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16章 奪われた姫君
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「はぁ、ふぅ……このあたりまで来れば、さすがにもう大丈夫か」
川からたっぷり距離を取ったところで、俺はストームスティードのスピードを緩めた。全力疾走だったから、馬よりも先に騎手である俺が疲れてしまう。
「ったく、なんだったんだ。今日は妙なことばかり起こるぞ?」
俺は額の汗をぬぐった。妙ちくりんな検問に、妙ちくりんなゴブリンの襲撃。ウィルが言った通り、本当に今日は厄日だな。俺はさらに速度を落として、の適当なところで止まる。
「フラン、まずはお前を治そう」
さっきフランは、ゴブリンに手ひどくやられていた。今も、脱臼した腕はだらりと垂れているし、スカートから覗く太ももには、真っ黒な血がべったりとこびりついている。
「うん。ごめん……」
「なんで謝るんだよ。じゃ、ちょっと失礼するぞ」
俺は馬から飛び降りると、フランの胸に手を乗せた。“ファズ”の呪文を唱えると、フランの体はすっかり元通りになった。
「これでよし。で、さっきのゴブリンたちのことなんだけど……俺の、気のせいじゃなければさ」
「分かってるよ。……あいつら、わたしだけを狙ってきてた」
おお。フランも気が付いていたのか。そう、さっき戦ったゴブリンどもは、明らかにフランを集中的に狙っていた。
「変だったよな。俺たちを攻撃できそうな時でも、してこなかった」
あのタイミングは、ライラの魔法が防がれた直後だった。つまり、ゴブリンたちには俺らが、無防備に見えていたはずなんだ。もちろん、実際にはロウランという守りがいたが、そんなこと連中が知るはずもない。
「魔術師を無視して、フランを攻撃する……それだけフランが、おっかなく見えてたのか」
「……それは、たぶんないよ。だってわたし、ぜんぜん歯が立たなかった」
フランは目に見えて落ち込んでいる。でもそれは、生き物であるゴブリンに手加減をしていたからで、ひいては「殺しはしない」と決めた俺の責任だと思うのだけれど。誰も、フランを責めたりはしないだろう。現にウィルは、ゆるゆると首を横に振った。
「そんなことはないと思います。だって、私がどれだけロッドを振り回しても、あのゴブリンはほとんど気にかけませんでした。せいぜい、鬱陶しい羽虫くらいの反応で。それだけ、フランさんに意識を集中していたってことじゃないですか」
「そうだな。フランがザコに見えてたなら、あんなに集中マークはしないだろ」
俺たちが口々にそういうと、フランは少しだけ元気になったようだ。
「でもじゃあ、どうしてだろうな」
「逆に考えてみたらどうかしら」
うん?アルルカが、空からふわりと下りてきた。やつは得意げに、指をくるくる回している。
「逆ってのは、どういう意味だ?」
「ザコじゃないから狙われたんじゃなくて、ザコだから狙われたのよ。弱いやつから潰すのは、戦いの常套手段でしょ?」
フランはがっくりと沈み込んでしまった。ウィルはロッドで、アルルカの首をギュウギュウ締め上げた。
「あ・な・た・はぁー!ちょっとは慮るってことができないんですか!」
「ぐえぇぇ……」
いいお灸だ。少し黙っててもらおう。
「フラン、気にすんな。だいたいその論理で行けば、真っ先に狙われるのは俺だろうが」
あの中で一番弱いのは、間違いなく俺だ。悲しいことに……ゴブリンどもが、俺たちの戦闘力をどれだけ推し量れたのかは分からない。しかし、真っ先に突っ込んできたフランよりも、俺や、体の小さいライラの方が襲いやすく見えるはずだろ。繰り返しになるけど、奴らは俺たちをスルーしたんだ。
「ねぇねぇ。アタシ、いっこ気になることがあるの」
うん?ロウランが、俺の袖をくいくい引いてきた。
「アタシには、最初っからそのコに狙いを定めてるように見えたの。戦い始めてからじゃなくて」
「最初から?つまり、戦闘そのものは関係ないって?」
「そう。だって、初めに言ってたじゃない。女を置いてけって」
ああ、そう言えば……あのゴブリンは、そんなコッテコテなセリフを吐いていた。それに、フランを差し出せば見逃すとも言っていたな。
「じゃあやっぱり、フランが強いか弱いかは関係ないな……」
「かもね。じゃあどうしてかって訊かれると、困っちゃうけど」
うーん……女なら誰でもよかったのだとしたら、フランである必要はない。まぁたまたま最初に突っ込んできたフランに、ターゲットを絞ったっていう可能性はあるけど……
「それにさぁ」
俺が悩んでいると、ふと思いついたように、ライラが言う。
「あのゴブリン、ふつーじゃなかったよね?腕が伸びたり、力が強かったりさ」
確かに。博識なアニも驚いていた。通常とはかけ離れた能力を持つモンスターに、フランが狙われた理由とは……?
(あれ……なんだか最近、似たようなことが……?)
その時。俺の頭の中に、恐ろしい考えが浮かび上がった。しかし、これは……
「……」
口元を押さえた俺を見て、ライラが首をかしげる。
「桜下?どうしたの?気持ち悪いの?」
「ああ……ちょっと、な」
俺は力なくライラに微笑みかけると、もう一度、頭の中を整理する。かなり荒唐無稽な発想に思えるが……だが、突き詰めれば詰めるほど、パズルのピースはかちりかちりとはまっていく。
「やっぱり……そういう、ことなのか?」
「桜下……?」
「桜下さん?どうしたんですか、顔が真っ青ですよ?」
こっちを覗き込んできたウィルを、俺はバッと見つめた。びくりと、ウィルが身をすくませる。
「ウィル。何回だ?」
「え、え?」
「今日、俺たちが足止めを喰らったのは、何回だった?」
突然の質問の意味が分からず、ウィルは目を白黒させている。だがなんとか、おずおずと答えた。
「え、っと……さ、三回、で、あってます、よね?」
「そうだ。何と、何だった?」
「え、う……桜下さん、怒ってます……?私が、変なこと言ったから……」
え?ああしまった、ウィルは昼間の冗談について言及されていると思ってしまったようだ。俺は首を振ると、彼女に謝る。
「ごめん、そうじゃないんだ。ただ、ちょっと整理したくって。すまん、ちょっと焦り過ぎた」
俺が謝ると、ウィルはほっとしたように胸元を押さえた。俺の顔がこわばっていたのも、誤解を与えた原因だろう。申し訳なかったな。
「そうだったんですね……えっと、足止めの内わけ、でしたよね。確か、森を抜けたところで一回、その後、街道の検問で一回。そしてさっきで、一回です」
「そうだ。俺は、今日は足止めの多い、厄日だと思ったんだ。でも、それが全部、仕組まれたことだったら?」
「え……?」
ウィルは、ぽかんと口を開けている。それは、他のみんなも同じだった。
「今日のことが全部、誰かの陰謀だったと……?」
「ああ。ところでウィル。話は変わるけど、お前が市場で野菜を買うときって、どう選ぶかな」
ウィルは面食らったようだったが、俺が話を整理するつもりで喋っていることを知った今では、激しく動揺することはなかった。しばしの沈黙の後、口を開く。
「そうですね……いつもなら、まず市場を見て回ります。どのお店が一番安いか、いい品を扱っているか。その後でなら、やっぱり品定めはしますね。どうせ買うなら、新鮮でおいしそうなものを選びたいですし」
さすがウィル、我が軍勢の台所当番だ。的確な答えが返ってくる。
「そうだよな。まずは、じっくり観察する。そうやって初めて、狙いを定められるんだ」
「……え?桜下さん、まさか……今日の出来事、全部それだったって、言うんですか?」
ウィルも、俺が言いたいことに気が付いたらしい。俺はうなずいた。するとロウランが、あ!っと手の平を打つ。
「そっか、あの変な検問!あれって、アタシたちのことを探ってたってこと?」
ロウランは興奮気味にまくし立てる。
「ああやって集めた情報を、ゴブリンたちに流してたの!それをもとに、襲う人を決めてたんじゃない?」
するとアルルカが、納得いかなそうに反論した。
「あの兵士とゴブリンがグルだったって?人間とモンスターが、協力なんてするかしら。それに、なんのメリットがあるのよ?」
「え。うーんと……襲った相手の、お金を奪ってた、とか?」
「だったなおさら、あたしたちが狙われた理由になんないじゃない。このビンボー臭い集団の、どこに金の気配があるっていうのよ」
アルルカの鋭い指摘に、ロウランはぐっと言葉に詰まってしまった。だが、俺はそれに待ったをかける。
「いや、ロウランが言ってることが正しいよ。少なくとも、俺はそう思う」
「はあ?じゃあなによ、そのメリットって」
「メリットも何もない。同じ目的だったんだ、あいつらは」
「は?グルなんだから、そりゃ……」
「グルじゃない。同じなんだよ」
「えぇ……?」
アルルカは怪訝そうに眉を顰める。すると、今まで黙っていたフランが、ハッと目を見開いた。
「まさか……そういうこと」
「ん、あによ。あんた、なんか分かったの?」
「人数だ」
「人数?」
「今朝から、わたしたちに質問してきた人数。何人だった?」
「ええ?そりゃ、あのデブ男が一人でしょ。あとはあの兵士の、二人じゃない」
「そうじゃない。あの子どもたちだって、質問をしてた」
「へ。ああ、そうだったわね。で、だからなによ?その四人が、なにか……」
アルルカの声が、徐々に小さくなっていく。そう。重要なのは、四人という数字だ。
「全部で四人。ゴブリンは四匹」
フランが、よく分かるように、ゆっくりと言う。するとウィルから、絞り出すような悲鳴が上がった。
「ひっ……ま、まさか。ご、ご、ゴブリンたちの体格って……」
「でかいのと、中くらいのと、小さいのが二匹」
「わた、わた、私たちが出会ったのは……」
「大柄の男。普通の兵士。小さな子どもが二人」
さぁー……この空間から、ごっそりと温度が奪われたような気がした。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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川からたっぷり距離を取ったところで、俺はストームスティードのスピードを緩めた。全力疾走だったから、馬よりも先に騎手である俺が疲れてしまう。
「ったく、なんだったんだ。今日は妙なことばかり起こるぞ?」
俺は額の汗をぬぐった。妙ちくりんな検問に、妙ちくりんなゴブリンの襲撃。ウィルが言った通り、本当に今日は厄日だな。俺はさらに速度を落として、の適当なところで止まる。
「フラン、まずはお前を治そう」
さっきフランは、ゴブリンに手ひどくやられていた。今も、脱臼した腕はだらりと垂れているし、スカートから覗く太ももには、真っ黒な血がべったりとこびりついている。
「うん。ごめん……」
「なんで謝るんだよ。じゃ、ちょっと失礼するぞ」
俺は馬から飛び降りると、フランの胸に手を乗せた。“ファズ”の呪文を唱えると、フランの体はすっかり元通りになった。
「これでよし。で、さっきのゴブリンたちのことなんだけど……俺の、気のせいじゃなければさ」
「分かってるよ。……あいつら、わたしだけを狙ってきてた」
おお。フランも気が付いていたのか。そう、さっき戦ったゴブリンどもは、明らかにフランを集中的に狙っていた。
「変だったよな。俺たちを攻撃できそうな時でも、してこなかった」
あのタイミングは、ライラの魔法が防がれた直後だった。つまり、ゴブリンたちには俺らが、無防備に見えていたはずなんだ。もちろん、実際にはロウランという守りがいたが、そんなこと連中が知るはずもない。
「魔術師を無視して、フランを攻撃する……それだけフランが、おっかなく見えてたのか」
「……それは、たぶんないよ。だってわたし、ぜんぜん歯が立たなかった」
フランは目に見えて落ち込んでいる。でもそれは、生き物であるゴブリンに手加減をしていたからで、ひいては「殺しはしない」と決めた俺の責任だと思うのだけれど。誰も、フランを責めたりはしないだろう。現にウィルは、ゆるゆると首を横に振った。
「そんなことはないと思います。だって、私がどれだけロッドを振り回しても、あのゴブリンはほとんど気にかけませんでした。せいぜい、鬱陶しい羽虫くらいの反応で。それだけ、フランさんに意識を集中していたってことじゃないですか」
「そうだな。フランがザコに見えてたなら、あんなに集中マークはしないだろ」
俺たちが口々にそういうと、フランは少しだけ元気になったようだ。
「でもじゃあ、どうしてだろうな」
「逆に考えてみたらどうかしら」
うん?アルルカが、空からふわりと下りてきた。やつは得意げに、指をくるくる回している。
「逆ってのは、どういう意味だ?」
「ザコじゃないから狙われたんじゃなくて、ザコだから狙われたのよ。弱いやつから潰すのは、戦いの常套手段でしょ?」
フランはがっくりと沈み込んでしまった。ウィルはロッドで、アルルカの首をギュウギュウ締め上げた。
「あ・な・た・はぁー!ちょっとは慮るってことができないんですか!」
「ぐえぇぇ……」
いいお灸だ。少し黙っててもらおう。
「フラン、気にすんな。だいたいその論理で行けば、真っ先に狙われるのは俺だろうが」
あの中で一番弱いのは、間違いなく俺だ。悲しいことに……ゴブリンどもが、俺たちの戦闘力をどれだけ推し量れたのかは分からない。しかし、真っ先に突っ込んできたフランよりも、俺や、体の小さいライラの方が襲いやすく見えるはずだろ。繰り返しになるけど、奴らは俺たちをスルーしたんだ。
「ねぇねぇ。アタシ、いっこ気になることがあるの」
うん?ロウランが、俺の袖をくいくい引いてきた。
「アタシには、最初っからそのコに狙いを定めてるように見えたの。戦い始めてからじゃなくて」
「最初から?つまり、戦闘そのものは関係ないって?」
「そう。だって、初めに言ってたじゃない。女を置いてけって」
ああ、そう言えば……あのゴブリンは、そんなコッテコテなセリフを吐いていた。それに、フランを差し出せば見逃すとも言っていたな。
「じゃあやっぱり、フランが強いか弱いかは関係ないな……」
「かもね。じゃあどうしてかって訊かれると、困っちゃうけど」
うーん……女なら誰でもよかったのだとしたら、フランである必要はない。まぁたまたま最初に突っ込んできたフランに、ターゲットを絞ったっていう可能性はあるけど……
「それにさぁ」
俺が悩んでいると、ふと思いついたように、ライラが言う。
「あのゴブリン、ふつーじゃなかったよね?腕が伸びたり、力が強かったりさ」
確かに。博識なアニも驚いていた。通常とはかけ離れた能力を持つモンスターに、フランが狙われた理由とは……?
(あれ……なんだか最近、似たようなことが……?)
その時。俺の頭の中に、恐ろしい考えが浮かび上がった。しかし、これは……
「……」
口元を押さえた俺を見て、ライラが首をかしげる。
「桜下?どうしたの?気持ち悪いの?」
「ああ……ちょっと、な」
俺は力なくライラに微笑みかけると、もう一度、頭の中を整理する。かなり荒唐無稽な発想に思えるが……だが、突き詰めれば詰めるほど、パズルのピースはかちりかちりとはまっていく。
「やっぱり……そういう、ことなのか?」
「桜下……?」
「桜下さん?どうしたんですか、顔が真っ青ですよ?」
こっちを覗き込んできたウィルを、俺はバッと見つめた。びくりと、ウィルが身をすくませる。
「ウィル。何回だ?」
「え、え?」
「今日、俺たちが足止めを喰らったのは、何回だった?」
突然の質問の意味が分からず、ウィルは目を白黒させている。だがなんとか、おずおずと答えた。
「え、っと……さ、三回、で、あってます、よね?」
「そうだ。何と、何だった?」
「え、う……桜下さん、怒ってます……?私が、変なこと言ったから……」
え?ああしまった、ウィルは昼間の冗談について言及されていると思ってしまったようだ。俺は首を振ると、彼女に謝る。
「ごめん、そうじゃないんだ。ただ、ちょっと整理したくって。すまん、ちょっと焦り過ぎた」
俺が謝ると、ウィルはほっとしたように胸元を押さえた。俺の顔がこわばっていたのも、誤解を与えた原因だろう。申し訳なかったな。
「そうだったんですね……えっと、足止めの内わけ、でしたよね。確か、森を抜けたところで一回、その後、街道の検問で一回。そしてさっきで、一回です」
「そうだ。俺は、今日は足止めの多い、厄日だと思ったんだ。でも、それが全部、仕組まれたことだったら?」
「え……?」
ウィルは、ぽかんと口を開けている。それは、他のみんなも同じだった。
「今日のことが全部、誰かの陰謀だったと……?」
「ああ。ところでウィル。話は変わるけど、お前が市場で野菜を買うときって、どう選ぶかな」
ウィルは面食らったようだったが、俺が話を整理するつもりで喋っていることを知った今では、激しく動揺することはなかった。しばしの沈黙の後、口を開く。
「そうですね……いつもなら、まず市場を見て回ります。どのお店が一番安いか、いい品を扱っているか。その後でなら、やっぱり品定めはしますね。どうせ買うなら、新鮮でおいしそうなものを選びたいですし」
さすがウィル、我が軍勢の台所当番だ。的確な答えが返ってくる。
「そうだよな。まずは、じっくり観察する。そうやって初めて、狙いを定められるんだ」
「……え?桜下さん、まさか……今日の出来事、全部それだったって、言うんですか?」
ウィルも、俺が言いたいことに気が付いたらしい。俺はうなずいた。するとロウランが、あ!っと手の平を打つ。
「そっか、あの変な検問!あれって、アタシたちのことを探ってたってこと?」
ロウランは興奮気味にまくし立てる。
「ああやって集めた情報を、ゴブリンたちに流してたの!それをもとに、襲う人を決めてたんじゃない?」
するとアルルカが、納得いかなそうに反論した。
「あの兵士とゴブリンがグルだったって?人間とモンスターが、協力なんてするかしら。それに、なんのメリットがあるのよ?」
「え。うーんと……襲った相手の、お金を奪ってた、とか?」
「だったなおさら、あたしたちが狙われた理由になんないじゃない。このビンボー臭い集団の、どこに金の気配があるっていうのよ」
アルルカの鋭い指摘に、ロウランはぐっと言葉に詰まってしまった。だが、俺はそれに待ったをかける。
「いや、ロウランが言ってることが正しいよ。少なくとも、俺はそう思う」
「はあ?じゃあなによ、そのメリットって」
「メリットも何もない。同じ目的だったんだ、あいつらは」
「は?グルなんだから、そりゃ……」
「グルじゃない。同じなんだよ」
「えぇ……?」
アルルカは怪訝そうに眉を顰める。すると、今まで黙っていたフランが、ハッと目を見開いた。
「まさか……そういうこと」
「ん、あによ。あんた、なんか分かったの?」
「人数だ」
「人数?」
「今朝から、わたしたちに質問してきた人数。何人だった?」
「ええ?そりゃ、あのデブ男が一人でしょ。あとはあの兵士の、二人じゃない」
「そうじゃない。あの子どもたちだって、質問をしてた」
「へ。ああ、そうだったわね。で、だからなによ?その四人が、なにか……」
アルルカの声が、徐々に小さくなっていく。そう。重要なのは、四人という数字だ。
「全部で四人。ゴブリンは四匹」
フランが、よく分かるように、ゆっくりと言う。するとウィルから、絞り出すような悲鳴が上がった。
「ひっ……ま、まさか。ご、ご、ゴブリンたちの体格って……」
「でかいのと、中くらいのと、小さいのが二匹」
「わた、わた、私たちが出会ったのは……」
「大柄の男。普通の兵士。小さな子どもが二人」
さぁー……この空間から、ごっそりと温度が奪われたような気がした。
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