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はじめて降り立った異世界の地はとろけそうなほどに暑かった。
僕もじいやも事前に暑いと聞いては聞いていたが、まさか朝からこんな蒸し風呂のように熱いとは思わなかった。
「ニコライ・クズネツォフ子爵ですか?」
日傘を手にそう声をかけてきたのは20歳くらいの黒髪の優しそうな線の細い男だった。
「あなたの見合い相手の伊藤鴇生いとう・ときおと申します」
決して美男子とはいいがたい、細い淵の眼鏡も白と青を基調とした装いも涼やかで軽やかな印象を与える穏やかな青年だった。
大商家の跡取りだというのに付き添いもつけずにわざわざ迎えに来る男を僕は初めて見た。
「……クズネツォフ子爵第三令息のニコライです」
クズネツォフの人間は昔から叩き込まれている日本語でそう答えると「日本語お上手ですね」と笑って答えた。
「よろしくお願いします」
「しかし、見合いというのはこういうもの何でしょうか?」
「普通は2人きりで食事などするんでしょうけれどね。早く会ってみたかったんです」
そんな風に言われるのは初めてだった。
愛されずに育った、と言う訳ではない。
ただ僕の上には兄と姉が2人もいたものだから良くも悪くもいささか放置されて育ったところがあって、こうしてまっすぐに関心を向けられることになれていない。
「この国は暑いでしょう、車に乗れば涼しいですよ」

****

運転手付きの車に乗り込むとそこは天国のように涼しかった。
冷蔵庫から冷たい飲み物を受け取るとようやく僕は一息ついた気がした。
「伊藤さん、」
「はい?」
「なぜあなたは僕と見合いしようと思ったんですか?」
「……僕はね、ゲイなんです。男しか好きになれないんですよ」
「我々の国にもいますね。どうしても好きな人が同性だからと諸々を無視して同性と結婚する人」
「僕たちの国の場合、愛し合っているなら同性でもいいから伴侶を持った方が良いという風潮がありましてね。僕がゲイだと伝えると家族からあなたとのお見合いを提案されました」
そう告げられると思わず納得する。
同性でもいいから伴侶を持てと言われて運悪く(良く?)僕に白羽の矢が立ったという事か。
「でも思ってた感じと違ったでしょう?」
「いえ。むしろ好きですよ、塩顔の男性結構好みなんですよ」
「……好き、ですか」


「それで提案なのですが、あなたがここにいる10日間ずっと僕が案内として付き添ってみてもいいですか?それで結婚を前提に交際するか決めてみたいです」

そのまっすぐな問いかけに、思わずこくりとうなづいた。
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