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6章 風の守護する都

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「うわあー!」

電撃は俺たちの足元で炸裂し、地面をふっ飛ばした。俺とライラはごろごろ転がったが、避けづらい分、そこまで威力は高くないらしい。幸い大したけがはなかった。

「このっ!」

蹴っ飛ばされていたフランが、再びクラークに飛びかかる。しかし今度は、クラークもそれに反応した。バックステップで距離を離すと、剣を真っすぐフランへ向ける。

「レイライトニング!」

「ぐぅっ」

ああ、フランに電撃が!フランの服はあちこち焼け焦げ、プスプスと煙が上がっていたが、本人に対したダメージは無いらしい。アンデッドは電撃にも強いんだ。

「クラーク!やっぱりあいつら、マトモじゃないわ!あなたの電撃を喰らってビクともしないなんて、絶対なにかのアンデッドなのよ!」

「みたいだね!アンデッド……そうか!ミカエル、僕の剣に“祝福”をかけてくれないか!」

「ふひゃ!は、はい!」

クラークがミカエルの前に剣を差し出すと、ミカエルは目を閉じて、何やらぶつぶつと呪文を唱え始めた。

「ピュアダクリア!」

ミカエルの手からキラキラした光が放たれ、クラークの剣をより一層輝かせる。剣を強化したのか……?その時、ウィルが上空で鋭い叫び声を上げた。

「あっ!」

「ウィル?どうした!」

「ピュアダクリア!ひじり属性の魔法です!物体を祝福し、神の聖なる力を宿す呪文!」

「つまり、どういう……?」

「あの剣にふれちゃダメです!アンデッドは浄化されてしまいます!!」

「な、なんだって!」

くそ、そんなのありかよっ!アンデッド特効じゃないか!

「これで形勢逆転だ。さあ、覚悟しろ!」

クラークは不敵に笑うと、剣を振りかざして突撃してくる。くそ、防ごうにもあの剣自体に触れちゃまずいんだろ!?

「フラン、退くんだ!」

「逃がすか!」

クラークが剣を一振りすると、剣先からキラキラ輝く斬撃が飛び出してくる。フランはすんでのところで頭を下げ、ギリギリでそれをかわした。フランの髪の毛が数本斬撃に触れると、髪の毛は灰になって崩れ落ちてしまった。

「どうする!あれ、結構やばいよ!」

フランが駆け戻って来るや否や、焦った声で叫ぶ。俺が口を開こうとした瞬間、クラークが畳みかけるように叫んだ。

「ライスライン!」

うわ、またあの地を這う電撃だ!

「みんな、死ぬ気でよけろー!」

ドドォン!あちこちで地面が爆発したものの、幸い灰になってしまった仲間はいなかった。

「くそ!ライラ、あいつの魔法を、少しでいいから防げないか?」

「う、うん。わかった!」

ライラは目を閉じると、地面に手をついて呪文を唱え始めた。その間もクラークの猛攻は止まることを知らない。またしても電撃が飛んできた!ギリギリのタイミングで、ライラが叫ぶ。

「キャメルキャメロット!」

ズザザアアア!間一髪、俺たちと電撃との間に砂の防壁が立ちふさがった。防壁が電撃を受けてぐらぐら揺れる。

「これ、そんなに長くもたないよ!」

「十分だ、少しでも時間が稼げれば!みんな、俺に考えがある。聞いてくれ」

俺は仲間たちの顔をぐるりと見まわした。今この状況で、最善の策。それは……

「逃げよう!」

「はぁーっ!?」

ウィルとフランがユニゾンして叫ぶ。

「何考えてるの!あんなやつに言われっぱなしでいいわけ!?」

「いいさ、そんなの言わせておけばいいんだ。それよりも、今戦ってお前たちの誰かを失うことのほうが、俺は何万倍も嫌だ」

俺の声のマジなトーンに、フランは開きかけた口をつぐんだ。

「さすがに相性が悪すぎる。あいつらから逃げようが倒そうが、俺たちの目的は達成できるんだ。だったらより安全で、手間のかからないほうを選ぼう。この壁が壊れたら全速力で走るぞ。ウィルとアニ、あいつらにありったけの妨害魔法を撃ってくれないか?」

「で、でも……」

その時、壁の向こうでものすごい閃光が上がった。砂の防壁は危なっかしくぐらぐらと揺れ、ついに崩れ落ちてしまった。ザザザァ……
壁の向こうでは、クラークがバチバチと電撃をチャージしている。もうぐずぐずしていられない!俺はありったけの声で叫んだ。

「走れ!」

ダダダッ!俺が走り出すと、仲間たちもそれに続いた。突然背を向けて走り出した俺たちを見て、クラークたちはしばらくぽかんと口を開けていた。

「……あ!に、逃げたわよ、クラーク!」

「あ、う、うん!待て、卑怯者め!」

「わはは!三十六計、なんとやらだ!あばよ、勇者さん!」

一目散に逃げだす俺たちの後を、クラークも当然追いかけようとしてくる。それを見てすかさず、俺は目を覆って、体をくるりと反転させた。

『フラッシュチック!』

パァー!アニから目もくらむような閃光が放たれる。俺が振り返るのと、アニが呪文を唱え終わるタイミングはどんぴしゃだった。息ぴったりだよな、俺たち!
俺は目を覆っていた手をどけると、再び全速力で走り出した。背後からはクラークたちが目をつぶされ、うめく声が聞こえてくる。

「ざまーみろ!せいぜいそこで一晩明かすんだな!」

俺が有頂天に笑ったとたん、プシュっと空を裂く音がして、俺の足元に矢が突き刺さった。ひえっ、声を頼りに撃ったのか?余計なこと言うんじゃなかった。俺はそれこそ、尻に火が付きそうな勢いで足を動かした。後方からは次々とヤケクソ気味に矢が飛んできたが、そのすべては明後日の方向に飛んでいくか、エラゼムの剣に切り落とされた。振り返れば、クラークたちの姿はずいぶん小さくなっていた。

「やった、逃げ切ったぜ!」

「……待って!まだあいつ、あきらめてないよ!」

フランが後ろを振り返りながら叫ぶ。目のいいフランには、クラークたちの動きが見えているのだろう。

「けど、これだけ距離を離したんだぜ?いまさら何を……」

俺がそこまで言いかけた、その時だった。視界がふっと暗くなった。いや、夜だから暗いのは当たり前なんだけど、さっきまでは星明りが、山頂の澄んだ空気を通してまたたいていたんだ。けど今は、頭上を鉛のような黒雲が覆ってしまっていた。こんな雲、いつの間に湧いてきた……?

ピカッ!

「っ!」

黒雲が光った!おい、まさかあれ、カミナリ雲とか言わないだろうな……?

「ま、魔力がすごい集まってるよ!」

ライラが天を仰ぎ、震える声で叫んだ。黒雲はゴロゴロと低い太鼓のような音を響かせ、厚さを増していく。遠くから、クラークの怒鳴り声が聞こえて来た。

「パグマボルトォ!」

ピカッ!ガガガガーーーン!
目の前が真っ白になった。俺は手足から力が抜けていくのを感じた。どちらが空で、どちらが地面なのかもわからない。

(―――っ!)

頭の奥のほうで、何かがちかちか光っていた。おぼろげで、輪郭のない、古い記憶……

(だめだ……)

体ががくんと傾き、視界が九十度になった。

それ・・は、思い出しちゃいけない……)

俺の体は、大地に吸い寄せられるように、重力に従ってゆっくり落ちていく……



つづく
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【年末年始は小説を!投稿量をいつもの2倍に!】


年の瀬に差し掛かり、物語も佳境です!
もっとお楽しみいただけるよう、しばらくの間、小説の更新を毎日二回、
【夜0時】と【お昼12時】にさせていただきます。
寒い冬の夜のお供に、どうぞよろしくお願いします!

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