119 / 247
10:大使館のあとしまつ
10-7
しおりを挟む
テレビで何度となく見ていた国会議事堂に自分が立つ日が来るとは思わなかった。
妙に肌触りのいい椅子に腰を下ろしながらも妙な座りの悪さにもぞもぞさせながら議長の言葉に耳を傾ける。
「木栖善泰君、代表して宣誓書を朗読してください」
静かに木栖が立ち上がるとピンと伸びた背筋や身のこなしが妙にこの場の雰囲気になじんでいる。
「宣誓書 良心に従って、真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓います。令和5年6月、木栖善泰」
「それでは、証人は宣誓書に署名捺印を願います」
もちろん俺も誓願書へ署名捺印を済ませるとふいに自分が悪人であったような気分になる。
……いや、あれは日本と金羊国双方のためだった。2つのカギをまとめて手渡したのは俺たちのうっかりミス、貸してしまった武器の即時返却を求めなかったのは双方のため。
ちょっと慣れない状況に気が弱ってるのかもしれない。
「これより証言を求めることになっておりますが、証人は証言を求められた範囲を越えないこと、また御発言の際には、その都度議長の許可を得てなされるようお願いいたします。なお、こちらから質問をしておるときは着席のままで結構でございますが、お答えの際は起立して発言をしてください。
本日は申し合わせの時間内で国政に係る重要な問題について証人より証言を求めるのでありますから、不規則発言等、議事の進行を妨げる言動のないよう御協力をお願いいたします。
証言を求める順序はまず木栖善泰君、次に真柴春彦君とします。真柴春彦君は控室にてお待ちを願います」
議長の指示に従い一度控室に戻ることになり、ちらりと木栖のほうを見ると問題ないと微かに表情を緩めた。
****
議会の様子は控室からテレビで伺い知ることができた。
議員からの質問に淡々と答える様子を見ているとまるでプロのように見える。いや何のプロなのかは分からんが。
記憶にございませんととぼけたり衒学的言い訳を並べ立てる事なく、あくまでちょっとしたミスと過酷な状況が生み出した必然であると言い連ねていた。
そんな時、ある議員が発言台に立った。午前中に防衛省で会ったあの大臣政務官だ。
「カギの貸し出しについて外務省官僚である真柴春彦氏の指示はありましたか?」
なるほど、カギの貸し出しのミスが作為的なものである可能性に目をつけたのか……まあ実際そうなんだけどな。
「ありません。真柴氏は原則職域を守る良心的な人物であると認識しています」
「そうでしょうか。真柴氏が独断で即時返却要請を差し止めたとするならば問題のある人物のように思います、その真柴氏を任命した外務大臣は「中村君、質問に戻ってください」
外務大臣が苦虫を噛み潰す顔をしていて分かった。
今回の件を引き金に外務大臣を引きずり降ろそうとしてるのは分かるが、比較的若手の彼女がそんなことをする理由がわからない。
控室で同じくテレビを見ていた飯島のほうを見ると「彼女、現総理のお気に入りなんだよ」と告げる。
「総理と外務大臣の派閥争いか」
「そう、党内バランスで一度は大臣職に据え置いたがよっぽど馬が合わないようだから大臣を退任させるいい機会だと思ったんじゃないのか?」
現外務大臣の派閥は党内でも大きい派閥で、総理が率いる最大派閥とは対立関係にある。相手のボスを弱らせて自分の派閥をデカくすればいろいろやりやすくなる。
要するに古狸どものしょうもない縄張り争いの道具にされたわけだ。
(これだから永田町は好きになれないんだよな)
職業柄この街の人間とは色々関わってきたが、ふたを開ければ古狸の化かしあい・蹴落としあいで好きになれない。
真面目に政治やってんのかと言いたくなる事もあるので投票権をフルに生かしてしょうもない古狸が落ちるようにはしてるが、これがなかなかうまくいかない。
「大臣の任命責任云々ってなると俺も巻き込まれそうでやだなあ」
「その時はお前も部下引き連れて逃げとけ」
まったく、俺は自分の罪軽くするだけでなく永田町の足の引っ張り合いからも逃げなきゃならんのか。
妙に肌触りのいい椅子に腰を下ろしながらも妙な座りの悪さにもぞもぞさせながら議長の言葉に耳を傾ける。
「木栖善泰君、代表して宣誓書を朗読してください」
静かに木栖が立ち上がるとピンと伸びた背筋や身のこなしが妙にこの場の雰囲気になじんでいる。
「宣誓書 良心に従って、真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓います。令和5年6月、木栖善泰」
「それでは、証人は宣誓書に署名捺印を願います」
もちろん俺も誓願書へ署名捺印を済ませるとふいに自分が悪人であったような気分になる。
……いや、あれは日本と金羊国双方のためだった。2つのカギをまとめて手渡したのは俺たちのうっかりミス、貸してしまった武器の即時返却を求めなかったのは双方のため。
ちょっと慣れない状況に気が弱ってるのかもしれない。
「これより証言を求めることになっておりますが、証人は証言を求められた範囲を越えないこと、また御発言の際には、その都度議長の許可を得てなされるようお願いいたします。なお、こちらから質問をしておるときは着席のままで結構でございますが、お答えの際は起立して発言をしてください。
本日は申し合わせの時間内で国政に係る重要な問題について証人より証言を求めるのでありますから、不規則発言等、議事の進行を妨げる言動のないよう御協力をお願いいたします。
証言を求める順序はまず木栖善泰君、次に真柴春彦君とします。真柴春彦君は控室にてお待ちを願います」
議長の指示に従い一度控室に戻ることになり、ちらりと木栖のほうを見ると問題ないと微かに表情を緩めた。
****
議会の様子は控室からテレビで伺い知ることができた。
議員からの質問に淡々と答える様子を見ているとまるでプロのように見える。いや何のプロなのかは分からんが。
記憶にございませんととぼけたり衒学的言い訳を並べ立てる事なく、あくまでちょっとしたミスと過酷な状況が生み出した必然であると言い連ねていた。
そんな時、ある議員が発言台に立った。午前中に防衛省で会ったあの大臣政務官だ。
「カギの貸し出しについて外務省官僚である真柴春彦氏の指示はありましたか?」
なるほど、カギの貸し出しのミスが作為的なものである可能性に目をつけたのか……まあ実際そうなんだけどな。
「ありません。真柴氏は原則職域を守る良心的な人物であると認識しています」
「そうでしょうか。真柴氏が独断で即時返却要請を差し止めたとするならば問題のある人物のように思います、その真柴氏を任命した外務大臣は「中村君、質問に戻ってください」
外務大臣が苦虫を噛み潰す顔をしていて分かった。
今回の件を引き金に外務大臣を引きずり降ろそうとしてるのは分かるが、比較的若手の彼女がそんなことをする理由がわからない。
控室で同じくテレビを見ていた飯島のほうを見ると「彼女、現総理のお気に入りなんだよ」と告げる。
「総理と外務大臣の派閥争いか」
「そう、党内バランスで一度は大臣職に据え置いたがよっぽど馬が合わないようだから大臣を退任させるいい機会だと思ったんじゃないのか?」
現外務大臣の派閥は党内でも大きい派閥で、総理が率いる最大派閥とは対立関係にある。相手のボスを弱らせて自分の派閥をデカくすればいろいろやりやすくなる。
要するに古狸どものしょうもない縄張り争いの道具にされたわけだ。
(これだから永田町は好きになれないんだよな)
職業柄この街の人間とは色々関わってきたが、ふたを開ければ古狸の化かしあい・蹴落としあいで好きになれない。
真面目に政治やってんのかと言いたくなる事もあるので投票権をフルに生かしてしょうもない古狸が落ちるようにはしてるが、これがなかなかうまくいかない。
「大臣の任命責任云々ってなると俺も巻き込まれそうでやだなあ」
「その時はお前も部下引き連れて逃げとけ」
まったく、俺は自分の罪軽くするだけでなく永田町の足の引っ張り合いからも逃げなきゃならんのか。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
私のスローライフはどこに消えた?? 神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!
魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。
なんか旅のお供が増え・・・。
一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。
どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。
R県R市のR大学病院の個室
ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。
ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声
私:[苦しい・・・息が出来ない・・・]
息子A「おふくろ頑張れ・・・」
息子B「おばあちゃん・・・」
息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」
孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」
ピーーーーー
医師「午後14時23分ご臨終です。」
私:[これでやっと楽になれる・・・。]
私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!!
なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、
なぜか攫われて・・・
色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり
事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!!
R15は保険です。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
異世界大使館雑録
あかべこ
ファンタジー
異世界大使館、始めますhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/407589301のゆるゆるスピンオフ。
本編読まないと分かりにくいショートショート集です。本編と一緒にお楽しみください。
冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~
犬野純
ファンタジー
レアジョブにも程がある。10歳になって判明した俺の役職はなんと「品質管理」。産業革命すら起こっていない世界で、品質管理として日々冒険者ギルドで、新人の相談にのる人生。現代の品質管理手法で、ゆるーく冒険者のお手伝い。一番のファンタジーは毎日不具合が出ているのに、客先のラインを停止させない作者の会社。愚痴とメタ発言が多いので、これをベースにもっと小説のような作品を書くことにしました。こちらは同業者の方達と同じ辛さを共有できたらいいなと
リメイクしたほう。
愚痴少な目。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/647631500/829334015
転生農家の俺、賢者の遺産を手に入れたので帝国を揺るがす大発明を連発する
昼から山猫
ファンタジー
地方農村に生まれたグレンは、前世はただの会社員だった転生者。特別な力はないが、ある日、村外れの洞窟で古代賢者の秘蔵書庫を発見。そこには世界を変える魔法理論や失われた工学が眠っていた。
グレンは農村の暮らしを少しでも良くするため、古代技術を応用し、便利な道具や魔法道具を続々と開発。村は繁栄し、噂は隣領や都市まで広がる。
しかし、帝国の魔術師団がその力を独占しようとグレンを狙い始める。領主達の思惑、帝国の陰謀、動き出す反乱軍。知恵と工夫で世界を変えたグレンは、これから巻き起こる激動にどう立ち向かうのか。
田舎者が賢者の遺産で世界へ挑む物語。
ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない
兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる