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第6章<巨大スライム>

6、悶々

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 私はセイフィード様と一緒に寝れるのが嬉しくって、眠気を我慢し、セイフィード様の方を見た。
セイフィード様は、反対側を向いてしまって、背中しか見えない。
仕方がないので、布団を頭まで被り眠ろうとした。
すると、セイフィード様のいい匂いがし、私は、そのことを、つい口にしてしまった。

「セイフィード様のいい香りがします」

「⋯⋯いいから、早く寝ろ」

「セイフィード様と一緒に寝られるなんて、夢のようです」

「アンナ、もう、しゃべるな」

「なんか、嬉しくって、寝るのが惜しくなっちゃいました。でも、もう寝ます。おやすみなさい」

「⋯⋯⋯⋯おやすみ」

 私は、もう寝ると言ったにも関わらず、薄眼を開けて、セイフィード様を見つめた。
セイフィード様はピクリとも動かない。
あまりに動かないので、セイフィード様の背中を、突っつきたい衝動に駆られる。
でも、変なことはしないって言ってしまったので、手を出せない。
なんか私ひとりムラムラしちゃってて、男みたい。
セイフィード様は、私にそういう感情抱かないのだろうか。
一緒に寝てるのに全然、手出ししてこない。
私って、魅力がないのだろうか⋯⋯。
いやいや、実際手出しされても困るけど、ちょっとくらい、いいのに。
ふわぁ~あ⋯⋯、悶々もんもんとしていたら、大きなあくびが出た。
私は今度は眠気に逆らうことなく、眠りについた。

 すると、私は夢を見た。
セイフィード様との夢。
あぁ、なんて甘美な夢なんだろう⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯、いや、ちょっと待ってっ。
なんか、物凄くHな展開⋯⋯、セイフィード様が、私の⋯⋯、私の⋯⋯。
わわわっ、ダメーーーー。

 私は、夢にビックリして、目が覚めてしまった。
私って、もしかして物凄く欲求不満なのっ!?
あんな、夢を見るなんて、恥ずかしいぃ。

 陽はまだ登っていなかったが朝方らしく、セイフィード様はベットから出て、以前私にくれた小瓶の整理していた。
その小瓶は数多く、10本以上ある。
また、テーブルの上には美味しそうな朝食が運ばれてきていて、スープのいい匂いがした。
しかし、セイフィード様は朝食には手をつけていなかった。
私はバサバサな髪を手で直しながら、ベットから起き上がった。

「おはようございます。その小瓶の中身は全部、薬ですよね? セイフィード様、どこか具合が悪いんですか?」

「おはよう。これは、アンナ用にと思って持ってきた薬だ」

「私のために⋯⋯。ありがとうございます。酔い止めは、本当に助かりました」

 物凄く、嬉しい。
私のために薬を用意してくれたなんて、セイフィード様、ステキ過ぎ。

「持ってきた甲斐があったな」

「他にどんな薬があるんですか?」

「あとは、食べ過ぎて胃がもたれた時とか、お腹壊した時とかに使う薬だな」

 ⋯⋯どんだけ大食漢と思われているんだろう、私ってば。

「では私、一旦部屋に戻って、支度してから集合場所に行きます」

「あぁ、俺もアンナの部屋に行く」

「ええっ、なんでセイフィード様も、一緒に行くんですか?」

「まだ外は薄暗いからな。一緒について行く」

「あ、あの、私1人で大丈夫です。セイフィード様もまだ朝食を食べてないでしょうし⋯⋯」

「俺は、あまり朝は食べないんだ。ほら、行くぞ。早くしろ」

「はっ、はい⋯⋯⋯⋯」

 やばい。
とってもやばい。
私の部屋見たら、なんか言われちゃう。
でも、良く考えてみたら、セイフィード様は紳士だから女性の部屋に入ったりしないよね。
きっと。
申し訳ないけど、部屋の外で待って貰えばいいんだ。
そうしよう。
私とセイフィード様は静かに廊下を歩き、私の部屋を目指した。

「アンナ、まだ先なのか?」

「はい、もうちょっと先です」

 私の部屋とセイフィード様の部屋はだいぶ離れている。
歩を進めれば進むだけ、セイフィード様の表情はなぜか曇って行く。
ピリピリと不穏な空気を感じつつも、私はセイフィード様の前を歩き、自分の部屋へと急いだ。
そして、私の部屋に着いた時、明らかにセイフィード様は苛立っていた。

「あの、私の部屋に着きました。支度してくるので、ちょっと待っててもらえますか?」

 と私が言うや否や、セイフィード様は私の断りもなく、私の部屋にズカズカと入った。

「アンナ、これは一体どういうことだ?」

「ええッと、なんのことでしょう⋯⋯」

「どう見ても、ここは客間じゃない。場所も城の隅で、最悪だ」

 全て、バレてしまった。
こんなことなら、最初からセイフィード様に言っておけば良かった。
言わなかったことで、セイフィード様は怒り心頭だし。

「あの、その⋯⋯、部屋が少し汚いだけだったので、私が我慢すれば済むかなって。大ごとにしたくなかったんです⋯⋯」

「部屋が少し汚いだけ? だったらこのパンはなんだ?」

 セイフィード様は、あの石より硬いパンを指差した。
ネズミがかじったのか、少し欠けている。
どうせなら、全部食べてくれれば良かったのに。

「昨日の夕食だと思います。でも、昨日はお腹が空きすぎて、食堂に行ったんです。そこでいっぱい頂きましたので、大丈夫です」

「朝食は?」

「あの⋯⋯、その⋯⋯、忘れられているみたいで」

「それで、他に何か嫌がらせされたことはないのか? 全部話すんだ」

「⋯⋯あの、実は、昨日この部屋にネズミが出て、それが怖くて、セイフィード様の部屋に行ったんです。スライムじゃなく、ネズミが怖くって」

「俺の部屋に、戻るぞ」

 セイフィード様は、素早く私の荷物をまとめ、鞄の中に詰めた。
物凄く怒っている。
今、話しかけたら、噛みつかれそうなくらい。
だから、私はセイフィード様に何も言い返せず、従う。
私達がセイフィード様の部屋に戻ると、突如、私はセイフィード様に抱きしめられた。

「アンナ、もう一度だけ言うが、何かあれば全て俺に言うんだ。わかったな」

「⋯⋯はい。ごめんなさい」

「アンナは、その食事を食べて、支度をするんだ。その間、俺はラルフ隊長の所に行ってくる」

「はい⋯⋯」

 セイフィード様は、すぐに部屋の外に出て行った。
反論なんて出来るはずもなく、私は素直にセイフィード様の朝食を頂くことにした。
朝食は、クロワッサン、コーンスープ、ベーコン、トマトでとても美味しそうなのに、食べても食べても、味がしない。
これから、私、どうなるんだろう。
いや、私のことより、セイフィード様、大丈夫だろうか。
私のせいで、またセイフィード様に迷惑を掛けてしまうかもしれない。
なんで私って、やることなすこと裏目に出てしまうのだろう。

 私は食べ終わると、髪を束ね、ローブと寝間着を脱いだ。
すると、私の胸元に赤い痣のような斑点を見つけた。
どこかでぶつけたのだろうか⋯⋯。
いや、もしかして私の部屋にダニがいたのかもしれない。
あんなにも汚い部屋だ、充分ありえる。
でも、もうあの汚い部屋に戻らなくていいんだ。
セイフィード様を怒らせてしまったけど、結果的に、バレて良かったのかも。

 私が着替え終わると、セイフィード様だけではなく、ゾフィー兄様まで部屋に入ってきた。
ゾフィー兄様は私を見るなり、強く抱きしめた。

「私の可愛いアンナ、辛い思いをさせてごめんね。私がなんとかするからね、安心しなさい」

「ゾフィー兄様、でも、私、大ごとにしたくないんです」

「あぁ、わかっているよ。アンナは優しい子だね。大丈夫だよ。もう何も心配しなくていいから」

「ゾフィー兄様、ありがとうございます」

 どうやら、セイフィード様が、ラルフ隊長に私の現状を報告する際、ゾフィー兄様もたまたま居合わせたらしい。
私は、ゾフィー兄様に抱きしめられている隙間から、セイフィード様をチラリと見た。
すると、冷ややかな視線をゾフィー兄様に向けている。

「そろそろ、集合時間ですので、行きましょう」

セイフィード様は冷たくトゲトゲした声で、ゾフィー兄様に話しかけた。

「そうだね。では、行こうか。アンナ」

 ゾフィー兄様は私の手を取り、セイフィード様のことは気にせず、集合場所の大広間まで歩いた。
集合場所には、殆どの騎士が集合していたが、肝心のラルフ隊長が来ていなかった。
騎士達は、どうしたのだろうかと気を揉んでいたが、セイフィード様とゾフィー兄様だけは動じていなかった。
集合時間から20分ほど経ったぐらいだろうか、ようやく、ラルフ隊長が姿を見せた。
そして、そのかたわらには、ルシウスがいた。
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