異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
228 / 234
17:大使館と王の来訪

17-11

しおりを挟む
首相から北の国御一行(従者を含めた全員だ)に用意してきたのはみんなご存知まい泉のカツサンドとペットボトル入り鹿児島県産紅茶だった。
記者たちは配られた軽食がコンビニでも手に入りそうな組み合わせである事を不思議そうに見ているのを肌で感じる。
「豚肉に衣を付けて高温の油で泳がせたものを柔らかいパンに挟んだ、カツサンドという料理です」
金羊国ではあまり畜産は行われていないが、北の国ではいくつかの地域で畜産が行われているので小金持ち以上の階級であれば馴染みのあるお肉だ(農村とかだとジビエが主流らしい)
日本側は早速カツサンドを食べ始めるが、北の国側はまず毒味から始める。
毒味として数人の従者が先に一口食べると国王の毒見役の騎士が「これは……」と呟く。
「身体に異変は?」
「ありません。ただ初めて食べる味でしたのでつい」
「具体的には?」
「味付けに野菜や果物や香辛料がこれだけふんだんに使われたものを初めて食べたものですから」
国王の毒見役ともなれば相当に良いものを食べているはずだが、このような感嘆の声が出るのは北の国の御一行にとっては興味深いようだった。
それぞれが配られたカツサンドに口をつけると驚き、目を見合わせた。
北の国の国王も一口二口と食べたあとにふとこんな事を尋ねてきた。
「この料理は普段どのように食べられているのだろうか?」
「我が国では定番の軽食ですね。今回はでカツサンドもお茶も庶民でも気軽に買える安価なものしかご用意出来ませんでしたが……」
あくまで時間の都合であると強調しているが前々から準備しているのだしそんな訳なかろう、と内心でツッコミを入れつつカツサンドにかぶりつく。
それにしてカツサンドなんて久しぶりなせいかいつもより美味しく感じられる。
「これを庶民が?」
「庶民でもこれほど香辛料を含んだものが気軽に食べられるということは国内で生産されてるのですか?」
「いえ、輸入がほとんどですね。残念ながら我が国は食料自給率があまり高くありませんので」
「輸入にほとんどを頼っているのにスパイスを普段使い出来るのか!」
そう驚きの声を上げたのはヘルペンシュルツ宰相補佐官で、首相はその言葉を日本語に訳してもらったあと「はい」と同意して見せた。
つまり、最初から首相とその関係者はこの反応を見越して敢えてを用意してきたのだ。
贅沢品である輸入品のスパイスを多用した料理を普段から食べられる、そういう国力を持った国だと見せつけるためにわざと安価なチェーン店のカツサンドを用意してきたのだ。
普通スパイス系の料理と言えばカレーだが昼食を食べない文化圏の人がこの時間に食べるには重すぎ、同じソース系の料理であるお好み焼きや串カツは冷めてしまっては美味しくない。多少冷めても美味しく食べられて軽食として食べられるソース味のもの、というところでカツサンドとなったのだろう。
斜向かいの日本側の閣僚は普通に美味しく食べているし、取材陣も高級品を羨むというより見てたら食いたくなってきたという表情な事からその言葉が嘘ではないと見ればわかる。
「きっとこの国が温暖で我々より自給力があるから出来る事なのだろうな」
皮肉めいた大きめの独り言が北の国の国王からこぼれ落ちると、それを掬い上げた通訳が首相に耳打ちした。
「そんな事はございません。我が国はこの辺りから少し離れれば急峻な山と激流の大河に挟まれたこの世界屈指の災害大国です。我々との関係が深まれば貴国も我が国と同じようにそのカツサンドを庶民も食べられるような国になるはずです。そのための第一歩が今回の訪日なのですから」
「我が国の厄介者をこの国に送れば送るだけ金にしてくれるというなら、そうなる日も近いだろうな」
北の国の国王がそう答えると首相はニコリと笑って「ええ。いくらでも売ってください」と答えてくるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

触らせないの

猫枕
恋愛
そりゃあ親が勝手に決めた婚約だもの。 受け入れられない気持ちがあるのは分かるけど、それってお互い様じゃない? シーリアには生まれた時からの婚約者サイモンがいる。 幼少期はそれなりに良好な関係を築いていた二人だったが、成長するにつれサイモンはシーリアに冷たい態度を取るようになった。 学園に入学するとサイモンは人目を憚ることなく恋人リンダを連れ歩き、ベタベタするように。 そんなサイモンの様子を冷めた目で見ていたシーリアだったが、ある日偶然サイモンと彼の友人が立ち話ししているのを聞いてしまう。 「結婚してもリンダとの関係は続ける。 シーリアはダダでヤれる女」 心底気持ち悪いと思ったシーリアはサイモンとの婚約を解消して欲しいと父に願い出るが、毒親は相手にしない。 婚約解消が無理だと悟ったシーリアは 「指一本触らせずに離婚する」 ことを心に決める。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

解放の砦

さいはて旅行社
ファンタジー
その世界は人知れず、緩慢に滅びの道を進んでいた。 そこは剣と魔法のファンタジー世界。 転生して、リアムがものごころがついて喜んだのも、つかの間。 残念ながら、派手な攻撃魔法を使えるわけではなかった。 その上、待っていたのは貧しい男爵家の三男として生まれ、しかも魔物討伐に、事務作業、家事に、弟の世話と、忙しく地味に辛い日々。 けれど、この世界にはリアムに愛情を注いでくれる母親がいた。 それだけでリアムは幸せだった。 前世では家族にも仕事にも恵まれなかったから。 リアムは冒険者である最愛の母親を支えるために手伝いを頑張っていた。 だが、リアムが八歳のある日、母親が魔物に殺されてしまう。 母が亡くなってからも、クズ親父と二人のクソ兄貴たちとは冷えた家族関係のまま、リアムの冒険者生活は続いていく。 いつか和解をすることになるのか、はたまた。 B級冒険者の母親がやっていた砦の管理者を継いで、書類作成確認等の事務処理作業に精を出す。砦の守護獣である気分屋のクロとツンツンなシロ様にかまわれながら、A級、B級冒険者のスーパーアスリート超の身体能力を持っている脳筋たちに囲まれる。 平穏無事を祈りながらも、砦ではなぜか事件が起こり、騒がしい日々が続く。 前世で死んだ後に、 「キミは世界から排除されて可哀想だったから、次の人生ではオマケをあげよう」 そんな神様の言葉を、ほんの少しは楽しみにしていたのに。。。 オマケって何だったんだーーーっ、と神に問いたくなる境遇がリアムにはさらに待っていた。

処理中です...