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第5章<恋敵オリヴィア様>

5、噂話

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「どっ、どうしてセイフィード様と接触を控えなきゃいけないんですか?」

 私は、図々しくも第二王子に反論してしまった。
だって、せっかくセイフィード様の婚約者になれたばっかりなのに⋯⋯。
それをいきなり会うなだなんて⋯⋯⋯。
一番、ラブラブできる時かもしれないのに!!!
セイフィード様に会えなくなるなんて、いやだー。

「セイフィードが常に一緒だと、ゲリーも警戒して攻撃してこないだろう」

「で、でも、一週間に一度くらいの頻度で、私の腕輪の魔力付与をセイフィード様にお願いしているんです。それもしばらくは無理なのでしょうか⋯⋯?」

「その腕輪の魔力付与は、他の誰かにお願いすることはできないのか?」

「できません」

 セイフィード様が第二王子に冷ややかに答え、一瞬、その場が凍ったように静まりかえった。
だが、第二王子はそんな雰囲気をものともせず、話し続ける。

「じゃあ、仕方がない。しばらくアンナには、不自由をかけるが辛抱してくれ」

 ガーーーーン。
最悪だ⋯⋯⋯。

「とりあえず、適当な理由をつけて、セイフィードとアンナが喧嘩してるといううわさを流す。実際にアンナとセイフィードには不仲を演じてもらう。そして、俺主催の舞踏会を開き、オリヴィアを招待し、セイフィードにはオリヴィアをエスコートしてもらう。その間、不貞腐ふてくされたアンナは人気のない場所に行き⋯⋯、ゲリーを誘き寄せ、始末するという作戦だ!」

 第二王子は自信満々にゲリーを誘き寄せる作戦を説明した。
それに対して、シャーロットは不安そうだ。
もちろん、私も物凄く不安。

「そんなに、うまくいきますかしら⋯⋯⋯。それにセイフィード様がアンナと一緒にいなくて、どうやってアンナを守って頂けるのかしら」

「アンナとセイフィードは、一緒にはいないが近くにはいる。大魔法使いのセイフィードなら、アンナを守るシールドやら、何か策があるだろ。あぁ、恐らくゲリーもバカじゃないからアンナの腕輪対策はしてくるはずだ」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 セイフィード様は無言だ。
深く考え込んでいる。
第二王子の作戦で、本当に大丈夫だろうか⋯⋯⋯。
セイフィード様にも会えず、もしこのまま私、死ぬことになったら、化けて出て第二王子に取りいてやる。

 その後、第二王子とセイフィード様はより詳細な計画を話しあう。
とりあえず、セイフィード様は私の腕輪に魔力付与してくれ、その魔力が切れるまでは学校に通っても問題ないとのことだった。

 はぁ⋯⋯⋯⋯、やっぱりおとりなんて引き受けなきゃ良かった。
まさか、セイフィード様と会えなくなるなんて、思いもしなかった。
はぁ⋯⋯⋯⋯、ため息しか出ない。

 第二王子との話が終わると、私達は、すぐに家に帰宅した。
私は、その日、ゾフィー兄様が帰宅次第、オリヴィア様が指摘していた持参金について聞いてみた。

「ゾフィー兄様、ご機嫌よう。少し相談したいことがあるんだけど、いいかな?」

「もちろんいいよ、アンナ。なんだい?」

「私、セイフィード様と婚約したでしょ⋯⋯⋯、それで持参金がどうなっているのか知りたいの。やっぱり持参金って必要なの?」

「何か、セイフィードに言われたのかい?」

「ううん、全く。ただ、持参金がないと婚約解消もあるって噂で聞いたから⋯⋯⋯」

「アンナはそんなこと心配しなくてもいいんだよ」

「で、でも知りたいの」

「そうだね。アンナにもちゃんと話をしておくね。両家で話しあった結果、持参金は無しになったよ」

「そ、そうなんだ⋯⋯⋯、無しでも大丈夫なのかな」

「正直なところ、セイフィードの家に釣り合うだけの持参金をアンナに持たせられないのが実情だ。情けない話で申し訳ないね。ごめんね、アンナ」

「ううん。ゾフィー兄様が謝ることじゃないよ。でも、ちゃんとお話が聞けてよかった。ありがとうございます」

 持参金無しか⋯⋯⋯。
しょうがないことだけど、悲しいし、情けない。
オリヴィア様が知ったら、ますます私をバカにするに違いない。
どんな酷い言葉を浴びせさせられることやら⋯⋯⋯。
はぁ⋯⋯⋯、でも私って、オリヴィア様がバカにするのも当然なぐらい、セイフィード様に負んぶに抱っこ状態だ。
魔力も、腕輪も、ノートも、洋服も、ネックレスも⋯⋯、貰ってばっかり。
私だって何かあげたいけど、何も思いつかない。
高価なものは買えないし。
いっそセイフィード様に聞いてみようか⋯⋯。
セイフィード様、優しいからきっと、ケーキが欲しいとか言うだろうな⋯⋯。
⋯⋯⋯うーーーん、本格的に何をあげたらいいか考えねば。


 翌日、私が学校に行くと、思いもよらぬうわさ話が駆け巡っていた。

「アンナ様、第二王子様と浮気して、セイフィード様との婚約が解消になったらしいわよ」
「第二王子様って、シャーロット様といい仲じゃなかったかしら⋯⋯⋯」
「ご親友であるシャーロット様を裏切ったということかしら」
「なんて、酷いのかしら、アンナ様は⋯⋯」
「シャーロット様が可哀想だわ」

 そんな噂話が、私に聞こえるようにささやかれた。
って、第二王子恨みますよ⋯⋯⋯、私。
もっとましな噂話はなかったんだろうか⋯⋯⋯。
せっかく魔力を使わないように学校内ではシャーロットと一緒に行動しようとしたのに、それも難しくなってしまった。

 私は、何も悪いことしてないのに、自然と人目を避け、学校内を移動した。
移動途中、セイフィード様を見かけ、不意にきゅっと胸を絞ったように悲しみが沸く。
触れ合えないと思うと余計、触れ合いたくなる。
不仲を演じなきゃいけないのに、私はどうしても、セイフィード様から目が離せない。
しかし、セイフィード様は私を見るなり、フイっと顔を背け、足早にどこかに行ってしまった。

 今のは、セイフィード様は演技で、私を拒絶しただけ……。
私とセイフィード様は本当は、婚約解消していない。
これは演技。
でも、なんでだろう⋯⋯⋯、胸がじわじわと苦しい。
婚約解消は嘘だってわかってるのに。
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