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第6章<巨大スライム>

2、隊長

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  私は、討伐に同行するため、荷造りをした。
討伐がメインなので、使用人の数は少なく、基本、自分のことは自分自身でやらなければならない。
歩きやすいブーツや、華美じゃない帽子、1人で着られる服装などを準備した。
あと、お菓子も。
討伐に参加するのに、私の心は、浮かれ、楽しい旅行にでも行く心持ちになっていた。

「私の可愛いアンナ、準備は万端そうだね」

「はい、ばっちりです。ゾフィー兄様」

「今回は、親衛隊の隊長も行くし、魔法騎士も同行するから、危険なことはないと思うけど、私から離れてはいけないよ」

びっくりしたことに、親衛隊の隊長、ラルフ隊長は、私が大嫌いなルシウスのお兄さんだ。
ただ、ルシウスと違って、部下から厚い信頼もあり、戦闘能力も高く、見るものを全て魅了してしまうほどの美しい男性だとか。
また、ゾフィー兄様に聞いたところによると、ルシウスのお母様は、隣国のお姫様で絶世の美女らしい。絶世の美女過ぎて、海に棲む太古の魔物に狙われて、仕方がなく生贄として捧げられようとした時、ルシウスのお父様が、その魔物を倒し、ルシウスのお母様を救い出した。
だから、ルシウスのお父様は、隣国では英雄と称えられている。
私だったら、そんな両親、凄すぎて嫌だ。
周りが優秀過ぎる環境の中、平凡に生まれてしまったルシウスを少しだけ、私は不覚にも同情してしまった。

討伐部隊は、総勢30人と小規模だが、みな精鋭な騎士ばかり。
もちろん、みんな攻撃魔法が使える。
魔法が使えなのは、私だけ⋯⋯⋯。
惨めだ。
どうか、足手まといになりませんように⋯⋯。

ラルフ隊長の合図とともに、巨大スライム討伐部隊は城から出発した。
私は、ラルフ隊長が、どんなにカッコいい男性なのか、もちろん確かめた。
ラルフ隊長は、あまりに美のオーラがありすぎて、少女漫画のように、美しい薔薇をまとっているように見えた。
もう、目を覆いたくなるぐらい輝いている。

そんなラルフ隊長と、ゾフィー兄様、セイフィード様が、3人並ぶと、まるで映画に出てくるようなイケメン三銃士に見える。
その3人がマントをたなびかせ、颯爽と馬に乗る姿はため息ものだ。
私はそんな3人の姿を馬車から、こっそり覗いている。
見ていて思ったけど、やっぱり、私は、セイフィード様が一番好き。
男ぽいし、なんと言っても影がある雰囲気がたまならなく好き。
そういえば、第二王子も同行するかと思いきや、奴隷売買の後処理で手一杯とのことだ。

討伐部隊の日程としては、中継地の街に一泊し、次の日にはもう、巨大スライムが居座っているヴェルジーナ公爵領に到着する予定だ。
中継地の街は美食の街として有名で、私は訪れるのをとても楽しみにしている。
特に、卵料理オムレツが有名らしい。
想像しただけで、お腹が鳴りそう。

私達は中継地の街に行くまで一回、昼休憩し、すぐに出発した。
まだまだ道のりは遠い。

「アンナ、少し急いで中継地まで行くよ。急がないと夜遅くに街に着くことになるからね」

ゾフィー兄様が私の馬車に近づいて、声を掛けた。
同時に馬車が揺れ、スピードが早くなる。
整備されていない道だから、小石にぶつかるたびに激しく揺れる。
なんか、とても気持ち悪くなってきた⋯⋯。
耐えろ、私。
そうだ、無心になるんだ。
気持ち悪いことを忘れ、無心になれ、私。
⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯うぷっ。
ダメだ、気持ちが悪い。
窓開けて、外の空気を吸おう。
そうすれば少しは良くなるかもしれない。
窓を開けると、セイフィード様が真横にいた。

「アンナ、顔が青いな。気持ちが悪いのか?」

「だ、大丈夫です。セイフィード様。全然平気です。全く気持ち悪く、うぷっ、ありませんっ」

「相変わらず、嘘が下手だな。これを飲むといい」

セイフィード様は窓越しに、小瓶を渡してくれた。

「これは、なんですか?」

「酔いに効く薬だ。早く飲んだ方が、いい」

「ありがとうございます」

私は、小瓶に入っている薬を一気にグビっと飲んだ。
スッキリとしたレモンの味がして、口の中がさっぱりした。
そして薬が胃に染み込むと、胸のムカムカが取れ、気分が落ち着いた。
今まで気持ちが悪く感じていた馬車の揺れが、逆に揺りかごのように心地よく眠気を誘う。
私は、そのまま、ウトウトし眠りについた。

「アンナ、おい、アンナ、起きろっ」

セイフィード様が私の肩を揺らしながら声を掛けた。

「うっううん⋯⋯⋯ここ、どこ?」

「街についたぞ。早く馬車から降りるんだ」

「⋯⋯⋯⋯⋯えっ、もう」

「アンナ、早くしろ」

私は、ぼーっとしながら、なんとか馬車を降りた。
どうやら私が一番最後まで馬車に乗っていたようで、他の騎士達は既に馬から降り、今夜宿泊する宿にもう入っていた。
辺りはもう薄暗く、夕食時のようで、あちらこちらから、いい匂いが漂う。
そんな中、セイフィード様は私の荷物を持ち、私の手を引いて、私が泊まる部屋まで誘導してくれた。

「アンナ、今、夕食を持ってきてやる。明日も早くに出発するから、食べたらすぐにまた寝たほうがいい」

「私、自分で取りに行きます。いっぱい寝たので元気になりました」

「そのようだな。でも、俺が取りに行くから待ってろ」

「自分で行けますよ⋯⋯⋯」

「食堂は、男だらけなんだ。アンナが行ったら目立つからダメだ」

「わかりました⋯⋯。卵料理でしょうか?」

「確か、スープにパンだ」

「そうなんですね⋯⋯⋯。この街は卵料理が有名だって聞いて楽しみにしてたのに、ちょっと残念です」

何から何まで、私は、すっかりセイフィード様のお世話になってしまっている。
情けない⋯⋯⋯。
何か出来ることがあれば、と考えるけど変に動かない方が、迷惑かけなさそう。
私って、ダメだな。

セイフィード様は、すぐに戻って来たが、手には私の夕食を持っていなかった。
代わりに男性用の衣服を手に持っている。

「これに、着替えろ。卵料理のお店に連れてってやる」

「はわぁーーっ、嬉しいっ、嬉しいです。早く着替えますね!」

私はすぐに、男性用の衣服に着替えた。
でも、これってもしかして、セイフィード様の服?
心なしか、セイフィード様のいい匂いがする。
私ってば変態⋯⋯⋯。

「ぶかぶかだな」

「はい。でも、ローブを着れば分かりません」

私はローブについているフードを目深に被った。
これで、私の髪も見えないし、変装は完璧だ。

私達は、そっと誰にも気づかれないように、外に出ようとした。
ところが、行く手を塞ぐように、ゾフィー兄様が仁王立ちしている。

可愛いアンナを、どこに連れて行く気だ。セイフィード」

「ゾフィー兄様、わっ、私が、卵料理が食べたくって、セイフィード様に無理言って連れて行ってもらおうとしたんです。セイフィード様は悪くありません」

「では、私が連れて行ってあげるよ。アンナ、こっちに来なさい」

「⋯⋯⋯⋯私はセイフィード様と行きたいです。ごめんなさい、ゾフィー兄様」

アンナも、そう言ってるので、行ってきます。すぐに戻りますから心配いりません」

「⋯⋯⋯⋯⋯君のじゃない。まだ、私のアンナだ。⋯⋯⋯仕方がない、食べたらすぐに戻るように。わかったね、セイフィード」
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