異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
75 / 247
7:大使館はウィンター・バケーション

7-3

しおりを挟む
翌日。
朝食の場で午前中のうちに嘉神にヴィクトワール・クライフ氏の件を日本側に伝えて欲しいと頼み、俺はグウズルン管理官と話をするため政経宮へ赴いた。
「朝早くからよく来るね」
「厄介ごとは早くに終わらせるに限りますからね、昨日見せてもらった契約書の実物を日本に持って行くことは出来ますか?本当に同一人物であるかを確かめたいので」
グウズルン情報管理官が顔を曇らせ「それすぐに終わる?」と聞いた。
「まあ無理を押せば、ですかね。彼女が大規模放火事件に関わった証拠があれば日本政府として受け入れは難しいですから」
ただし伯爵令嬢の呪い事件が南の国の新聞で書かれているように娘の仇討ちでなくもっと政治的背景を含むテロ事件である可能性もあるが、どっちにせよ放火は犯罪である。
「……私の部下を同行させて書類に傷をつけない事を条件としていいなら」
「それは当然だろうな。それともうひとつ、伯爵令嬢の呪い事件そのものに政治的な背景は?」
「調べた限りだと120%あれは伯爵の仇討ちだな」
何となく気になっていた疑問に対するその答えを聞くと、俺の脳裏には新しい疑問がいくつも浮かんできた。
「なら何故直接王弟を狙わなかった?」
「王家直轄地の代官は王弟だからだよ、本人を狙うにも王都から離れた土地に住んでるし腕のいい護衛がついてるんでリスクが高い」
「最初から死ぬつもりだったなら黄金の魔女に頼らず自分の手で直接狙えばいい」
「そこはわからん。ただからな」
グウズルン情報管理官の含みを持ったひとことで想像がつく。
放火後に最初の契約の履行で揉めて殺してしまい、財産を全部回収した後に書類ごと痕跡を消すため放火……という筋書きをお互い想定しているという事だろう。
想定した筋書きが正しかった場合、黄金の魔女の罪は放火殺人と言う事になる。まあ死んだ伯爵自身の遺体を調べられないのであくまで想定でしかないが……よくそんな人材を身内に入れようと考えてるな?
(それだけ深刻な人材不足ってわけか)
「金の亡者だな」
「それは違いない、でも彼女の金はすべて魔術器官の研究に費やされてる」
「魔術器官の研究は金がかかるのか?」
「教会が禁じている研究だからな。研究していることがバレれば邪教徒として一族郎党全裸での引き回しからの火あぶりの刑になる」
「ひえっ」
うっかり変な声が出てしまった。
話を聞く限りでは禁止された研究のためならどんな犠牲も厭わないその振る舞いは漫画に出てくるマッドサイエンティストのようであり、ハルトル宰相の苦渋の決断が想像以上の苦渋であったこともよく分かった。
というか本当に身の内に引き入れて良いのか?よその事だが心配過ぎる。
「研究の自由と生活の保障さえあればあれは何もしない、というのが私の結論だ。いざとなったら私が殺る」
コメントが怖いのでこの話に首を突っ込むのは止めよう。
「……とりあえず、書類の調査が決まったらご報告しますので」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

石田三成だけど現代社会ふざけんな

実は犬です。
ファンタジー
 関ヶ原の戦いで徳川家康に敗れた石田三成。  京都六条河原にて処刑された次の瞬間、彼は21世紀の日本に住む若い夫婦の子供になっていた。  しかし、三成の第二の人生は波乱の幕開けである。 「是非に及ばず」  転生して現代に生まれ出でた瞬間に、混乱極まって信長公の決め台詞をついつい口走ってしまった三成。  結果、母親や助産師など分娩室にいた全員が悲鳴を上げ、挙句は世間すらも騒がせることとなった。  そして、そんな事件から早5年――  石田三成こと『石家光成』も無事に幼稚園児となっていた。  右を見ても左を見ても、摩訶不思議なからくり道具がひしめく現代。  それらに心ときめかせながら、また、現世における新しい家族や幼稚園で知り合った幼い友人らと親交を深めながら、光成は現代社会を必死に生きる。  しかし、戦国の世とは違う現代の風習や人間関係の軋轢も甘くはない。  現代社会における光成の平和な生活は次第に脅かされ、幼稚園の仲間も苦しい状況へと追い込まれる。  大切な仲間を助けるため、そして大切な仲間との平和な生活を守るため。  光成は戦国の世の忌むべき力と共に、闘うことを決意した。 歴史に詳しくない方も是非!(作者もあまり詳しくありません(笑))

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界大使館雑録

あかべこ
ファンタジー
異世界大使館、始めますhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/407589301のゆるゆるスピンオフ。 本編読まないと分かりにくいショートショート集です。本編と一緒にお楽しみください。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...