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「ねぇ、ちょっと太ったと思わない?」
「確かに。少しふっくらされたような⋯⋯いわゆる幸せ太りってやつでしょうか?」
「かもね。この城に来てからすっかりなまっちゃって——」
 スノーの空いたティーカップに侍女のナンシーはすかさずおかわりを注いだ。

 豪奢な中庭のあずまやでティータイムを楽しんでいるのは、スノー•ホワイト。

 それがこの女主人の名前だ。


 このノース•サンドリヨン国の人気者で、もうすぐ王子の妃になる娘である。


 親類が沢山いるのか、やたらとちっこい老人達が森の奥から訪ねてやってくる。

 ⋯⋯いったいどういう関係なんだろうか。


 一度ナンシーは聞いてみたのだが、
「それは知らない方があなたのためよ⋯⋯」
 と意味ありげな笑い方をされてしまった。

 それ以来、怖くて聞けない。


 ⋯⋯年上過ぎるようだがもしかして。愛人の類だろうか。



 というのも、とにかく。
 我が国の王子は近隣に名をはせる変人なのである。

 王子の性癖は曰く、

 死体でないと性的に興奮しない、とか。
 拘束されていたぶられることに喜びを感じる、とか。
 性行為は誰かに見られていないと満足しない、とか⋯⋯。

 何にしろ、ろくでもない悪評である。


 その王子の相手がつとまるのだ。王子が見初めた女主人のスノーは並みの性癖であるはずがない。

「私の顔に何かついてる?」
「いえ! すみません⋯⋯」
 スノーは美しい海色の瞳がナンシーを真っ直ぐに見た。

 スノーの名の通り、真っ白な肌は彼女を無表情な陶磁器の人形を連想させる。

「あ⋯⋯」
 やにわにナンシーの周りの空気が凍りつき、冷気で肺に痛みを感じた。

 空は晴れてるのに、庭に白いものがチラチラと舞い落ちる。

「⋯⋯こんな時期に雪?」
 ナンシーはブルりと身体をふるわせた。
 今は初夏だ。

 雪が降るのはありえない。

「あらあら。サンドリヨン山頂から雪雲でも飛ばされてきたのかしらね。では、お茶はおしまいにしましょう」
 スノーは抑揚のない声でそう宣言すると、機械仕掛けの人形ようにゆっくりと立ち上がった。


 赤い絨毯の上を歩いていくスノーの後ろ姿についていくように白い雪がまとわりつく。


「⋯⋯やっぱり、絶対に変」
 ナンシーは冷えきってしまった指先に息を吹きかけながら、女主人に疑惑の目を向けた。
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