473 / 860
12章 負けられない闘い
9-1 勇演武闘
しおりを挟む
9-1 勇演武闘
「勇、演、武闘……?」
聞きなれない言葉だ。ブトウ、という響きから、なんやかしらの戦いなんだろうとは推測できるが……
「なっ……勇演武闘だって……!」
クラークは目を見開き、あごを震わせている。奴は、これが何なのか知っているようだが……俺が訊ねようとした瞬間、パーティー客たちの方から、爆発したような歓声が上がった。ワアァァァァ!
「勇演武闘だって!?いつ以来の開催だろうか!」
「またあの戦いが見られるのね!」
な、なんなんだ、この盛り上がりようは?そんなにいいものなのか?歓声がひと段落すると、再びノロが口を開く。
「結構、けっこう。諸君らも待ちわびていたようだな。前回が確か、五年ほど前になるか?あの時も素晴らしい試合が繰り広げられたが、今回はきっと、それを上回ってくれることだろう。さて、日時など細かいところは、彼らから伝えよう」
ノロが手を叩くと、いつものターバンを巻いた臣下が前に出てきて、日時や会場などのこまこまとした説明を始めた。だってのに、くそ!肝心の内容にちっとも触れやしない!結局何をするのか分からずじまいじゃないか。俺は今度こそ、唖然とするクラークに詰め寄る。
「おい、クラーク!なんなんだ、その勇演武闘って!」
「……」
「おいったら!」
「……勇演、武闘は……一対一形式で行われる、親善試合だ……」
「親善試合だと……?おい、まさか。その試合で戦うのって……」
「そうさ……勇者と、その仲間たち。勇演武闘は、勇者同士の戦いのことだ」
「なんだって……!」
馬鹿な!どうして勇者たちが戦うことになるんだ!?
「そんなふざけたことがあるか!勇者の能力は、下手したら町一つぶっとばしちまうんだぞ!そんなんがぶつかり合ったら……」
「ああ……だが、何も本気で戦うわけじゃないんだ。言っただろう、親善試合だと。いわば、模擬戦闘だ。命を落とすような事にはまずならない」
な、なんだ。少しほっとしたが、それですべてが解決したわけじゃない。フランが俺たちの間に割って入る。
「ふざけないで!そんな馬鹿げたことに、どうして参加しなくちゃならないの!」
「い、いや、僕だって何が何だか……」
フランに詰め寄られて、うろたえるクラーク。そこにコルルが助太刀する。
「やめなさいよ!あたしたちだって、何が何だか、意味わかんないんだから!」
「どうだか。お前たちがこうなるように仕組んだんじゃないの?仕返しの為に」
「ちがっ、違うわよ!本当に今知ったの!あたしたちだって、寝耳に水だわ……まさか、あたしたちが勇演武闘に参加することになるなんて……」
コルルは本気でうろたえているようだ。クラークの様子と言い、こいつらもマジで知らなかったってことか。けどそれだと、出場者が何も知らされてないことになるぞ?
アドリアが眉間にしわを寄せる。
「どうやら、私たちで言い合いをしても無駄なようだ。当事者である私たちが完全に蚊帳の外とは、まったく」
エラゼムも深刻そうにうなずいた。
「なかなか笑える状況ですが、とても呵々と笑う気にはなれませぬな。とりあえずは、きちんとした情報を集めたいところです。そちらに当ては?」
「ああ、一の国の王宮勤めの知り合いがいる。そこに話を聞いてこよう」
言うが早いか、アドリアはくるりと踵を返して走っていった。エラゼムが俺の方を向く。
「桜下殿。吾輩たちは、ヘイズ殿にお話を伺ってみてはいかがか?」
「そ、そうだな。よし、行ってみよう……っと、その前に」
俺は駆け出す前に、困惑顔のままのクラークに声を掛ける。
「おい、おたくらはどこに泊まってるんだ?こうなった以上、今は一時休戦だ。後で情報を共有しようぜ」
「あ、ああ。王宮の部屋を借りている。行き方は……いや、僕がそっちに行ったほうが早いな。君たちは、あのレストハウスにいるんだろう?後でそっちに行くよ」
「わかった。それじゃ、あとで」
手短に言葉を交わすと、俺は足早に歩きだした。客の中から、ヘイズを探さないと。
「勇演武闘……なんだか、嫌な予感がします」
ウィルが困ったような、怯えたような顔でつぶやく。
「ああ、まったくだ。くそ!」
勇者同士の戦いだと?それにクラークは、勇者の仲間たちもと言っていた。てことは、フランたちまで戦いに参加するってことか?ふざけんな!
怒れるままにずんずん進むと、ヘイズが数人の兵士たちと一緒に固まっているのを見つけた。
「ヘイズ!」
俺が怒鳴るように呼ぶと、ヘイズはこちらを向いた。その顔は強張り、それが事態の深刻さを物語っているようだ。
「ああ、来たか。ちょうどいい、探しに行こうと思ってたところだ」
「くそ、どうなってんだよ。知ってるか?勇演武闘ってのは……」
「勇者同士の闘いの事。お前も知ってたか。なら、どうしてオレがこんな顔してるのかもわかるな?」
「……ちっ。なんにも知らされてなかったのか?」
「ああ……クソが。何かしてくるとは思ってはいたが、まさかこう出て来るとは……完全にしてやられた」
ヘイズは苦々し気に舌打ちをした。
「なあ、冗談じゃないぜ。今まではエドガーの事と、ロアの頼みでもあったから、パーティーだなんだと付き合ってきたけどな。さすがにこれはやり過ぎだろ!どうにかできないのかよ?」
「わかってる!その方法を今探ってるところだ。さすがにロア様だって、こうなるとは思ってなかったはずだ」
ヘイズは相当に焦っているようだ。イライラとせわしなく足を揺すっている。これじゃ話を聞くのは無理そうだな……焦る気持ちとは裏腹に、俺たちは何もできないまま、時間だけが過ぎていく。くそったれ、勇者同士の闘いなのに、どうして元勇者の俺が、一番なんにも知らないんだ!
結局そのまま、パーティーはお開きとなった。客たちは、それぞれに興奮し、期待に満ちた顔で王宮を離れて行く。人の気も知らないでってのは、こういう時にピッタリの言葉だ。ちくしょう。
何もできない俺たちは、やきもきしながらも、とりあえず先にレストハウスに戻ることにした。ヘイズら数人の兵士たちはまだ会場に残っているみたいだったが、俺がいて何かできることがあるわけでもない。玄関ホールのソファに腰かけ、じりじりとヘイズたちの帰りを待つしかない。
ガチャリと、扉が開いた。
「っ!ヘイズか!?」
「えっ?」
俺はソファから飛び上がり、扉の方へくわっと振り向いた。しかしそこに立っていたのは……
「あ?なんだ、お前かよ……」
「な、なんだとはなんだよ!後で行くと言ったじゃないか!」
扉から顔をのぞかせていたのは、金髪の少年。クラークだった。後ろには奴の仲間もいる。
「悪い、わるい。ちょうど他の人を待ってたんだ。でもちょうどいいや、そっちはどうだった?」
今は情報に飢えていたところだ。俺はクラークたちを手招きして、ソファに座らせた。腰かけるやいなや、クラークは苦り切った表情で口を開く。
「単刀直入に言えば……今回の勇演武闘、なかったことにするのは無理そうだ」
「な!おいおい。冗談じゃねーぞ!」
「ああ、僕らだってそうさ!だが、こればっかりは無理なんだ。今回の発起人は、ノロ様その人なんだから」
ぐあぁ、やっぱりそうか。あの女帝め、何考えてやがるんだ?
「おい。女帝が発起人だと困るって言うのは、お前んとこのトップだからってことか?」
「ああ……僕らも一の国に所属している以上、ノロ様の意向に面と向かって歯向かうことは難しい。それに、前も話したろう。ノロ様は、気まぐれで大勢を巻き込むことがあるって。気まぐれにも波があるんだけど、今回はまさに、それの特大のやつなんだよ」
「特大だと……?おいまさか、昨日今日の思い付きじゃないってことか?つまり、俺を呼んだのも……」
「どうやら、そのようだ。ノロ様は方々に手回しして、勇演武闘の準備を水面下で進めていたらしい」
「なんてこった……」
じゃあ、俺がこの国に来た時点で、すでに女帝の策略にはまってたっいてことかよ?ああ、クソッ、そういうことか。ノロの真の狙いは、これだったんだ!エドガーの治療にかこつけた、勇演武闘の開催!最初から、このために……!
「一の国の王宮は、完全に勇演武闘ムード一色だ。いまさら僕がごねたところで、聞き入れてはもらえないと思う」
「……ちっくしょうが。お前らとはこれまで何度もやりあって来たけどな、見世物になるために戦ってきたわけじゃねーぞ!ごめんだ、そんな大会!」
「わかってるよ!僕らだって、乗り気なわけじゃない!正義の為ならともかく、こんな暴力的な、単なる力比べの為に戦うなんて……」
「ふん、どうだか。おたくの雷魔法があれば、俺なんかイチコロだ。ほんとはいい機会だとでも思ってるんじゃないか?」
ガタン!ソファをぶっ飛ばす勢いで、クラークが立ち上がった。
「ふざけるな!勇演武闘は、僕だけが戦えば済む話じゃない!こっちには、戦いが苦手な仲間もいるんだぞ!」
俺ははっとして、クラークの仲間の一人、小柄なシスター・ミカエルを見た。ミカエルはキュッと口元を引き結んで、体をこわばらせている。顔は真っ白だ。
「そっちの人数の方が多い以上、ミカエルは必ず参加しなければいけないんだ。この事態が不服なのは、そっちだけじゃないんだぞ……!」
「……ちっ。悪かったよ」
俺は素直に謝った。今のは、俺が悪い。だけど、分からないところもある。
「さっき、こっちの数が多いから、おたくらは必ず参加することになる、とか言ったよな。それってどういう意味だ?そもそも、勇演武闘ってのはどういうルールになってる?」
クラークは俺を睨むと、再びソファに座りなおした。そしてぶすっとした顔で口を開く。
「勇演武闘は、一対一形式で行われる。勇者とその仲間たち、全員が必ず一度は戦うようにカードが組まれるんだ」
ぜ、全員だと?俺は思わず、ライラの方を見た。こんな小さな子にまで戦えって言うのか!しかしそれを見たクラークは、ゆるゆると首を振った。
「大丈夫だよ。勇演武闘では、一度戦った人はそれ以降、戦いに参加してはならないんだ。つまり、戦うのは一度だけ。僕らが四人、そっちが五人だから、一人は参加しなくてもいいことになる」
な、なんだ……じゃあ、ライラは不参加でオッケーだな。いや、そもそも誰一人参加させたくはないが……ライラは自分も戦えるぞとばかりにむっとしたが、いくら何でもそれは許可できない。たった一人で、クラークみたいな奴と戦わせられるか。
「しかし、そうか。だからそっちは、フルメンバーじゃなきゃいけなくなってるんだな」
「そういうことだよ……それ以外の理由で、参加を拒否することはできない。たとえシスターであっても、舞台にあがらなきゃいけないんだ」
「ふざけたルールだ……それ、棄権とかできないのか?」
「まだ分からない。ただ、もしそれが可能なら、全試合棄権で不戦勝、なんてことができるんだけれど」
「そんな腑抜けた試合、あの女帝が認めるはずない、か……」
「ああ……」
くそが。聞けば聞くほど、逃げ場がなくなっていく気がするぞ。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
「勇、演、武闘……?」
聞きなれない言葉だ。ブトウ、という響きから、なんやかしらの戦いなんだろうとは推測できるが……
「なっ……勇演武闘だって……!」
クラークは目を見開き、あごを震わせている。奴は、これが何なのか知っているようだが……俺が訊ねようとした瞬間、パーティー客たちの方から、爆発したような歓声が上がった。ワアァァァァ!
「勇演武闘だって!?いつ以来の開催だろうか!」
「またあの戦いが見られるのね!」
な、なんなんだ、この盛り上がりようは?そんなにいいものなのか?歓声がひと段落すると、再びノロが口を開く。
「結構、けっこう。諸君らも待ちわびていたようだな。前回が確か、五年ほど前になるか?あの時も素晴らしい試合が繰り広げられたが、今回はきっと、それを上回ってくれることだろう。さて、日時など細かいところは、彼らから伝えよう」
ノロが手を叩くと、いつものターバンを巻いた臣下が前に出てきて、日時や会場などのこまこまとした説明を始めた。だってのに、くそ!肝心の内容にちっとも触れやしない!結局何をするのか分からずじまいじゃないか。俺は今度こそ、唖然とするクラークに詰め寄る。
「おい、クラーク!なんなんだ、その勇演武闘って!」
「……」
「おいったら!」
「……勇演、武闘は……一対一形式で行われる、親善試合だ……」
「親善試合だと……?おい、まさか。その試合で戦うのって……」
「そうさ……勇者と、その仲間たち。勇演武闘は、勇者同士の戦いのことだ」
「なんだって……!」
馬鹿な!どうして勇者たちが戦うことになるんだ!?
「そんなふざけたことがあるか!勇者の能力は、下手したら町一つぶっとばしちまうんだぞ!そんなんがぶつかり合ったら……」
「ああ……だが、何も本気で戦うわけじゃないんだ。言っただろう、親善試合だと。いわば、模擬戦闘だ。命を落とすような事にはまずならない」
な、なんだ。少しほっとしたが、それですべてが解決したわけじゃない。フランが俺たちの間に割って入る。
「ふざけないで!そんな馬鹿げたことに、どうして参加しなくちゃならないの!」
「い、いや、僕だって何が何だか……」
フランに詰め寄られて、うろたえるクラーク。そこにコルルが助太刀する。
「やめなさいよ!あたしたちだって、何が何だか、意味わかんないんだから!」
「どうだか。お前たちがこうなるように仕組んだんじゃないの?仕返しの為に」
「ちがっ、違うわよ!本当に今知ったの!あたしたちだって、寝耳に水だわ……まさか、あたしたちが勇演武闘に参加することになるなんて……」
コルルは本気でうろたえているようだ。クラークの様子と言い、こいつらもマジで知らなかったってことか。けどそれだと、出場者が何も知らされてないことになるぞ?
アドリアが眉間にしわを寄せる。
「どうやら、私たちで言い合いをしても無駄なようだ。当事者である私たちが完全に蚊帳の外とは、まったく」
エラゼムも深刻そうにうなずいた。
「なかなか笑える状況ですが、とても呵々と笑う気にはなれませぬな。とりあえずは、きちんとした情報を集めたいところです。そちらに当ては?」
「ああ、一の国の王宮勤めの知り合いがいる。そこに話を聞いてこよう」
言うが早いか、アドリアはくるりと踵を返して走っていった。エラゼムが俺の方を向く。
「桜下殿。吾輩たちは、ヘイズ殿にお話を伺ってみてはいかがか?」
「そ、そうだな。よし、行ってみよう……っと、その前に」
俺は駆け出す前に、困惑顔のままのクラークに声を掛ける。
「おい、おたくらはどこに泊まってるんだ?こうなった以上、今は一時休戦だ。後で情報を共有しようぜ」
「あ、ああ。王宮の部屋を借りている。行き方は……いや、僕がそっちに行ったほうが早いな。君たちは、あのレストハウスにいるんだろう?後でそっちに行くよ」
「わかった。それじゃ、あとで」
手短に言葉を交わすと、俺は足早に歩きだした。客の中から、ヘイズを探さないと。
「勇演武闘……なんだか、嫌な予感がします」
ウィルが困ったような、怯えたような顔でつぶやく。
「ああ、まったくだ。くそ!」
勇者同士の戦いだと?それにクラークは、勇者の仲間たちもと言っていた。てことは、フランたちまで戦いに参加するってことか?ふざけんな!
怒れるままにずんずん進むと、ヘイズが数人の兵士たちと一緒に固まっているのを見つけた。
「ヘイズ!」
俺が怒鳴るように呼ぶと、ヘイズはこちらを向いた。その顔は強張り、それが事態の深刻さを物語っているようだ。
「ああ、来たか。ちょうどいい、探しに行こうと思ってたところだ」
「くそ、どうなってんだよ。知ってるか?勇演武闘ってのは……」
「勇者同士の闘いの事。お前も知ってたか。なら、どうしてオレがこんな顔してるのかもわかるな?」
「……ちっ。なんにも知らされてなかったのか?」
「ああ……クソが。何かしてくるとは思ってはいたが、まさかこう出て来るとは……完全にしてやられた」
ヘイズは苦々し気に舌打ちをした。
「なあ、冗談じゃないぜ。今まではエドガーの事と、ロアの頼みでもあったから、パーティーだなんだと付き合ってきたけどな。さすがにこれはやり過ぎだろ!どうにかできないのかよ?」
「わかってる!その方法を今探ってるところだ。さすがにロア様だって、こうなるとは思ってなかったはずだ」
ヘイズは相当に焦っているようだ。イライラとせわしなく足を揺すっている。これじゃ話を聞くのは無理そうだな……焦る気持ちとは裏腹に、俺たちは何もできないまま、時間だけが過ぎていく。くそったれ、勇者同士の闘いなのに、どうして元勇者の俺が、一番なんにも知らないんだ!
結局そのまま、パーティーはお開きとなった。客たちは、それぞれに興奮し、期待に満ちた顔で王宮を離れて行く。人の気も知らないでってのは、こういう時にピッタリの言葉だ。ちくしょう。
何もできない俺たちは、やきもきしながらも、とりあえず先にレストハウスに戻ることにした。ヘイズら数人の兵士たちはまだ会場に残っているみたいだったが、俺がいて何かできることがあるわけでもない。玄関ホールのソファに腰かけ、じりじりとヘイズたちの帰りを待つしかない。
ガチャリと、扉が開いた。
「っ!ヘイズか!?」
「えっ?」
俺はソファから飛び上がり、扉の方へくわっと振り向いた。しかしそこに立っていたのは……
「あ?なんだ、お前かよ……」
「な、なんだとはなんだよ!後で行くと言ったじゃないか!」
扉から顔をのぞかせていたのは、金髪の少年。クラークだった。後ろには奴の仲間もいる。
「悪い、わるい。ちょうど他の人を待ってたんだ。でもちょうどいいや、そっちはどうだった?」
今は情報に飢えていたところだ。俺はクラークたちを手招きして、ソファに座らせた。腰かけるやいなや、クラークは苦り切った表情で口を開く。
「単刀直入に言えば……今回の勇演武闘、なかったことにするのは無理そうだ」
「な!おいおい。冗談じゃねーぞ!」
「ああ、僕らだってそうさ!だが、こればっかりは無理なんだ。今回の発起人は、ノロ様その人なんだから」
ぐあぁ、やっぱりそうか。あの女帝め、何考えてやがるんだ?
「おい。女帝が発起人だと困るって言うのは、お前んとこのトップだからってことか?」
「ああ……僕らも一の国に所属している以上、ノロ様の意向に面と向かって歯向かうことは難しい。それに、前も話したろう。ノロ様は、気まぐれで大勢を巻き込むことがあるって。気まぐれにも波があるんだけど、今回はまさに、それの特大のやつなんだよ」
「特大だと……?おいまさか、昨日今日の思い付きじゃないってことか?つまり、俺を呼んだのも……」
「どうやら、そのようだ。ノロ様は方々に手回しして、勇演武闘の準備を水面下で進めていたらしい」
「なんてこった……」
じゃあ、俺がこの国に来た時点で、すでに女帝の策略にはまってたっいてことかよ?ああ、クソッ、そういうことか。ノロの真の狙いは、これだったんだ!エドガーの治療にかこつけた、勇演武闘の開催!最初から、このために……!
「一の国の王宮は、完全に勇演武闘ムード一色だ。いまさら僕がごねたところで、聞き入れてはもらえないと思う」
「……ちっくしょうが。お前らとはこれまで何度もやりあって来たけどな、見世物になるために戦ってきたわけじゃねーぞ!ごめんだ、そんな大会!」
「わかってるよ!僕らだって、乗り気なわけじゃない!正義の為ならともかく、こんな暴力的な、単なる力比べの為に戦うなんて……」
「ふん、どうだか。おたくの雷魔法があれば、俺なんかイチコロだ。ほんとはいい機会だとでも思ってるんじゃないか?」
ガタン!ソファをぶっ飛ばす勢いで、クラークが立ち上がった。
「ふざけるな!勇演武闘は、僕だけが戦えば済む話じゃない!こっちには、戦いが苦手な仲間もいるんだぞ!」
俺ははっとして、クラークの仲間の一人、小柄なシスター・ミカエルを見た。ミカエルはキュッと口元を引き結んで、体をこわばらせている。顔は真っ白だ。
「そっちの人数の方が多い以上、ミカエルは必ず参加しなければいけないんだ。この事態が不服なのは、そっちだけじゃないんだぞ……!」
「……ちっ。悪かったよ」
俺は素直に謝った。今のは、俺が悪い。だけど、分からないところもある。
「さっき、こっちの数が多いから、おたくらは必ず参加することになる、とか言ったよな。それってどういう意味だ?そもそも、勇演武闘ってのはどういうルールになってる?」
クラークは俺を睨むと、再びソファに座りなおした。そしてぶすっとした顔で口を開く。
「勇演武闘は、一対一形式で行われる。勇者とその仲間たち、全員が必ず一度は戦うようにカードが組まれるんだ」
ぜ、全員だと?俺は思わず、ライラの方を見た。こんな小さな子にまで戦えって言うのか!しかしそれを見たクラークは、ゆるゆると首を振った。
「大丈夫だよ。勇演武闘では、一度戦った人はそれ以降、戦いに参加してはならないんだ。つまり、戦うのは一度だけ。僕らが四人、そっちが五人だから、一人は参加しなくてもいいことになる」
な、なんだ……じゃあ、ライラは不参加でオッケーだな。いや、そもそも誰一人参加させたくはないが……ライラは自分も戦えるぞとばかりにむっとしたが、いくら何でもそれは許可できない。たった一人で、クラークみたいな奴と戦わせられるか。
「しかし、そうか。だからそっちは、フルメンバーじゃなきゃいけなくなってるんだな」
「そういうことだよ……それ以外の理由で、参加を拒否することはできない。たとえシスターであっても、舞台にあがらなきゃいけないんだ」
「ふざけたルールだ……それ、棄権とかできないのか?」
「まだ分からない。ただ、もしそれが可能なら、全試合棄権で不戦勝、なんてことができるんだけれど」
「そんな腑抜けた試合、あの女帝が認めるはずない、か……」
「ああ……」
くそが。聞けば聞くほど、逃げ場がなくなっていく気がするぞ。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語
ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。
変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。
ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。
タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【短編】冤罪が判明した令嬢は
砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。
そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる