788 / 860
17章 再開の約束
19-1 三幹部の襲来
しおりを挟む
19-1 三幹部の襲来
怪我人の治療があらかた終わると、行軍が再開された。
戻ってきたウィルとロウランに、さっきサードから聞いた話をすると、二人とも疲れを忘れて仰天していた。
「勇者サードが、生きていた……」
「まだ、サード本人かどうかは分からないぞ。今んとこは自称だ」
「ですが、勇者であることは間違いないんですよね?そして魔王すらも、勇者かもしれない……」
ロウランが眉間にしわを寄せながらうなずく。
「ダーリンたちが見つけた、実験報告書にそう書かれていたんだよね?」
「ああ。正確には、俺のもと居た世界の言葉が書かれていたんだ。これだけ大掛かりな実験なら、少なくとも幹部格以上か、魔王が直接仕切ってる可能性が高いと思う」
「まあ、魔王様が知りませんでしたってことは、ないよねぇ……」
「ですが、それならですよ?レーヴェさんたちにしたような、おぞましい実験は、勇者が望んでいるってことになりますよね?」
「ん、そうだな……サードは、セカンドが何かを企んでいるんじゃないかって言ってたけど。あの実験も、それの一環か……?」
「魔物を、人型にする実験が、ですよね。そして、大勢の人たちが連れ去られている……」
ウィルの言葉を繋げて考えてみると、まるで魔王は、人間を欲しているようにも思えるな。ただしその意味合いは、魔王が魔王なのか、ファーストなのか、セカンドなのかで大きく変わってくるが。
「……攫われた人たちと言えば、みんな心配だねえ。そのことは、何かわからなかったの?」
ロウランの何気ない質問に、俺は思わず顔をしかめてしまった。ロウランの表情が曇る。
「……なにか、あったの?」
「……ああ。みんなは、見つかった。見つかったんだけどな」
あの結晶の部屋のことを話すと、しばらくの間、重い沈黙が俺たちを包んだ。
「……魔王の正体が、勇者だったなら。呪いを解くように説得することは、できるんでしょうか」
「難しいのは、百も承知だ。でも相手が人間なら、まだ話はできるってことだ。俺は諦めないよ」
「……ええ、そうですね。先に進みましょう!」
「そうなの!なんにしても魔王に会ってみないとね」
その通りだ。さあ、次のフロアに向かおう。俺の予想が正しければ、次の部屋で、新たな三幹部が待ち構えているはずだ。
サードが現れた部屋の奥に、次の部屋へと繋がる通路が隠されていた。ぐるぐると回る螺旋のトンネルのような通路で、ずうっと上まで続いている。しばらくその通路を歩き続けると、ようやく次の部屋が見えてきた。
「……今さらだけれど。モンスターたちは、こんな城に仕えてて不満は無いのか?建物としては不便でしょうがないと思うんだけれど」
部屋ごとに敵や仕掛けが待ち構えていて、それらを順々に攻略していくというのは、過去に潜ったダンジョンそのものだ。ここヘルズニルも、魔王の城と言うダンジョンだから、こんな構造をしているのだろうか?
「そもそも、モンスターはこんな城に棲まないわよ」
アルルカがにべもなく言う。
「あんたたちの王城にだって、王様と家来以外はいないでしょ」
「つっても、その人たちは暮らしているじゃないか」
「そうね。でもここは、そういうのともまた違うわ。いわば、象徴、みたいなものかしらね」
「象徴、ねぇ」
けど確かに、勇者が城を登って魔王に決戦を挑むというのは、実に古典的で、そういう意味では象徴的だ。なんだか、そうなることを意図している気さえする。一フロアごとに敵が出てくるっていうのも、あからさまだ。
「なにかの意図があって、こうしているのかな……?」
「考え事もほどほどにしなさいよ。次が見えて来たわ」
っと。もう付くのか。
肝心の次の部屋は、今までと打って変わって、ガラス張りの明るい部屋だった。天窓から明るい日差しがさんさんと差し込んでいる。壁際には本棚と、色とりどりの植物が植えられた鉢が置かれている。
「なんだ、こりゃあ。まるで温室だ」
「わあ、キレイな部屋なの♪」
ロウランがはしゃいだ声を出すと、フランがそれをたしなめた。
「暢気なこと言ってる場合じゃないよ。次の敵、もういるんだから」
「えっ。うそ、どこに……」
慌てたロウランと一緒に、俺も目を巡らせた。
ガラスのパーテーションのような、透明な壁の向こうに、一脚のティーテーブルが置かれている。そこで一人の女性が、お茶を飲んでいた。
「……え?まさか、あいつか?」
「それ以外にいないでしょ。どう見ても人間じゃないし」
そう言われてはじめて気が付いたけど、本当だ。その女の人の肌は、赤色がかった褐色だ。それに、額には角が生えている。どっからどう見ても人じゃないのに、どうして気づかなかったんだろう?きっとそいつが、あまりにも落ち着いていて、あまりにも人間みたいに振舞っていたからだろう。
かちゃん。ティーカップを置いて、その女が立ち上がった。
「みなさま。ようこそおいで下さりました」
女は、頭を深々と下げた……からかわれているのか?兵士たちも呆れたらいいのか、それとも憤ればいいのか、戸惑った顔をしている。
「わたくしの名は、ドルトヒェンと申します。魔王軍における、三幹部の一角を担わせていただいている者です」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
怪我人の治療があらかた終わると、行軍が再開された。
戻ってきたウィルとロウランに、さっきサードから聞いた話をすると、二人とも疲れを忘れて仰天していた。
「勇者サードが、生きていた……」
「まだ、サード本人かどうかは分からないぞ。今んとこは自称だ」
「ですが、勇者であることは間違いないんですよね?そして魔王すらも、勇者かもしれない……」
ロウランが眉間にしわを寄せながらうなずく。
「ダーリンたちが見つけた、実験報告書にそう書かれていたんだよね?」
「ああ。正確には、俺のもと居た世界の言葉が書かれていたんだ。これだけ大掛かりな実験なら、少なくとも幹部格以上か、魔王が直接仕切ってる可能性が高いと思う」
「まあ、魔王様が知りませんでしたってことは、ないよねぇ……」
「ですが、それならですよ?レーヴェさんたちにしたような、おぞましい実験は、勇者が望んでいるってことになりますよね?」
「ん、そうだな……サードは、セカンドが何かを企んでいるんじゃないかって言ってたけど。あの実験も、それの一環か……?」
「魔物を、人型にする実験が、ですよね。そして、大勢の人たちが連れ去られている……」
ウィルの言葉を繋げて考えてみると、まるで魔王は、人間を欲しているようにも思えるな。ただしその意味合いは、魔王が魔王なのか、ファーストなのか、セカンドなのかで大きく変わってくるが。
「……攫われた人たちと言えば、みんな心配だねえ。そのことは、何かわからなかったの?」
ロウランの何気ない質問に、俺は思わず顔をしかめてしまった。ロウランの表情が曇る。
「……なにか、あったの?」
「……ああ。みんなは、見つかった。見つかったんだけどな」
あの結晶の部屋のことを話すと、しばらくの間、重い沈黙が俺たちを包んだ。
「……魔王の正体が、勇者だったなら。呪いを解くように説得することは、できるんでしょうか」
「難しいのは、百も承知だ。でも相手が人間なら、まだ話はできるってことだ。俺は諦めないよ」
「……ええ、そうですね。先に進みましょう!」
「そうなの!なんにしても魔王に会ってみないとね」
その通りだ。さあ、次のフロアに向かおう。俺の予想が正しければ、次の部屋で、新たな三幹部が待ち構えているはずだ。
サードが現れた部屋の奥に、次の部屋へと繋がる通路が隠されていた。ぐるぐると回る螺旋のトンネルのような通路で、ずうっと上まで続いている。しばらくその通路を歩き続けると、ようやく次の部屋が見えてきた。
「……今さらだけれど。モンスターたちは、こんな城に仕えてて不満は無いのか?建物としては不便でしょうがないと思うんだけれど」
部屋ごとに敵や仕掛けが待ち構えていて、それらを順々に攻略していくというのは、過去に潜ったダンジョンそのものだ。ここヘルズニルも、魔王の城と言うダンジョンだから、こんな構造をしているのだろうか?
「そもそも、モンスターはこんな城に棲まないわよ」
アルルカがにべもなく言う。
「あんたたちの王城にだって、王様と家来以外はいないでしょ」
「つっても、その人たちは暮らしているじゃないか」
「そうね。でもここは、そういうのともまた違うわ。いわば、象徴、みたいなものかしらね」
「象徴、ねぇ」
けど確かに、勇者が城を登って魔王に決戦を挑むというのは、実に古典的で、そういう意味では象徴的だ。なんだか、そうなることを意図している気さえする。一フロアごとに敵が出てくるっていうのも、あからさまだ。
「なにかの意図があって、こうしているのかな……?」
「考え事もほどほどにしなさいよ。次が見えて来たわ」
っと。もう付くのか。
肝心の次の部屋は、今までと打って変わって、ガラス張りの明るい部屋だった。天窓から明るい日差しがさんさんと差し込んでいる。壁際には本棚と、色とりどりの植物が植えられた鉢が置かれている。
「なんだ、こりゃあ。まるで温室だ」
「わあ、キレイな部屋なの♪」
ロウランがはしゃいだ声を出すと、フランがそれをたしなめた。
「暢気なこと言ってる場合じゃないよ。次の敵、もういるんだから」
「えっ。うそ、どこに……」
慌てたロウランと一緒に、俺も目を巡らせた。
ガラスのパーテーションのような、透明な壁の向こうに、一脚のティーテーブルが置かれている。そこで一人の女性が、お茶を飲んでいた。
「……え?まさか、あいつか?」
「それ以外にいないでしょ。どう見ても人間じゃないし」
そう言われてはじめて気が付いたけど、本当だ。その女の人の肌は、赤色がかった褐色だ。それに、額には角が生えている。どっからどう見ても人じゃないのに、どうして気づかなかったんだろう?きっとそいつが、あまりにも落ち着いていて、あまりにも人間みたいに振舞っていたからだろう。
かちゃん。ティーカップを置いて、その女が立ち上がった。
「みなさま。ようこそおいで下さりました」
女は、頭を深々と下げた……からかわれているのか?兵士たちも呆れたらいいのか、それとも憤ればいいのか、戸惑った顔をしている。
「わたくしの名は、ドルトヒェンと申します。魔王軍における、三幹部の一角を担わせていただいている者です」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語
ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。
変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。
ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。
タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる