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我が家と異世界との繋がりは30年以上前、国の穀物庫と呼ばれた我が領地を含めた国土南部での黒油の異常湧出から始まる。
領内の9割以上の田畑から黒く異臭の漂う油が大量に噴き出すようになったことで我が家の財政は一気に危機に瀕し、破綻寸前に陥った時に出てきたのが異世界の大商店・紅忠であった。
異世界ではこの黒油が重要な資源であり、これを食料や金銭と交換することを提案し、それによって我が家は危機を脱することに成功した。
現在も異世界への黒油輸出は我が家の財政を支える一大産業となっているが、しかしその輸出先で黒油がどのように使われているのかを知る機会は全くと言っていいほどなかった。
「坊ちゃんのお気持ちは分かりますがだからってついでに見て回りたい場所が多すぎませんか?」
ついでに見て回りたい場所があれば教えて欲しいと聞かれたので、思いつく限りを並べた僕に爺やが呆れたように僕を見ていた。
「せっかくの日本行きなんだ、色々見て回りたいと思うのは自然な成り行きだろう?」
「あくまで本題はお見合い、婚約するかもしれない相手との面談です。それをお忘れなく」
「じいや。そうかもしれないが無位無官とはいえ大商家の長男坊がわざわざ男と婚を結ぶ理由があると思うか?」
「あるから見合い話が出たのでしょう?」
爺やはそう言うが、僕はこのお見合いは十中八九失敗すると見ている。
異世界では同性との結婚はあまり一般的ではないと聞くし、僕は決して美貌も才能もない。向こうにとっても僕のような平凡な男を選ぶ理由はないだろう。
「僕はどうせ失敗する見合いより他に楽しい事を考えてたい」
「……坊ちゃんがそうおっしゃるのなら」
爺やはため息交じりにそう呟いた。
見合いのために出発するのは来週、最近敷設された鉄道という乗り物で6日かけて日本の東京という町を目指すことになるという。
異世界とつながって30年。
しかし現地に降り立ったことのある者は少なく、この国では王族や上位貴族くらいしか降り立ったことの無い遠い地である。
見合いなんかどうでもいい。僕の心はむしろ見知らぬ異世界の地へのワクワクで満ち溢れていた。
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