474 / 860
12章 負けられない闘い
9-2
しおりを挟む
9-2
俺たちが行き詰って沈み込んでいると、再び扉が開く音がした。
「ん、なんだ。一の国の勇者さんまでいんのか?」
現れたのは、ヘイズだ。あんの野郎、やっと戻ってきやがったな!
「ヘイズ!今、むこうの勇者さんと一緒に、あのふざけた大会について議論してたところだ」
「そうか。んんっ……一の国の勇者、クラーク殿ですね。オレは二の国の軍人、ヘイズと申します」
「どうも、ヘイズさん。それに、そんなに固くならないでください。それよりも今は、この事態をどうするかを優先しましょう」
「へへ、そう言ってもらえると助かりますよ」
ヘイズもソファにぼすっと腰かけると、俺たちの顔を見渡した。
「さて、お前さんたちはどこまで話してたんだ?」
「今は、勇演武闘のルールについて聞いてたところだよ」
「そうか。一対一形式、最大四試合。こんなところだな?」
俺はこくりとうなずく。クラークはどうしてわかったんだ?と驚いているようだ。ヘイズはこういうところでは、抜群に切れるからな。そのヘイズが口を開く。
「さてと、でだ。オレたちの方では、色々と女帝殿に対して抗議を試みてみた。だが正直、効果らしい効果はまるでないと言っていい」
「なんでだよ!ノロが全部無視したってか?」
「いや、そうじゃねえ。こっちがまともな意見を言えないんだ。考えてもみろ。俺たちはノロ女帝のご好意によって、隊長を治療してもらったばっかりだ。昨日今日と連日、盛大に歓迎もしてもらっている。とても文句が言える立場じゃねえ」
「なっ!歓迎って、あれはあっちが勝手にやった事だろ!それに、エドガーの件だって、もう済んだことだ!こういう言い方はあんまりしたくないけど、治してもらったら、あとはこっちのもんだろ?」
「いいや。治してもらったからこそ、断れねぇんだ」
「え?」
ヘイズは苦り切った顔で首を振る。
「その前だったら、こっちは声高に抗議できる。ふざけんな、人の命を天秤に掛けんのかってな。大っぴらにはしてないが、こっちはそれなりの“土産物”も持参してるんだ。その上で横柄な態度をとったら、悪役は完全にノロ女帝だ」
「な、なら、治療をしてもらった今は?」
「今を図式にするなら、寛大な心で快く頼みを聞き入れた女帝と、その恩恵にあやかったオレたちっつう形になるな。つまり、上下関係が逆転してるんだよ。施しを受けた後で、その主に文句を付けたりなんかしたら、二の国はなんて非常識な連中なんだと非難されるだろう」
「だっ……だって、こんな後出しの形で……!」
「ああ。けど、そこがあの女帝の食えないところだ。もしも法外な条件を吹っ掛けてきたのなら、こっちもそれなりの覚悟がある。だが、今回の勇演武闘は、ぎりぎり飲み込めちまうラインなんだよ。勇演武闘は、何も治外法権な殺し合いってわけじゃねぇ。三国間で取り決められた、正式な親善試合だ。開催権はどの国にも平等にある」
んなこと言われたって……クラークが前のめりになる。
「でも、僕たちからしたらいい迷惑だ!」
「そこだ。迷惑なのは、お前ら勇者だけだろ?お互いの国は一兵も出す必要がない。金もそこまで掛からねえ。かかるコストが少ないってことは、それだけ駄々をこねづらいってことでもあるんだよ」
くそ!じゃあ、あれか?それくらい大目に見ろよってノリで、ノロは押し切ろうとしているってわけかよ。断れば、空気の読めない奴ってことになるのか?ふざけんな!
ヘイズは両手を合わせると、指先で眉間をこんこんと叩く。
「だが、こちらもそう気軽に飲める条件でもねぇ。勇演武闘は、いわば戦争のミニチュアだ。国を代表する勇者同士がぶつかり、雌雄を決する。国の威信に大きくかかわる問題だ。断れるなら断りたいと思って、色々掛け合ってみたが……」
「……そこで、振りだしに戻るってわけかよ?」
「そういう事だ。こっちには切れるカードがない。おまけに女帝殿は、俺たちが一番下りにくいタイミングで勝負を仕掛けてきやがった」
「あ。あのパーティーって、もしかして……」
「そうだ。あれだけ大盛り上がりになっちゃ、引くのは難しいって寸法だ。たぶん明日の朝には、帝都中にこの話が伝わっているだろうな。帝都の全住人が、開催を待ち望んでいる。そういうプレッシャーで、こっちを逃げさせなくしてきてるんだよ」
そうだった……あん時のパーティー客の食いつきようは、ちょっと異常にすら見えるほどだった。もしもあの場で、俺たちは参加しないぞと言おうものなら……その場面を想像したのか、ウィルと、向こうのミカエルは、そろって真っ青になっていた。
俺は頭がかっかしすぎて、くらくらしてきた。ぼすっとソファにもたれる。
「ノロのやつ……考えれば考えるほど、恐ろしく周到だな。この時の為だけに、あいつはずーっと仕込みをしてたんだ……」
いつからこの計画を練っていたのだろう。そもそも、ノロの真意はなんだ?こんな強引に試合をして、一体何になる?クラークに俺をぶっ潰させて、一の国の強さを知らしめたいのだろうか。軍国主義のここでなら、ありえなくもない話だが……そんな茶番、くそくらえだ。
ヘイズは疲れたように首を振る。
「とにかく、オレたちはダメもとで抗議を続けてみる。ロア様にも報告するが、正直あまり期待はできないだろうな。ロア様と言えど、同じ理由で強くは出れないはずだ……一の国の勇者殿。あなたも戦いを望まないのであれば、力を貸してほしい。他にも誰か、力になってくれそうな人はいないか?」
クラークもまた、難しい顔をしていた。
「……何とも言えないな。知り合いはいるにはいるけれど、みんな王宮の人たちだから。けれど、できる限りはやってみます」
「よし。こうなった以上、少しでもあがいてみるしかないだろう。だが……覚悟だけは、しといたほうがいいかもしれねぇな」
俺たちの会議は、そうやって幕を閉じた。ちくしょう……
「……と、言うわけなんだけど。なんとかならないかな?」
翌日。俺たちは必死に頼み込んで、なんとかキサカにもう一度会わせてもらった。月の神殿の人たちは渋り切った顔をしていたが、こっちも藁にもすがる思いなのだ。だが、すがったはずのキサカ本人もまた、困ったような顔をしていた。
「勇演武闘ですって。まさか、こんなタイミングで……それは、困ったことになったわね」
「そうなんだよ。とんだ災難だ。こんなふざけた大会、参加したくないんだけど……」
「ええ、桜下くんの意見ももっとだわ。どうにかしてあげたいとは思うけれど……」
キサカはすまなそうに瞳を伏せる。
「あんたでも無理なのか?光の聖女様の意見なら、女帝さんも考えちゃくれないかな?」
「あの人は、一度こうと決めたら、誰の意見だって聞かないわ。それくらい意志の強い人なの。だからこそ、皇帝の座に就いているのでしょうけれど……私にあの人の気を変えさせるだけの発言力があるのなら、もっと多くの勇者の子を、救えていたでしょうね」
「そっかぁ……」
がっくりと肩を落とす。キサカは深々と頭を下げた。
「本当にごめんなさい。何の力にもなれなくて……私が無力なばっかりに……」
「やめてくれよ。急に押し掛けたのはこっちだぜ。それに、こういう相談ができる相手がいただけでも、正直助かったよ。今王宮は、どこへいっても勇演武闘一色なんだ」
「そうなの……あ、そうだわ。参考になるかは分からないけど、以前の勇演武闘では、一回しか試合が行われなかった時があったの」
「え!?それ、詳しく!」
「ええ、確か……勇者同士の一騎打ちになって、その一試合だけで大会が終わったのよ。その時の勇者のパーティーの数があまりにも多くて、それで……」
「数が多くて、か」
なるほど、なん十試合もするとなると時間が掛かり過ぎるから、そういう特例措置が取られたんだな。俺たちはそんなに大所帯じゃないが……だが、そういう例があったというだけでも収穫だ。
「サンキュー、キサカ。いいことが聞けたよ」
「ほんとう?大したことじゃないけれど……」
「いいや、過去にそういう例があったなら、今回もルールを変えられるかもしれない」
俺とやつの闘いなんて、火を見るよりも明らかってやつだ。俺の能力は、仲間が居なけりゃ役に立たない。一対一が絶対の勇演武闘との相性は最悪だ。だけど。
「俺だけで済ませられるなら、何十倍もマシだ」
俺はキサカに礼を言うと、月の神殿を後にした。
神殿からの帰り道、フランが聞き捨てならないとばかりに、俺に噛みついてくる。
「ちょっと。まさか、あなただけ戦って済ませるなんて言わないよね」
「なんでだよ?そうできるなら、それが一番手っ取り早いだろ」
「冗談言わないで!だったらわたしがあの勇者と戦う。あなた一人だけだなんて……」
「まあ、瞬殺だろうな。けど、それでいいじゃないか。たぶん一の国の連中は、俺がボコボコにされるところを見たがってんだ。なら、そこだけ見せて満足してもらえばいいだろ?」
「そんなの……」「ぜったい!」「イヤです!」
うわ。フランだけじゃなく、横からウィルが、正面からライラが詰め寄ってきた。
「な、なんだよみんな。別に死ぬわけじゃないんだし、それくらいなら……」
「どうしてですか!そんな目にあって、桜下さんは嬉しいんですか?」
「嬉しいか嬉しくないかで言ったら、そりゃいい気はしないけど」
「だったらです!桜下さんが辛い目にあうのに、賛成できるわけないでしょう!」
「いや、しかしだな……」
するとライラが、長い髪をぶんぶん振り乱して首を振る。
「そんなの、ライラはいや!桜下のかっこ悪いところを見て、みんなで笑うなんて、考えただけでいや!桜下はもっとかっこいいもん!ぜーったいいや!」
「あ、ありがとう。けど、イヤって言われてもな……まあほら、まだこうなると決まったわけじゃないから。あくまで策の一つさ。な?みんなの意見は分かったから」
なだめすかすと、ライラはとりあえず落ち着いてくれた。でもまさか、こんなに反発にあうだなんて……けど内心では、俺は実にいい案だと思っていた。開催自体が止められないのだとしたら、いかに被害を抑えるかが重要になる。もちろん最初から参加しないに越したことはないが、仲間が傷つくよりはなん百倍もマシだ。
(そう。俺一人でいい。笑い者になるのは)
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
俺たちが行き詰って沈み込んでいると、再び扉が開く音がした。
「ん、なんだ。一の国の勇者さんまでいんのか?」
現れたのは、ヘイズだ。あんの野郎、やっと戻ってきやがったな!
「ヘイズ!今、むこうの勇者さんと一緒に、あのふざけた大会について議論してたところだ」
「そうか。んんっ……一の国の勇者、クラーク殿ですね。オレは二の国の軍人、ヘイズと申します」
「どうも、ヘイズさん。それに、そんなに固くならないでください。それよりも今は、この事態をどうするかを優先しましょう」
「へへ、そう言ってもらえると助かりますよ」
ヘイズもソファにぼすっと腰かけると、俺たちの顔を見渡した。
「さて、お前さんたちはどこまで話してたんだ?」
「今は、勇演武闘のルールについて聞いてたところだよ」
「そうか。一対一形式、最大四試合。こんなところだな?」
俺はこくりとうなずく。クラークはどうしてわかったんだ?と驚いているようだ。ヘイズはこういうところでは、抜群に切れるからな。そのヘイズが口を開く。
「さてと、でだ。オレたちの方では、色々と女帝殿に対して抗議を試みてみた。だが正直、効果らしい効果はまるでないと言っていい」
「なんでだよ!ノロが全部無視したってか?」
「いや、そうじゃねえ。こっちがまともな意見を言えないんだ。考えてもみろ。俺たちはノロ女帝のご好意によって、隊長を治療してもらったばっかりだ。昨日今日と連日、盛大に歓迎もしてもらっている。とても文句が言える立場じゃねえ」
「なっ!歓迎って、あれはあっちが勝手にやった事だろ!それに、エドガーの件だって、もう済んだことだ!こういう言い方はあんまりしたくないけど、治してもらったら、あとはこっちのもんだろ?」
「いいや。治してもらったからこそ、断れねぇんだ」
「え?」
ヘイズは苦り切った顔で首を振る。
「その前だったら、こっちは声高に抗議できる。ふざけんな、人の命を天秤に掛けんのかってな。大っぴらにはしてないが、こっちはそれなりの“土産物”も持参してるんだ。その上で横柄な態度をとったら、悪役は完全にノロ女帝だ」
「な、なら、治療をしてもらった今は?」
「今を図式にするなら、寛大な心で快く頼みを聞き入れた女帝と、その恩恵にあやかったオレたちっつう形になるな。つまり、上下関係が逆転してるんだよ。施しを受けた後で、その主に文句を付けたりなんかしたら、二の国はなんて非常識な連中なんだと非難されるだろう」
「だっ……だって、こんな後出しの形で……!」
「ああ。けど、そこがあの女帝の食えないところだ。もしも法外な条件を吹っ掛けてきたのなら、こっちもそれなりの覚悟がある。だが、今回の勇演武闘は、ぎりぎり飲み込めちまうラインなんだよ。勇演武闘は、何も治外法権な殺し合いってわけじゃねぇ。三国間で取り決められた、正式な親善試合だ。開催権はどの国にも平等にある」
んなこと言われたって……クラークが前のめりになる。
「でも、僕たちからしたらいい迷惑だ!」
「そこだ。迷惑なのは、お前ら勇者だけだろ?お互いの国は一兵も出す必要がない。金もそこまで掛からねえ。かかるコストが少ないってことは、それだけ駄々をこねづらいってことでもあるんだよ」
くそ!じゃあ、あれか?それくらい大目に見ろよってノリで、ノロは押し切ろうとしているってわけかよ。断れば、空気の読めない奴ってことになるのか?ふざけんな!
ヘイズは両手を合わせると、指先で眉間をこんこんと叩く。
「だが、こちらもそう気軽に飲める条件でもねぇ。勇演武闘は、いわば戦争のミニチュアだ。国を代表する勇者同士がぶつかり、雌雄を決する。国の威信に大きくかかわる問題だ。断れるなら断りたいと思って、色々掛け合ってみたが……」
「……そこで、振りだしに戻るってわけかよ?」
「そういう事だ。こっちには切れるカードがない。おまけに女帝殿は、俺たちが一番下りにくいタイミングで勝負を仕掛けてきやがった」
「あ。あのパーティーって、もしかして……」
「そうだ。あれだけ大盛り上がりになっちゃ、引くのは難しいって寸法だ。たぶん明日の朝には、帝都中にこの話が伝わっているだろうな。帝都の全住人が、開催を待ち望んでいる。そういうプレッシャーで、こっちを逃げさせなくしてきてるんだよ」
そうだった……あん時のパーティー客の食いつきようは、ちょっと異常にすら見えるほどだった。もしもあの場で、俺たちは参加しないぞと言おうものなら……その場面を想像したのか、ウィルと、向こうのミカエルは、そろって真っ青になっていた。
俺は頭がかっかしすぎて、くらくらしてきた。ぼすっとソファにもたれる。
「ノロのやつ……考えれば考えるほど、恐ろしく周到だな。この時の為だけに、あいつはずーっと仕込みをしてたんだ……」
いつからこの計画を練っていたのだろう。そもそも、ノロの真意はなんだ?こんな強引に試合をして、一体何になる?クラークに俺をぶっ潰させて、一の国の強さを知らしめたいのだろうか。軍国主義のここでなら、ありえなくもない話だが……そんな茶番、くそくらえだ。
ヘイズは疲れたように首を振る。
「とにかく、オレたちはダメもとで抗議を続けてみる。ロア様にも報告するが、正直あまり期待はできないだろうな。ロア様と言えど、同じ理由で強くは出れないはずだ……一の国の勇者殿。あなたも戦いを望まないのであれば、力を貸してほしい。他にも誰か、力になってくれそうな人はいないか?」
クラークもまた、難しい顔をしていた。
「……何とも言えないな。知り合いはいるにはいるけれど、みんな王宮の人たちだから。けれど、できる限りはやってみます」
「よし。こうなった以上、少しでもあがいてみるしかないだろう。だが……覚悟だけは、しといたほうがいいかもしれねぇな」
俺たちの会議は、そうやって幕を閉じた。ちくしょう……
「……と、言うわけなんだけど。なんとかならないかな?」
翌日。俺たちは必死に頼み込んで、なんとかキサカにもう一度会わせてもらった。月の神殿の人たちは渋り切った顔をしていたが、こっちも藁にもすがる思いなのだ。だが、すがったはずのキサカ本人もまた、困ったような顔をしていた。
「勇演武闘ですって。まさか、こんなタイミングで……それは、困ったことになったわね」
「そうなんだよ。とんだ災難だ。こんなふざけた大会、参加したくないんだけど……」
「ええ、桜下くんの意見ももっとだわ。どうにかしてあげたいとは思うけれど……」
キサカはすまなそうに瞳を伏せる。
「あんたでも無理なのか?光の聖女様の意見なら、女帝さんも考えちゃくれないかな?」
「あの人は、一度こうと決めたら、誰の意見だって聞かないわ。それくらい意志の強い人なの。だからこそ、皇帝の座に就いているのでしょうけれど……私にあの人の気を変えさせるだけの発言力があるのなら、もっと多くの勇者の子を、救えていたでしょうね」
「そっかぁ……」
がっくりと肩を落とす。キサカは深々と頭を下げた。
「本当にごめんなさい。何の力にもなれなくて……私が無力なばっかりに……」
「やめてくれよ。急に押し掛けたのはこっちだぜ。それに、こういう相談ができる相手がいただけでも、正直助かったよ。今王宮は、どこへいっても勇演武闘一色なんだ」
「そうなの……あ、そうだわ。参考になるかは分からないけど、以前の勇演武闘では、一回しか試合が行われなかった時があったの」
「え!?それ、詳しく!」
「ええ、確か……勇者同士の一騎打ちになって、その一試合だけで大会が終わったのよ。その時の勇者のパーティーの数があまりにも多くて、それで……」
「数が多くて、か」
なるほど、なん十試合もするとなると時間が掛かり過ぎるから、そういう特例措置が取られたんだな。俺たちはそんなに大所帯じゃないが……だが、そういう例があったというだけでも収穫だ。
「サンキュー、キサカ。いいことが聞けたよ」
「ほんとう?大したことじゃないけれど……」
「いいや、過去にそういう例があったなら、今回もルールを変えられるかもしれない」
俺とやつの闘いなんて、火を見るよりも明らかってやつだ。俺の能力は、仲間が居なけりゃ役に立たない。一対一が絶対の勇演武闘との相性は最悪だ。だけど。
「俺だけで済ませられるなら、何十倍もマシだ」
俺はキサカに礼を言うと、月の神殿を後にした。
神殿からの帰り道、フランが聞き捨てならないとばかりに、俺に噛みついてくる。
「ちょっと。まさか、あなただけ戦って済ませるなんて言わないよね」
「なんでだよ?そうできるなら、それが一番手っ取り早いだろ」
「冗談言わないで!だったらわたしがあの勇者と戦う。あなた一人だけだなんて……」
「まあ、瞬殺だろうな。けど、それでいいじゃないか。たぶん一の国の連中は、俺がボコボコにされるところを見たがってんだ。なら、そこだけ見せて満足してもらえばいいだろ?」
「そんなの……」「ぜったい!」「イヤです!」
うわ。フランだけじゃなく、横からウィルが、正面からライラが詰め寄ってきた。
「な、なんだよみんな。別に死ぬわけじゃないんだし、それくらいなら……」
「どうしてですか!そんな目にあって、桜下さんは嬉しいんですか?」
「嬉しいか嬉しくないかで言ったら、そりゃいい気はしないけど」
「だったらです!桜下さんが辛い目にあうのに、賛成できるわけないでしょう!」
「いや、しかしだな……」
するとライラが、長い髪をぶんぶん振り乱して首を振る。
「そんなの、ライラはいや!桜下のかっこ悪いところを見て、みんなで笑うなんて、考えただけでいや!桜下はもっとかっこいいもん!ぜーったいいや!」
「あ、ありがとう。けど、イヤって言われてもな……まあほら、まだこうなると決まったわけじゃないから。あくまで策の一つさ。な?みんなの意見は分かったから」
なだめすかすと、ライラはとりあえず落ち着いてくれた。でもまさか、こんなに反発にあうだなんて……けど内心では、俺は実にいい案だと思っていた。開催自体が止められないのだとしたら、いかに被害を抑えるかが重要になる。もちろん最初から参加しないに越したことはないが、仲間が傷つくよりはなん百倍もマシだ。
(そう。俺一人でいい。笑い者になるのは)
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語
ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。
変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。
ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。
タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる