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6章 風の守護する都
7-3
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7-3
「来ませんね……」
兵士の内の誰かが、そうつぶやいた。
「王女の奴、びびって逃げ出したんじゃねーか?」
また誰かが、舌打ちをして愚痴をこぼす。
「時間の無駄なんじゃないのかね。とっとと攻め落としちまえばいーのに」
「まったくだ。あのすごいバケモノを使ってな」
ぶつくさと文句を言う兵士たちを見て、ハルペリン卿は焦っていた。彼らが文句を言いたくなるのも無理はない。王都を囲う城壁を突破し、王城の一歩手前に至るまで、ハルペリン卿の軍は破竹の快進撃で進んできたのだ。それをあと一歩のところで、高い壁に阻まれ手をこまねいている。煮え切らないのは、ハルペリン卿も同じだった。
「チッ。ジェイのやつ、王女に降伏勧告などして、いったい何をひよっているのだ。この勢いのまま攻め切ればいいだろうに……こうなったら、私が直接文句を……」
ハルペリン卿が業を煮やして、ジェイのもとへ向かおうとしたその時だった。
ダァーン!
突如鳴り響いた衝撃音に、ハルペリン卿を含めた兵士たちは、シーンと静まり返った。組まれたやぐらの上で、ハルペリン卿の腹心・ジェイが、手に持った棍棒を床にしたたか打ち付けたのだ。
「……少し、黙っていただけませんかねぇ。まだ、私の作戦は終わっていないのですよ?」
ジェイは今にも棍棒を握りつぶしそうな勢いであったが、かろうじて踏みとどまった。
「まったく、あなたたちの女王も、ずいぶんお尻の重いことで、ねえ?」
ジェイはやぐらの上に縛り付けられたエドガーに向かって、ニヤニヤといやらしい笑みを投げかけた。
「砂時計の砂も、もう少しですべて落ち切りそうだ。おまえの命も、残りわずかだな、んん?」
エドガーは、答えることができなかった。棍棒で何度となく殴られ、顔中からひどく出血していた。ジェイはエドガーの耳元に口を近づけた。
「しかし、私は慈悲深い。もしも最後に、王女に命乞いがしたいのなら。その願いを聞き入れてやってもよいぞ……?」
ジェイは、エドガーが首を縦に振ることを期待していた。城壁の攻略は、相手の魔術師集団のせいで思ったより苦戦している。こちらはスパルトイの膨大な数を使ってごり押しているが、さすがに無尽蔵なわけではない。その数にも、触媒の量という限りがあるのだ。魔術師たちによって、かなりのスパルトイがやられてしまった。城を落とすこと自体はもう目前であるが、その後のことを考えると、ここでの消耗は避けたいところだ。国盗りというものは、ただ勝てばいいという話ではないのだから。
(それを知らずに、脳味噌筋肉の馬鹿どもはのんきなもんだ)
誰のおかげで、お前たちの犠牲を出さずにここまでこれたと思っているのか。ジェイの口元はにやけていたが、その裏ではかなりイライラしていた。この捕虜たちを使って、王女をおびき出せればめっけ物だ。さすがにそううまくはいかないにしても、せめて怒りにかられた王国兵に城門を開かせることができれば……
「さあ、どうだ?命乞いをしてみろ」
ジェイは執拗に囁く。するとエドガーは、腫れ上がった片目を薄く開け、ジェイの顔を見た。そしてふんっと、鼻で笑ってみせた。ジェイの中でぶちっと何かが切れた。
「……この死にぞこないの、畜生がぁぁぁ!」
バシ!ジェイは棍棒でエドガーの横っ面を引っぱたいた。エドガーの口から、折れた歯が何本か飛び散る。
「それだけ死にたいなら、いいだろう!砂もちょうどすべて落ちた!これより、二人目の処刑を開始する!」
ジェイが手をさっと降ると、太ったオークのような顔をした大男が、ギロチンの刃のような大剣を持って、のそりとやぐらに上ってきた。
「さあぁぁ、王女よ!とくと見るがいい!貴様の腑抜けのせいで、また一人家臣が死ぬこととなるぞ!おい、やれ!」
大男は、縛り付けられたエドガーを柱ごと蹴り飛ばした。柱が折れ、エドガーが床に転がる。その首筋に、大男の大剣が突き付けられた。
「あの世で、後悔するんだな!仕える主君を間違えたことを!」
大男がギロチンを振り上げる。エドガーは縛られ転がったまま、身動き一つとれない。大男が腕を傾けた。
「まてっ!!!」
突然響いた声に、ジェイも、ハルペリン卿も、兵士たちもどよめいた。大男は剣を振り下ろそうとした体勢のまま固まっている。
「約束だ!私の首と家臣の首、交換に来た!」
その言葉を聞いた瞬間、ジェイの顔に喜色満面の笑みが浮かんだ。ジェイはやぐらの上で激しく首を動かし、声の出所がどこかを突き止めた。兵士たちの後方、市街地の方から、女がたった一人でこちらに歩いてくる。多少夜の闇が覆い隠そうが、いまその人を見間違えるはずもない。ジェイが待ち焦がれた相手、ロア王女だった。
「おい!お前たち、道を開けよ!女王陛下のお出ましだ!」
兵士たちにざわめきが走るが、さすがに名門の兵だけあって、統率は取れていた。さっと人垣が左右に割れる。その間を、ロアが毅然とした態度で歩いてくる。
「ひっひひひ!これは、予想以上の成果がありましたね……」
ジェイは舌なめずりをすると、大男にあごで指示した。
「おい。そこの捕虜を連れて下りてこい」
大男は言われるまま、倒れたエドガーを肩に担いだ。ジェイはやぐらのはしごをほとんど滑るように駆け下りると、両手を広げて恭しく王女を迎えた。
「これはこれは、女王陛下!ご機嫌麗しゅう存じます。ついに勇気ある決断をなされたのですな」
「黙れ、白々しい。さんざん私を罵倒したくせに」
ロアはジェイの数メートルほど手前まで来て、足を止めた。あたりをぐるりと取り囲むように、ハルペリン卿の兵士が取り囲んでいる。大勢の男に囲まれた女王の姿は実に頼りなく映ったが、それでもロアは気丈にふるまい、憎しみを込めた視線をジェイにぶつけた。しかし、ジェイは上機嫌で、ロアが何をしようがまったく気にならなかった。
(このおろかな小娘が!まんまと城を出て、自らこちらの手の中に飛び込んできおった!)
勇み足になった王国兵が、城門を開いて突撃して来たらいい方だと考えていたジェイにとって、これは願ってもない展開だった。これまでにないほどニヤつくジェイを見て、ロアは嫌悪感をあらわにした。
「薄汚い小悪党め。早く私の家臣を解放しろ!」
「まあまあ、そう焦らず。慌てずとも、約束は果たしましょう。ほら、一名やぐらから連れてきましたぞ」
大男が、エドガーを担いでちょうどやぐらから下りてきたところだった。変わり果てたエドガーの姿を見て、ロアが顔をゆがめる。
「エドガー……!この、人でなしども!今すぐ自由にするのだ!残りの兵たちも、すぐにだ!」
「だぁから、慌てないでくださいと言ったではありませんか。せっかくこうしておいでなすったんだ、すこしは会話というものを楽しみましょうよ」
「うるさい!そのドブ臭い口を今すぐ閉じよ!貴様たちのような汚い連中と交わす言葉など、恨みの呪詛以外にいらぬわ!」
ジェイはロアの罵倒を聞いてもニヤニヤ笑うだけの余裕があったが、ハルペリン卿は怒り心頭していた。
「この小娘!自分の立場が分かっているのか!?」
「そちらこそ、今の自分の姿を顧みてみるといい!その小娘相手に粋がることしかできない、ハルペリン卿のあきれた騎士道よ!名家の名にも土がついたものだな!」
「こんのっ……!今すぐ殺してやる!」
我慢の限界に達したハルペリン卿が、シュルリと剣を抜く。だがそれを、ジェイが肩を強く抑えて制した。
「お待ちください、ハルペリン卿!今、王女を殺してはいけません」
「なにぃ!?ジェイ、どういうことだ!まさか、臆したわけではあるまいな!?」
「いいえ、そうではありません。そうではありませんとも……」
ジェイはニターっとした笑みを浮かべて、ロアのほうを見た。さっきハルペリン卿が剣を抜いた際、ロアが確かにおびえた様子を見せたことを、ジェイはしっかり双眸に映していた。
「ハルペリン卿。今ここで王女の首を落としただけでは、その真価を十分に活用することができません」
「なに……?」
「王女の死は、すなわちこの国の首がすげ変わることを意味します。つまり、新たな国王、ハルペリン王の誕生の瞬間となるのです。そんな貴重な瞬間を、このように乱暴に成してはなりません……」
ハルペリン卿の胸を、“王”という響きが強くゆすぶった。ハルペリン卿はゆっくりと剣を下すと、唇の端を持ち上げて、ジェイを見つめた。
「ジェイよ。私は時々、お前の悪知恵の良さに寒気がするぞ」
「おほめにあずかり、光栄です……」
「くっくくく。わかった、お前に任せよう」
ハルペリン卿は剣を収めると、一歩引いてジェイに道を開けた。
「ありがとうございます、ハルペリン卿。……さて、ロア王女?」
ジェイに話しかけられ、ロアはかすかにだが、身をすくめた。やはり、王女は恐れを隠しきれていない。ジェイは胸の奥がぐつぐつとうずくのを感じた。
「これから、ロア王女には、城の者どもに向かって謝罪をしていただきたく存じます」
つづく
====================
二回更新も本日が最終日です。
お楽しみいただけましたでしょうか?
明日からは通常通り0時更新となりますので、
引き続きどうぞよろしくお願いします。
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「来ませんね……」
兵士の内の誰かが、そうつぶやいた。
「王女の奴、びびって逃げ出したんじゃねーか?」
また誰かが、舌打ちをして愚痴をこぼす。
「時間の無駄なんじゃないのかね。とっとと攻め落としちまえばいーのに」
「まったくだ。あのすごいバケモノを使ってな」
ぶつくさと文句を言う兵士たちを見て、ハルペリン卿は焦っていた。彼らが文句を言いたくなるのも無理はない。王都を囲う城壁を突破し、王城の一歩手前に至るまで、ハルペリン卿の軍は破竹の快進撃で進んできたのだ。それをあと一歩のところで、高い壁に阻まれ手をこまねいている。煮え切らないのは、ハルペリン卿も同じだった。
「チッ。ジェイのやつ、王女に降伏勧告などして、いったい何をひよっているのだ。この勢いのまま攻め切ればいいだろうに……こうなったら、私が直接文句を……」
ハルペリン卿が業を煮やして、ジェイのもとへ向かおうとしたその時だった。
ダァーン!
突如鳴り響いた衝撃音に、ハルペリン卿を含めた兵士たちは、シーンと静まり返った。組まれたやぐらの上で、ハルペリン卿の腹心・ジェイが、手に持った棍棒を床にしたたか打ち付けたのだ。
「……少し、黙っていただけませんかねぇ。まだ、私の作戦は終わっていないのですよ?」
ジェイは今にも棍棒を握りつぶしそうな勢いであったが、かろうじて踏みとどまった。
「まったく、あなたたちの女王も、ずいぶんお尻の重いことで、ねえ?」
ジェイはやぐらの上に縛り付けられたエドガーに向かって、ニヤニヤといやらしい笑みを投げかけた。
「砂時計の砂も、もう少しですべて落ち切りそうだ。おまえの命も、残りわずかだな、んん?」
エドガーは、答えることができなかった。棍棒で何度となく殴られ、顔中からひどく出血していた。ジェイはエドガーの耳元に口を近づけた。
「しかし、私は慈悲深い。もしも最後に、王女に命乞いがしたいのなら。その願いを聞き入れてやってもよいぞ……?」
ジェイは、エドガーが首を縦に振ることを期待していた。城壁の攻略は、相手の魔術師集団のせいで思ったより苦戦している。こちらはスパルトイの膨大な数を使ってごり押しているが、さすがに無尽蔵なわけではない。その数にも、触媒の量という限りがあるのだ。魔術師たちによって、かなりのスパルトイがやられてしまった。城を落とすこと自体はもう目前であるが、その後のことを考えると、ここでの消耗は避けたいところだ。国盗りというものは、ただ勝てばいいという話ではないのだから。
(それを知らずに、脳味噌筋肉の馬鹿どもはのんきなもんだ)
誰のおかげで、お前たちの犠牲を出さずにここまでこれたと思っているのか。ジェイの口元はにやけていたが、その裏ではかなりイライラしていた。この捕虜たちを使って、王女をおびき出せればめっけ物だ。さすがにそううまくはいかないにしても、せめて怒りにかられた王国兵に城門を開かせることができれば……
「さあ、どうだ?命乞いをしてみろ」
ジェイは執拗に囁く。するとエドガーは、腫れ上がった片目を薄く開け、ジェイの顔を見た。そしてふんっと、鼻で笑ってみせた。ジェイの中でぶちっと何かが切れた。
「……この死にぞこないの、畜生がぁぁぁ!」
バシ!ジェイは棍棒でエドガーの横っ面を引っぱたいた。エドガーの口から、折れた歯が何本か飛び散る。
「それだけ死にたいなら、いいだろう!砂もちょうどすべて落ちた!これより、二人目の処刑を開始する!」
ジェイが手をさっと降ると、太ったオークのような顔をした大男が、ギロチンの刃のような大剣を持って、のそりとやぐらに上ってきた。
「さあぁぁ、王女よ!とくと見るがいい!貴様の腑抜けのせいで、また一人家臣が死ぬこととなるぞ!おい、やれ!」
大男は、縛り付けられたエドガーを柱ごと蹴り飛ばした。柱が折れ、エドガーが床に転がる。その首筋に、大男の大剣が突き付けられた。
「あの世で、後悔するんだな!仕える主君を間違えたことを!」
大男がギロチンを振り上げる。エドガーは縛られ転がったまま、身動き一つとれない。大男が腕を傾けた。
「まてっ!!!」
突然響いた声に、ジェイも、ハルペリン卿も、兵士たちもどよめいた。大男は剣を振り下ろそうとした体勢のまま固まっている。
「約束だ!私の首と家臣の首、交換に来た!」
その言葉を聞いた瞬間、ジェイの顔に喜色満面の笑みが浮かんだ。ジェイはやぐらの上で激しく首を動かし、声の出所がどこかを突き止めた。兵士たちの後方、市街地の方から、女がたった一人でこちらに歩いてくる。多少夜の闇が覆い隠そうが、いまその人を見間違えるはずもない。ジェイが待ち焦がれた相手、ロア王女だった。
「おい!お前たち、道を開けよ!女王陛下のお出ましだ!」
兵士たちにざわめきが走るが、さすがに名門の兵だけあって、統率は取れていた。さっと人垣が左右に割れる。その間を、ロアが毅然とした態度で歩いてくる。
「ひっひひひ!これは、予想以上の成果がありましたね……」
ジェイは舌なめずりをすると、大男にあごで指示した。
「おい。そこの捕虜を連れて下りてこい」
大男は言われるまま、倒れたエドガーを肩に担いだ。ジェイはやぐらのはしごをほとんど滑るように駆け下りると、両手を広げて恭しく王女を迎えた。
「これはこれは、女王陛下!ご機嫌麗しゅう存じます。ついに勇気ある決断をなされたのですな」
「黙れ、白々しい。さんざん私を罵倒したくせに」
ロアはジェイの数メートルほど手前まで来て、足を止めた。あたりをぐるりと取り囲むように、ハルペリン卿の兵士が取り囲んでいる。大勢の男に囲まれた女王の姿は実に頼りなく映ったが、それでもロアは気丈にふるまい、憎しみを込めた視線をジェイにぶつけた。しかし、ジェイは上機嫌で、ロアが何をしようがまったく気にならなかった。
(このおろかな小娘が!まんまと城を出て、自らこちらの手の中に飛び込んできおった!)
勇み足になった王国兵が、城門を開いて突撃して来たらいい方だと考えていたジェイにとって、これは願ってもない展開だった。これまでにないほどニヤつくジェイを見て、ロアは嫌悪感をあらわにした。
「薄汚い小悪党め。早く私の家臣を解放しろ!」
「まあまあ、そう焦らず。慌てずとも、約束は果たしましょう。ほら、一名やぐらから連れてきましたぞ」
大男が、エドガーを担いでちょうどやぐらから下りてきたところだった。変わり果てたエドガーの姿を見て、ロアが顔をゆがめる。
「エドガー……!この、人でなしども!今すぐ自由にするのだ!残りの兵たちも、すぐにだ!」
「だぁから、慌てないでくださいと言ったではありませんか。せっかくこうしておいでなすったんだ、すこしは会話というものを楽しみましょうよ」
「うるさい!そのドブ臭い口を今すぐ閉じよ!貴様たちのような汚い連中と交わす言葉など、恨みの呪詛以外にいらぬわ!」
ジェイはロアの罵倒を聞いてもニヤニヤ笑うだけの余裕があったが、ハルペリン卿は怒り心頭していた。
「この小娘!自分の立場が分かっているのか!?」
「そちらこそ、今の自分の姿を顧みてみるといい!その小娘相手に粋がることしかできない、ハルペリン卿のあきれた騎士道よ!名家の名にも土がついたものだな!」
「こんのっ……!今すぐ殺してやる!」
我慢の限界に達したハルペリン卿が、シュルリと剣を抜く。だがそれを、ジェイが肩を強く抑えて制した。
「お待ちください、ハルペリン卿!今、王女を殺してはいけません」
「なにぃ!?ジェイ、どういうことだ!まさか、臆したわけではあるまいな!?」
「いいえ、そうではありません。そうではありませんとも……」
ジェイはニターっとした笑みを浮かべて、ロアのほうを見た。さっきハルペリン卿が剣を抜いた際、ロアが確かにおびえた様子を見せたことを、ジェイはしっかり双眸に映していた。
「ハルペリン卿。今ここで王女の首を落としただけでは、その真価を十分に活用することができません」
「なに……?」
「王女の死は、すなわちこの国の首がすげ変わることを意味します。つまり、新たな国王、ハルペリン王の誕生の瞬間となるのです。そんな貴重な瞬間を、このように乱暴に成してはなりません……」
ハルペリン卿の胸を、“王”という響きが強くゆすぶった。ハルペリン卿はゆっくりと剣を下すと、唇の端を持ち上げて、ジェイを見つめた。
「ジェイよ。私は時々、お前の悪知恵の良さに寒気がするぞ」
「おほめにあずかり、光栄です……」
「くっくくく。わかった、お前に任せよう」
ハルペリン卿は剣を収めると、一歩引いてジェイに道を開けた。
「ありがとうございます、ハルペリン卿。……さて、ロア王女?」
ジェイに話しかけられ、ロアはかすかにだが、身をすくめた。やはり、王女は恐れを隠しきれていない。ジェイは胸の奥がぐつぐつとうずくのを感じた。
「これから、ロア王女には、城の者どもに向かって謝罪をしていただきたく存じます」
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