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12章 負けられない闘い

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クラークたちが去って、また俺たちだけになった。踊り子のレベッカから始まって、アルア、ノロ、クラークたちと、ひっきりなしに来客があったな。けど考えてみれば、こういうパーティーってのは、そうやっていろんな人と会うことを目的にしているのか。社交界、って言うくらいだしな。

「……さっきの話、どう思った?」

俺は二人に訊ねてみる。二人ってのは、この場にいるフランとアルルカにってことだ。

「……わたしは、とくに。セカンドが嫌な奴だったってことくらい」

フランがそっけなく言った。

「その……ごめんな。セカンドの話なんて、聞きたくなかっただろ」

「いいよ。あいつのことはキライだけど、もうあんまり気にしないことにしたから」

「そう……なのか?」

「うん。わたしはわたし。そう言ってくれたでしょ」

フランが薄く微笑む。いつかに王都で、俺が彼女に言った言葉だ。よかった、そこまで気にしてはいないようだ。

「ならアルルカは?お前は戦争の事、知ってたのか?」

「あたし?まさか。ヴァンパイアが人間の戦争になんて興味持つわけないでしょ」

「さいで……」

「でも、マヌケな奴だと思ったわね。そのファーストとかいうやつ」

「ばっ……」

俺は慌てて、あたりを見渡した。幸い、近くには誰もいない。今の言動を聞かれてはいなさそうだ。

「お前なぁ!そういうこと、絶対人がいるところで言うなよ」

「だぁって、そう思わない?女と乳繰り合ってたところをぶっ殺されたんでしょ。大マヌケじゃない」

「……乳繰ってはなかったぞ。キスだけだ」

「そうだった?まあ、どっちも同じようなもんよ。そういうあんたは?」

「俺?」

「あんたはさっきの話、どういう風に聞いてたわけよ」

俺は、か。そりゃ、ファーストは気の毒だと思うし、セカンドは卑怯だとか、いろいろ思うところはあったけど。そういう、あたりさわりのない事を言ってもしょうがないよな。今話しをしているのは、フランとアルルカなんだし。

「……そうだな。正直俺も、ファーストはあんまり好きじゃない」

アルルカはへぇ?と笑みを浮かべ、フランは目を丸くした。

「それ、どういう事?あなたもこのヴァンパイアと同じってこと?」

「いや、そうじゃない。なんて言ったらいいのか……嫌いってわけじゃないんだ。むしろ、ファーストはイメージ通りだったよ。正義感が強くて、リーダーシップもある。理想の勇者像だ。だからって言うのかな」

「ああ……なんとなくわかったかも。ようは、さっきの金髪勇者みたいだってこと?」

「うん、そういうことだな。苦手っていうのがいいのか。友達にはなれないタイプっていうか……こう言うと、誤解されそうだけどさ。たぶん本質としては、俺はファーストより、セカンドに近い人間なんだ」

「え?」

フランが驚いたように目を見開く。

「もう知ってるだろうけど。俺もさ、みんなに囲まれるよりは、孤立してることが多かったんだ。そんな時に、どうして一人でいるんだ、みんなと一緒にいないとダメじゃないか!なんて言われたら、たぶん俺もむっとしてたと思うんだよな」

小学校の頃は、そういう事が多かった。先生とか、クラス委員長みたいな係の生徒が、休み時間でも席から立たない俺を外に引っ張っていこうとしたっけ。外ではみんなが紅白帽をかぶってドッチボールをやっていたが、帽子を変えるのが嫌だった俺は、頑なにそれを拒み続けていた。

「そう考えると、ファーストはちょっとお堅いところもあったのかもな。魔王とのやりとりでも、向こうの言い分をちっとも聞こうとしなかったみたいだし。あ、けど、それが悪いって言いたいわけじゃないんだぜ。そんな奴だからこそ、みんなに英雄って認められて、魔王を倒すことができたんだろうから……」

うーん、自分でも何が言いたいのか分からなくなってしまった。ファーストは偉大だと思う。俺がこの世界で十年過ごしても、彼のようには絶対になれない自信がある。だけど一方で、彼のようにはなりたくないとも思ってしまうんだ。俺は、彼に嫉妬しているのだろうか?それとも全然タイプの異なる人間に、拒絶反応を起こしているのだろうか。

「……ま、俺がひねくれてるってだけだな。ははは」

俺はそう結論付けた。きっとクラークなら、一も二もなくファーストを絶賛し、セカンドを激しく罵っただろう。きっとそれが正解だし、だからこそ俺は勇者失格なんだ。

「……」

フランは難しい顔をしている。セカンドに似ているなんて言ったけど、誤解されてやしないだろうか?逆にアルルカは、満足そうにうなずいていた。

「あんた、なかなかいいこと言うじゃない。あたしも同意見よ」

「え?あんまり嬉しくないな……」

「んなっ、素直じゃないわね……いいのよいいのよ、照れなくて。前にも言ったじゃない。正義ってのは、声高に宣言すればするほど、味気なくて面白みのないものになっていくんだから。あんたは間違っちゃないわよ」

ふ、複雑だな。こいつに肯定されると……するとずっと黙っていたフランが、俺の袖をつかんで、口を開いた。

「……わたしは、あなたとセカンドは違うと思う。似ているところがあるのはわかったけど、やっぱり違うよ。あいつは悪で、あなたはいいひとだもん」

「え?そう、か?うーん、まああいつほどの悪人じゃないつもりだけど……」

「うん。でも、あなたが言いたいことも理解できる気がする。わたしも、ファーストとは友達になれなかったと思う。もしあなたがファーストみたいな人だったら、好きにならなかったと思うから」

「そ、そう、か」

俺は掴まれていないほうの手で、頬をぽりぽりかいた。

「え?なーにあんたたち、もしかしてもう付き合ってんの?」

うわ。いきなりアルルカが、俺たちの間に首を突っ込んできた。フランは慌てて俺の袖を放したが、手遅れだ。アルルカは楽しいおもちゃを見つけた瞳で、俺とフランを交互に見比べる。

「んん~?でもそれにしちゃ、変ね。あんたは相変わらず女慣れしないし、ゾンビっ娘は相変わらずおぼこいわ」

「う、うるさい!お前には関係ないでしょ!」

フランが顔を赤らめて反撃する。おぼこいってどういう意味だ?

「関係ない事ないでしょ。あんたたちがうだうだやってんのは、嫌でもこっちの目に入ってくるんだから。あたしも当事者よ」

「だとしたら、余計なお世話だ!お前に話す事なんかない!」

「ま、そうよね。もし既成事実の一つでも作れてるんなら、もっと匂っていいはずだし」

「匂い?」

「そーよ。あんたたち、いつまでたっても乳臭い、ガキの匂いしかしないわ」

「……じゃあそっちは、加齢臭だね。年増のヴァンパイアさん」

「なぁ!?なんですって!この美貌を前にして、よくそんなことが言えたわね!」

「事実を言ったまでだ!」

「……お前たち、もー少し声を抑えてくれな。そしたらなんも言わないから」

もうこの二人のケンカにも、だんだん慣れてきたな。俺が見てれば、さいあく殴り合いになっても止められるんだし。深く気にしないほうがいいのかもしれない。

「っとに、生意気な小娘なんだから……だいたい、あんた!」

「え?俺?」

アルルカがびしっと、俺に指を突きつける。

「なんであんたは、ずーっと手ぇ出さないのよ!このチビ娘から告られたんでしょ!」

「い、いや、そういうのは俺、よくわかんないから……」

「なーにカマトトぶってんのよ。あんたも男なんだから、つくものついてんでしょうが」

うっ。そう言われると、そりゃ……俺だって男だ。興味がないと言ったら、噓になるけど……

「いい加減にして!これはわたしたちのことだ!口挟むな!」

フランはアルルカを押しのけて、俺との間に割って入った。む、この声は、割と本気で怒っている声だぞ。前言撤回、そろそろ止めないとまずいか。

「アルルカ、その辺にしてくれ。フランも。こいつだって、百パーセント悪意でからかってるわけじゃないんだから……たぶん」

アルルカなりに、俺たちのことを心配してくれたのだ……ポジティブに捉えれば。フランは到底そうは思えないようで、ぎりぎりと歯を噛みしめている。

「それとアルルカ、その、このことはあんまり言いふらさないでくれよ。フランも言ったけど、これは俺たちの間のことなんだ」

「えぇ?どうせほかの連中も気付いてるわよ……まあけど、わざわざ面倒なことする気はないわ」

「助かる。ところで……俺たちって、そんなに分かりやすいか?」

「やすいといえばそうだけど、むしろよく分かんなくなったわ。どうしてここまできてくっ付いてないのか、ってね」

「……まあ、な。俺にもいろいろあるんだよ」

フランの告白は、俺の中でもかなり大きな出来事だ。とても軽くは扱えない。それにまだ、俺は彼女の好意を受け取る自信がついていない……

「……なんか、くたびれたな」

俺は肩を落として、小さくため息をついた。次々と訪れる来客、慣れない場所、ケンカの仲裁。さっきまで小難しい話を聞いていたのもあって、肩が凝ってきた。このパーティーはいつまで続くんだろう?いいかげん、仮面も窮屈だ。部屋に引っ込みたくなってきたぞ。

「そういや、ライラとウィルも遅いな?なにか手間取ってるのかな」

あの二人がレベッカと一緒に行ってから、アルアが来て、ノロが来て、クラークたちが来た。もうかなり時間が経ったはずだが……



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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