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3章 銀の川
2-1 魂砲《ソウル・カノン》
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2-1 魂砲《ソウル・カノン》
「冥……」
『勇者の能力も、広域的には魔法の一つです。そういう意味では魔法を使えると言えますが、通常の魔法の習得は相応に難しいと思われます』
「なんだぁ……じゃ、結局俺は何の技もなしのままってことかよ。ちぇっ」
『技……そうですね、そろそろ必殺技の一つでもほしくなるタイミングですよね』
「お!そうなんだよ。どうせなら魔法がよかったんだけど……」
『ふむ。魔法とは少し違うかもしれませんが、魔力を応用して攻撃技に転用できるかもしれません。名付けて“魂砲”』
「ソウルカノンっ!?なにそれかっこいいっ!」
『そうでしょう。主様の魂の霊波を、魔力に乗せて放つ技です。これなら主様でも使いこなせるかと』
「それで!どうやってやるんだ、その技は!?なんだよ、そういうのは早く教えてくれよ!」
『魔力の扱いは感覚的なところが多いので、実際にやってみたほうが早いでしょう。そうですね……ディストーションハンドを使う際、それを右手にとどめて放つイメージでしょうか』
「なるほど……?ま、とりあえずやってみっか。習うより慣れろだ」
やったぜ、念願の必殺技だ!名前の語感的に飛び道具だろうな。気功波みたいな感じだろうか?俺は意気揚々と右手の袖をまくり上げると、手を突き出して意識を集中した。ディストーションハンドを使うときの感覚だな
(……っていっても、俺、何か意識したことあったっけ?)
呪文を唱えれば勝手に発動するし、これと言ってコツがいるわけでも……と、とりあえず難しいことは後だ。まずは実践!アニもそういってたし。
改めて右手に集中。魂みたいな、もやもやしたエネルギーが集まっていくようなイメージで……するとあっという間に、右手の手のひらに桜色のかたまりが浮かび上がった。これが、魔力か?
「……できたぞ?」
『はい。あとは込める魔力量で威力を調整して、放てばよいだけです』
「は、はは。なんだ、意外と簡単だな。けどネクロマンスの能力もこんなもんだった」
能力ってのも案外、手足の延長線上なのかもしれない。つまり、自分の意志である程度自由に動かせる。
「よっし!なら試し打ちをしてみよう!威力を確かめてみないと、実戦で使いこなせないからな!」
『あ、主様。それなんですが』
「わかってるって!きちんと安全には配慮するよ。とんでもない威力だったら困るもんな」
『いや、そうではなく……』
「というわけで、フラン、ウィル!」
俺はとなりで話を聞いていたウィルと、遠巻きにこちらを見ているフランに向き直った。
「ちょっと身を隠しててくれ。そうだな……あ、そこの岩陰にでも」
ちょうど手ごろな大きさの岩があった。俺がそこを指さすと、ウィルは首を傾げた。
「ええ?そんなに警戒する必要ありますか?」
「あたりまえだろ!なんたって、元勇者の必殺技なんだぞ。すさまじい破壊力だったらどうする」
「ど、どんな技を想像してるんですか。それに私たちはアンデッドですし、別に危険なことは」
「ダメだ。俺はネクロマンサーだぞ?その技がアンデッドに影響を及ぼさないとは限らない。それに、仲間に万が一があったら最悪だ」
「は、はあ。そこまで言うなら……フランさん、付き合ってあげましょうか」
「……はぁ、しかたないな」
ウィルとフランは岩の陰に身を隠した。若干わがままを言う子ども扱いされた気もしたが、気にしない。
「ようし、始めるぞ……!」
俺は離れたところにポツンと生えている、一本の木を標的に定めた。お前に恨みはないが、実験台になってもらうぜ……
「標的確認!出力上昇!」
右手に込める意識を強める。桜色の魔力の塊は、さらに大きくなった。だが、あまり飛ばしすぎてほんとにエライことになっても怖い。これくらいに留めておくか。
「いくぞ!ソウル・カノンッ!!」
ドン!俺が打ち出すイメージをすると同時に、魔力が弾き出された!魔力の塊はまっすぐに木に向かって飛んでいく。よし、狙いバッチリだ!
「いっけー!」
そして、木に直撃した!
さわさわぁ……
「……え?」
魔力の塊は、確かに木に命中した。しかし、何も起こらない。いや、確かにリアクションはあった。木は、むずがゆいとでもいうように、さわさわと枝葉を揺らした。そう、まるでそよ風にでも吹かれたかのように……その揺れで、木の葉が一枚だけ枝を離れ、ひらひらと地面に舞い落ちた……
「……………………」
俺は、呆然としていた。木の葉一枚?俺の必殺技の威力が、はっぱ一枚分?
「……ぷっ」
「あ、フランさん。くく、笑っちゃだめですよ。桜下さんが悲しみます……ぷふふっ」
「だ、だって。こんなに注意したのに、ぜんぜん意味な……」
…………。
「……お前ら」
「ふふふっ、え?」
「……お前ら、冥土の土産は何がいい?」
「くひひっ、はい?」
「……今から冥土に送ってやるって言ってるんだよー!」
「きゃああ!?桜下さん、それ逆切れっていうんですよ!?」
「うっせ!」
「だいたいわたしたち、なにもしてないし。隠れてただけで……ぷぷぷっ」
「ああああー!笑ったなぁー!」
俺はブンブン腕を振り回して、笑いをこらえる二人を追いかける。ここに、人間VS幽霊・ゾンビ連合の、壮絶な鬼ごっこの火蓋が落とされた。人間の相手は疲れを知らないゾンビと、空を飛べるゴースト。勝敗の行方は……火を見るよりも、明らかだった。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
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「冥……」
『勇者の能力も、広域的には魔法の一つです。そういう意味では魔法を使えると言えますが、通常の魔法の習得は相応に難しいと思われます』
「なんだぁ……じゃ、結局俺は何の技もなしのままってことかよ。ちぇっ」
『技……そうですね、そろそろ必殺技の一つでもほしくなるタイミングですよね』
「お!そうなんだよ。どうせなら魔法がよかったんだけど……」
『ふむ。魔法とは少し違うかもしれませんが、魔力を応用して攻撃技に転用できるかもしれません。名付けて“魂砲”』
「ソウルカノンっ!?なにそれかっこいいっ!」
『そうでしょう。主様の魂の霊波を、魔力に乗せて放つ技です。これなら主様でも使いこなせるかと』
「それで!どうやってやるんだ、その技は!?なんだよ、そういうのは早く教えてくれよ!」
『魔力の扱いは感覚的なところが多いので、実際にやってみたほうが早いでしょう。そうですね……ディストーションハンドを使う際、それを右手にとどめて放つイメージでしょうか』
「なるほど……?ま、とりあえずやってみっか。習うより慣れろだ」
やったぜ、念願の必殺技だ!名前の語感的に飛び道具だろうな。気功波みたいな感じだろうか?俺は意気揚々と右手の袖をまくり上げると、手を突き出して意識を集中した。ディストーションハンドを使うときの感覚だな
(……っていっても、俺、何か意識したことあったっけ?)
呪文を唱えれば勝手に発動するし、これと言ってコツがいるわけでも……と、とりあえず難しいことは後だ。まずは実践!アニもそういってたし。
改めて右手に集中。魂みたいな、もやもやしたエネルギーが集まっていくようなイメージで……するとあっという間に、右手の手のひらに桜色のかたまりが浮かび上がった。これが、魔力か?
「……できたぞ?」
『はい。あとは込める魔力量で威力を調整して、放てばよいだけです』
「は、はは。なんだ、意外と簡単だな。けどネクロマンスの能力もこんなもんだった」
能力ってのも案外、手足の延長線上なのかもしれない。つまり、自分の意志である程度自由に動かせる。
「よっし!なら試し打ちをしてみよう!威力を確かめてみないと、実戦で使いこなせないからな!」
『あ、主様。それなんですが』
「わかってるって!きちんと安全には配慮するよ。とんでもない威力だったら困るもんな」
『いや、そうではなく……』
「というわけで、フラン、ウィル!」
俺はとなりで話を聞いていたウィルと、遠巻きにこちらを見ているフランに向き直った。
「ちょっと身を隠しててくれ。そうだな……あ、そこの岩陰にでも」
ちょうど手ごろな大きさの岩があった。俺がそこを指さすと、ウィルは首を傾げた。
「ええ?そんなに警戒する必要ありますか?」
「あたりまえだろ!なんたって、元勇者の必殺技なんだぞ。すさまじい破壊力だったらどうする」
「ど、どんな技を想像してるんですか。それに私たちはアンデッドですし、別に危険なことは」
「ダメだ。俺はネクロマンサーだぞ?その技がアンデッドに影響を及ぼさないとは限らない。それに、仲間に万が一があったら最悪だ」
「は、はあ。そこまで言うなら……フランさん、付き合ってあげましょうか」
「……はぁ、しかたないな」
ウィルとフランは岩の陰に身を隠した。若干わがままを言う子ども扱いされた気もしたが、気にしない。
「ようし、始めるぞ……!」
俺は離れたところにポツンと生えている、一本の木を標的に定めた。お前に恨みはないが、実験台になってもらうぜ……
「標的確認!出力上昇!」
右手に込める意識を強める。桜色の魔力の塊は、さらに大きくなった。だが、あまり飛ばしすぎてほんとにエライことになっても怖い。これくらいに留めておくか。
「いくぞ!ソウル・カノンッ!!」
ドン!俺が打ち出すイメージをすると同時に、魔力が弾き出された!魔力の塊はまっすぐに木に向かって飛んでいく。よし、狙いバッチリだ!
「いっけー!」
そして、木に直撃した!
さわさわぁ……
「……え?」
魔力の塊は、確かに木に命中した。しかし、何も起こらない。いや、確かにリアクションはあった。木は、むずがゆいとでもいうように、さわさわと枝葉を揺らした。そう、まるでそよ風にでも吹かれたかのように……その揺れで、木の葉が一枚だけ枝を離れ、ひらひらと地面に舞い落ちた……
「……………………」
俺は、呆然としていた。木の葉一枚?俺の必殺技の威力が、はっぱ一枚分?
「……ぷっ」
「あ、フランさん。くく、笑っちゃだめですよ。桜下さんが悲しみます……ぷふふっ」
「だ、だって。こんなに注意したのに、ぜんぜん意味な……」
…………。
「……お前ら」
「ふふふっ、え?」
「……お前ら、冥土の土産は何がいい?」
「くひひっ、はい?」
「……今から冥土に送ってやるって言ってるんだよー!」
「きゃああ!?桜下さん、それ逆切れっていうんですよ!?」
「うっせ!」
「だいたいわたしたち、なにもしてないし。隠れてただけで……ぷぷぷっ」
「ああああー!笑ったなぁー!」
俺はブンブン腕を振り回して、笑いをこらえる二人を追いかける。ここに、人間VS幽霊・ゾンビ連合の、壮絶な鬼ごっこの火蓋が落とされた。人間の相手は疲れを知らないゾンビと、空を飛べるゴースト。勝敗の行方は……火を見るよりも、明らかだった。
つづく
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