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5章 幸せの形

10-2

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「ん、けどまてよ。あいつの核って、絶対竜核だよな。んで、その竜核って確か……」

俺はアイアンゴーレムが召喚される様子を、まじまじとこの目で見ていたんだ。あの時は、竜核を地面から湧き出した鉄が包み込むようにして、ゴーレムの体が作られていった。つまり、核はあいつの鋼鉄の体の中ってことじゃ……

「あそうだ、ライラ!お前、なんかすっげぇ強い魔法を使えないか?あのゴーレムを木端微塵に吹き飛ばせるくらいのやつ!」

「え、え?」

「ほら、俺たちにぶん投げてきたじゃないか、でっかい火の玉!」

「わ、わかった、ちょっと待って」

ライラは目を閉じ、手を合わせると、呪文の詠唱に入った。そして目を見開き、両手をゴーレムのほうへ突き出した。

「ジラソーレ!」

シュゴウッ!突然目の前に燃え盛る火の玉が浮かび上がった。火球はまっすぐゴーレムに向かって飛んでいく。ドゴーン!

「やった!直撃だ!」

俺は喜んだが、ライラは浮かない顔をしていた。そーいう顔をするってことは、つまり……?

「ゴゴオオォォ!」

うわ、ピンピンしてやがる!一瞬炎に包まれたアイアンゴーレムだったが、奴の体には傷一つついていない。せいぜい焦げ跡が少し残ったくらいだ。

「やっぱりか。鉄の体に炎は効かないよ」

ライラはこの結果を想定済みだったようで、特にショックを受けた様子もなかった。

「そ、それを早く言えよな……」

「だって、鉄の塊を吹っ飛ばすまほーなんてわかんなかったもん」

あ……それもそうか。そんな破壊力のある魔法、いくらライラが早熟だからって、ほいほい使えるものじゃないよな。ライラはまだ小さな子どもなんだって、忘れてた。
魔法が効かないことがわかると、フランが鉤爪を引き抜いて闇夜にかざした。

「だったら後は、力づくでぶん殴るだけだね」

「フラン嬢のいう通りですな」

エラゼムがフランの隣に並び立つ。

「幸い、ここにはアダマンタイト製の剛鉄ごうてつと、鉄をも引き裂く爪の持ち主がいます。なぁに、ブリキの人形なんぞ、すぐ鉄くずに変えて見せましょう」

「いくよ!」

二人は左右に分かれて、アイアンゴーレムに両脇に回り込んでいった。

「えーい!こうなったら、もうヤケです!」

ウィルはありったけの魔法を連発して、火の粉や火花をめちゃくちゃにゴーレムに吹き付けた。ゴーレムはそれをものともしていなかったが、ウィルはおかまいなしに呪文を唱え続ける。

「やっ!」

「ぬぅん!」

フランとエラゼムが同時にゴーレムの左右の足に切りかかる。それでもゴーレムは動きを止めず、それどころか村のほうへズシズシとゆっくり移動し始めた。

「くっ……!総攻撃でもだめなのか。ゴーレムはアンデッドじゃないから、俺の能力も役に立たないし……」

何もできない俺は、ただ歯噛みするしかなかった。鋼鉄の巨人相手じゃ、俺の剣も役に立たない。

「あ、そうだ!ライラ、あいつの足もとに穴を掘れないか?落とし穴みたいにして、やつを転ばせるんだ!」

俺は藁にも縋る思いでライラへ振り向いた。他力本願でも、今俺にできることなら何でもやってやる。と、思ったんだけど……ライラはむっつりした顔で、黙って首を横に振った。

「いや」

「は?ら、ライラ?」

「別に、ライラはあのゴーレムがどうしようが気にしないもん。なんとなくついて来ちゃったけど、別にお前たちの仲間になったわけでもないし」

「で、でも。さっきまでは協力してくれたじゃないか」

「あれは、その……と、とにかく!村が壊されちゃっても、そんなの知らない。ゴーレムを呼び出したのはライラじゃないし。ライラ、まだ村の人たちのこと、許してないんだから」

「ライラ……」

「だいたい、あなたたちもどうして戦おうとするの?さっきも見たでしょ、村長はライラたちを殺そうとしたんだよ!そんな人たちのこと、ほっとけばいいじゃん!」

「……まぁ、確かにな」

俺はかがんで視線を低くすると、ライラと目を合わせた。

「けどな、ライラ。俺たちは……ていうか俺は、目の前でたくさんの人が死ぬかもしれないのに、それを知らんぷりするほうが嫌なんだよ。なんていうか……怖いんだな、うん」

「……怖い?」

「そう。そんなことをした日の夜は、絶対眠れないだろうな。もし寝れたとしても、そりゃぜってー夢見が悪いってやつだぜ」

「それが怖いの?」

「ああ。俺は毎日幸せな気分で目を閉じて、朝までぐっすり寝たいんだ」

「そんなの……そんなの、おかしいよ。人は毎日どこかで必ず死んでるんだよ?それじゃいつまでたっても、安心して眠れないじゃん」

「おっと、俺は博愛主義を説きたいわけじゃないぜ。地球の反対側で起こってることなんて知るもんか。けど知っちまったことには、やれるだけ手を尽くしてみようってことなのさ。要するに、やりたいからやってるだけなんだ……だからこそ。俺たちのやりたいことに、ライラを巻き込むようなことはしないよ」

俺はライラのほうき草のようなもじゃもじゃの赤毛をぽんぽんと撫でた。

「ライラが嫌だっていうんなら、無理強いはしない。悪かったな。ここは危ないから、どこか遠くに逃げといた方がいい」

「そ……それは、そうだけど……」

「けどさ、ライラ。俺はここに来る途中できみに聞いたよな?別に付いてこなくてもいいって。それでもきみは俺たちに付いてきた。それってお前もどこかで、村の人たちを救ってやりたい気持ちがあったからなんじゃないか?」

そうだ。ライラは自分の意思でここまで付いてきた。墓場では村人たちを解放するのに、自分から一役買って出てくれた。口ではああ言っているが、俺はライラの中でまだ葛藤があるような気がしているんだ。

「そ、そんなわけない!ライラはあの村なんか無くなっちゃえばいいって、本気でそう思ってるんだから!」

「そうか?まあ、それならそれでいいさ。俺たちはやりたいようにやる。だからライラも、自分の好きなようにするのがいいよ」

「う、ら、ライラは……」

ライラは迷うように言いよどむと、口をもごもごさせた……

「……もういい!お前らなんか知らない!勝手に死んじゃえ、ばーかばーか!」

ば、ばか?ライラは叫ぶように言い切ると、森の中へと走って行ってしまった。

『……主様、いいのですか?行かせてしまって』

「ああ。正直、ちょっと惜しいけどな。一緒に戦ってくれたらよかったのに……」

ガシャーン!背後で騒々しい金属音が響いた。っとそうだ、今はアイアンゴーレムとの戦いの最中であって、ほんとは猫の手も借りたいくらいなんだからな。さっきの音は、エラゼムが構えた大剣にゴーレムの拳が当たり、エラゼムが剣ごとぶっ飛ばされた音だった。

「やれやれ、鎧がへこんでしまった……まったく、手間を掛けさせてくれる」

エラゼムはぐるりと剣を回すと、飛んできたゴーレムの足をひらりとかわした。こちらは相手にまともなダメージを与えられず、相手の攻撃はこちらにとって致命傷になりうる威力だ。戦況は一方的に不利にも思えたが、フランもウィルもエラゼムも、やみくもに戦っているわけではなかった。ゴーレムの体にはいくつものひっかいた跡のような傷が浮かび、左腕のひじの部分は黒く焼け焦げ、動きがぎこちなくなっている。ウィルの度重なる火花で、少しずつ焼けただれたんだ。

「ゴゴオオォォ!」

最初は攻撃されても無視していたゴーレムも、さすがに対処しなければならない敵だと認識したようだ。足を止め、自分の周りを飛び交うフランとエラゼムを捕まえようと躍起になっている。

「みんな、いいぞ!あいつをここに釘付けにしておけば、ダメージの積み重ねできっと倒せるはずだ!」

それはもちろん、こちらが一撃も食らわないことが前提だ。白刃の上を歩くような戦いだが、それでも活路を見いだせるなら……!

「はぁ!」

ギィン!フランが鉤爪を振り下ろすと、アイアンゴーレムの手から、鉄骨のような小指がバキリと抜け落ちた。やった、はじめてまともなダメージが通ったぞ!

「グググゥーー!」

ゴーレムが反撃のパンチを繰り出すが、フランはそれをジャンプでかわすと、その腕を足場にポーンと高く跳び上がった。そのままゴーレムの顔面目がけて爪を突き出す。

「ゴゴオォォォン!」

ジャキィン!ゴーレムが吠えたかと思うと、やつの金属の身体が水のように波打ち、そこから無数の棘が剣山のように飛び出してきた。フランは勢いを殺せず、そこへ自ら飛び込む形になってしまった。
グジュゥ!

「ごほっ……」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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