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9:大使館と戦乱の火
9-17
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森の出口から北へ10キロほど歩いたところに、小さな砦があった。
停戦交渉の仲介者であることを示す国旗を担ぎながら、砦付近まで飛んできたポアロ大佐からドローン映像を基に場所を確認しながら歩くこと1時間。
「あれが銀の砦だろうな」
木製の柵を鉄製の有刺鉄線で彩った建築物が見える。
砦の入り口には槍を持った兵士が2人、槍を手に立っているのが見えた。
んんっ、と軽く喉を鳴らしてから力一杯に声を張り上げた。
「自分たちは地球から派遣された金羊国と西の国の停戦交渉使者団です、開門をお願いいたします」
それからほどなくすると置くからひとり、いかにもいい身分の男が現れた。
「リゴー侯爵が会われるそうだ、入れ」
****
砦の中は思ったよりもしっかりと作られていた。
シンプルなテントやあばら家が多いものの、主要な建築物は金属で構築されており金属製の道具も多く見受けられた。
その砦の最も目立つ場所に椅子と机が置かれ、紅茶と金平糖のような砂糖菓子を出されてこれを食べて待つように告げられる。
ちょっとばかり紅茶に手を出すと味は思ったよりもいい。家で飲むパックの紅茶より美味しいんじゃないだろうか?
しばらくすると「ジャン=ジャック・リゴー侯爵の御成りである!」という掛け声とともに中年の男が現れる。
立派なカイゼルひげに戦地に不釣り合いなマントや派手な衣服に身を包む小太りの男性は、子供の頃に読んだ絵本の王様そのものという印象である。
「やあやあ異世界の皆様方、お待たせいたしましたな」
「お気になさらず」
「で、停戦交渉とお伺いしました」
先方からそう切り出してきたことに意外性を感じつつ「ええ」と口を開く。
「私も戦場暮らしは面白くないが、甥や従兄弟は私に耳を貸さずにいてほとほと困っていたところです。私が仲立ちに立てば会ってくれるでしょう」
「ご協力感謝いたします」
「ですがー……黒髪の御仁を通すわけにはいきません、王家に黒髪黒目を連れ込んで災いをもたらしたなど言われるわけにはまいりませんからな」
そこは想定していなかった訳ではない。
黒髪黒眼は災いを呼ぶという伝承は思ったより根が深いようだ。
「俺や木栖は確かに黒髪黒目ですが元いた世界には魔術がないので災いを呼びようもないのですよ。実践してみましょうか?」
「魔術がない世界?ならばそのような仕立てのいい服や靴をどのようにして作り出すと言うのです?」
「知恵と技術ですよ」
やんわりとそう答えると「面白い」とリゴー侯爵が笑う。
「知恵と技術で失った財産以上のものが取り戻せるとでも?」
失った財産というのは伯爵令嬢の呪い事件によって燃えた麦畑のことだろうか、もしかすると家財や人材もあの事件で失ってる可能性もある。
「ええ。例えば麦を夏と冬の二回収穫し、麦のない季節には牛や馬を育てる三圃式農業。人為的交配による品種改良、農薬や肥料の開発と改良、耕作の利便性を向上させる道具の発明。
魔術や奴隷に頼らずに豊かな生活を築き上げてきた俺たちにとって、この世界の大国たる西の国にその知恵がこちらに無いとは思えない」
「つまり戦で失った財産を穴埋めするのは愚行と言う事ですかな?」
いささか挑発めいた言葉を口にすると「ならば見せてもらいたいものだ」とリゴー侯爵が皮肉げに笑う。
「何をです?」
「魔術が無くとも世界を発展させてきた知恵を。直接我が国に取り入れるのは無理だとしても金羊国を実験台にして使える知恵を取り込むのは悪くない」
リゴー侯爵のそのひと言でわかった。
この人はかなり現実的で、利益を重じる。戦による利益が小さくなってきたから停戦を訴えていたのだと。
「今日の午後、王の砦にお連れしましょう」
停戦交渉の仲介者であることを示す国旗を担ぎながら、砦付近まで飛んできたポアロ大佐からドローン映像を基に場所を確認しながら歩くこと1時間。
「あれが銀の砦だろうな」
木製の柵を鉄製の有刺鉄線で彩った建築物が見える。
砦の入り口には槍を持った兵士が2人、槍を手に立っているのが見えた。
んんっ、と軽く喉を鳴らしてから力一杯に声を張り上げた。
「自分たちは地球から派遣された金羊国と西の国の停戦交渉使者団です、開門をお願いいたします」
それからほどなくすると置くからひとり、いかにもいい身分の男が現れた。
「リゴー侯爵が会われるそうだ、入れ」
****
砦の中は思ったよりもしっかりと作られていた。
シンプルなテントやあばら家が多いものの、主要な建築物は金属で構築されており金属製の道具も多く見受けられた。
その砦の最も目立つ場所に椅子と机が置かれ、紅茶と金平糖のような砂糖菓子を出されてこれを食べて待つように告げられる。
ちょっとばかり紅茶に手を出すと味は思ったよりもいい。家で飲むパックの紅茶より美味しいんじゃないだろうか?
しばらくすると「ジャン=ジャック・リゴー侯爵の御成りである!」という掛け声とともに中年の男が現れる。
立派なカイゼルひげに戦地に不釣り合いなマントや派手な衣服に身を包む小太りの男性は、子供の頃に読んだ絵本の王様そのものという印象である。
「やあやあ異世界の皆様方、お待たせいたしましたな」
「お気になさらず」
「で、停戦交渉とお伺いしました」
先方からそう切り出してきたことに意外性を感じつつ「ええ」と口を開く。
「私も戦場暮らしは面白くないが、甥や従兄弟は私に耳を貸さずにいてほとほと困っていたところです。私が仲立ちに立てば会ってくれるでしょう」
「ご協力感謝いたします」
「ですがー……黒髪の御仁を通すわけにはいきません、王家に黒髪黒目を連れ込んで災いをもたらしたなど言われるわけにはまいりませんからな」
そこは想定していなかった訳ではない。
黒髪黒眼は災いを呼ぶという伝承は思ったより根が深いようだ。
「俺や木栖は確かに黒髪黒目ですが元いた世界には魔術がないので災いを呼びようもないのですよ。実践してみましょうか?」
「魔術がない世界?ならばそのような仕立てのいい服や靴をどのようにして作り出すと言うのです?」
「知恵と技術ですよ」
やんわりとそう答えると「面白い」とリゴー侯爵が笑う。
「知恵と技術で失った財産以上のものが取り戻せるとでも?」
失った財産というのは伯爵令嬢の呪い事件によって燃えた麦畑のことだろうか、もしかすると家財や人材もあの事件で失ってる可能性もある。
「ええ。例えば麦を夏と冬の二回収穫し、麦のない季節には牛や馬を育てる三圃式農業。人為的交配による品種改良、農薬や肥料の開発と改良、耕作の利便性を向上させる道具の発明。
魔術や奴隷に頼らずに豊かな生活を築き上げてきた俺たちにとって、この世界の大国たる西の国にその知恵がこちらに無いとは思えない」
「つまり戦で失った財産を穴埋めするのは愚行と言う事ですかな?」
いささか挑発めいた言葉を口にすると「ならば見せてもらいたいものだ」とリゴー侯爵が皮肉げに笑う。
「何をです?」
「魔術が無くとも世界を発展させてきた知恵を。直接我が国に取り入れるのは無理だとしても金羊国を実験台にして使える知恵を取り込むのは悪くない」
リゴー侯爵のそのひと言でわかった。
この人はかなり現実的で、利益を重じる。戦による利益が小さくなってきたから停戦を訴えていたのだと。
「今日の午後、王の砦にお連れしましょう」
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