に、絶対にしたくないです。今すぐに私と結婚して下さい」

「アンナは何もわかっていない。魔界の恐ろしさを」

「セイフィード様だって、魔界のこと知らないですよね」

「俺は知っている。何度か行った事があるから」

「⋯⋯私は、魔界が恐ろしくても、私はセイフィード様と一緒に行きます。絶対に離れないんだから」

「アンナ。魔界に行けば必ず後悔する。後悔してからでは遅いんだ」

「後悔なんてしませんっ。私はセイフィード様と一緒にいられるだけで幸せなんだから」

「アンナ、違う幸せを見つけるんだ。『サーム・サーム・アーティア・ソーム』」

 セイフィード様は突如、私に向かって魔法を唱えた。

「何をしたんですか? どんな魔法を私にかけたんですか?」

 私の体がほのかに暖かくなり、瞼が重くなる。

「いい夢を見られる魔法だよ、アンナ」

 段々と私の体の力が入らなくなり、セイフィード様に寄りかかる。
私はセイフィード様と離れないように、セイフィード様の服を掴みたいのに、手に力が入らない。
私の胸が死んでいくかのように重く苦しい⋯⋯。
そんな私をセイフィード様は抱え、ベットへと歩き出す。

「いやだ⋯⋯、いやだよ⋯⋯。お願いっ。私を置いていかないで⋯⋯。私も一緒に魔界に連れて行って⋯⋯。お願い⋯⋯、セイフィード様」

 私の目から涙が溢れ落ちる。
とめどなく溢れ落ちる。
けれど、セイフィード様は泣いている私を一切見ようとしない。

「おやすみ、アンナ。俺のことは忘れて、いい夢だけを見るんだ」

「いやだ、いやだっ。セイフィード様にもう迷惑掛けないから⋯⋯、腕輪も、腕輪の魔力もいらないから、一緒にいて⋯⋯、離れないで⋯⋯」

 セイフィード様は私をベットにそっと横たえる。
私は、寝ないように必至に耐えていたけれど、もう限界だった。
私の瞼が閉じ、体の力が全く入らなくなる。

「さようなら。俺のアンナ」

 セイフィード様は私のおでこにキスをした。
同時に私の意識が深く闇に沈んでいく⋯⋯。
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