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駅から車で北西に走ること3時間半、たどり着いたのは川べりにある大きな空き地であった。
「ここは?」
「製鉄所の建設予定地ですね」
大きな川に面した巨大な空き地は現状草ぼうぼうで、丸太小屋がぽつんと立っているのみだ。
多分あの小屋が建設準備室とかなんだろうなと察しながら周囲を見渡す。
「東西に5ミル、川に沿って南北に20ミル、それを対岸にも用意しています」
1ミルが大体1.6キロなので8キロ×32キロで72キロ平方メートル、それを倍にして144キロ平方メートル。川の面積も含めればもっと大きいだろうが―……もう少しデカくてもいいように思う。拡張の余地はあるに越したことはないのだ。
(まあまだこの近辺は空き地だし拡張の余地はあるか)
ここはようやく川湊の整備が始まったばかりで工場のレイアウトもまだ詰めている途中だ。
必要に応じて土地を拡張できるよう進言してもいいんじゃないだろうか……まあ、俺の専門は鋳造だから製鉄所全体のレイアウトにまで口は挟めない気もするが。
「西に行くと鉄鉱石鉱山、北に行くと石炭鉱山、水運と産業用水に出来る川もある。ここは理想的な土地だと思いませんか」
「現代日本ならまあ存在しえない場所ですね」
国産の鉄鉱石も石炭も使い果たした現在の日本ではそんな場所はないが、ここにはあるのだ。
ぶらぶらと散歩をしながら丸太小屋へと向かう。
歩いてみた印象では土壌は水はけのよい石交じりの土地で地盤も悪くなさそうに思える。
道はまだ整備されていないがここに太くまっすぐな道や貨物列車を行きかう未来を想像するとワクワクしてくる。
「こちらが製鉄所準備室です」
扉を開けるとそこはおとぎ話のような空間だった。
丸太小屋にひしめく鳥やウサギや犬の獣人たちが真剣に資料を開き、人間(恐らく俺より先に来た河川交通の専門家だろう)とああでもないこうでもないと議論を戦わせている。
入り口でぼうっと突っ立っていると、ヤギ獣人がひとりの青年を連れて来た。
つやのある銀糸の髪に青い瞳にちょっと八重歯の美青年だ。
「彼が鋳造の統括責任者補佐です」
「つまり俺の部下ですか」
「そうなりますね」
すらりとした身体にぴったりとかぶせられた作業着がこんなに似合わない人もなかなかいないだろう。
身体のラインの柔らかさやどこか丸みのある目鼻立ちは女性的でありながら、肩幅や身長は紛れもなく男性だ。
「お初にお目にかかります、自分はヤマカガシを祖に持つケトリビョルンと申します」
ヤマカガシ……?
その単語で遠い日の記憶が走馬灯のように走り出す。
子どもの頃、山で顔面に大型の蛇が落ちてきた記憶である。
ケトリビョルンと名乗った青年の腰から下にゆっくりと視線を落とすと、そこには足がない。
なめらかな一本足は赤と黒の斑点模様がちりばめられている。
「へっ、蛇……っ?!」
彼が蛇の獣人・ラミアであると理解した瞬間俺の意識が遠のいていった。
「ここは?」
「製鉄所の建設予定地ですね」
大きな川に面した巨大な空き地は現状草ぼうぼうで、丸太小屋がぽつんと立っているのみだ。
多分あの小屋が建設準備室とかなんだろうなと察しながら周囲を見渡す。
「東西に5ミル、川に沿って南北に20ミル、それを対岸にも用意しています」
1ミルが大体1.6キロなので8キロ×32キロで72キロ平方メートル、それを倍にして144キロ平方メートル。川の面積も含めればもっと大きいだろうが―……もう少しデカくてもいいように思う。拡張の余地はあるに越したことはないのだ。
(まあまだこの近辺は空き地だし拡張の余地はあるか)
ここはようやく川湊の整備が始まったばかりで工場のレイアウトもまだ詰めている途中だ。
必要に応じて土地を拡張できるよう進言してもいいんじゃないだろうか……まあ、俺の専門は鋳造だから製鉄所全体のレイアウトにまで口は挟めない気もするが。
「西に行くと鉄鉱石鉱山、北に行くと石炭鉱山、水運と産業用水に出来る川もある。ここは理想的な土地だと思いませんか」
「現代日本ならまあ存在しえない場所ですね」
国産の鉄鉱石も石炭も使い果たした現在の日本ではそんな場所はないが、ここにはあるのだ。
ぶらぶらと散歩をしながら丸太小屋へと向かう。
歩いてみた印象では土壌は水はけのよい石交じりの土地で地盤も悪くなさそうに思える。
道はまだ整備されていないがここに太くまっすぐな道や貨物列車を行きかう未来を想像するとワクワクしてくる。
「こちらが製鉄所準備室です」
扉を開けるとそこはおとぎ話のような空間だった。
丸太小屋にひしめく鳥やウサギや犬の獣人たちが真剣に資料を開き、人間(恐らく俺より先に来た河川交通の専門家だろう)とああでもないこうでもないと議論を戦わせている。
入り口でぼうっと突っ立っていると、ヤギ獣人がひとりの青年を連れて来た。
つやのある銀糸の髪に青い瞳にちょっと八重歯の美青年だ。
「彼が鋳造の統括責任者補佐です」
「つまり俺の部下ですか」
「そうなりますね」
すらりとした身体にぴったりとかぶせられた作業着がこんなに似合わない人もなかなかいないだろう。
身体のラインの柔らかさやどこか丸みのある目鼻立ちは女性的でありながら、肩幅や身長は紛れもなく男性だ。
「お初にお目にかかります、自分はヤマカガシを祖に持つケトリビョルンと申します」
ヤマカガシ……?
その単語で遠い日の記憶が走馬灯のように走り出す。
子どもの頃、山で顔面に大型の蛇が落ちてきた記憶である。
ケトリビョルンと名乗った青年の腰から下にゆっくりと視線を落とすと、そこには足がない。
なめらかな一本足は赤と黒の斑点模様がちりばめられている。
「へっ、蛇……っ?!」
彼が蛇の獣人・ラミアであると理解した瞬間俺の意識が遠のいていった。
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