上 下
34 / 51
第二章 箱庭の発展と神の敵対者

8.カルーア工房の新商品?

しおりを挟む

「おやつも終わったし、次はエメト先生の工芸コーナーだ」

 おやつ休憩も挟んだので、次のふれあいコーナーに移る。

「工芸ですか?」
「陶芸と言ってもいい。皿とかカップとか、粘土で好きに作るんだよ」
「ほう、面白そうだな」
「本来は窯で焼いたりするが、エメトがいれば窯なしで固めてくれるぞ。陶磁器もどきだな」
 
 窯で焼いて行う水分飛ばしや融解させてガラス質にする工程を、エメトは《土操作》で再現する事ができるのだ。
 私のペットの中でも、《操作》スキルを一番繊細に扱えるのがエメトだ。
 伊達に芸術家やってないってね。

「ですが……それだとリリー様のお召し物が汚れてしまいませんか?」
「私の薬草石鹸があれば泥汚れもピッカピカだぞ?」

 メリーさんが心配そうな顔をしたが、そこら辺も考えてある。
 いざとなったらピンとエメトに頼めば染み抜きは楽勝だしな。

「薬草石鹸ですか?」
「そう、薬草から抽出した薬液を混ぜた手作り石鹸。ポーションには肉体を復元しようとする効果があるだろ? あれって実は他にも不純物を浮かせて取り除く効果もあるんだよ。じゃないと傷口に着いた汚れごと再生しちまうだろ?」
「そう……なのですか?」
「私も寡聞にして存じ上げませんでした」

 従者組も揃って知らなかったらしい。
 まぁ、余りに余った薬草の活用法を考えて、セヨンと一緒に色々実験した事で判明したからな。
 薬草は普通みんなポーションにしちまうし、知らなくて当然か。

「まぁそういう効果があるんだよ。だから、汚れの性質に関わらずよく落ちるし、美肌効果もあったりする」
「それは凄いですね!」
「わたくしも使ってみたいです!」
「トンボは料理だけでなく、石鹸も作れるのか」
「幅広い知識をお持ちですね」

 美肌効果に女性陣が食い付いた。
 リリーはまだ五歳だけど、女の美容に歳は関係無いからな。 
 セヨンは美肌より、薬草の副次効果に食い付いてきて張り合いなかったし。

「うーん、じゃあリリーとメリーさんに一つずつプレゼントしようか」

 また今度追加で作らないと。
 私は成長しないから美容は無駄だけど、これは気分の問題だ。
 実際、薬草の爽やかな香りは気持ちいいしな。

 しかし、結構反響あるならカルーア工房で商品化してみるか?
 
「本当ですか!」
「ありがとうございますトンボ様!」

 商品化は追々考えるとして、今はこの笑顔が見れただけでも作った甲斐があるってもんだ。

「と、脱線したけど陶芸をはじめるぞ。エメト用意を」
『ーーん』

 エメトが手を上げると、芝生を突き抜けて大理石の作業台と椅子が生えてくる。

「なんだこれは?!」
「心配すんな。芝生は避難させてあるから、後で元通りになる」
「そこではないわ! くっ、こんな質のよい石、王城の建材でしか見たことないぞ……!」

 エメトがさわり心地や見た目にこだわって作ったのだから、それは良い物に決まっている。

「ほらリリー座れ」
「はいトンボお姉様!」
「待て待て、俺様もやるぞ!」
「じゃあエメト頼んだ」
『ーーん』

 リリーが座わると、フィレオのおっさんも席に座った。
 それを見届け、エメトが今度は地面から柔らかい粘土状の土を取り出し、二人と私の前に置いた。
 石英などをエメトがブレンドした、耐久性に優れ、完成した時に見た目も良い粘土だ。

「これが磁器の元になる。回してくれエメト」

 私が言うと、粘土が回転しはじめる。
 エメトが操作して回しているだけだが、これで轆轤ろくろいらずだ。

「見てろ? カップを作るなら、粘土の中心から指で、作りたいカップの形をなぞるように指を押し付けていく。急いで形を整えようとすると崩れるからゆっくり、摘まむように延ばすんだ」

 解説しながら簡単なカップを作って見せる。
 取っては後付けだ。
 旅行先でよく親父に連れられて陶芸させられたから、私は結構手馴れている。

 二人の粘土も回してやらせてみる。

「難しいです」
『ーーん』
「むぅ……上手くできん」

 リリーは自分用のカップを作りたいらしいが、手が小さいから形を作るのも一苦労だ。
 今はエメトが手伝い、形を整えている。

 フィレオのおっさんは……花瓶か? 
 一応、ツボみたいにすぼんだ形は難しいから、皿とか広がっていく形の物を作れってアドバイスはしたんだが、逆に負けん気に火が点いたらしい。

「何故だ! 何故かくしゃっとなってしまうぞ!」
「だから諦めろって……」
「いやだ!」

 何度もやり直すフィレオのおっさん。
 面倒なのが私が手伝おうとすると、全力で拒否してくるのだ。
 陶芸教室とかでもいるんだよな、こういう何でも自分がやらないと気が済まない奴。
 気持ちはわからないでもないけど、やられる側になるとウザい。

 リリーは成形を終わらせ、今は釉薬を塗り、絵付けに入っている。
 釉薬を塗ると発色が良くなるし艶も出る。
 形はオーソドックスなカップだが、はじめてにしては上出来だ。
 描いている絵は……百合の花か。
 リリーにちなんだのかな。

「できましたトンボお姉様!」
「うんうん、上手く出来たな」

 リリーのカップは絵付けも終わり、エメトに固めて貰って完成した。
 絵も拙いながらも一生懸命さが伝わるし、本当に良い出来だよ。

「服に汚れは無いみたいだな」
「エメト様が防いでくれました」
『ーーん』

 気遣いができるゴーレム。
 流石エメト、男前だぜ。

「じゃあ手を洗ったら、次はコタローに乗ってみるか?」
「いいんですか?!」

 話に聞いていた巨狼に乗れるのは、リリー的にはかなり嬉しいらしい。
 テンションもアゲアゲだ。

 ピンに水を出してもらい、薬草石鹸で一緒に手を洗う。
 石鹸を泡立てると薬草の爽やかな香りが広がった。

「良い香りですね。目を閉じると森の中にいるみたいです」

 リリーは本当に五歳なのか?
 さっきから感想が大人っぽすぎなんだが。

「手もスベスベです」

 うっとりと自分の手を見つめるリリー。
 五歳児に元々肌荒れも何もないだろうに。

「おいでコタロー!」
『はっ! 来たでござる!』

 おやつタイムが終わってから、カルデラと一緒に日向ぼっこしているコタローを呼ぶと、一瞬で移動してきた。

「リリーを乗せてやってくれ」
「お、お願いしますコタロー様!」
『いいでござるよー!』

 コタローが伏せをしたので、私がリリーを持ち上げて背中に乗せてやる。

「わっ! わっ! 高いです!」
「コタローが魔法で補助してくれるけど、しっかり掴まってろよ」
「は、はいっ!」
「よし、コタロー頼んだ」
『行ってくるでござる!』

 コタローは慣らしで軽く走り始めた。
 《風操作》で押さえているから、リリーが落ちる事は無いのだが、慣らし運転ってやつだ。

「わぁ~! 凄い! 凄いですよおとーさま!」
「うむ! 良かったなリリー!」

 徐々に加速していくコタローに、リリーは大はしゃぎだ。

「ぬあっ! またくしゃっとなったぞ!」

 リリーに返事をするために余所見をした所為で、また成形に失敗したフィレオのおっさん。
 このおっさんも懲りないねぇ。

「もうそれでいいじゃん。花瓶がその形に成りたくて成ったんだからさ……それも趣深いだろ?」
「これは花瓶ではなくエールを飲むジョッキだ」
「…………悪い」
「……それが趣と言うのなら、もう花瓶でよいか」

 ついにフィレオのおっさんもあきらめた模様。
 エメトに頼んで乾燥させ、釉薬を塗り始めた。

「今日はリリーが世話になったな」

 手を止めチラリとこちらに視線を寄越すおっさん。

「どっちかって言うと、フィレオのおっさんの方が手間がかかったけどな」
「わっはっはっ! 言うではないか! だが、俺様も楽しかったぞ!」
「それは良かったな」
「うむ! トンボがどういう人間か直に感じられたしな! 子どもに優しく、惜しみ無く己の力を分け与える……流石はガンボ村の守護女神だったぞ?」 

 そう言ってニヤリと笑うフィレオのおっさん。

「がっ?! なっ、なな、なんでそれを?!」
「これもモヒートから聞いた」
 
 あのくそ爺! マジで次会ったらぶん殴る!

「守護女神ですか? っと失礼しました」
「わははっ! ムートンも気になるか? トンボは二度もガンボ村を救い、ミスリル鉱床という幸運をもたらした。ガンボ村では神聖視されておるのだよ!」
「成る程、それで守護女神と……お優しいトンボ様に似合いの二つ名ですね」

 くっ、自分から神をネタにするのはいいけど、他人から言われると恥ずかしい。

「だからこそ、視察に連れていくのだ。ガンボ村の人間には、なるべくよい印象を与えねばならぬからな。守護女神と領主は仲が良いと周知させる」
「うわぁ、考え方が狡いなおっさん」

 私を視察に連れていく本当の理由はそれか。
 まぁ、私をダシにしてガンボ村と仲良くできるなら構わないけどな。
 フィレオのおっさんも、ちゃんと貴族で領主してんだな。

『主殿~、リリー殿が寝てしまったでござる~』
「ん? おお、流石に五歳児の体力じゃ限界が来たか。メリーさんあとは頼んでいいか?」
「もちろんです。お嬢様はこのままお部屋までお連れします。失礼しますトンボ様」

 メリーさんが眠るリリーを抱えて屋敷の中へ戻っていった。

「じゃあ、依頼達成だな……」
「うむ! 今日はご苦労であったな、視察の日程が決まったら冒険者ギルドを通して連絡を入れる」
「わかった」

 依頼も終わったので、ペット達にはポーチに戻ってもらう。

『ちょ、まだ自分なにもしてないっすよ?!』

 しかし、カルデラだけが私の頭に張り付いてきた。

「カルデラうるさい。リリーが寝たんだから仕方ないし、お前にリリーの相手をさせる予定はなかった」
『な、なんでっすか?!』
「調子に乗って大ポカやらかしたから」
『ガーン!』

 ショックで固まったカルデラをポーチに無理矢理詰めてフィレオのおっさんとムートンさんに挨拶する。

「じゃあ、またな」
「う、うむ…………ドラゴンはぞんざいな扱いされておるな」
「門前まで見送りましょう」

 ムートンさんに見送られ領主邸を後にする。
 中々面白かったな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

料理人がいく!

八神
ファンタジー
ある世界に天才料理人がいた。 ↓ 神にその腕を認められる。 ↓ なんやかんや異世界に飛ばされた。 ↓ ソコはレベルやステータスがあり、HPやMPが見える世界。 ↓ ソコの食材を使った料理を極めんとする事10年。 ↓ 主人公の住んでる山が戦場になる。 ↓ 物語が始まった。

転生発明家は異世界で魔道具師となり自由気ままに暮らす~異世界生活改革浪漫譚~

夜夢
ファンタジー
 数々の発明品を世に生み出し、現代日本で大往生を迎えた主人公は神の計らいで地球とは違う異世界での第二の人生を送る事になった。  しかし、その世界は現代日本では有り得ない位文明が発達しておらず、また凶悪な魔物や犯罪者が蔓延る危険な世界であった。  そんな場所に転生した主人公はあまりの不便さに嘆き悲しみ、自らの蓄えてきた知識をどうにかこの世界でも生かせないかと孤軍奮闘する。  これは現代日本から転生した発明家の異世界改革物語である。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

強引に婚約破棄された最強聖女は愚かな王国に復讐をする!

悠月 風華
ファンタジー
〖神の意思〗により選ばれた聖女、ルミエール・オプスキュリテは 婚約者であったデルソーレ王国第一王子、クシオンに 『真実の愛に目覚めたから』と言われ、 強引に婚約破棄&国外追放を命じられる。 大切な母の形見を売り払い、6年間散々虐げておいて、 幸せになれるとは思うなよ……? *ゆるゆるの設定なので、どこか辻褄が 合わないところがあると思います。 ✣ノベルアップ+にて投稿しているオリジナル小説です。 ✣表紙は柚唄ソラ様のpixivよりお借りしました。 https://www.pixiv.net/artworks/90902111

上からの命令に従っただけです。俺は悪くないんです。

蓮實長治
ホラー
ある名誉毀損の民事裁判の場に現われなかった被告。 だが、弁護人は意外な事を言い出した……。 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。

若隠居のススメ~ペットと家庭菜園で気ままなのんびり生活。の、はず

JUN
ファンタジー
退職して隠居を目指した日、地下室を発見。防空壕跡かと思ったら、じつはダンジョンだった!知らぬ間に攻略済みで、無自覚に技能がいっぱい。目標は家庭菜園とペットとでのんびり隠居生活。

おばあちゃんと私

みっちゃん
エッセイ・ノンフィクション
反抗期真っ最中の私。 病気で入院していたおばあちゃんと喧嘩してしまった。 退院して家にいたおばあちゃんがある夜突然・・・ 私が人生で一番腰が抜けるほど泣き、後悔をしたあの日。 おばあちゃんとの実話である

処理中です...