異世界大使館雑録

大使館1年目・冬(7~8部分)

君に降る恋の色

金羊国に定住することを決めたのは妥協だった。
追いかけられながら魔術器官の研究する資金を稼ぐ日々は忙しすぎるし、もっと安全で自由に研究できるところに行きたかったし、異世界のことにも興味があった。
自分の希望と現実との間での最善の答えをあの大使館の男と羊の宰相が出してきて、じゃあこれでいいかという妥協で選んだこの場所でなければ彼女と出会えなかっただろうか。
はじめての日本で出会った彼女は何かを隠していた。
偽物の黒で本当の色を隠すその女性が気になって彼女に歩み寄った。
「その目、見せて」
偽物の黒の奥に何があるのかをのぞき込む。
果実の赤か、空の青か、夕焼けの黄金色か、それを知りたくなった。

「それ本当の目じゃないだろ、本当のが見たい」

偽物の黒で覆い隠された色を知りたいと思った、あわよくば私のものにしたくなった。
降り注いだこの恋の色は君の瞳の色である。