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第四部 - 三章 龍王の恋愛成就奮闘記
三章三節 - 一方、その夜
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「さてさて、乱兄どんな感じかなぁ」
辰海は、脇息にもたれかかって楽しそうに笑う与羽の顔を見た。
日はとうに沈んでいるが、まだ彼らの目の前には明日までに目を通さなければならない書類が積まれている。
与羽の表情には少し疲れが見えるものの、当人は気付いていないらしい。楽しみながらやっているようだ。辰海とその向かいに座っている絡柳も疲れていたが、それを隠しきるすべを心得ているので、外見には全く表れていなかった。
「ちゃんとやっているさ。もしもの時は、大斗がうまく取りなすだろう」
絡柳が答えた。愉快そうに口元をほころばせつつも、その目は手に持った資料にそそがれ続けている。そのさまは、城下町の女性たちが黄色い悲鳴を上げるような、見た目よし、能力よしの若き大臣だ。
朝議の記録を確認して誤りがないことを認める判を押し、与羽が午後行った視察の内容と結果を報告する。明日の朝議で話し合う議題の事前学習も必要だ。絡柳が中心となって書類の内容を要約して与羽に伝え、質疑応答や議論を繰り返した。辰海もそれに参加しながら、会話の内容を記録する。そうやって今日話し合ったことや行ったことをまとめたり、明日の準備をしたりするのだ。明日の予定はすでに決められていたが、今日の出来事や急な案件を考慮して細部を修正しなければならない。
「乱兄、毎日こんなことしとるんか……」
与羽がかみしめるようにつぶやいた。忙しくて大変だろうと想像してはいたが、実際にやってみるとその「忙しさ」「大変さ」はより具体性を増して与羽の心身を消耗させる。
「まぁ、この時期、春は特にそうだな」
「もうちょっと乱兄を大事にせんと」
「その通りだと思うぞ」
絡柳のそっけない言葉に与羽は眉間に小さくしわを寄せた。厳しい物言いに少し気分を害したようだったが、言い返すことはない。彼の言葉の正しさに理性で納得しているからだ。
しかし、実のところ今のこの場に与羽がいる必要はない。城主代理の承認が必要なことは、真っ先に終わらせてしまった。今日の彼女の政務は辰海を常に伴っていたので、彼さえいれば今日城主代理が行った仕事は完璧に報告できる。むしろ、文官としての経験が長い絡柳と辰海だけで話し合った方が、早く終わるかもしれない。
それでも、与羽に休むよう進言しなかったのは、彼女の兄のために働きたいという気持ちを最大限汲んだからだ。先に休めと言えば、彼女の不機嫌は絡柳の指摘を受けた時の比ではないだろう。厳しいように見えて、彼らは与羽の心情に対して非常に甘かった。
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