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14章 痛みの意味
1-1 少女の報せ
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1-1 少女の報せ
「ねえ。あなたは結局、どっちが好きなの?」
え?
気が付くと俺は、巨大な皿の上に乗せられていた。み、身動きが取れない……俺の全身には、ベーコンがぐるぐると巻き付いていた。ご丁寧に、上から香ばしい匂いのソースまでかけてある。どうやら俺は、肉巻き料理にされているらしい……はぁ?
「なっ、なんだこれ!どうなってんだ!?」
「答えてよ」
声が頭の上から降ってくる。俺は首から上だけを動かして、声の方を見た。
「ええ!?ふ、フラン!?」
そこに居たのは、大仏くらいはありそうな、巨大化したフランだった。え?え?どうしてそんなに大きく?真面目だったから……なわけはないだろ。
「ふ、フラン。これ、どうなってんだよ?」
「質問に答えて。あなたが好きなのは、わたし?」
フランは四又の槍と化したフォークを掲げると、俺のすぐ横に振り下ろした。ジャキーン!ひぃぃ!
「ふ、ふら、ふら」
「桜下さん。私の方が、好きですよね?」
え?今度はフランの反対側から声が聞こえてきた。恐る恐る振り向くと、そこに居たのは、やっぱり馬鹿でかくなったウィルだった。元々豊かだったウィルの胸元は小山のごとく盛り上がり、下からじゃ顔がほとんど見えない……いや、今はそんな場合じゃないだろ!それよりも、彼女の持っている鉄骨がごときスプーンの方が問題だっ!
「うぃ、ウィル。まずは、それを下ろしてくれないか……?」
「答えてください」
ギャチャーン!先割れスプーンが、俺の耳のすぐわきに突き立てられる。銀色のスプーンの表面に、血の気の失せた俺の顔が、歪んで反射している……
「た、たすけて……」
「どっちなの。わたしか、ウィルか」
「私ですよね」
「わたしでしょ」
「私」
「わたし」
「う、う、ぅ……」
「うわああぁぁぁ!」
俺は飛び起きた!は、早くここから逃げ出さないと!ここにいたら、二人に食われちまう!だってここは、さざ波の音が心地いい、爽やかな風の吹くベッドの上だから……あれ?
「こ、こは……?」
俺はあたりをキョロキョロ見回した。吹き抜けの多い室内からは、涼し気なウォーターブルーの海が見えている。俺は肉巻きにはされておらず、乗っているのはふかふかのベッドで、当然巨大化したフランもウィルもいなかった……
「な、なんだ……夢か」
ああ、びっくりした。けど考えれば当然か。人が突然大きくなるなんて、漫画じゃあるまいし。そう思いはしたが、まだ心臓はドクドクと早いビートを刻んでいる。全身に汗がびっしょりだ。いやぁ、怖い夢だった……
「ちぃ。なんだって、食われる夢なんか……」
そうぼやいたところで、俺の指先に、もぐもぐと食いつかれるような感触が走った。さーっと全身の血が引く。ま、まさか、夢の続きが……?
「むぅ……むにゃむにゃ」
ライラが俺の指を咥えて、もにょもにょと甘噛みしていた。お、お前のしわざかよ!ちゅぽんと指を引き抜いても、ライラはちっとも起きる気配がなかった。
「はぁ。すっかり目が冴えちまった。今、何時だ?」
この世界にデジタル時計はない。窓の外の空を見るに、恐らくまだ早朝だろう。空は澄んで高く、よく透き通ったガラスのように見えた。起きるには早い時間だが、かといってもう一度寝る気にもなれない。またあの恐ろしい夢の続きを見たら、今度こそ目が覚めなさそうだ。
俺はライラを起こさないように、そっとコテージを出て、外の桟橋に立った。海風が気持ちいい。さて、砂浜でも散歩してこようかな?そう思って数歩歩いたところで、俺は桟橋の途中に人影があることに気が付いた。
「……げげっ」
桟橋の淵に並んで腰かけて、海を眺めている少女が二人。フランとウィルだ。うわぁ、こんなタイミングで……俺はそのまま、そろりと戻ろうかと思ったが、それよりも早く、耳ざといフランがこちらを振り向いてしまった。
「ん……」
「あら、桜下さん。早いですね」
ウィルもこっちを向いて、小さく手を振ってきた。あちゃあ、これじゃさすがに回れ右はできないな。諦めて、二人のもとまで肩を落として歩いていく。
「おはよう、二人とも。ずっと海を見てたのか?」
「おはようございます。いえ、そう言うわけでもないですけど」
「ただ、何となく眺めてただけ。なんか、海の中で光ってたから」
「あ、それ。昨日の夜、俺も見たよ。何が光ってたんだ?イカか?それとも、鱗が光る魚とか……」
「ううん。ナマコだった」
な、ナマコ……いや、別にダメってことはないんだけれど。ただ、この前俺が見た夜の海は、それなりの明るさで淡く色付いていた。てことはあん時、幻想的な風景の水面下では、夥しい数のナマコが……?
「……やめよう。思い出は美しくあるべきだ」
「……?まあとりあえず、座ったら?」
フランがぽんぽんと自分の隣を叩く。俺が腰を下ろそうとすると、なぜかウィルがふわりと浮かび上がって、フランと逆の隣へとやってきた。
「え?あの……」
「ほ、ほらほら。座りましょうよ」
ウィルに勧められるまま、なぜか俺は二人の間に座ることになってしまった。うぅ、き、気まずいなぁ。昨日の二人の会話を、俺がこっそり聞いてしまったことは、きっと二人とも知らない。
(そう……昨日、なんだよなぁ)
遠い昔のようにも、まだ一晩も経っていないようにも感じる。あの話の内容は、俺に大きな衝撃を与えた。あんな変な夢を見たのも、そのせいだ。
フランセス・ヴォルドゥール。銀色の髪と、深紅の瞳を持つ、ゾンビの少女。彼女は俺のことが好きらしい。
ウィル・O・ウォルポール。金色の髪と、そっくりお揃いの金の瞳を持つ、幽霊シスター。彼女は俺のことが好きらしい。
し、信じられるか?俺を好きだという女の子が、一度に二人も!この世界に来る前の俺に、自分の未来を教えてやりたい。そしたらきっと前の俺は、こいつはイカれているんだろうと思うはずだ……はぁ。
(結局のところ、それなんだよな)
俺はこの状況が信じられない。昔も今も、それは相変わらずだ。俺は自分に、それだけの価値があるのかどうか、確信が持てずにいるんだ。
(前よりは、俺も成長したはずだよな)
俺は死霊術の能力を進化させ、一時的に死霊と融合ができるようになった。仲間の力が必要なことは相変わらずだが、それでも俺自身が戦うことが可能になったのだから、大きな一歩だ。それに、過去の記憶……俺が一度死んでいたという事実と、その記憶も取り戻した。いい思い出では決してないけれど、これで俺はようやく、過去の自分と完全に決別できた気がするんだ。
(そして……これからのこと)
未来はまだまだ分からない事だらけだ。だがとりあえず、目下取り組むべきは、この二人の気持ちにどう向き合うかだろう。
昨晩聞いてしまった話。フランとウィルは、お互いが同じ一人を好きになったことを認め、そしてお互いを尊重し合うことにしたらしい。つまり、二人で一人を好きになることに決めたのだ。そしてそれを、俺にも認めさせるつもりなのだという。つまり、その、俺をメロメロにすることによって……
(……もう、だいぶ惚れてるんだけどな)
正直な話、フランにもウィルにも、俺はとっくに好意を抱いている。流石にウィルには、告白されたのがつい最近ということもあって、まだはっきりと恋愛感情を自覚してはないけれど……まあ、身もふたもないことを言えば、二人とも可愛いから。けどだからこそ余計に、俺にはもったいないんじゃとか思っちゃうんだよなぁ。
(う~~~ん……)
ウィルというダークホースの参戦によって、俺の心は完全にかき乱されてしまっていた。ぜいたくな悩みだな?女に惚れられすぎて悩んでいるなんて、以前の俺が聞いたら間違いなくぶっ飛ばしているタイプの人間だ。
「……なにシワ寄せてんの」
「え?わっ」
いつの間にか、フランがじぃっと、俺の顔をのぞき込んでいた。うわ、わ。整った顔が思いのほか近くて、俺はびくりとのけ反った。
「い、いやぁ。なんでもない。ほら、朝早くって、ちょっと眠かったって言うか」
「ふーん……」
フランはじとりと俺の顔を見つめてから、首を引っ込めた。び、びっくりした。ちょうど彼女のことを考えていたから。すると隣で、ウィルが一連のやり取りを見ていたらしい。「ふむ……」と小さくつぶやくと、なぜかするりと腕を絡めてきた。
「え。ウィル?」
「……い、嫌ですか?」
うぐ。ウィルの横顔は、分かりやすいくらいピンク色になっていた。そんな顔されて、断れるわけもなく。
「む……」
すると今後は、フランが対抗してきた。フランはずいっと、俺との間のわずかなすき間も埋めると、俺の肩に自分の頭をぽすっと寄りかからせてきた。
「え、ちょっと……」
「……」「……」
な、なんで二人とも何も言わないんだ。はっ。もしやこれが、昨日二人が言っていた、俺をどうにかこうにかしちゃう作戦……?
「……」
実にまぬけな図だ。俺たちは三人そろってカチコチになり、桟橋に置かれた彫像のようになっていた。芸術作品としちゃ、駄作もいいところだろう……しいてタイトルを付けるならば、そうだな。“素人の像”とかか……
俺たちはしばらくの間、そうやってじぃっと、海を見つめ続けていた。いや、嘘だ。海を見てなんかいなかった。ドキドキ高鳴る胸の鼓動しか、覚えちゃなかったから……
「……あんたたち、なにしてんの?」
「っ!」「うお!」「ひゃあ!」
いつの間にか背後に立っていたアルルカの声で、俺たちは全員ぴょんと飛び上がった。特にフランは、かなりびっくりしたらしい。驚いた拍子に腕を振り上げ、その腕が隣で密着していた俺の背中を強く押し、俺は見事に海へとすっ飛ばされた。ドボーン!
(……なんだか最近、朝は海に飛び込んでばかりな気がするよ。ぶくぶく……)
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「ねえ。あなたは結局、どっちが好きなの?」
え?
気が付くと俺は、巨大な皿の上に乗せられていた。み、身動きが取れない……俺の全身には、ベーコンがぐるぐると巻き付いていた。ご丁寧に、上から香ばしい匂いのソースまでかけてある。どうやら俺は、肉巻き料理にされているらしい……はぁ?
「なっ、なんだこれ!どうなってんだ!?」
「答えてよ」
声が頭の上から降ってくる。俺は首から上だけを動かして、声の方を見た。
「ええ!?ふ、フラン!?」
そこに居たのは、大仏くらいはありそうな、巨大化したフランだった。え?え?どうしてそんなに大きく?真面目だったから……なわけはないだろ。
「ふ、フラン。これ、どうなってんだよ?」
「質問に答えて。あなたが好きなのは、わたし?」
フランは四又の槍と化したフォークを掲げると、俺のすぐ横に振り下ろした。ジャキーン!ひぃぃ!
「ふ、ふら、ふら」
「桜下さん。私の方が、好きですよね?」
え?今度はフランの反対側から声が聞こえてきた。恐る恐る振り向くと、そこに居たのは、やっぱり馬鹿でかくなったウィルだった。元々豊かだったウィルの胸元は小山のごとく盛り上がり、下からじゃ顔がほとんど見えない……いや、今はそんな場合じゃないだろ!それよりも、彼女の持っている鉄骨がごときスプーンの方が問題だっ!
「うぃ、ウィル。まずは、それを下ろしてくれないか……?」
「答えてください」
ギャチャーン!先割れスプーンが、俺の耳のすぐわきに突き立てられる。銀色のスプーンの表面に、血の気の失せた俺の顔が、歪んで反射している……
「た、たすけて……」
「どっちなの。わたしか、ウィルか」
「私ですよね」
「わたしでしょ」
「私」
「わたし」
「う、う、ぅ……」
「うわああぁぁぁ!」
俺は飛び起きた!は、早くここから逃げ出さないと!ここにいたら、二人に食われちまう!だってここは、さざ波の音が心地いい、爽やかな風の吹くベッドの上だから……あれ?
「こ、こは……?」
俺はあたりをキョロキョロ見回した。吹き抜けの多い室内からは、涼し気なウォーターブルーの海が見えている。俺は肉巻きにはされておらず、乗っているのはふかふかのベッドで、当然巨大化したフランもウィルもいなかった……
「な、なんだ……夢か」
ああ、びっくりした。けど考えれば当然か。人が突然大きくなるなんて、漫画じゃあるまいし。そう思いはしたが、まだ心臓はドクドクと早いビートを刻んでいる。全身に汗がびっしょりだ。いやぁ、怖い夢だった……
「ちぃ。なんだって、食われる夢なんか……」
そうぼやいたところで、俺の指先に、もぐもぐと食いつかれるような感触が走った。さーっと全身の血が引く。ま、まさか、夢の続きが……?
「むぅ……むにゃむにゃ」
ライラが俺の指を咥えて、もにょもにょと甘噛みしていた。お、お前のしわざかよ!ちゅぽんと指を引き抜いても、ライラはちっとも起きる気配がなかった。
「はぁ。すっかり目が冴えちまった。今、何時だ?」
この世界にデジタル時計はない。窓の外の空を見るに、恐らくまだ早朝だろう。空は澄んで高く、よく透き通ったガラスのように見えた。起きるには早い時間だが、かといってもう一度寝る気にもなれない。またあの恐ろしい夢の続きを見たら、今度こそ目が覚めなさそうだ。
俺はライラを起こさないように、そっとコテージを出て、外の桟橋に立った。海風が気持ちいい。さて、砂浜でも散歩してこようかな?そう思って数歩歩いたところで、俺は桟橋の途中に人影があることに気が付いた。
「……げげっ」
桟橋の淵に並んで腰かけて、海を眺めている少女が二人。フランとウィルだ。うわぁ、こんなタイミングで……俺はそのまま、そろりと戻ろうかと思ったが、それよりも早く、耳ざといフランがこちらを振り向いてしまった。
「ん……」
「あら、桜下さん。早いですね」
ウィルもこっちを向いて、小さく手を振ってきた。あちゃあ、これじゃさすがに回れ右はできないな。諦めて、二人のもとまで肩を落として歩いていく。
「おはよう、二人とも。ずっと海を見てたのか?」
「おはようございます。いえ、そう言うわけでもないですけど」
「ただ、何となく眺めてただけ。なんか、海の中で光ってたから」
「あ、それ。昨日の夜、俺も見たよ。何が光ってたんだ?イカか?それとも、鱗が光る魚とか……」
「ううん。ナマコだった」
な、ナマコ……いや、別にダメってことはないんだけれど。ただ、この前俺が見た夜の海は、それなりの明るさで淡く色付いていた。てことはあん時、幻想的な風景の水面下では、夥しい数のナマコが……?
「……やめよう。思い出は美しくあるべきだ」
「……?まあとりあえず、座ったら?」
フランがぽんぽんと自分の隣を叩く。俺が腰を下ろそうとすると、なぜかウィルがふわりと浮かび上がって、フランと逆の隣へとやってきた。
「え?あの……」
「ほ、ほらほら。座りましょうよ」
ウィルに勧められるまま、なぜか俺は二人の間に座ることになってしまった。うぅ、き、気まずいなぁ。昨日の二人の会話を、俺がこっそり聞いてしまったことは、きっと二人とも知らない。
(そう……昨日、なんだよなぁ)
遠い昔のようにも、まだ一晩も経っていないようにも感じる。あの話の内容は、俺に大きな衝撃を与えた。あんな変な夢を見たのも、そのせいだ。
フランセス・ヴォルドゥール。銀色の髪と、深紅の瞳を持つ、ゾンビの少女。彼女は俺のことが好きらしい。
ウィル・O・ウォルポール。金色の髪と、そっくりお揃いの金の瞳を持つ、幽霊シスター。彼女は俺のことが好きらしい。
し、信じられるか?俺を好きだという女の子が、一度に二人も!この世界に来る前の俺に、自分の未来を教えてやりたい。そしたらきっと前の俺は、こいつはイカれているんだろうと思うはずだ……はぁ。
(結局のところ、それなんだよな)
俺はこの状況が信じられない。昔も今も、それは相変わらずだ。俺は自分に、それだけの価値があるのかどうか、確信が持てずにいるんだ。
(前よりは、俺も成長したはずだよな)
俺は死霊術の能力を進化させ、一時的に死霊と融合ができるようになった。仲間の力が必要なことは相変わらずだが、それでも俺自身が戦うことが可能になったのだから、大きな一歩だ。それに、過去の記憶……俺が一度死んでいたという事実と、その記憶も取り戻した。いい思い出では決してないけれど、これで俺はようやく、過去の自分と完全に決別できた気がするんだ。
(そして……これからのこと)
未来はまだまだ分からない事だらけだ。だがとりあえず、目下取り組むべきは、この二人の気持ちにどう向き合うかだろう。
昨晩聞いてしまった話。フランとウィルは、お互いが同じ一人を好きになったことを認め、そしてお互いを尊重し合うことにしたらしい。つまり、二人で一人を好きになることに決めたのだ。そしてそれを、俺にも認めさせるつもりなのだという。つまり、その、俺をメロメロにすることによって……
(……もう、だいぶ惚れてるんだけどな)
正直な話、フランにもウィルにも、俺はとっくに好意を抱いている。流石にウィルには、告白されたのがつい最近ということもあって、まだはっきりと恋愛感情を自覚してはないけれど……まあ、身もふたもないことを言えば、二人とも可愛いから。けどだからこそ余計に、俺にはもったいないんじゃとか思っちゃうんだよなぁ。
(う~~~ん……)
ウィルというダークホースの参戦によって、俺の心は完全にかき乱されてしまっていた。ぜいたくな悩みだな?女に惚れられすぎて悩んでいるなんて、以前の俺が聞いたら間違いなくぶっ飛ばしているタイプの人間だ。
「……なにシワ寄せてんの」
「え?わっ」
いつの間にか、フランがじぃっと、俺の顔をのぞき込んでいた。うわ、わ。整った顔が思いのほか近くて、俺はびくりとのけ反った。
「い、いやぁ。なんでもない。ほら、朝早くって、ちょっと眠かったって言うか」
「ふーん……」
フランはじとりと俺の顔を見つめてから、首を引っ込めた。び、びっくりした。ちょうど彼女のことを考えていたから。すると隣で、ウィルが一連のやり取りを見ていたらしい。「ふむ……」と小さくつぶやくと、なぜかするりと腕を絡めてきた。
「え。ウィル?」
「……い、嫌ですか?」
うぐ。ウィルの横顔は、分かりやすいくらいピンク色になっていた。そんな顔されて、断れるわけもなく。
「む……」
すると今後は、フランが対抗してきた。フランはずいっと、俺との間のわずかなすき間も埋めると、俺の肩に自分の頭をぽすっと寄りかからせてきた。
「え、ちょっと……」
「……」「……」
な、なんで二人とも何も言わないんだ。はっ。もしやこれが、昨日二人が言っていた、俺をどうにかこうにかしちゃう作戦……?
「……」
実にまぬけな図だ。俺たちは三人そろってカチコチになり、桟橋に置かれた彫像のようになっていた。芸術作品としちゃ、駄作もいいところだろう……しいてタイトルを付けるならば、そうだな。“素人の像”とかか……
俺たちはしばらくの間、そうやってじぃっと、海を見つめ続けていた。いや、嘘だ。海を見てなんかいなかった。ドキドキ高鳴る胸の鼓動しか、覚えちゃなかったから……
「……あんたたち、なにしてんの?」
「っ!」「うお!」「ひゃあ!」
いつの間にか背後に立っていたアルルカの声で、俺たちは全員ぴょんと飛び上がった。特にフランは、かなりびっくりしたらしい。驚いた拍子に腕を振り上げ、その腕が隣で密着していた俺の背中を強く押し、俺は見事に海へとすっ飛ばされた。ドボーン!
(……なんだか最近、朝は海に飛び込んでばかりな気がするよ。ぶくぶく……)
つづく
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