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第二章 箱庭の発展と神の敵対者
11.「助けて」
しおりを挟むちょっぴり鬱回です。
ーーーーーーーーーー
side.ミウ・リーロット
悪い盗賊にさらわれたら“ドレー”にされるんだって、お隣のジジにーちゃんが言ってたの。
“ドレー”って何? ってお兄ちゃんに聞いたら、ピコット村にはお父さんがいるから知らなくても大丈夫だって言ってた。
お兄ちゃんは凄い物知りなの!
それに、ミウのお父さんは凄い強いの!
いっつもおっきなイノシシとか捕まえてくるの!
母さんはもういないけど、ミウには父さんとお兄ちゃん、それにピコット村のみんながいるから寂しくないよ。
だけど、村に凄い怖いおじちゃん達がやって来たの。
おじちゃん達は、お父さんが触ると危ないってミウに触らせてくれない、剣ってやつを持っていたの。
怖い顔で剣を振り回して、ピコット村のみんなを追いかけるおじちゃん達。
すごい……すごい怖かったの。
でもお父さんが不思議な力でミウ達を守ってくれたの。
お父さんは猫人族の中でも珍しい、“ふたお”って力を持っているってお兄ちゃんが言っていたの。
でもお父さんが強くても、おじちゃん達は沢山いて、他のみんなが捕まっちゃったの。
ジジにーちゃんとヒコねーちゃんも、ダヤンねーちゃんとトムくんも、みんな、みんな。
おじちゃん達がみんなに剣を向けると、みんなは泣きながら「助けて」「おじさん助けて」って言ったの。
そうしたら、お父さんは不思議な力を使うのを止めちゃったの。
お父さんは泣きそうな顔で「子ども達は見逃してくれ」って、おじちゃん達に言ってたけど、おじちゃん達は何も言わないで、お父さんに剣を。
そこから先はよくわからないの。
お兄ちゃんが手でミウに目隠しして、何も見えなかったの。
それからミウ達は、おじちゃん達の馬車に乗せられて、遠い所に連れていかれたの。
手足と首に変な物を付けられて痛かったけど、それを言ったらおじちゃん達に叩かれたの。
怒鳴ったおじちゃん達はすごい怖いから、ミウは少し痛いのも我慢したの。
ごはんも少なくて、みんなでひとつのパンをわけっこして食べたの。
お兄ちゃんは、「お腹減ってない」って言って、ミウとトムくんに自分の分をわけてくれたけど、夜中お腹がグーグーいってたから、ミウはいらないって言うようにしたの。
水浴びもできなくて身体中がかゆいし、お腹も減ってるけど、それを言うとまたおじちゃん達に叩かれるから、ミウは我慢したの。
そしたら、ミウより小さいトムくんが、寝たまま起きなくなっちゃったの。
ミウが強く揺すっても、名前を呼んでも、起きなくなっちゃった……。
ダヤンねーちゃんとヒコねーちゃんは泣いちゃうし、ジジにーちゃんはすごい怖い顔をしてたの。
それを見てミウも泣きそうになったけど、お兄ちゃんがぎゅってしてくれたから我慢できたの。
トムくんはおじちゃん達に連れていかれちゃったの。
お兄ちゃんは「トムは疲れて長く寝ちゃってるんだ」って言ってたの。
だから別の所で休ませるんだって。
トムくん、はやく元気になるといいの。
トムくんがいなくなってから、ごはんがちゃんと出るようになったの。
でも、「きっと助けが来るよ」「大丈夫だよ」っていつも言ってたダヤンねーちゃんも黙るようになったし、ジジにーちゃんはブツブツと、聞こえない小さい声でずっと何か言ってて、ミウはすごく寂しくなったの。
そしたらその日の夜、ジジにーちゃんがパンを持って来たおじちゃんに体当たりしたの。
手と足についてるやつのせいで、一緒にジジにーちゃんも転んじゃったけど。
ジジにーちゃんはすごい怖い顔で「トムの“カタキ”だ!」って言いながら、おじちゃんの首に噛みついたの。
すぐに他のおじちゃん達が気付いて、ジジにーちゃんは引きはがされて、おじちゃん達に囲まれたの。
お兄ちゃんが「聞くな!」って言って、ミウの顔ををぎゅってつつんでくれて、手が小さくてまだ自分で耳をふさげないミウのかわりに、おっきな手でミウの耳をふさいでくれたの。
何も見えなくて何も聞こえないの。
でも、ミウの耳をお兄ちゃんがふさいだら、お兄ちゃんの耳は誰がふさぐの?
ジジにーちゃんはトムくんと同じで、どっかに行っちゃった。
ジジにーちゃんとトムくんが心配で眠れなかった時、おじちゃん達が話しているのを聞いてしまったの。
「ここではあのガキどもを“ドレー”として売れないから、さらに隣の領に行く」って。
おじちゃん達は悪い盗賊で、ミウ達は“ドレー”だったんだ。
なんだかミウは怖くなっちゃったの。
“ドレー”って何をされちゃうの?
ピコット村には帰れるの?
だれか……ミウ達を助けて。
ミウはそのまま、朝までねむれなかったの。
次の日に、盗賊さん達が「お前らすげぇ臭い」って言うから、ミウ達は川で水浴びする事になったの。
ダヤンねーちゃんとヒコねーちゃんは、久しぶりに水浴びができて、少しだけ元気が戻ったの。
それに、やっぱり二人とも美人さんなの。
そしたら、「久々の女がなんとか」とか「味見がなんとか」って言って二人を連れて行っちゃったの。
その日もお兄ちゃんはミウをぎゅってしてくれて、耳をずっとふさいでいたの。
お兄ちゃんは耳をふさがなくて大丈夫なの?
ふるえる手でミウを力強くぎゅってするお兄ちゃんが、ミウは心配なの。
ダヤンねーちゃんとヒコねーちゃんも帰って来ない。
そのかわり、盗賊さん達がケンカをしたの。
「“ショウヒン”を壊しやがって!」とか、「追加を“チョウタツ”する!」とか言ってたの。
ミウとお兄ちゃんはどうなっちゃうの?
ーーー
ミウとお兄ちゃんは馬車から下ろされて、テントの隣に置いていかれたの。
二人の盗賊さんとお留守番なんだって。
何もしないと、ピコット村の楽しかった事を思い出しちゃうの。
かわいいトムくん、ヤンチャなジジにーちゃん、美人のダヤンねーちゃん、優しいヒコねーちゃん。
「お兄ちゃん、みんなどこ行ったの?」
ミウはお兄ちゃんに聞いてみたの。
物知りなお兄ちゃんならきっと知ってるの。
「ミウ……ゴメン、兄ちゃんにもわからないや……」
お兄ちゃんは震える声で言ったの。
お兄ちゃんがわからないなら、きっと誰にもわからないの。
だから、ミウはそれでなっとくするの。
「へへっ、それならさぁ……俺が教えてやろうか?」
「え?」
お留守番の盗賊さんが、ニヤニヤしながらそう言ったの。
「ミウダメだ!」
なんだかすごくイヤな感じがしたの。
お兄ちゃんの言う通り、聞いちゃダメだと思ったの。
でも、ずっと、ずっと我慢してたの。
本当はずっと聞きたかったの。
お父さんはどうなったのか、みんながどこに行ったのか。
ただ、みんなにまた会いたかっただけなの。
お父さんに、ピコット村のみんなに……また会いたかっただけなの。
だから、ミウは盗賊さんに聞いたの。
「みんな…………どこに行ったの?」
盗賊さんは優しそうにニッコリと笑って。
「みーんな死んじゃったよぉ。知ってるかなぁ死ぬって、もう、会えないって事だよぉ。君のお父さんも剣でザックリ斬っちゃったし、チビは餓死したからその辺にポイッて捨てた」
ナニを言ってるの?
「生意気に噛みついてきたガキはボコボコにしてたら死んだし、女はちょっと遊び過ぎて死んじゃった。村だって火を着けて燃やしちゃったから、もう帰れないし誰にも会えないの。わかるかなぁ」
みんな、もう、会えない?
もうピコット村はない?
「おいあんま挑発すんな! お前ついこの前、チビが死んだのを煽ってガキに噛みつかれたの忘れたのかよ!」
「へへへっ、ちょっとした遊び心だよぉ。それに逆らうようならまた殺せばいいじゃん」
「バカ野郎。あのワケわからねぇ力を使った猫人のガキだぞ、高く売れそうなんだから殺すんじゃねぇよ」
死。
知ってるの。
ミウのお母さんは死んだの。
死んだら、もうずっと会えないの。
「で、でも……みんな言ってたの! 「助けて」って言ってたの!」
「はぁ? いきなりなに?」
「お父さんが言ってたの! 「みんな助け合って生きているんだから、助けを求められたら助けてあげなさい」って!」
みんな「助けて」って言ったんだから、盗賊さん達も、みんなを助けてあげたはずなの!
「へへ……エへへへッ! マジぃ? だからあの猫人、抵抗しなくなったの? ウケるぅ!」
「ハハハッ! 自分の子どもでもないガキを人質にしても無駄だと思って、一か八かでやった事だったが大正解だったワケだ!」
なんで笑ってるの?
「みんな「助けて」って……」
「ミウ!」
お兄ちゃんがぎゅってしてくれる。
いつもならそれだけで安心できるのに。
どうしてなの? 涙が止まらないの。
「言ってたのに……だ、だって…………助けてって……うぇ……言って、うわあぁぁん!」
「チッ! あんま騒がれると魔物が寄ってくるかもしれんぞ!」
「へへっ、任せなよ。ほら黙らないと、お父さんを殺したこの剣で、今後はお兄ちゃんを刺しちゃうよ?」
盗賊さんが剣をお兄ちゃんに向けてきた。
なんでそんな事が言えるの?
すごい怖くて、わけがわからないの。
だから涙が止まらないの。
でもお兄ちゃんも守りたいの。
だから……。
「誰か…………助けて」
思わずそう呟いたの。
でも、「助けて」って言っても、みんな助からなかったから、ミウが「助けて」を言っても、誰も助けてくれないと思ったの。
「当たり前だ」
だから返事があったことに、すごいおどろいたの。
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