21 / 242
2:大使館を作る(金羊国編)
2-8
しおりを挟む
「嘉神たちの見たものについて聞かせてくれ」
そう聞くと嘉神は「分かりました」と短く答える。
「まず今回回った書店で聞いた話なんですが、ほとんどが盗品のようです」
「どういう事だ?」
「この国の人たちはほとんどが逃亡奴隷ですから、逃亡資金やここでの生活資金として使えそうなものとして宝飾品や高価な書籍を主人のところから持って行く場合が多いみたいです」
「問題になるんじゃないのか?」
「生活を一から作る苦労は全員分かってますから黙認というか公然の秘密という感じで済ませてるみたいです。国外での扱いは分かりませんが」
いささか闇を感じるがそうなると今回手に入れた資料もほとんどが盗品である可能性が高い。
とにかくこのせいで面倒なことにならないよう祈るほかない。
「南の国から来てる商人も黙認してるっぽいけどなあ」
そう口をはさんだのは納村だった。
「話聞いたんですか?」
「聞いた感じだと商人連中は盗品だと薄々気づいてはいても質が良いから黙認で、売る側は主への恨み晴らしとか退職金としてこっそり持っていった、って人がほとんどだった」
納村は両方の側から聞いたらしい。
色々面白い話を聞いていそうなのでこの辺りはいずれまとめて聞かせてもらおう。
「あと活版印刷があるようなんですがまだそこまで普及はしてないようですね、教会が主体で大陸中に広めているという事です」
「教会か、詳しい事は分かるか」
「大陸各地で聖書が作られていることが確認できたので影響力は大陸全土に広がると思われます。
基本思想としては『魔術は人間にのみ与えた恩寵である』『獣人は生まれ落ちた時から穢れを背負い、神と人間に奉仕することで救われる』って感じでおそらく獣人の扱いなどは教会の影響があるかと」
「変に関わらないほうが良いぞ」
木栖がそう告げるので「分かってる」と軽く答えた。
宗教はいつの時代も根が深く面倒であり、彼らの正義に俺たちが干渉したって仕方がない。
(まあ向こうが突っかかって来なければいいんだが)
最悪の事態を想定して多少調べておいたほうがよさそうだ。
「それとなんですが、金羊国内を視察できませんか?色々調べておきたい事がありまして」
「いいぞ、後日ハルトル宰相に許可を取ろう。スマートフォンあるよな?」
ネット回線など存在しない世界だが、一台あれば写真や動画を撮れるしBluetoothやポケットWi-Fiも持ち込んでいるので情報共有にも使える。
ただし日本や地球に無線LANの電波は届かないようなので大使館内のみにとどまるうえ、電力は足漕ぎ発電機と太陽光発電パネルに頼ることになるのがネックだが。
「はい、ちゃんと共有しますので」
納村が「私も行きたい」と愚痴を漏らすが「通訳官として大使館待機で」と返す。
コミュニケーション力お化けであり通訳官でもある納村には極力いてもらわないと俺が困る。
「納村は何か聞いたか?」
「とりあえず30人ぐらい話聞きました。身の上話が多いんであとでまとめますけど、私らに直接かかわるのは忌み子の話ですかね」
「忌み子?」
「こっちの世界だと黒髪黒目って呪われているとか破滅の予兆とか悪い風に取られることが多いみたいです。なんでも昔黒髪黒目の子どもが自分の魔術を制御し切れず街を滅ぼしたって伝説があるらしくて、それで捨てられたり教会に送られたりってのが多いみたいです」
昼間俺たちを見て怯えた店主を思い出し、もしかするとこの話も怯えられた要因かもしれない。
「黒髪黒目が原因で酷い境遇に置かれてここまで逃げてきたっていう子もいたんで、獣人の人らもお互い苦労したんだねーぐらいの感覚みたいですけど」
「なるほど。国外に出ることがあれば気を付けたほうが良いな」
有意義なディナーミーティングになったな、と思いつつ空になった食器に「ごちそうさま」と手を合わせる。
空の食器を片付けながら、そういえば俺のほうでも言っておくべきことがあったと思いだす。
「ああ、あとここにいる間は俺と木栖は夫婦という設定で通す。口裏合わせに協力してくれ」
「「「「はぁ?!」」」」
全員にビックリされた。
「そのほうが都合が良さそうでな、ここにいる間はその設定で通す」
「雑過ぎません?」
柊木医師が呆れ気味にそう呟いた。
「しょせん設定だからな、それじゃあまた明日」
そう聞くと嘉神は「分かりました」と短く答える。
「まず今回回った書店で聞いた話なんですが、ほとんどが盗品のようです」
「どういう事だ?」
「この国の人たちはほとんどが逃亡奴隷ですから、逃亡資金やここでの生活資金として使えそうなものとして宝飾品や高価な書籍を主人のところから持って行く場合が多いみたいです」
「問題になるんじゃないのか?」
「生活を一から作る苦労は全員分かってますから黙認というか公然の秘密という感じで済ませてるみたいです。国外での扱いは分かりませんが」
いささか闇を感じるがそうなると今回手に入れた資料もほとんどが盗品である可能性が高い。
とにかくこのせいで面倒なことにならないよう祈るほかない。
「南の国から来てる商人も黙認してるっぽいけどなあ」
そう口をはさんだのは納村だった。
「話聞いたんですか?」
「聞いた感じだと商人連中は盗品だと薄々気づいてはいても質が良いから黙認で、売る側は主への恨み晴らしとか退職金としてこっそり持っていった、って人がほとんどだった」
納村は両方の側から聞いたらしい。
色々面白い話を聞いていそうなのでこの辺りはいずれまとめて聞かせてもらおう。
「あと活版印刷があるようなんですがまだそこまで普及はしてないようですね、教会が主体で大陸中に広めているという事です」
「教会か、詳しい事は分かるか」
「大陸各地で聖書が作られていることが確認できたので影響力は大陸全土に広がると思われます。
基本思想としては『魔術は人間にのみ与えた恩寵である』『獣人は生まれ落ちた時から穢れを背負い、神と人間に奉仕することで救われる』って感じでおそらく獣人の扱いなどは教会の影響があるかと」
「変に関わらないほうが良いぞ」
木栖がそう告げるので「分かってる」と軽く答えた。
宗教はいつの時代も根が深く面倒であり、彼らの正義に俺たちが干渉したって仕方がない。
(まあ向こうが突っかかって来なければいいんだが)
最悪の事態を想定して多少調べておいたほうがよさそうだ。
「それとなんですが、金羊国内を視察できませんか?色々調べておきたい事がありまして」
「いいぞ、後日ハルトル宰相に許可を取ろう。スマートフォンあるよな?」
ネット回線など存在しない世界だが、一台あれば写真や動画を撮れるしBluetoothやポケットWi-Fiも持ち込んでいるので情報共有にも使える。
ただし日本や地球に無線LANの電波は届かないようなので大使館内のみにとどまるうえ、電力は足漕ぎ発電機と太陽光発電パネルに頼ることになるのがネックだが。
「はい、ちゃんと共有しますので」
納村が「私も行きたい」と愚痴を漏らすが「通訳官として大使館待機で」と返す。
コミュニケーション力お化けであり通訳官でもある納村には極力いてもらわないと俺が困る。
「納村は何か聞いたか?」
「とりあえず30人ぐらい話聞きました。身の上話が多いんであとでまとめますけど、私らに直接かかわるのは忌み子の話ですかね」
「忌み子?」
「こっちの世界だと黒髪黒目って呪われているとか破滅の予兆とか悪い風に取られることが多いみたいです。なんでも昔黒髪黒目の子どもが自分の魔術を制御し切れず街を滅ぼしたって伝説があるらしくて、それで捨てられたり教会に送られたりってのが多いみたいです」
昼間俺たちを見て怯えた店主を思い出し、もしかするとこの話も怯えられた要因かもしれない。
「黒髪黒目が原因で酷い境遇に置かれてここまで逃げてきたっていう子もいたんで、獣人の人らもお互い苦労したんだねーぐらいの感覚みたいですけど」
「なるほど。国外に出ることがあれば気を付けたほうが良いな」
有意義なディナーミーティングになったな、と思いつつ空になった食器に「ごちそうさま」と手を合わせる。
空の食器を片付けながら、そういえば俺のほうでも言っておくべきことがあったと思いだす。
「ああ、あとここにいる間は俺と木栖は夫婦という設定で通す。口裏合わせに協力してくれ」
「「「「はぁ?!」」」」
全員にビックリされた。
「そのほうが都合が良さそうでな、ここにいる間はその設定で通す」
「雑過ぎません?」
柊木医師が呆れ気味にそう呟いた。
「しょせん設定だからな、それじゃあまた明日」
1
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
勇者のクランの恋愛事情
あかべこ
ファンタジー
遠足の途中でバスごと異世界に転移した32人の高校生(と一緒に転移した2人の大人)たち。のちに「勇者のクラン」と呼ばれた彼らの恋愛オムニバス。
ハーレム・同性愛・人外も含みます。気まぐれ更新。
表紙はかんたん表紙メーカーから。
異世界大使館雑録
あかべこ
ファンタジー
異世界大使館、始めますhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/407589301のゆるゆるスピンオフ。
本編読まないと分かりにくいショートショート集です。本編と一緒にお楽しみください。
マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~
ふりたけ(振木岳人)
ファンタジー
「……あの子を、シリルの事を頼めるか? ……」
騎士王ボードワンが天使の凶刃に倒れた際、彼は実の息子である王子たちの行く末を案じたのではなく、その後の人類に憂いて、精霊王に「いわくつきの子」を託した。
その名はシリル、名前だけで苗字の無い子。そして騎士王が密かに育てようとしていた子。再び天使が地上人絶滅を目的に攻めて来た際に、彼が生きとし生ける者全ての希望の光となるようにと。
この物語は、剣技にも魔術にもまるで秀でていない「どん底シリル」が、栄光の剣を持って地上に光を与える英雄物語である。
ドグラマ3
小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。
異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。
*前作ドグラマ2の続編です。
毎日更新を目指しています。
ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。
半分異世界
月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。
ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。
いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。
そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。
「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界
僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~
SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。
ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。
『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』
『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』
そんな感じ。
『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。
隔週日曜日に更新予定。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる