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第1章<異世界に転生>

2、誕生

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  神々しい光があまりにまぶしく目を閉じていたら、その光が優しい光になった。
私はそっと目を開ける。
目の前には、はち切れんばかりの笑顔をした、ダンディな中年男性が私を見ている。

「おぉ!  アンナが目を開けた。なんて可愛らしいんだ」

中年男性がそう言うと、私を取り囲んでいた子供たちが、口々に「可愛い!」「僕に似てる」「ましゅまろみたい」と口々に声を上げた。
どうやら私を褒め称えているらしい⋯⋯。
あなたたちは誰ですか?と尋ねようとしたらうまく口が動かない。
そして突如、私の体を軽々と、優しそうな中年女性が抱きかかえた。
その抱きかかえられる瞬間、私は、壁に掛けられた鏡の中にいる自分を見た。
嘘でしょ⋯⋯、私、赤ちゃんになっている。
それもめちゃ可愛い。
金髪で青い目、天使だ。
って私、ほんとうに転生したんだ。
でもなんで前の記憶があるんだろう。

「ふぉっふぉっふぉ」

とまたあの神の笑い声が私の頭の中に響いた。

「神さま?  私、転生したんだ!?」

「そうじゃ、そうじゃ。わしの世界に転生してやったぞ。王子も妖精もいるぞ」

「凄い。夢じゃないんだ」

「わしゃ、うら若き乙女の願い事には弱いんじゃ。それにじゃ、前世の記憶ものこしてあるぞ。わしの加護と思って受け取るがよいぞ」

「あ、ありがとうございます。神さま。私、これからは信心深くなれそうです」

「ふぉっふぉっふぉ。じゃあの。乙女よ。今度こそ良い人生を送るのじゃ」

神はそう言うと、私の頭の中から消えた。

 「アンナちゃん、可愛いでしゅね~」

   今度は、中年男性が私を抱いた。
どうやら私の名前はアンナ。
フルネームはアンナ ・フェ・シーラス。
伯爵家の令嬢らしい。
この中年男性は私の父親で、中年女性は私の母親のようだ。
そして兄弟。なんか多いんですけど。
ひぃ~、ふぅ~、みぃ~・・・って6人もいる。
男の子が3人、女の子も3人。
私を入れると子供だけで7人もいる。
大家族だ。

  私は、この大家族に囲まれ、意外にも、赤ちゃん生活を大いに楽しんだ。
大人の部分も持っている私にとっては、色々恥ずかしい部分も確かにあった。
しかし、慣れると心地よく、幸せのひと時だった。
そして両親も兄弟も私を、可愛がり愛された。
みんな好きだったが、兄弟の中でもとりわけ大好きになったのが2番目の兄様、ゾフィー兄様だ。
もう、めちゃイケメン。
なおかつ息を吐くように極上級の甘いセリフを言う。
生粋のモテ男だ。

「私の可愛いプリンセス。今日も口ずけをさせておくれ」

ゾフィー兄様は、毎日、私を優しく抱きよせ頬にキスをしてくれる。
前世が喪女だった私には毎日鼻血ぶー。
たまりません。

   そして日々過ごしていてわかったが、私が転生したこの世界は、前世の西洋近世の時代背景に似ている。
馬車があったり、貴族がいたり、主食はパンだったり、お城もある。
前世のマリーアントワネットを題材にした映画の中に、まるで入り込んだ感覚だ。

  こうして私は至福な日々を過ごしていたが、突如終わりを迎える。
それは私が6歳の誕生日を迎え、先生と呼ばれる気難しそうな男性が私の家を訪れた時だった。

「トマス先生、いつもお世話になっております」

「さっそくですが、この子がアンナ嬢ですかな?」

「はい。そうです、トマス先生。アンナの魔力鑑定をお願いします」

  とうとう、とうとう念願かなってのファンタジーな展開。
わくわく、どきどきである。
この世界は神さまが言ってたとおり、王子様も妖精もいる。
もちろん精霊や魔物、魔法や剣があるゲームのような世界だ。

  また、この世界の人々は6歳になると、特に貴族男性は魔力鑑定をする。
魔力鑑定とは、主に魔力の強弱を鑑定する。
鑑定士によっては、どの精霊に加護を受けやすいか攻撃魔法や回復魔法の向き不向きも鑑定してくれる。
その鑑定結果を経て、魔力が強ければ魔法使いの道へ、弱ければ男性だと騎士の道へと進路を手引してくれる。

  女性の魔力鑑定は主にお見合いの釣書になる。
魔力が強い同士の両親からは、比較的魔力が強い子が生まれる。
魔力が強ければ、就職も昇進もしやすい。
そのため、この世界で魔力が強い女性は結婚に関しては有利だ。

  そして特に魔力が強い子には、どこかしらに痣がある。
そんな痣がある子は、魔力鑑定などせず、魔法使いの道に進む。
貴族の魔法使いはイコール、宮廷官僚になれるエリートだ。
私が大好きなゾフィー兄さんにも右腕に小さな痣がある。

「さて、アンナ様。私の手にアンナ様の手を置き、私の目を見て下さい」

「はい。トマス先生」

私は緊張しながら従う。

『ベニー・イ・ルミネ ・真実を司る精霊よ。我に従い、心眼を開け、我に見せよ』

トマス先生は厳かに呪文を唱えた。
ほのかに風が舞い、トマス先生を軸にして魔法陣が白く光り輝きながら浮かび上がる。

「⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯おかしい」

トマス先生は眉間に皺をよせながら言う。
トマス先生は私の手をさらに強く握りしめた。

『ベニー・イ・ルミネ ・真実を司る精霊よ。我に従い、心眼を開け、我に見せよ!』

先程の呪文をトマス先生は、再度、力強く唱える。

  どれくらい時間が過ぎただろうか⋯⋯。
きっと、ちゃんと測ったら3分も経っていないだろうが、私には永遠に感じられた。
家中がシーンと無音になり、みんながトマス先生の発する言葉を待っている。

「⋯⋯魔力鑑定、できませんでした」

トマス先生が静かに述べた。

「ど、どういうことですか?」

お父様がトマス先生に問い詰める。

「アンナ様はおそらく魔力がありません。そのため魔力鑑定ができないのです」

「そ、そんな⋯⋯」

「もしくは、アンナ様の魔力が微力すぎて、鑑定できないだけかもしれません。私の魔力不足かもしれません」

「今まで、このように魔力鑑定できなかった子はいたんですか?」

「⋯⋯⋯⋯いません」

トマス先生が首を横に振りる。
同時に、両親、兄弟みんなが憐れな目を、私に浴びせる。
私はアンナとして、生まれて初めて本当の赤ちゃんのごとく泣いた。
せっかくファンタジーな世界に転生したのに、魔力がないなんて最悪だ。
神さまのバカー!!!
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