636 / 860
15章 燃え尽きた松明
9-4
しおりを挟む
9-4
「ただいまぁ……」
ふぅ、ようやく宿に帰ってこられた。俺はアルルカに横抱きにされたまま、窓から部屋に戻る。帰りは結局雲の下を飛んだので、俺はまたずぶ濡れになってしまった。
「あ、おかえりなさい、桜下さん。まぁ、この雨の中を飛んできたんですか?」
ウィルが同情半分、呆れ半分の顔で、タオルを渡してくれた。
「ほんとだよ、ったく。アルルカのやつが変に拘るもんだからさ」
ともかく、この濡れた服を着替えちまおう。俺は上着を脱ぐと、シャツのボタンを緩めた。
「あら?桜下さん、その首のところ……どうしたんですか?」
「へ?首?」
何のことだ?首を触ってみるが、特に何もないぞ。
「アルルカの噛み痕じゃないのか?」
「いえ、それとは別に、なんだか赤いぽちっとしたのが……って!」
な、なんだ?ウィルが突然、くわっと目を剥いた。そしていきなり、ぐいぃっと襟元を引っ掴んでくる。
「ぐえっ。ウィル、なにす……」
「こ、これは!フランさん!これ、見てくださいよ!これ!」
「ん?なに……っ!!!」
フランまで目を見開くと、まじまじと俺の首元を見つめる。そして視線をゆらりと、一人声を殺して腹を抱えているアルルカへと向けた。
「がうっ!」
「ぎゃあ!ちょっと、離れなさい!アイタッ!この、噛みつくんじゃないわよっ、それはあたしの専売特許でしょうが!」
二人がドタンバタンと大騒ぎしたもんだから、心配したおかみさんが様子を見に来てしまった。俺が平謝りしている後ろで、二人はまだ争っていたので、エラゼムは厳粛なる態度で二人を外に放りだす羽目になった。が、二人は外でもケンカを続けているようだ。
「もーほっとくか。付き合いきれん」
「それはいいですけど、桜下さん……?こっちはまだ、終わってないですからね……?」
ゆらぁっと、ウィルが俺に詰め寄ってくる。なんなんだよ、一体何があったって言うんだ!?
ライラとエラゼム、ロウランが、俺たちを遠巻きに見つめている。
「……エラゼム、どうしよっか?」
「うぅむ……雨降って地固まる、と言います。少し、様子を見てみましょうか?」
「それがいいの」
は、薄情者!外はざぁざぁ雨が降っているけど……明日になったら、地が固まるんだろうか?
翌朝。残念ながら、雨は止んでいなかった。けどだいぶ雨脚は弱まった、これなら外を出歩けるだろう。俺はベッドから起き上がると、出かける準備をした。
「あれ、ところであの二人は?」
「一晩中やり合ってましたよ。疲れないってのも考え物ですね……」
ウィルはやれやれと首を振る。昨晩きちんと釈明したので、ウィルはいつもの調子に戻っていた。が、フランとアルルカは、そうもいかなかったらしい。ううむ、普通のケンカなら、どちらかが倒れて決着が付くだろうが……疲れ知らずのアンデッド同士だと、それが無いのか。困ったもんだ。
「……ところで、桜下さん?昨日のあれ、本当に何もなかったんですよね?」
「うっ。ほんとに無実なんだって!嵌められたんだよ、アルルカに」
「ほんとかなぁ~……」
ウィルがじとーっと半目で睨んでくる。俺の潔白が、そんなに信じられないか?俺はため息を付くと、小声でボソボソと言う。
「しねーよ、そんなこと。彼女ができたばかりだってのに」
「へぅっ」
おかしな声を出して、ウィルは顔を赤くしてしまった。そういう反応をされると、こっちまで恥ずかしくなるじゃないか。
俺は二人のケンカを止めに行ったほうがいいかと思ったけれど、ウィルがそこまで大したものじゃないから気にするなと言うので、放っておくことにした。いわく、じゃれあいの延長線みたいなもんらしい。
宿の隣に併設された食堂で朝食を取る。朝の食堂には人もまばらで、俺たち以外の旅人はいないようだ。パラパラいる客も、この町の人だろう。
「あ、あの。すみません……」
俺はおずおずとおかみさんを呼び止めて、注文をする。昨日あれだけ大騒ぎしたから、気まずいんだよな……
「はいよ。なににする?」
「その、パンとミルクを貰えますか?」
「はいはい。ところで、昨日揉めてた方はいないのかい?」
「あ、はい。外にいますんで……すみません」
「そうかい。助かるよ、他のお客さんが怖がるからね」
返す言葉もございません。それでもおかみさんは、ねちねちと嫌味を言うようなことはしなかった。よかった、さっぱりした人で。あ、それならついでに、あっちのことも聞いておこうか。
「あ、あとちょっといいかな」
「はい?なにかね」
「この町に、光の魔力を持つ人が居たって話、聞いた事ありません?」
まずは基本のき、聞き込みだ。人の行きかう宿屋を営んでいるなら、色々な情報にも詳しいはず。
「光の魔力?そりゃ、一体何だい?」
だがおかみさんは、不思議そうに首を傾げるばかりだった。あ、ありゃ?おかしいな、あてが外れたか?
「えーっと、光の魔力っていうのは、とっても珍しい魔力で。奇跡を起こすことができるっていう……」
「奇跡?なんだか眉唾な話だねぇ。そんなものが本当にあるのかい?」
あ、あれれれ……?うーむ、まいったな。単に知らないだけのか、それとも情報が間違っていたのか。
俺が言葉に窮してしまったので、代わりにエラゼムが質問する。
「では、この町の名物について教えて下さらぬか。確か、癒しの神の神殿が在るとか」
「ああ、それならわかるよ。グランテンプルのことだろう?」
ああ、そういやそんな名前だったっけ。アニから一度聞いたけど、すっかり忘れていた。
「その、グランテンプルという御殿は、どのような場所なのでしょう?」
「どうって、そりゃ荘厳な建物だよ。行ってみりゃいいじゃないか。目で見たほうが絶対いいし、一度見れば一生忘れらないさ」
「ほお、それは興味をそそられますな。町のどこにあるのでしょう」
「表に出て、山を端から端まで眺めてごらん。てっぺんに見えるはずさ」
てっぺん?山頂に建っているのかな。目立ちそー。
「ありがとうございます。ぜひ行ってみましょう」
「そうしなよ。あそこに行けば、あんたらのお仲間だって、ちょっとは気も長くなるさ」
うっ。あの二人のことを言われているな……でも、行く価値はありそうだ。エラゼムが礼を言うと、おかみさんは片袖を揺らしながら、厨房の方に戻っていった。
「グランテンプルか。神殿って、誰でも入っていいのかな?」
俺の問い掛けには、シスターであるウィルが自信満々に答える。
「はい、もちろんです。居住区画などの込み入った場所には入れませんが、それでも大部分にはどなたでも立ち入れますよ。神の懐は、万人に開かれているものですか」
「おおー。そういや、ウィルんとこに寄った時も泊めてもらったもんな」
なら、門前払いを喰らうこともないだろう。よし、決まりだ!まずは、神殿へ!
「お引き取り下さい」
「はぁ、はぁ……え?」
おい、嘘だろ?俺はぜぃはぁと息をしながら、目の前に立つ若い修道士を茫然と見つめた。
「聞こえませんでしたか。お引き取りを、と言ったのです」
跳ねのけるような態度で、修道士はそう繰り返した。じょ、冗談じゃないぞ……
グランテンプルは、町から見える小高い山の頂上に建てられた塔だった。塔と言っても、三の国のような西洋の塔じゃない。言うなれば、五重塔だ。京都にあってもおかしくないような見た目をしている。ミツキの町に引き続いて和風な外観に、初めはワクワクしたもんだ。
ただ、アクセスはサイアクの一言に尽きた。なにせ、山を延々登って行かなくちゃならない。山には傾斜のきつい石の階段が作られていて、それをず~~~~~っとのぼる羽目になったんだ。俺はだらだら汗をかきながら、ロウランと出会った遺跡を思い出していた。あそこの階段もきつかった……
ライラは速攻でへばり、いつものようにフランがおぶろうとしたが、なぜか今回は俺におんぶしろと執拗にせがんだ。根負けした俺が彼女を背負って数歩歩いたところで、足を滑らせてひっくり返りそうになったので、そこからは大人しくフランにおぶられたが。
ともかく、それだけ大変だったんだ。だってのに!
「おい、なあ、こんだけ苦労して登ってきたんだぞ?それを理由もなく突っぱねるのか?」
俺は修道士に言っているテイにしながら、目はウィルを睨んでいた。ウィルがあわあわと弁解する。
「こ、こんなの、普通はありえませんってば!この人、ほんとにほんとの修道士なんですか?」
むう、確かに。目の前の修道士は、たぶん二十歳前後くらいの歳に見える。髪は短く、色は明るい茶髪で、目は釣り上がっていて鋭い。けっこうきつい顔立ちだ。服はローブのようだが、どことなく袈裟に見える。茶髪に袈裟が絶望的に似合っていなくて、なーんとなく信用できない雰囲気だ。
「理由?当方の神殿には、怪しい一団を入れることはできないまでです」
修道士はきっぱりとそう言い切る。
「な、なんだよその言い草は?俺たちが怪しいことは否定しないけど、あんまりじゃないか!」
「桜下さん、否定してください……」
「あ、そ、そうか。ともかく、人を見た目で判断するのかよ!」
修道士は俺を胡散臭い目で見つめた後、ふんと鼻を鳴らす。
「素性が分からない以上、見た目で判断するしかないでしょう。神の拠り所に来るにしちゃ、あまりにもみすぼらしい。施しならふもとで受けてください」
こ、こんの野郎……!これには俺だけじゃなく、ウィルまでカンカンになった。
「ま、貧しい人たちに手の差し伸べるのも神殿の役割でしょう!なんなんですかこの人は!こんななら、まだデュアンさんの方がマシですよ!」
ウィルにデュアン以下認定されたこの修道士は、相変わらず冷たい目で俺たちを睨んでいる。いや、あの目はさげすんでいる目だな。くぅー、どこまでも腹が立つ!
「ミゲル、誰と話しているの?」
あん?ふいに女の人の声がしてきた。誰だ?
「マルティナ!出てくるな、お前は中にいろ!」
修道士の男が振り返ると、血相を変えて声を張った。男の背後には、同じ格好をした女性が立っている。シスターだな。シスターの顔は修道士によく似ていて、釣り目と明るい茶髪をしている。だけど男と違って眉尻が下がっているから、どことなく気弱そうだ。この二人、兄妹かな?
「でも、ミゲル……」
「引っ込んでろ!こいつらは俺が片付けておくから!」
か、片付け……人を粗大ゴミみたいに言いやがって!憤慨した俺が言い返そうとした時。
「これこれ、二人とも」
と、またまたシスターの後ろから、新たな人物が近づいてきた。おうおう、今度は誰だ?兄妹が出てきたから、次は親か祖父母でも来るか?
俺の予想は、ニアピンだった。出てきたのは、長い髭の爺さんだった。
「ミゲル。マルティナ。何を騒いでおるのじゃ」
老人は落ち着いた声でそう言うと、二人を見、そして俺たちを見た。この爺さんもまた、袈裟のようなローブを羽織っている。さーて、この爺さんは、こいつらより話が通じるかな?
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
「ただいまぁ……」
ふぅ、ようやく宿に帰ってこられた。俺はアルルカに横抱きにされたまま、窓から部屋に戻る。帰りは結局雲の下を飛んだので、俺はまたずぶ濡れになってしまった。
「あ、おかえりなさい、桜下さん。まぁ、この雨の中を飛んできたんですか?」
ウィルが同情半分、呆れ半分の顔で、タオルを渡してくれた。
「ほんとだよ、ったく。アルルカのやつが変に拘るもんだからさ」
ともかく、この濡れた服を着替えちまおう。俺は上着を脱ぐと、シャツのボタンを緩めた。
「あら?桜下さん、その首のところ……どうしたんですか?」
「へ?首?」
何のことだ?首を触ってみるが、特に何もないぞ。
「アルルカの噛み痕じゃないのか?」
「いえ、それとは別に、なんだか赤いぽちっとしたのが……って!」
な、なんだ?ウィルが突然、くわっと目を剥いた。そしていきなり、ぐいぃっと襟元を引っ掴んでくる。
「ぐえっ。ウィル、なにす……」
「こ、これは!フランさん!これ、見てくださいよ!これ!」
「ん?なに……っ!!!」
フランまで目を見開くと、まじまじと俺の首元を見つめる。そして視線をゆらりと、一人声を殺して腹を抱えているアルルカへと向けた。
「がうっ!」
「ぎゃあ!ちょっと、離れなさい!アイタッ!この、噛みつくんじゃないわよっ、それはあたしの専売特許でしょうが!」
二人がドタンバタンと大騒ぎしたもんだから、心配したおかみさんが様子を見に来てしまった。俺が平謝りしている後ろで、二人はまだ争っていたので、エラゼムは厳粛なる態度で二人を外に放りだす羽目になった。が、二人は外でもケンカを続けているようだ。
「もーほっとくか。付き合いきれん」
「それはいいですけど、桜下さん……?こっちはまだ、終わってないですからね……?」
ゆらぁっと、ウィルが俺に詰め寄ってくる。なんなんだよ、一体何があったって言うんだ!?
ライラとエラゼム、ロウランが、俺たちを遠巻きに見つめている。
「……エラゼム、どうしよっか?」
「うぅむ……雨降って地固まる、と言います。少し、様子を見てみましょうか?」
「それがいいの」
は、薄情者!外はざぁざぁ雨が降っているけど……明日になったら、地が固まるんだろうか?
翌朝。残念ながら、雨は止んでいなかった。けどだいぶ雨脚は弱まった、これなら外を出歩けるだろう。俺はベッドから起き上がると、出かける準備をした。
「あれ、ところであの二人は?」
「一晩中やり合ってましたよ。疲れないってのも考え物ですね……」
ウィルはやれやれと首を振る。昨晩きちんと釈明したので、ウィルはいつもの調子に戻っていた。が、フランとアルルカは、そうもいかなかったらしい。ううむ、普通のケンカなら、どちらかが倒れて決着が付くだろうが……疲れ知らずのアンデッド同士だと、それが無いのか。困ったもんだ。
「……ところで、桜下さん?昨日のあれ、本当に何もなかったんですよね?」
「うっ。ほんとに無実なんだって!嵌められたんだよ、アルルカに」
「ほんとかなぁ~……」
ウィルがじとーっと半目で睨んでくる。俺の潔白が、そんなに信じられないか?俺はため息を付くと、小声でボソボソと言う。
「しねーよ、そんなこと。彼女ができたばかりだってのに」
「へぅっ」
おかしな声を出して、ウィルは顔を赤くしてしまった。そういう反応をされると、こっちまで恥ずかしくなるじゃないか。
俺は二人のケンカを止めに行ったほうがいいかと思ったけれど、ウィルがそこまで大したものじゃないから気にするなと言うので、放っておくことにした。いわく、じゃれあいの延長線みたいなもんらしい。
宿の隣に併設された食堂で朝食を取る。朝の食堂には人もまばらで、俺たち以外の旅人はいないようだ。パラパラいる客も、この町の人だろう。
「あ、あの。すみません……」
俺はおずおずとおかみさんを呼び止めて、注文をする。昨日あれだけ大騒ぎしたから、気まずいんだよな……
「はいよ。なににする?」
「その、パンとミルクを貰えますか?」
「はいはい。ところで、昨日揉めてた方はいないのかい?」
「あ、はい。外にいますんで……すみません」
「そうかい。助かるよ、他のお客さんが怖がるからね」
返す言葉もございません。それでもおかみさんは、ねちねちと嫌味を言うようなことはしなかった。よかった、さっぱりした人で。あ、それならついでに、あっちのことも聞いておこうか。
「あ、あとちょっといいかな」
「はい?なにかね」
「この町に、光の魔力を持つ人が居たって話、聞いた事ありません?」
まずは基本のき、聞き込みだ。人の行きかう宿屋を営んでいるなら、色々な情報にも詳しいはず。
「光の魔力?そりゃ、一体何だい?」
だがおかみさんは、不思議そうに首を傾げるばかりだった。あ、ありゃ?おかしいな、あてが外れたか?
「えーっと、光の魔力っていうのは、とっても珍しい魔力で。奇跡を起こすことができるっていう……」
「奇跡?なんだか眉唾な話だねぇ。そんなものが本当にあるのかい?」
あ、あれれれ……?うーむ、まいったな。単に知らないだけのか、それとも情報が間違っていたのか。
俺が言葉に窮してしまったので、代わりにエラゼムが質問する。
「では、この町の名物について教えて下さらぬか。確か、癒しの神の神殿が在るとか」
「ああ、それならわかるよ。グランテンプルのことだろう?」
ああ、そういやそんな名前だったっけ。アニから一度聞いたけど、すっかり忘れていた。
「その、グランテンプルという御殿は、どのような場所なのでしょう?」
「どうって、そりゃ荘厳な建物だよ。行ってみりゃいいじゃないか。目で見たほうが絶対いいし、一度見れば一生忘れらないさ」
「ほお、それは興味をそそられますな。町のどこにあるのでしょう」
「表に出て、山を端から端まで眺めてごらん。てっぺんに見えるはずさ」
てっぺん?山頂に建っているのかな。目立ちそー。
「ありがとうございます。ぜひ行ってみましょう」
「そうしなよ。あそこに行けば、あんたらのお仲間だって、ちょっとは気も長くなるさ」
うっ。あの二人のことを言われているな……でも、行く価値はありそうだ。エラゼムが礼を言うと、おかみさんは片袖を揺らしながら、厨房の方に戻っていった。
「グランテンプルか。神殿って、誰でも入っていいのかな?」
俺の問い掛けには、シスターであるウィルが自信満々に答える。
「はい、もちろんです。居住区画などの込み入った場所には入れませんが、それでも大部分にはどなたでも立ち入れますよ。神の懐は、万人に開かれているものですか」
「おおー。そういや、ウィルんとこに寄った時も泊めてもらったもんな」
なら、門前払いを喰らうこともないだろう。よし、決まりだ!まずは、神殿へ!
「お引き取り下さい」
「はぁ、はぁ……え?」
おい、嘘だろ?俺はぜぃはぁと息をしながら、目の前に立つ若い修道士を茫然と見つめた。
「聞こえませんでしたか。お引き取りを、と言ったのです」
跳ねのけるような態度で、修道士はそう繰り返した。じょ、冗談じゃないぞ……
グランテンプルは、町から見える小高い山の頂上に建てられた塔だった。塔と言っても、三の国のような西洋の塔じゃない。言うなれば、五重塔だ。京都にあってもおかしくないような見た目をしている。ミツキの町に引き続いて和風な外観に、初めはワクワクしたもんだ。
ただ、アクセスはサイアクの一言に尽きた。なにせ、山を延々登って行かなくちゃならない。山には傾斜のきつい石の階段が作られていて、それをず~~~~~っとのぼる羽目になったんだ。俺はだらだら汗をかきながら、ロウランと出会った遺跡を思い出していた。あそこの階段もきつかった……
ライラは速攻でへばり、いつものようにフランがおぶろうとしたが、なぜか今回は俺におんぶしろと執拗にせがんだ。根負けした俺が彼女を背負って数歩歩いたところで、足を滑らせてひっくり返りそうになったので、そこからは大人しくフランにおぶられたが。
ともかく、それだけ大変だったんだ。だってのに!
「おい、なあ、こんだけ苦労して登ってきたんだぞ?それを理由もなく突っぱねるのか?」
俺は修道士に言っているテイにしながら、目はウィルを睨んでいた。ウィルがあわあわと弁解する。
「こ、こんなの、普通はありえませんってば!この人、ほんとにほんとの修道士なんですか?」
むう、確かに。目の前の修道士は、たぶん二十歳前後くらいの歳に見える。髪は短く、色は明るい茶髪で、目は釣り上がっていて鋭い。けっこうきつい顔立ちだ。服はローブのようだが、どことなく袈裟に見える。茶髪に袈裟が絶望的に似合っていなくて、なーんとなく信用できない雰囲気だ。
「理由?当方の神殿には、怪しい一団を入れることはできないまでです」
修道士はきっぱりとそう言い切る。
「な、なんだよその言い草は?俺たちが怪しいことは否定しないけど、あんまりじゃないか!」
「桜下さん、否定してください……」
「あ、そ、そうか。ともかく、人を見た目で判断するのかよ!」
修道士は俺を胡散臭い目で見つめた後、ふんと鼻を鳴らす。
「素性が分からない以上、見た目で判断するしかないでしょう。神の拠り所に来るにしちゃ、あまりにもみすぼらしい。施しならふもとで受けてください」
こ、こんの野郎……!これには俺だけじゃなく、ウィルまでカンカンになった。
「ま、貧しい人たちに手の差し伸べるのも神殿の役割でしょう!なんなんですかこの人は!こんななら、まだデュアンさんの方がマシですよ!」
ウィルにデュアン以下認定されたこの修道士は、相変わらず冷たい目で俺たちを睨んでいる。いや、あの目はさげすんでいる目だな。くぅー、どこまでも腹が立つ!
「ミゲル、誰と話しているの?」
あん?ふいに女の人の声がしてきた。誰だ?
「マルティナ!出てくるな、お前は中にいろ!」
修道士の男が振り返ると、血相を変えて声を張った。男の背後には、同じ格好をした女性が立っている。シスターだな。シスターの顔は修道士によく似ていて、釣り目と明るい茶髪をしている。だけど男と違って眉尻が下がっているから、どことなく気弱そうだ。この二人、兄妹かな?
「でも、ミゲル……」
「引っ込んでろ!こいつらは俺が片付けておくから!」
か、片付け……人を粗大ゴミみたいに言いやがって!憤慨した俺が言い返そうとした時。
「これこれ、二人とも」
と、またまたシスターの後ろから、新たな人物が近づいてきた。おうおう、今度は誰だ?兄妹が出てきたから、次は親か祖父母でも来るか?
俺の予想は、ニアピンだった。出てきたのは、長い髭の爺さんだった。
「ミゲル。マルティナ。何を騒いでおるのじゃ」
老人は落ち着いた声でそう言うと、二人を見、そして俺たちを見た。この爺さんもまた、袈裟のようなローブを羽織っている。さーて、この爺さんは、こいつらより話が通じるかな?
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語
ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。
変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。
ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。
タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる