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5:大使館の夏
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政経宮から帰ると、飯山さんがクソ暑い炎天下の中庭で火を焚いていた。
「何してるんですか?」
「いやー、良いお肉買えたから今日は串焼きにしようと思って」
焚き火の周りには金属製の串に刺さった肉や野菜、あとは川魚が焼かれている。
木栖とオーロフがあり合わせの道具で簡単な日陰を作ってくれていたのでそこに腰を下ろす。
ちょっとしたキャンプの様相を呈した中庭はやがて肉や野菜の焼ける香ばしい匂いが漂い始める。
「とりあえず鹿肉串・野菜と鹿肉のセット・魚が焼けたんでお好きなのどーぞ」
野菜と肉のセットに手を伸ばした木栖はがぶりと串にかぶりつく。
「野菜の味が濃いな」
「でしょー、ここの野菜ってたぶん地球の野菜よりも原種に近いのか野性味があって美味しいんですよね~シンプルに串焼きだからそれをよりはっきり感じると言いますか~」
何となく魚串に手を伸ばしていた俺もそう聞くと野菜を食べたくなる。
「食うか?」
木栖が串からトマトに似た野菜をひとつ取って俺に差し出してくる。
ほかほかの焼きトマトが美味しそうに見えてきて手を伸ばすか考えていると、飯山さんが野菜串を差し出してくれる。
「……助かった」
「何がですか~?」
焼きたての茄子的な物にかじりつくと確かに日本のスーパーの茄子とは違う味がする。
厚めの皮の歯ごたえの奥に焼きナス特有の溶ける食感が広がってくるが、ほんのりとえぐみが後味として舌に残る印象がある。この辺りは原種に近い野性味と言えるだろう。
「確かに美味いな」
「ですよねー」
そうこう言っているうちに腹をすかせた納村や嘉神たちがやってきて、思い思いに焼けた串を取っていく。
串が減ればどんどん新しい肉や野菜を刺しては焼き、指しては焼きを繰り返していく。
「夏休みのキャンプみたいだ」
麦茶を飲んでいた俺の横がそう呟くと「夏休みシーズンだしな」と木栖が返す。
もっとも父親のいない俺はキャンプなど行ったことが無く、テレビや雑誌で見たぼんやりとした印象でそう言っているだけなのだが。
「大使館の中庭じゃなくて河原だったらもっとキャンプっぽかっただろうな」
「確かに」
「大人になっても初めてやる事なんてのはいくらでもあるもんだな」
「初めてだったのか?」
木栖がそう問えば「機会がなくてな」と返す。
「俺は毎年地元の教会の集まりでしてたな、秩父の川沿いでテント張って肉焼いて川遊びしてって感じだった」
「教会?」
「親がカトリックだったからな、もう今は関係も切れてるが」
「だから家族の説得すっ飛ばして異世界に来れたわけか」
お互い知らない事もあるものだな、と思い知る。
(まあ偽装夫婦みたいなもんだし知る必要もないのかもしれないが)
けれどこいつの知らない側面を知ることが嫌ではない。少なくともその程度の好意はあるのだ。
「大使と木栖さーん、もう肉串の残り2本しかないんですけど食べますか~?」
飯山さんが焚き火の前から俺たちにそう声をかけてくる。
というか納村の奴めちゃくちゃ食ってるようで、もう残りがそれしかないのかと気付くと「「食べる!!」」と反射的に声を張り上げた。
「何してるんですか?」
「いやー、良いお肉買えたから今日は串焼きにしようと思って」
焚き火の周りには金属製の串に刺さった肉や野菜、あとは川魚が焼かれている。
木栖とオーロフがあり合わせの道具で簡単な日陰を作ってくれていたのでそこに腰を下ろす。
ちょっとしたキャンプの様相を呈した中庭はやがて肉や野菜の焼ける香ばしい匂いが漂い始める。
「とりあえず鹿肉串・野菜と鹿肉のセット・魚が焼けたんでお好きなのどーぞ」
野菜と肉のセットに手を伸ばした木栖はがぶりと串にかぶりつく。
「野菜の味が濃いな」
「でしょー、ここの野菜ってたぶん地球の野菜よりも原種に近いのか野性味があって美味しいんですよね~シンプルに串焼きだからそれをよりはっきり感じると言いますか~」
何となく魚串に手を伸ばしていた俺もそう聞くと野菜を食べたくなる。
「食うか?」
木栖が串からトマトに似た野菜をひとつ取って俺に差し出してくる。
ほかほかの焼きトマトが美味しそうに見えてきて手を伸ばすか考えていると、飯山さんが野菜串を差し出してくれる。
「……助かった」
「何がですか~?」
焼きたての茄子的な物にかじりつくと確かに日本のスーパーの茄子とは違う味がする。
厚めの皮の歯ごたえの奥に焼きナス特有の溶ける食感が広がってくるが、ほんのりとえぐみが後味として舌に残る印象がある。この辺りは原種に近い野性味と言えるだろう。
「確かに美味いな」
「ですよねー」
そうこう言っているうちに腹をすかせた納村や嘉神たちがやってきて、思い思いに焼けた串を取っていく。
串が減ればどんどん新しい肉や野菜を刺しては焼き、指しては焼きを繰り返していく。
「夏休みのキャンプみたいだ」
麦茶を飲んでいた俺の横がそう呟くと「夏休みシーズンだしな」と木栖が返す。
もっとも父親のいない俺はキャンプなど行ったことが無く、テレビや雑誌で見たぼんやりとした印象でそう言っているだけなのだが。
「大使館の中庭じゃなくて河原だったらもっとキャンプっぽかっただろうな」
「確かに」
「大人になっても初めてやる事なんてのはいくらでもあるもんだな」
「初めてだったのか?」
木栖がそう問えば「機会がなくてな」と返す。
「俺は毎年地元の教会の集まりでしてたな、秩父の川沿いでテント張って肉焼いて川遊びしてって感じだった」
「教会?」
「親がカトリックだったからな、もう今は関係も切れてるが」
「だから家族の説得すっ飛ばして異世界に来れたわけか」
お互い知らない事もあるものだな、と思い知る。
(まあ偽装夫婦みたいなもんだし知る必要もないのかもしれないが)
けれどこいつの知らない側面を知ることが嫌ではない。少なくともその程度の好意はあるのだ。
「大使と木栖さーん、もう肉串の残り2本しかないんですけど食べますか~?」
飯山さんが焚き火の前から俺たちにそう声をかけてくる。
というか納村の奴めちゃくちゃ食ってるようで、もう残りがそれしかないのかと気付くと「「食べる!!」」と反射的に声を張り上げた。
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