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 2章.不意討ちの祭と風の試練

5.不意討ちの収納ボックス

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 私はカウンターに置かれた、ガマ口財布を手に取った。
 開けてみる。
 ガマ口の中には、そこの見えない闇が広がっていた。怖っ!


「今財布と言ったか? これは財布なのか?!」

「え? うん、どうみても財布だよ?」


 いきなり詰め寄ってきた、おっちゃんのデカイ顔に驚きつつ、私は肯定した。


「ふ~む、やはり渡り人の持ち物だったか、だがこれで合点がいった!」


 そう言うとおっちゃんは顔を離し、私の持ったガマ口財布を指差した。


「それはな、何故か金しか入れられないマジックバッグなのだ!」

「そうなの?」

「そうだ! 本来マジックバッグとは、生きているもの以外なら、容量が許す限り何でも収容できるものだ! そのマジックバッグのように、機能が限定されているなど通常ではありえん!」


 鼻息荒く力説するおっちゃん。
 おっちゃんって、何かを解説すんの大好きだよね。


「本来マジックバッグは風の神の権能の内だ。俺様もこれを手に入れた時に、風の大神殿にまで足を運び、視てもらったことがある。しかし、何もわからなかった所か、風の神殿で作られた物ではない、と言うではないか」


 マジックバッグって、風の大神殿で作られてたんだ。
 それに何で風の神様の権能なんだろう? 
 関係あるの?


「何を言っている。昔から何かを運ぶのは風と決まっておろうが! 故に風の神は商売の神でもある! だから、マジックバッグという、運ぶのに最適な魔道具をを作れるのだ!」


 風の便りとか、風の噂とかも風がついてるしね。
 風というと、私の中ではタンポポの綿毛が飛んでいるイメージが強い。
 確かに風は何かを運ぶもので、商品の流通なんかとは切り離せない商人が、信仰する気持ちもわかる気がする。


「納得した! でも、風の大神殿で作られていないってことは、誰が作ったのこれ?」

「貴様と同じ渡り人に決まっとろうが! それを見ただけで財布とわかったのが、いい証拠だ!」


 確かにそうだ。わざわざガマ口財布をマジックバッグにするとか、前の渡り人は何をしてんだよ。


「試しに何か入れていい?」

「構わんが、金以外は弾かれるぞ?」


 いいのいいの、物は試しって言うでしょ?
 もしかしたら、渡り人だけは制限無しかもしれないしね。
 私はナイフを取り出してガマ口に入れようとした。


「おまっ! 止めっ!」


 おっちゃんの制止虚しく、バチッ! と弾かれたナイフが私の顔面を掠め、セヨンさんの足元に突き刺さった。
 

「ぎゃー!」

「バカ! トンボ! バカ!」

「弾かれると言っただろうが!」


 いや、もっと軽い抵抗があるぐらいかなって思うじゃん! 手が痺れる程の力で弾かれるなんて、思わないじゃん!
 オフの日仕様で、防具を身に着けていなかったセヨンさんもガチギレである。


「くそー! うっかり神めー!」

「女の子、くそ言わない! 創造神様、関係ない!」

「うぅ~、すみませぇん」

「まったく、これでわかっただろう? 金以外は弾かれる!」


 セヨンさんに怒られてしまった。
 ただ、おっちゃんの言葉で思い出した事があった。


「弾かれて飛んだナイフの所為で、言うの遅れたけど、弾かれた瞬間、壁魔法の力を感じたよ」

「何? では、このマジックバッグは、壁魔法を使って作られているというのか?」

「ん~多分? ガマ口の中に壁魔法で囲った部屋があるんじゃないかな?」


 私は2人に壁魔法の特性について語った。

 壁魔法で囲った内側は、実は壁魔法の術者がある程度いじれるのだ。
 これは以前にスライム討伐の教訓から編み出した、臭いを遮断する壁。それを作る実験中にわかった事だ。
 臭いだけでなく、物の選別もできた。
 トンボ式アイテムボックスの中に、様々な硬貨を入れて、銀貨のみ壁を通り抜けられるようにしたいと念じると、空に浮いたアイテムボックスの中から、銀貨だけが落ちたのだ。
 もし壁の中の設定で、囲った内部の面積よりも空間をねじ曲げて広げられるなら、このマジックバッグみたいな物も作れるかもしれない。


「空間の拡張さえできれば、物を限定させることは可能だからね。前の渡り人はこれを、純粋に財布として使ってたんだろうね」

「……壁魔法とは、聞きしに勝る壊れっぷりだな。神の権能すら模倣するとは」

「壁魔法、凄い。調べたトンボも、凄い」

「いや、ははは……」


 つい調子に乗って実験しまくって、魔力がなくなって倒れたのは内緒だよ!
 そうだ、魔力切れと言えば、昨日サナと模擬戦をして確認できた事があったんだ。


「おっちゃん私さ、魔力の回復が異様に早くなったんだけど、大丈夫かな?」

「それはいつからだ?」

「多分、スタンピードで倒れたて、目が覚めてから」

「ふむ……以前、魔力ポーションを使った魔力量の底上げ訓練の話をしたな、覚えているか?」


 確か、魔力を使い切っては、魔力ポーションを飲んで回復させて、魔力量の上限を上げようって訓練だったはず。
 ただ、死人が出てしまうような狂気の訓練で、直ぐに廃れたんだっけ?


「そうだ。その訓練を貴様は実践したのだろう? スタンピードの最中に」

「あっ」


 そうか、私狂気の訓練してました。


「でも、魔力量は上がってないよ私?」

「訓練はあくまでも、魔力量の上限を上げてみようという実験的なものだったのだ。実験では、魔法を多く撃てるようになったと言われていたが、何度も同じ魔法を撃つことで、魔力の効率的な編み方を覚え、結果多く撃てるようになっただけなのかもしれん」

「じゃあ、私のは?」

「仮説だが、魔力ポーションの大量接種により、魔力経路が拡張したのかもしれない。通り道が広くなれば、当然通れる量も増えるという事だからな」


 そこで言葉を切ると、おっちゃんは難しい顔で私の顔を見てきた。


「普通なら、体感出来るほど魔力経路が広がれば、その余波で全身の神経もボロボロになるハズなんだが……本当に身体に異常はないんだな?」

「トンボ……」


 おっちゃんの言葉に、セヨンさんまで泣きそうな顔を向けてきた。


「大丈夫だよ! 多分うっかり神の仕業じゃないかな?」


 私の身体を再生させる時に、損傷した部分は再生させたけど、広かった魔力経路は損傷と認識されなかったとか。
 うっかり神ならやってそう。


「ふむ、あの光った時か……」

「ピカピカ、してた」

「うっかり神もたまには良いうっかりもするんだなぁ」


 私はウンウン頷きながら感慨にふける。
 余計な事をさせない方が、やっぱりいいんだよ。うっかり神は。


「じゃあ、問題なさそうかな?」

「恐らくは、だがな。不調を感じたら直ぐに言えよ!」

「わかった! ただし! 次この前みたいなことになったら、潰すからな?」

「う、うむ……!」


 この前とは、あの絶壁事件の事だ。もう1度目の粛清はしたけど、二度あることは三度ある派の私は、三度目は与えない主義なのだ。


「トンボ、次、何かあったら、真っ先に、話す、わかった?」

「うっ、すみません」


 またセヨンさんに怒られてしまった。
 相談されなかったのが不服だったらしい。
 

「でも、特に問題ないなら、これはかなりの戦力アップですよ。昨日サナ相手に確かめた結果、1分間に5枚ぐらいなら、魔力の回復が同じ位で追い付きます。魔力量は増えてないので、いきなり強い壁は作れませんが、凄い時間を掛ければ、魔力ポーションを使わず、あの時の壁魔法も再現できそうです」


 あまりおおっぴらには言えないけど、3時間位掛ければ作れる気がする。


「それ凄い。でも、無理する、ダメ」

「ならば、時間を掛ければそれの再現も可能なのではないか?」


 おっちゃんの言葉に、私は手にしたままのガマ口財布を見た。


「空間の拡張は……さすがに難しいかも。でも、逆ならいけるかも?」


 空間の拡張は、壁で囲って指定した空間に、大量の魔力を一気に送りつけて、強引に拡張する必要がありそうだった。
 魔力量は変わらない私にはこの方法は無理だ。
 その代わり、壁を内側に収縮させることはできそうだった。
 こっちは中の物を壊さないように、少しずつ魔力を送る必要があるが、私には向いている。
 まぁ、前者の方法ができるなら、こっち時間も掛かる分無駄の極みだけどね。

 試しにカウンターの上にある、組み立て式のテントを、トンボ式アイテムボックスで囲ってみる。
 そして、収縮させる。
 イメージは圧縮布団? ダメだ、空気は抜けるけど空間が縮む訳じゃなかった。
 じゃあ、昔テレビで見た、深海に持って行ったカップ麺の容器。
 深く沈んでいくと、見た目はそのままに段々縮んでいく、発泡スチロール製の容器だ。

 壁に向かって魔力を流していく。
 外側から内側にじわじわと、アイテムボックスごと収縮させながら。
 魔力はかなり使う。
 まだ私の魔力回復の方が勝っているが、それでも一度でも魔力を流すのを止めたら、失敗する気がする。
 慎重に焦らず、じっくりと時間を掛ける。


「できた!」


 どれくらい経っただろうか、限界まで収縮させることができ、壁の中は私の魔力が満ちて安定している。
 それなりの大きさだった、テントを囲ったアイテムボックスは、手のひらサイズの箱になっていた。
 箱の中には、見た目はそのままで、サイズだけが縮んだテントが入っている。


「ふーむ、テントが30分でこのサイズに縮むとは、いやそもそも空間を圧縮? そんなことが可能なのか……壁魔法とはデタラメだな」


 おおう、30分も集中していたのか。
 便利だけど、使い勝手は良くなさそう?


「小さくなった。これ、もどる?」

「戻してみますか? ん~……そい!」


 私が“戻れ”と念じると、収縮したアイテムボックスは、一瞬にして元の大きさに戻った。
 スゲー! リアルポ◯ポ◯カプセルじゃん!
 

「どうやら破損も見られないようだな」

「あのサイズ、持ち運び、便利」

「うんうん、名付けて『トンボ式コンテナ』の完成だ!」


 私は新たな技を編み出した。
 これで『グル・グルヴ』の、ラプタス最高の運び屋の地位は、磐石になったのだ!

 野営道具一式は、お買い上げ後猫の目亭の自室で、時間を掛けて圧縮した。
 地味に辛かった。
 でも、これは色々使えるぞ!

 




ーーーーーーーーーー

 最近無能チートがチートし過ぎてる気がする。
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