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17章 再開の約束

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「一つじゃなかったんだ……十個、二十個、それ以上!どんどん出てきてるよ!」

ライラが震える声で、塔の上部を指さしている。ヘルズニルの上空に、何機もの黒い球体が浮上した。あれが全て、さっきのと同じ浮遊砲台?

「あれだけ集中攻撃して、やっと一つを破壊したのに……」

ウィルの顔には、絶望がありありと浮かんでいた。けど俺だって、似たようなもんだ。俺たちとクラーク、二チームがかりで、ようやく一機を撃墜したばかりだっていうのに。もうすでに、空には十倍以上の黒い点が浮かんでいる。あれを全て、同時に相手するのは、無理だ。

(無理なものは無理。けど、それで諦めるか!)

真っ向からぶっ壊すのは不可能だ。それなら、別の道を探る!考えるのが、俺の仕事だ。思い出せ、なにか一つでも、ヒントになるようなものはなかったか?

(バリアのせいで、魔法は弾かれる……物理に関しても、フランの槍をものともしない耐久力……)

魔法で攻撃しても、あの青いバリアが現れて、無効化してしまう。フランの剛槍も、白い木くずがついただけだった……ん?まてよ、白い木くず?

「あ……そういう、ことなのか?」

「桜下さん?」

ウィルがこちらを見るが、説明している暇はない。今はとにかく、この閃きが正しいのかどうか、検証しないといけない。

「フラン!頼みがあるんだ。あいつらに向かって、槍をぶん投げてくれ!」

「え。いいけど、かなり距離がある。当たるか分からないよ。それに、当たったところで、効果もないけど」

「構わない。やってくれ!」

フランはこくりとうなずくと、背中のスピアを一本取って、助走してから思い切り投げた。槍はロケットのように飛んで行ったが、やがて失速し、浮遊砲台群の手前で落下し始めた。すると、砲台が一斉に、槍の方を向いた。一斉に黒いビームが発射されると、槍は地面を目前に、木っ端みじんに消し飛ばされてしまった。

「ちっ。やっぱりだめだった」

フランが残念そうに舌打ちする。だが俺は、これで確信を得た。

「やっぱり、そういう事か」

「え?」

「あのバリア、物理攻撃は防げない」

フランも、そして仲間たちも、目を丸くした。

「え……で、でも!フランさんの槍は、全然効かなかったじゃないですか!」

「それは、あの黒い眼玉が単純に堅いだけだ。現に、フランの槍は、確かに命中してただろ」

フランの槍は傷一つ付けることができなかったが、それでも確かに“触れていた”。だから、木くずがついたんだ。もしバリアで防がれていたのなら、木くずすらつかなかったはず。

「でも、それがいまさら何よ。どうせ効果がないなら、どっちだって同じじゃない」

アルルカはイライラした様子で、腕組みした。

「確かにそうだ。けどそれはいったん置いておいて、あの砲台のことを考えてみようぜ」

「はぁ?」

「あの砲台、お前はどう思う?アルルカ」

アルルカは完全に困惑した様子で、ついには呆れてしまったらしい。

「あー、そうね。インテリアにはちょうどいいんじゃない?つやつやできれいだし、色も黒で高級感があるわ。あたし、黒って好きなのよ。ほら、あたしの下着も黒だし」

「あ、アルルカさん!こんな時に何ふざけてるんですか!もっとまじめに……」

「いや、俺も同意見だ」

アルルカとウィルの目が点になった。

「……桜下さん、下着は黒い方がお好みなんですか?」

「そっちじゃなくって!インテリアがどうこうって部分だ」

ウィルは俺に回復魔法をかけるかどうか悩んで、手を中途半端に伸ばしている。俺が恐怖のあまりボケたという、あらぬ誤解を受けないためにも、早く結論を言おう。

「あれを、俺は生物とはみなさない。アルルカが、あれをインテリアって呼んだようにな。あれは、どう見ても無機物だ」

「え?ええ、そう、ですね。私も、あれが生き物には見えません」

「なら、あいつを動かしているのは、別の何かのはずだ。頭もないのに、ひとりでに考えるはずがない。アレは、誰かに操られているか、なにかに統括されている、と予想できるだろ」

ここは正直、俺の推論の域を出ないところだ。もしかしたら、アレは無機物そっくりのモンスターの可能性もある。だが今、この切迫した状況で、あらゆる可能性を検証している暇はない。それに、そこまで突拍子もない仮説ではないはずだ。

「確かに……あのような砲台が、たまたま偶然、この近くに転がっていたとは考えられません」

ウィルは、俺の説に納得してくれたようだ。

「それなら魔王軍の誰かが、あれを作ったということになります。もしかして、その人が操っている?」

「そうかもしれない。きっとどこかに、あいつらを統括している場所があるんだ。で、あの球、毎回どこから出てきてた?」

「ねじれた塔の先端……あ!ひょっとして、そこが?」

俺はうなずいた。

「そうだ。あそこが、砲台たちの発進基地。ならそこに、統制官がいてもおかしくない。そこを叩けば……」

「あの砲台たちは、統率を失って、動かなくなるかも!さいあくでも、これ以上数が増えるのは防ぐことができます!」

「その通りだ」

ウィルは目を輝かせた。だが俺は、顔を曇らせる。

「あのバリアが魔法以外は防がないって分かった時、俺はあの城に乗り込んでいって、その基地を叩けばいいって思ったんだ。けど、さっきの砲台の動きを見たら、そうも言えなくなった。あいつらに一斉攻撃されたら、とても城まではたどり着けない」

くそ!拳を握り締める。あと一手で、この局面をひっくり返せそうなのに!俺の凡庸な頭じゃ、ここまでが限界だ。

「みんな、すまない。ここまでしか、俺には思いつけなかった。だから頼む、みんなの知恵を貸して欲しい」

俺がうなだれると、その手にそっと、ウィルが触れた。

「何言ってるんですか、桜下さん。私たち、みんなで一つでしょう。桜下さんだけが悩む必要なんて、どこにもありません」

「そうだよ、桜下!」

ライラがぎゅっと、俺のもう片方の手を掴んだ。

「謝ることなんてないよ!桜下のおかげで、ライラ、とってもいいこと思いついたもん!」

「え?ほ、本当か?」

「うん!ウィルおねーちゃん!あれを、試す時が来たんだよ!」

「……!」

あれ?あれって、何のことだ?ウィルは目を見開くと、胸に手を当てて、大きく深呼吸した。

「すぅー、はぁー……確かに、ライラさんの言う通りかもしれません。桜下さん、ここは、私に任せてくれませんか」

「あ、ああ……でも、どうする気だ?」

「ええ。私の、秘密の秘密兵器を、使う時が来たようです」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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