511 / 860
13章 歪な三角星
4-1 アンブレラでの一夜
しおりを挟む
4-1 アンブレラでの一夜
「見えてきたぞ……!ラクーンだ!」
宵闇迫る平原に、ぽつぽつとともる町明かり。前の世界の都市とは比べ物にならないくらい小さな灯りだが、それよりずっと美しい。地平線に沿って並ぶ真珠のようなまたたきは、大地にティアラを被せたようだ。
「ひゃっほう!久々のベッドだ!」
「でも桜下さん、確かラクーンは、夜の間は門が閉じるんじゃなかったですか?」
「ああ、そうだった!エラゼム、急いでくれ!ベッドが逃げてく!」
「承知しました!はいやあ!」
エラゼムが腹を蹴ると、ストームスティードはぐんと加速した。それに驚いたウィルが小さく悲鳴を上げる。
俺たちは今、日が沈んだばかりの平原を疾走している。目の前には大都市ラクーン。関所は何時に閉まるんだろう?間に合うかな、どうかな。
モンロービルを出発してから、さらに数日が経っていた。コマース村を迂回し、ルエーガー城を傍目に南を目指してきた俺たちは、ついにラクーンまで南下してきたんだ。それぞれのゆかりの地を通り過ぎるとき、ウィルは懐かしむような目で故郷の村を見つめ、反対にエラゼムは一切城のほうを見ることなく通り過ぎた。彼がもう一度城を見るのは、すべての使命を果たして、主のもとへ戻るときだけ。そう決めているらしい。
「待ったー!待ってくれーーー!」
ラクーンの関所が迫ってくると、俺は声の限りに叫んだ。今にも門が閉ざされようとしている。間に合うか!?
「はぁ、はぁ……まった、待ってくれ。俺たちも入れてくれぇ」
エラゼムが関所の手前でストームスティードを止めるや否や、俺は転がり落ちるように馬から下りて、一目散に関所へと走った。
「はあ、はあ……頼むよ。久々のベッドが掛かってるんだ」
「ま、まあまあ、落ち着いて。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。ギリギリセーフです」
おお、助かった!俺の慌てぶりがおかしかったのか、衛兵はにこにこと笑っていた。
「本当ならとっくにアウトなんですが、たまたま前の商人の馬車が手間取りましてね。なにせ、六頭馬車にめいっぱい荷物を積んでいたもんですから。おかげで、今夜はゆっくりベッドでお休みいただけますよ」
「おお、なんてタイミングがいい商人さんだ!ハグしてキスしてやりたいよ」
「はは……彼が喜ぶかはわかりませんが、やるなら自己責任でお願いしますよ。身分証はありますか?」
俺がファインダーパスを取りだすと、衛兵は目を丸くしてから、俺と仲間たちとを見た。
「もしかして、以前もラクーンに来られました?」
「え?うん、これで三度目かな。覚えてるのか?」
「ええ。前回も私が担当させていただきました。ファインダーパスをお持ちの方にはなかなかお目にかからないですし、これほど変わった面子の旅人も珍しいですから」
ははは……返す言葉もないな。衛兵の彼は、にこにこしながら俺たちを通してくれた。
ひゅう。なにはともかく、俺たちは滑り込みセーフで、夕暮れ時のラクーンの町に入ることができた。昼間は活気のある市場も、今はほとんど店じまいしている。人混みが苦手なウィルは、ほっと胸を撫で下ろした。さてと、時間も時間だから、まっさきに宿へ向かうとしよう。ラクーンに来たなら、泊まる宿は一つだ。
カランカラーン。和音の音色を響かせて、扉に取り付けられたベルが鳴る。すぐにパタパタという足音が聞こえてきた。
「はぁーい。いらっしゃいま……あ!」
店の奥から出てきた女の子は、俺たちを見ると口を大きく開けて固まった。俺が声を掛けようとしたその時、女の子の後ろに大きな影がぬっと立ち、頭をペチーンと引っぱたいた。
「ふぎゃ」
「こらっ、クリス!お客さんに大口見せて、失礼だろうが!」
あはは、前にも見た光景だな。親父さんの持つ雑巾で引っぱたかれたクリスは、頭を押さえて頬を膨らませている。
「もう、何するのお父さん!そうじゃなくて、ほら!前にも来てくださった人たちだよ」
「お?おや、こいつは……やあ、あんたたちだったか!」
「や、ジルの親父さん。それに、クリスも。久しぶりだな」
俺が手を上げて挨拶すると、宿アンブレラの主人・ジルは豪快に笑いながら雑巾をぶん投げた。雑巾は吹っ飛んでいき、隅に置かれたブリキのバケツにすとんと吸い込まれる。達人芸だな。
「やあやあ、また来てくださるとは!わははは、歓迎しやすぜ。お客さんたち、晩飯はまだですかい?」
「ああ。前と同じで、俺一人分だけ貰いたいんだけど」
「了解しやした。それならアタシは、厨房に戻らないと。クリス、あとは任せていいな?」
「はい!お客様、チェックインのお手続きをしますね。前は一部屋でしたけど、おんなじでよろしいですか?」
クリスはてきぱきと、宿帳に数字を記入していく。へえ、前回を覚えていてくれたんだ。それにおどおどもしてないし、要領もよくなった。この子も成長しているんだな。
「ええと、六名様なので、お代は……」
「先払いだな。はいよ」
俺がカバンからコインを取り出していると、宿の二階へと続く階段から、ひょこっと若い女が顔をのぞかせた。
「クリス、お客さん?って、あら」
「あれ?クレアじゃないか」
クレアはクリスの姉、ジルの長女だ。自分の店を持っていて、いつもはそっちで会うから、ここで出会うのは新鮮だ。
「まさか、あなたたちに会えるだなんて。戻って来て正解だったわね」
「戻って来て?あ、そっか。クレアにとっては、ここが実家なのか」
階段から下りてきたクレアは、俺たちを見ると嬉しそうに笑った。
「戻ってきたってことは、プチ里帰りみたいなもんか?」
「まあ、そんな感じね。でも、ちょうどよかった!ねぇねぇ、あなたたち、ちょっとあたしに付き合ってよ」
「あん?付き合う?」
クレアはにこにこ笑ったまま、俺の手を取って、食堂へと引っ張っていく。フランの目がつり上がった気がしたが、引かれるままに食堂へと向かった。
食堂は相変わらず閑散としていて、俺たち以外には客はいなかった。今は食事時としては遅いから、他の客は部屋にいるのかもしれないけれど。
「クーリスぅ。おねーちゃんの好きなお酒、ちゃーんと覚えてる?」
「んもう、お姉ちゃん?お姉ちゃんはいっつも飲み過ぎるんだから、ほどほどにしないとダメだよ?」
「あーん、今日くらい堅いこと言わないの。ね、ね、ね?」
クリスはもう、と肩をすくめると、俺の方を向いた。
「桜下さんは、ご注文は?」
「じゃあ、ミートパイを貰おうかな。前と同じやつ」
「はい、かしこまりました。少々お待ちください」
クリスはぺこりとお辞儀をして、去り際にエラゼムへ熱っぽい視線を向けてから、厨房へと小走りで去っていった。ふふふ、相変わらずエラゼムに懐いているみたいだな。ウィルがほほえましく後姿を見つめている。
「ところでクレア、付き合ってくれって、もしかして酒か?だったら悪いけども」
「ああ、心配しないで。無理に飲ませようってわけじゃないから。ただ一緒にご飯食べましょって意味よ」
「それなら、まあ、構わないけど」
にしても、唐突な気もするけどな。店を空けてこっちに来ていることもそうだし、急に食事に誘うのもそうだし。ひょっとして、何かあったのかな?
すぐにクリスが、注文の品を持って戻ってきた。
「お待たせしました!ミートパイと、お姉ちゃんのリクエスト」
「わーい、ありがとー。大好きよ~」
クレアが唇をタコみたいにして迫ったので、クリスはさっと逃げてしまった。開ける前からもう酔っているらしいな?クレアが頼んだのは、ワインのようだ。線をすぽんと抜くと、グラスに赤い液体をなみなみとそそぐ。
「ねえ、桜下は飲まないでしょうけれど、他の方たちも飲まないの?せっかくだから、いっしょに飲んでくれると嬉しいんだけど」
クレアは主に、エラゼムの方を見ながらしゃべっている。確かにエラゼムが最年長ではあるんだけど、彼がワインを飲んだところで、鎧のすき間からボタボタ滴り落ちるだけだ。
「うーん、そういう事なら……アルルカ。お前確か、いける口だったよな?」
「ええー、あたし?」
俺が振ると、アルルカは面倒くさそうな顔をした。だが、俺は覚えているぞ。こいつはウィルといい勝負の、かなりの酒好きだ。めっちゃ弱いけど。
「ま、そう言わず付き合ってやれよ……クレアもなんか、話したいことがあるみたいだしな」
俺は椅子から立ち上がると、アルルカの後ろに回って、マスクに触れた。かちゃりと音を立てて、金具が外れる。マスクを持って席に戻ると、クレアが驚いた様な顔でこちらを見ていた。
「ああ、このマスクか?まあこいつには、色々と事情があってだな……」
「いえ、そっちじゃなくて。あたし、話したいことがあるなんて言ったかしら?」
「え?それこそ、そんなに驚くことか?なんかあったんだなくらい、わかるよ」
「あら、そう?ちょっと露骨過ぎたかしら」
クレアはちろりと舌を覗かせると、空いていたグラスにワインをそそいだ。要は、ヤなことがあったから酒を飲んで忘れたいってことなんだろ。わざわざ実家に帰ってきたのも、そういう理由だろう。
「でもそれなら、お言葉に甘えようかしら。今夜は騒ぐわよー!」
クレアはグラスを高々と掲げて宣言した。やれやれ、長い夜になりそうだぞ。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
「見えてきたぞ……!ラクーンだ!」
宵闇迫る平原に、ぽつぽつとともる町明かり。前の世界の都市とは比べ物にならないくらい小さな灯りだが、それよりずっと美しい。地平線に沿って並ぶ真珠のようなまたたきは、大地にティアラを被せたようだ。
「ひゃっほう!久々のベッドだ!」
「でも桜下さん、確かラクーンは、夜の間は門が閉じるんじゃなかったですか?」
「ああ、そうだった!エラゼム、急いでくれ!ベッドが逃げてく!」
「承知しました!はいやあ!」
エラゼムが腹を蹴ると、ストームスティードはぐんと加速した。それに驚いたウィルが小さく悲鳴を上げる。
俺たちは今、日が沈んだばかりの平原を疾走している。目の前には大都市ラクーン。関所は何時に閉まるんだろう?間に合うかな、どうかな。
モンロービルを出発してから、さらに数日が経っていた。コマース村を迂回し、ルエーガー城を傍目に南を目指してきた俺たちは、ついにラクーンまで南下してきたんだ。それぞれのゆかりの地を通り過ぎるとき、ウィルは懐かしむような目で故郷の村を見つめ、反対にエラゼムは一切城のほうを見ることなく通り過ぎた。彼がもう一度城を見るのは、すべての使命を果たして、主のもとへ戻るときだけ。そう決めているらしい。
「待ったー!待ってくれーーー!」
ラクーンの関所が迫ってくると、俺は声の限りに叫んだ。今にも門が閉ざされようとしている。間に合うか!?
「はぁ、はぁ……まった、待ってくれ。俺たちも入れてくれぇ」
エラゼムが関所の手前でストームスティードを止めるや否や、俺は転がり落ちるように馬から下りて、一目散に関所へと走った。
「はあ、はあ……頼むよ。久々のベッドが掛かってるんだ」
「ま、まあまあ、落ち着いて。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。ギリギリセーフです」
おお、助かった!俺の慌てぶりがおかしかったのか、衛兵はにこにこと笑っていた。
「本当ならとっくにアウトなんですが、たまたま前の商人の馬車が手間取りましてね。なにせ、六頭馬車にめいっぱい荷物を積んでいたもんですから。おかげで、今夜はゆっくりベッドでお休みいただけますよ」
「おお、なんてタイミングがいい商人さんだ!ハグしてキスしてやりたいよ」
「はは……彼が喜ぶかはわかりませんが、やるなら自己責任でお願いしますよ。身分証はありますか?」
俺がファインダーパスを取りだすと、衛兵は目を丸くしてから、俺と仲間たちとを見た。
「もしかして、以前もラクーンに来られました?」
「え?うん、これで三度目かな。覚えてるのか?」
「ええ。前回も私が担当させていただきました。ファインダーパスをお持ちの方にはなかなかお目にかからないですし、これほど変わった面子の旅人も珍しいですから」
ははは……返す言葉もないな。衛兵の彼は、にこにこしながら俺たちを通してくれた。
ひゅう。なにはともかく、俺たちは滑り込みセーフで、夕暮れ時のラクーンの町に入ることができた。昼間は活気のある市場も、今はほとんど店じまいしている。人混みが苦手なウィルは、ほっと胸を撫で下ろした。さてと、時間も時間だから、まっさきに宿へ向かうとしよう。ラクーンに来たなら、泊まる宿は一つだ。
カランカラーン。和音の音色を響かせて、扉に取り付けられたベルが鳴る。すぐにパタパタという足音が聞こえてきた。
「はぁーい。いらっしゃいま……あ!」
店の奥から出てきた女の子は、俺たちを見ると口を大きく開けて固まった。俺が声を掛けようとしたその時、女の子の後ろに大きな影がぬっと立ち、頭をペチーンと引っぱたいた。
「ふぎゃ」
「こらっ、クリス!お客さんに大口見せて、失礼だろうが!」
あはは、前にも見た光景だな。親父さんの持つ雑巾で引っぱたかれたクリスは、頭を押さえて頬を膨らませている。
「もう、何するのお父さん!そうじゃなくて、ほら!前にも来てくださった人たちだよ」
「お?おや、こいつは……やあ、あんたたちだったか!」
「や、ジルの親父さん。それに、クリスも。久しぶりだな」
俺が手を上げて挨拶すると、宿アンブレラの主人・ジルは豪快に笑いながら雑巾をぶん投げた。雑巾は吹っ飛んでいき、隅に置かれたブリキのバケツにすとんと吸い込まれる。達人芸だな。
「やあやあ、また来てくださるとは!わははは、歓迎しやすぜ。お客さんたち、晩飯はまだですかい?」
「ああ。前と同じで、俺一人分だけ貰いたいんだけど」
「了解しやした。それならアタシは、厨房に戻らないと。クリス、あとは任せていいな?」
「はい!お客様、チェックインのお手続きをしますね。前は一部屋でしたけど、おんなじでよろしいですか?」
クリスはてきぱきと、宿帳に数字を記入していく。へえ、前回を覚えていてくれたんだ。それにおどおどもしてないし、要領もよくなった。この子も成長しているんだな。
「ええと、六名様なので、お代は……」
「先払いだな。はいよ」
俺がカバンからコインを取り出していると、宿の二階へと続く階段から、ひょこっと若い女が顔をのぞかせた。
「クリス、お客さん?って、あら」
「あれ?クレアじゃないか」
クレアはクリスの姉、ジルの長女だ。自分の店を持っていて、いつもはそっちで会うから、ここで出会うのは新鮮だ。
「まさか、あなたたちに会えるだなんて。戻って来て正解だったわね」
「戻って来て?あ、そっか。クレアにとっては、ここが実家なのか」
階段から下りてきたクレアは、俺たちを見ると嬉しそうに笑った。
「戻ってきたってことは、プチ里帰りみたいなもんか?」
「まあ、そんな感じね。でも、ちょうどよかった!ねぇねぇ、あなたたち、ちょっとあたしに付き合ってよ」
「あん?付き合う?」
クレアはにこにこ笑ったまま、俺の手を取って、食堂へと引っ張っていく。フランの目がつり上がった気がしたが、引かれるままに食堂へと向かった。
食堂は相変わらず閑散としていて、俺たち以外には客はいなかった。今は食事時としては遅いから、他の客は部屋にいるのかもしれないけれど。
「クーリスぅ。おねーちゃんの好きなお酒、ちゃーんと覚えてる?」
「んもう、お姉ちゃん?お姉ちゃんはいっつも飲み過ぎるんだから、ほどほどにしないとダメだよ?」
「あーん、今日くらい堅いこと言わないの。ね、ね、ね?」
クリスはもう、と肩をすくめると、俺の方を向いた。
「桜下さんは、ご注文は?」
「じゃあ、ミートパイを貰おうかな。前と同じやつ」
「はい、かしこまりました。少々お待ちください」
クリスはぺこりとお辞儀をして、去り際にエラゼムへ熱っぽい視線を向けてから、厨房へと小走りで去っていった。ふふふ、相変わらずエラゼムに懐いているみたいだな。ウィルがほほえましく後姿を見つめている。
「ところでクレア、付き合ってくれって、もしかして酒か?だったら悪いけども」
「ああ、心配しないで。無理に飲ませようってわけじゃないから。ただ一緒にご飯食べましょって意味よ」
「それなら、まあ、構わないけど」
にしても、唐突な気もするけどな。店を空けてこっちに来ていることもそうだし、急に食事に誘うのもそうだし。ひょっとして、何かあったのかな?
すぐにクリスが、注文の品を持って戻ってきた。
「お待たせしました!ミートパイと、お姉ちゃんのリクエスト」
「わーい、ありがとー。大好きよ~」
クレアが唇をタコみたいにして迫ったので、クリスはさっと逃げてしまった。開ける前からもう酔っているらしいな?クレアが頼んだのは、ワインのようだ。線をすぽんと抜くと、グラスに赤い液体をなみなみとそそぐ。
「ねえ、桜下は飲まないでしょうけれど、他の方たちも飲まないの?せっかくだから、いっしょに飲んでくれると嬉しいんだけど」
クレアは主に、エラゼムの方を見ながらしゃべっている。確かにエラゼムが最年長ではあるんだけど、彼がワインを飲んだところで、鎧のすき間からボタボタ滴り落ちるだけだ。
「うーん、そういう事なら……アルルカ。お前確か、いける口だったよな?」
「ええー、あたし?」
俺が振ると、アルルカは面倒くさそうな顔をした。だが、俺は覚えているぞ。こいつはウィルといい勝負の、かなりの酒好きだ。めっちゃ弱いけど。
「ま、そう言わず付き合ってやれよ……クレアもなんか、話したいことがあるみたいだしな」
俺は椅子から立ち上がると、アルルカの後ろに回って、マスクに触れた。かちゃりと音を立てて、金具が外れる。マスクを持って席に戻ると、クレアが驚いた様な顔でこちらを見ていた。
「ああ、このマスクか?まあこいつには、色々と事情があってだな……」
「いえ、そっちじゃなくて。あたし、話したいことがあるなんて言ったかしら?」
「え?それこそ、そんなに驚くことか?なんかあったんだなくらい、わかるよ」
「あら、そう?ちょっと露骨過ぎたかしら」
クレアはちろりと舌を覗かせると、空いていたグラスにワインをそそいだ。要は、ヤなことがあったから酒を飲んで忘れたいってことなんだろ。わざわざ実家に帰ってきたのも、そういう理由だろう。
「でもそれなら、お言葉に甘えようかしら。今夜は騒ぐわよー!」
クレアはグラスを高々と掲げて宣言した。やれやれ、長い夜になりそうだぞ。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語
ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。
変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。
ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。
タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる