709 / 860
16章 奪われた姫君
13-3
しおりを挟む
13-3
「あれぇ~?桜下くんじゃないですかぁ」
な、なにっ!?デュアン!?
赤ら顔で目元が定まっていないデュアンが、ふらりと茂みから現れた。が、その位置が最悪だ。あろうことか、マスカレードの進む方向と、ドンピシャ重なる位置に立っている。
ドンッ!
思わず目を覆いたくなった。後ろ歩きで遠ざかっていたマスカレードは、振り返った拍子にぼーっと突っ立っていたデュアンと正面衝突した。二人が絡まり合いながら、背の高い草むらの陰に消える。
「やっ、やべえ!フラン!」
「うん!」
フランはひゅっと音を残して、風のように草むらに駆け込んだ。マスカレードは、邪魔者は容赦なく殺すと言っていた。このままじゃ、デュアンが危ない!
「くそっ、どけっ!」
「ぐえっ」
ドガ!っと何かを叩く音と、次いでどちゃっと倒れる音。そして、ガサガサと草をかき分ける音。それらが続けざまに聞こえてきた後、夜の湿原は再び静かになった。俺は心臓のあたりをギュッと押さえながら、全神経を耳に集中させる。フランは、デュアンは無事か?マスカレードは……
ガサガサと、草むらが揺れた。だんだんこっちに近づいてくる。やがてフランが、そしてぐったりと背負われたデュアンが姿を現した。
「デュアン!フラン、まさか……」
フランは黙って首を横に振った。
「寝てる」
「は?」
じきに、ぐぅぐぅといういびきが聞こえてきた……こ、こいつ!
「だはぁ~……ったく、どこまでも人騒がせな……」
フランは今すぐにでも、背中の荷物をその辺にほっぽり出したそうな顔をしている。
「まあけど、無事でよかった。ひとまず、連合軍のところに戻ろう。マスカレードはもう、戻っちゃ来ないとは思うが……」
あいつは、次に会う時は、俺を殺す時だと言った。それはつまり、いつの日か、あいつが俺の前に立ちはだかるということだ。一体どんな形で、俺たちの前に現れるのか……
「チッ。気味が悪いな……」
デュアンを担いで連合軍のキャンプに戻るところで、尊に出くわした。
「あっ、桜下くん!よかったぁ、デュアンくんを見つけてくれたんだ!ありがとう!」
尊は息を切らしていたし、ブーツには泥や草が張り付いていた。よっぽど熱心に探し回っていたんだろう。
「いや……それでさ尊。悪いんだけど、魔法使って、冷たい水を出してくれないか?」
「へ?いいけど、桜下くん、喉が渇いたの?」
「俺じゃなくて、こいつに飲ませなきゃなんだよ。後はついでに、顔も洗わせた方がよさそうだな」
俺はフランの背中で伸びているデュアンを、あごでしゃくった。尊は目をぱちぱちさせていたが、すぐに詠唱に取り掛かった。
尊の魔法を待っている間に、ウィルも俺たちを見つけて、空から降りてきた。
「桜下さん、フランさん。見つかったんですね」
尊の手前、返事をするわけにもいかないので、俺はウィンクした後で、やはりデュアンの方をあごで指し示す。
「あーあー、ほんとにしょうがない人ですね……おおかた、その辺でひっくり返っていたんでしょう?村でもしょっちゅうでしたよ」
あれが初めてじゃないのか……しかしまあ、今回は珍客も相まって、なかなかややこしいことになってしまった。そうこうしているうちに、尊の魔法が完成する。
「ポンドロータス!」
尊は呪文を唱えると、両手をおわんの形にした。すると、そこからこんこんと水が沸き始めた。フランがデュアンを地べたに下ろすと(かなり雑だったので、半分投げ出したみたいだ……)、尊と俺は、彼の側に屈みこんだ。俺は尊の手の中から水を掬うと、デュアンの顔の上まで持っていって、ぱっと離した。
「ぶはあっ!?なな、何事ですか!?」
デュアンが飛び起きて、きょろきょろとあたりを見渡す。おい、目が半分しか開いてないぞ。大丈夫か?
「デュアン。何事ですか、はこっちのセリフだぜ」
「へ?桜下くん?それに、尊さんも……」
「お前、さっきのこと、覚えてるか?」
「さっきのことぉ……?」
デュアンの目がまたとろんとしだす。こいつ、まだ目が覚め切っていないのか?俺は彼の目の前に指をかざす。
「おいデュアン。これ、何本に見える?」
「ふへ?何言ってんですか。五本に決まってるでしょう」
俺も尊もフランもウィルも、俺の手を見下ろした。グーの形で、指は一本も出ていない?。
「……重症だな」
「み、みたいだね……」
尊の手から冷たい水をしこたま飲ませ、それから顔が白くなったデュアンが草陰に消えて(何をしたのかはご想像にお任せする)帰ってくると、ようやく彼は平静を取り戻した。
「いやぁ、すみませんでした。僕としたことが、つい悪酔いしてしまって。こんなことは滅多にないんですけれどね」
デュアンはへらへら笑っているが、ウィルがちゃんと「酔うといつもこう言い訳するんです」と教えてくれている。
「デュアン……お前、危ないからそんなに深酒すんなよ。どんな飲み方したんだ?」
「いやあ、そんなに飲んだはずはないんですがね。兵士の皆さんが是非にと勧めて下さるので、一杯だけ頂いたはずなんです。ただ、そこからの記憶があいまいで……」
「え。一杯で、こんなになったのか?」
「いや、その後もちょっとはいただきましたが。そう、確か……何か特技はあるのかと訊かれて、触れるだけで胸の大きさが分かると答えたら、実際にやってみろと言われて……ちょうど都合よく女騎士の方がいらしたので、その方のご協力を得ようとしていたら、何かが目の前に凄い勢いで迫ってきて……気がついたら、誰もいなくなっていたような……」
「……」
ど、どうしようもないな……ウィルが拳を握り締めて、わなわなと震えている。こいつの女好きも相変わらずだな。
「じゃあお前、さっきの事も覚えてないのか?」
「さっきの事?ああそう言えば桜下くん、さっきも僕ら、会いましたよね?それで、いきなり突き飛ばされて……」
「え?桜下くん、デュアンくんと何かあったの?」
尊が不安そうな目でこちららを伺ってくる。今の言い方だと、まるで俺たちがデュアンを突き飛ばしたみたいだ。
「いや、そうじゃないんだけど……」
「けど?」
俺は一瞬迷った。奴のことを、尊に話すべきかどうか。けどデュアンがそのことを覚えているのなら、どのみち尊にも伝わるだろう。なら、きちんと説明したほうがいいな。
「実は……さっき、マスカレードが現れたんだ」
「えっ!」と、ウィルが大きな声を出す。一方の尊はぽかんとしていた。
「マスカレード……それって確か、この前シェオル島に出たっていう、危ない人だったよね?」
「そうだよ。そいつがさっき、デュアンを探している俺たちのところにやって来た」
「お、襲われたの?」
「いいや、何て言うか、ちょっと話をしに来ただけだった……」
会話の内容は、伏せた。あいつの話が真実である保証はないし、たとえ仮定の話だとしても、動揺させてしまうかもしれないだろ。魔王の正体が勇者だなんてさ。
「それで、そのいざこざのなかで、デュアンが吹っ飛ばされたんだ。覚えてるか?」
俺はデュアンに話しを振ったが、やつもぽかんと口を開けていた。
「そ、そんなことがあったんですか?」
「お前、あの場に居ただろ?何にも聞いてなかったのか?」
「ええ、まったく……完全に熟睡してました」
あんなジメジメしたところで、よくぐっすり眠れるな……するとウィルが、「デュアンさんは酔っ払うと、まるで死人みたいに静かに、深ーく寝入るんです」と耳打ちしてくれた。なるほど、どうりでいびきも何も聞こえなかったわけだ。
「まあ、覚えてないならいいけど。お前、結構危ないところだったんだぞ。マスカレードとぶつかった時には焦ったなぁ」
「え……あ!そ、そう言えば、女性とぶつかった夢を見ましたが、あれがもしかして……」
「そうだよ。女どころか、超危険な極悪人だったんだぞ」
さぁーっと、デュアンの顔から血の気が引いていく。まったく、いい薬だ。
「まあ、事なきを得たからいいけど……さあ、もうそろそろ戻ろうぜ。あんまり夜が更けると、みんな心配するだろ」
明日も早いんだ。昼間あんなことがあったから疲れたしな。ふあぁ。
「そうだね。桜下くん、手伝ってくれてありがとう」
「んや、いいよ。じゃあな、尊」
「あ、ちょっと待って!」
ん?立ち去ろうとしたところを、ちょっと焦ったような顔の尊に呼び止められる。
「あの、さっきの、マスカレードって人の話なんだけど……桜下くん、どうするつもり?」
「どうする?えっと……?」
「みんなに、話すの?」
「ああ、そういう……いや、どうかとも思うんだけど、黙っていよっかなって。とりあえず、あちらもちょっかい掛けてくる気はないみたいだったし……余計なことは言わないほうがいいかな、と」
「よ、よかったぁ。実は私もそう考えてたの。そんな怖い人が近くにいるなんて、言っていいのかなって……」
なるほど、それを気にしていたのか。尊も案外、周りが見えているじゃんか。
「じゃあ、今夜のことは、俺たちだけの秘密な」
「うん、そうだね。じゃあ、はい」
はい?尊はそうするのが当然とばかりに、右手の小指を差し出してきた。
「指切り、ね?」
「あ、ああ」
「ふふっ。ゆーびきーりげーんまーん……」
尊は楽し気にリズムを付けながら、つないだ小指を揺らす。デュアンはそれを物珍しそうにしながら、フランとウィルは口に砂の塊を突っ込まれたような顔で、それを眺めていた。
「ゆーび切った!じゃあお休み、桜下くん!今日はありがとう!いこっ、デュアンくん」
「ええ。では、また」
尊とデュアンは連れ立って、自分たちのキャンプへと戻って行った。後には俺、フラン、ウィルだけが残される。
「えっと……俺たちも、戻ろうか?」
「……わたしやっぱり、あの女、好きになれない」
「……奇遇ですね。私も今、同じことを考えてました」
え、ええー……
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
「あれぇ~?桜下くんじゃないですかぁ」
な、なにっ!?デュアン!?
赤ら顔で目元が定まっていないデュアンが、ふらりと茂みから現れた。が、その位置が最悪だ。あろうことか、マスカレードの進む方向と、ドンピシャ重なる位置に立っている。
ドンッ!
思わず目を覆いたくなった。後ろ歩きで遠ざかっていたマスカレードは、振り返った拍子にぼーっと突っ立っていたデュアンと正面衝突した。二人が絡まり合いながら、背の高い草むらの陰に消える。
「やっ、やべえ!フラン!」
「うん!」
フランはひゅっと音を残して、風のように草むらに駆け込んだ。マスカレードは、邪魔者は容赦なく殺すと言っていた。このままじゃ、デュアンが危ない!
「くそっ、どけっ!」
「ぐえっ」
ドガ!っと何かを叩く音と、次いでどちゃっと倒れる音。そして、ガサガサと草をかき分ける音。それらが続けざまに聞こえてきた後、夜の湿原は再び静かになった。俺は心臓のあたりをギュッと押さえながら、全神経を耳に集中させる。フランは、デュアンは無事か?マスカレードは……
ガサガサと、草むらが揺れた。だんだんこっちに近づいてくる。やがてフランが、そしてぐったりと背負われたデュアンが姿を現した。
「デュアン!フラン、まさか……」
フランは黙って首を横に振った。
「寝てる」
「は?」
じきに、ぐぅぐぅといういびきが聞こえてきた……こ、こいつ!
「だはぁ~……ったく、どこまでも人騒がせな……」
フランは今すぐにでも、背中の荷物をその辺にほっぽり出したそうな顔をしている。
「まあけど、無事でよかった。ひとまず、連合軍のところに戻ろう。マスカレードはもう、戻っちゃ来ないとは思うが……」
あいつは、次に会う時は、俺を殺す時だと言った。それはつまり、いつの日か、あいつが俺の前に立ちはだかるということだ。一体どんな形で、俺たちの前に現れるのか……
「チッ。気味が悪いな……」
デュアンを担いで連合軍のキャンプに戻るところで、尊に出くわした。
「あっ、桜下くん!よかったぁ、デュアンくんを見つけてくれたんだ!ありがとう!」
尊は息を切らしていたし、ブーツには泥や草が張り付いていた。よっぽど熱心に探し回っていたんだろう。
「いや……それでさ尊。悪いんだけど、魔法使って、冷たい水を出してくれないか?」
「へ?いいけど、桜下くん、喉が渇いたの?」
「俺じゃなくて、こいつに飲ませなきゃなんだよ。後はついでに、顔も洗わせた方がよさそうだな」
俺はフランの背中で伸びているデュアンを、あごでしゃくった。尊は目をぱちぱちさせていたが、すぐに詠唱に取り掛かった。
尊の魔法を待っている間に、ウィルも俺たちを見つけて、空から降りてきた。
「桜下さん、フランさん。見つかったんですね」
尊の手前、返事をするわけにもいかないので、俺はウィンクした後で、やはりデュアンの方をあごで指し示す。
「あーあー、ほんとにしょうがない人ですね……おおかた、その辺でひっくり返っていたんでしょう?村でもしょっちゅうでしたよ」
あれが初めてじゃないのか……しかしまあ、今回は珍客も相まって、なかなかややこしいことになってしまった。そうこうしているうちに、尊の魔法が完成する。
「ポンドロータス!」
尊は呪文を唱えると、両手をおわんの形にした。すると、そこからこんこんと水が沸き始めた。フランがデュアンを地べたに下ろすと(かなり雑だったので、半分投げ出したみたいだ……)、尊と俺は、彼の側に屈みこんだ。俺は尊の手の中から水を掬うと、デュアンの顔の上まで持っていって、ぱっと離した。
「ぶはあっ!?なな、何事ですか!?」
デュアンが飛び起きて、きょろきょろとあたりを見渡す。おい、目が半分しか開いてないぞ。大丈夫か?
「デュアン。何事ですか、はこっちのセリフだぜ」
「へ?桜下くん?それに、尊さんも……」
「お前、さっきのこと、覚えてるか?」
「さっきのことぉ……?」
デュアンの目がまたとろんとしだす。こいつ、まだ目が覚め切っていないのか?俺は彼の目の前に指をかざす。
「おいデュアン。これ、何本に見える?」
「ふへ?何言ってんですか。五本に決まってるでしょう」
俺も尊もフランもウィルも、俺の手を見下ろした。グーの形で、指は一本も出ていない?。
「……重症だな」
「み、みたいだね……」
尊の手から冷たい水をしこたま飲ませ、それから顔が白くなったデュアンが草陰に消えて(何をしたのかはご想像にお任せする)帰ってくると、ようやく彼は平静を取り戻した。
「いやぁ、すみませんでした。僕としたことが、つい悪酔いしてしまって。こんなことは滅多にないんですけれどね」
デュアンはへらへら笑っているが、ウィルがちゃんと「酔うといつもこう言い訳するんです」と教えてくれている。
「デュアン……お前、危ないからそんなに深酒すんなよ。どんな飲み方したんだ?」
「いやあ、そんなに飲んだはずはないんですがね。兵士の皆さんが是非にと勧めて下さるので、一杯だけ頂いたはずなんです。ただ、そこからの記憶があいまいで……」
「え。一杯で、こんなになったのか?」
「いや、その後もちょっとはいただきましたが。そう、確か……何か特技はあるのかと訊かれて、触れるだけで胸の大きさが分かると答えたら、実際にやってみろと言われて……ちょうど都合よく女騎士の方がいらしたので、その方のご協力を得ようとしていたら、何かが目の前に凄い勢いで迫ってきて……気がついたら、誰もいなくなっていたような……」
「……」
ど、どうしようもないな……ウィルが拳を握り締めて、わなわなと震えている。こいつの女好きも相変わらずだな。
「じゃあお前、さっきの事も覚えてないのか?」
「さっきの事?ああそう言えば桜下くん、さっきも僕ら、会いましたよね?それで、いきなり突き飛ばされて……」
「え?桜下くん、デュアンくんと何かあったの?」
尊が不安そうな目でこちららを伺ってくる。今の言い方だと、まるで俺たちがデュアンを突き飛ばしたみたいだ。
「いや、そうじゃないんだけど……」
「けど?」
俺は一瞬迷った。奴のことを、尊に話すべきかどうか。けどデュアンがそのことを覚えているのなら、どのみち尊にも伝わるだろう。なら、きちんと説明したほうがいいな。
「実は……さっき、マスカレードが現れたんだ」
「えっ!」と、ウィルが大きな声を出す。一方の尊はぽかんとしていた。
「マスカレード……それって確か、この前シェオル島に出たっていう、危ない人だったよね?」
「そうだよ。そいつがさっき、デュアンを探している俺たちのところにやって来た」
「お、襲われたの?」
「いいや、何て言うか、ちょっと話をしに来ただけだった……」
会話の内容は、伏せた。あいつの話が真実である保証はないし、たとえ仮定の話だとしても、動揺させてしまうかもしれないだろ。魔王の正体が勇者だなんてさ。
「それで、そのいざこざのなかで、デュアンが吹っ飛ばされたんだ。覚えてるか?」
俺はデュアンに話しを振ったが、やつもぽかんと口を開けていた。
「そ、そんなことがあったんですか?」
「お前、あの場に居ただろ?何にも聞いてなかったのか?」
「ええ、まったく……完全に熟睡してました」
あんなジメジメしたところで、よくぐっすり眠れるな……するとウィルが、「デュアンさんは酔っ払うと、まるで死人みたいに静かに、深ーく寝入るんです」と耳打ちしてくれた。なるほど、どうりでいびきも何も聞こえなかったわけだ。
「まあ、覚えてないならいいけど。お前、結構危ないところだったんだぞ。マスカレードとぶつかった時には焦ったなぁ」
「え……あ!そ、そう言えば、女性とぶつかった夢を見ましたが、あれがもしかして……」
「そうだよ。女どころか、超危険な極悪人だったんだぞ」
さぁーっと、デュアンの顔から血の気が引いていく。まったく、いい薬だ。
「まあ、事なきを得たからいいけど……さあ、もうそろそろ戻ろうぜ。あんまり夜が更けると、みんな心配するだろ」
明日も早いんだ。昼間あんなことがあったから疲れたしな。ふあぁ。
「そうだね。桜下くん、手伝ってくれてありがとう」
「んや、いいよ。じゃあな、尊」
「あ、ちょっと待って!」
ん?立ち去ろうとしたところを、ちょっと焦ったような顔の尊に呼び止められる。
「あの、さっきの、マスカレードって人の話なんだけど……桜下くん、どうするつもり?」
「どうする?えっと……?」
「みんなに、話すの?」
「ああ、そういう……いや、どうかとも思うんだけど、黙っていよっかなって。とりあえず、あちらもちょっかい掛けてくる気はないみたいだったし……余計なことは言わないほうがいいかな、と」
「よ、よかったぁ。実は私もそう考えてたの。そんな怖い人が近くにいるなんて、言っていいのかなって……」
なるほど、それを気にしていたのか。尊も案外、周りが見えているじゃんか。
「じゃあ、今夜のことは、俺たちだけの秘密な」
「うん、そうだね。じゃあ、はい」
はい?尊はそうするのが当然とばかりに、右手の小指を差し出してきた。
「指切り、ね?」
「あ、ああ」
「ふふっ。ゆーびきーりげーんまーん……」
尊は楽し気にリズムを付けながら、つないだ小指を揺らす。デュアンはそれを物珍しそうにしながら、フランとウィルは口に砂の塊を突っ込まれたような顔で、それを眺めていた。
「ゆーび切った!じゃあお休み、桜下くん!今日はありがとう!いこっ、デュアンくん」
「ええ。では、また」
尊とデュアンは連れ立って、自分たちのキャンプへと戻って行った。後には俺、フラン、ウィルだけが残される。
「えっと……俺たちも、戻ろうか?」
「……わたしやっぱり、あの女、好きになれない」
「……奇遇ですね。私も今、同じことを考えてました」
え、ええー……
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語
ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。
変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。
ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。
タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【短編】冤罪が判明した令嬢は
砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。
そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる