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2章.不意討ちの祭と風の試練
4.不意討ちの指針
しおりを挟む領主邸訪問の次の日、私はとんでもない爆弾を発見してしまった。
いつの間にか、本当にいつの間にか、部屋のテーブルの上に1枚のメモ。
そこに書かれていたのだ。
“蜻蛉さんへ
この度は本当に申し訳ありませんでした。
貴女は特に追加の補償はいらないと言っていましたが、なにもしないのは心苦しくあり、ひとつ思いついた事があるので、それを補償の代わりにして下さい。
ルスカ世界における私の補佐官。
そちらでは6大神と呼ばれる神々に、貴女に加護を与えるように指示しました。
それぞれを祀る大神殿に行けば、神に会えるはずですから、頑張って会いに行ってみて下さい。
神より”
って。
「うわあぁぁぁ!!」
「トンボ? どうした?」
メモを見て悲鳴をあげ、部屋の壁際にまで飛び退いた私を、セヨンさんが不思議そうに見てきた。
あの野郎、遂に直接干渉してきやがった!
「セヨンさん危ない!」
セヨンさんが私の捨てたメモを拾い上げ、読みはじめたのだ。
うっかり神の寄越したメモだ。突然爆発しても不思議はない。
「? 読めない」
セヨンさんが首を傾げて、メモを上下左右様々なに回して見てから、そう呟いた。
「なぬ?」
私は警戒しながらもセヨンさんに近づき、背後からメモを除き込んだ。
うん、読める。
「ああ、これ日本語だ」
「ニホンゴ? 確かトンボのいた世界の、ロボットの歌?」
「それはマジ◯ゴー。日本語は私の故郷の言語です」
前にテキトーに語ったロボットの話を、よく覚えてたなセヨンさん。
「日本語で書かれていたのは、私以外が読むのを防止するため?」
いや、うっかり神のやることを真面目に考えると、うっかりされた時に混乱するだけだ。
私はそんなあきらめを感じつつ、セヨンさんにメモの内容を教えた。
「神様、加護もらえる、凄いこと」
「でも、うっかり神の眷属でしょ?」
「風の大神殿、なら、ラプタスから近い、馬車で、2日」
「一度行ってみろと?」
「決めるのトンボ、行くなら、ワタシついてく」
意外と近くにあるのか。
うっかり神は信用ならないけど、こっちの神様はどうなのか、確めるのもアリかも知れない。
「じゃあ行って見ますか、風の大神殿に!」
「ん、ついでに、依頼、見ておく。泊まりあるから、フィーの店も、行く」
おお! はじめての野営! 遠出の依頼!
もうそれだけで、行く価値があるじゃないですか!
「早速ギルドに行きましょう!」
「ワタシ、ウルに遠出する、伝える、トンボ先行く」
「じゃあ、先に行ってますね!」
久々の冒険の気配に、私はわくわくした気持ちのまま、冒険者ギルドのエルさんの所へ向かった。
「風の大神殿近くの依頼ですか?」
「はい。ちょっと用がありまして、ついでに依頼でもと思って。なにかいいのはないですか?」
「そうですね……風の大神殿まで行く商人の護衛の依頼がありますね。Cランクからの依頼ですから、この前パーティーランクがCになった『グル・グルヴ』なら受注可能です。他にも数人の冒険者が依頼を受けますので、野営もそこまでキツイものにはならないかと。ですが、往復の護衛依頼ですので、トンボ様の用事に使える時間が少なくなるかもしれませんが」
さすがエルさん。気遣いもできる有能さんだね。
これなら、はじめての護衛依頼も大丈夫かも知れない。
それに、神様の加護がどういう形で与えられるのかわからないから、間に合わないなら最悪加護はキャンセルして、護衛依頼を優先させよう。
私はもう冒険者なんだから、依頼のブッチは将来に響く。
「大丈夫です。それでお願いします」
「かしこまりました。では、『グル・グルヴ』のお2人で、ちょうど規定の人数が揃いましたので、出発は明後日になります。お時間は丈夫ですか? 野営をする場合の準備等はお済みでしょうか?」
「これからおっちゃんの店に、買いに行く予定ですから、そっちも大丈夫です」
「それでは、護衛依頼の受注をいたしますので、冒険者カードを提出してください」
エルさんにカードを渡して依頼の登録をして貰った。
カードを返す時に、エルさんが真剣な顔で私の顔をみて言った。
「トンボ様、商人の護衛依頼では、魔物の他に人間にも気を付けなければなりません。わかりますね? くれぐれも“その時”に迷わないで下さい」
「わかりました」
私はその言葉に、しっかりと頷いて答えた。
その後、私はセヨンさんと合流し、おっちゃんの店へと向かった。
「おっちゃーん! 遠出するから、『新人冒険者のわくわく初めての野営セット』売ってー!」
「馬鹿者! ウチで売っているのは『新人冒険者のニコニコ安心初めての野営セット』だ!」
いらっしゃいの挨拶もなく、文句をつけてきたおっちゃん。
どっちでもいいよ。
「とにかく売ってくれ」
「ふむ、遠出か……場所は?」
「風の大神殿」
「なら食料は少なくていいな。だが、普段から“もしも”を想定して、多めに持っておけ!」
おっちゃんはそう言いながら、カウンターの上に商品を並べていく。
何かの葉っぱに包まれたもの。
あれはたぶん保存食かな?
「料理も良いが、場所を弁えねば匂いで魔物を引き寄せる事になる。はじめは保存食で我慢しろ!」
「了解!」
「次にテントだ! これは以前に渡した手袋と同じ素材のスワンプフロッグの革を使っているから、防水性が高く雨避けにも使えるぞ!」
どん! とカウンターの上に組み立て式のテントが置かれる。
それなりの大きさだ。トンボ式アイテムボックスでずっと運ぶのも面倒そうだ。
「おっちゃん、セヨンさんが使ってるような、マジックバッグってないの?」
「若い内から楽を覚えると、碌な大人にならんぞ?」
「かー! おっちゃんは古い! だからこの店新人が来ないんじゃないの? どうせどこかで苦労はするんだから、楽できる所は楽すればいいんだよ。苦労をしたからって良い大人になるわけじゃないでしょ?」
「ぐっ、こやつ痛い所を……」
私以外の新人でここを利用してるのは、前に私が紹介した新人君達だけだからね。
新規の客は大抵おっちゃんの威圧感に気圧されて、逃げ帰っているから。
冒険者の間では、フィレオの道具屋をまともに使えれば一人前、なんて言われてる。
「トンボ、ワタシの、マジックバッグ、入れていい」
「セヨンさんのマジックバッグはもう容量ギリギリですよね? 残りはセヨンさんの為に残しておきましょう。それに、もうひとつマジックバッグがあれば、パーティー的にも助かるでしょ?」
「ん、ありがと、トンボ」
「その気遣いがなぜ俺様に向かん?」
気遣われる性格じゃないだろうに。
とにかく、あるのか、ないのか、どっちなのか!
「有りはするが、高いぞ? 一番容量が小さいものでも、白金貨5枚はする」
ご、500万円?! 高すぎるよ! この前のスタンピードの特別報酬で大金貨5枚、つまり50万円稼いで、私金持ちとか思ってたのに! 10倍ってなんだよ! 私にあと9回死ねっての?!
くやしいのう、くやしいのう!
「こうなったら、おっちゃんの使ってた中古でもいいから、安いのないの?」
「俺様が使っていたなら、プレミア価格でもっと高くなるわ!」
睨み合う私とおっちゃんを尻目に、考え事をしていたセヨンさんが、小さい声で呟いた。
「あれが、ある」
「あれ?」
「むっ? ああ、あれか……確かに、娘っ子は渡り人であったな」
私だけ置いてけぼりに、なにやら通じ合う2人。あれとは一体。
おっちゃんの話ぶりから考えると渡り人関係なのかな?
「待っていろ、持ってきてやる!」
「……セヨンさん」
店の奥に消えたおっちゃんに代わり、セヨンさんに説明を求めた。
「ワタシのマジックバッグ、昔、遺跡で、見つけた。ウル、フィー、一緒にパーティー組んだ」
「ウルさんって、やっぱり冒険者だったんだ。それにパーティーまで組んでたんですか?」
「正確には、臨時パーティー。その遺跡の奥に、マジックバッグ、3つあった。ひとつワタシに、ひとつウルに、最後のひとつ、変わったバッグだった、フィー、それ持って帰った」
遺跡を探検して、見つけたマジックバッグの内、よくわからないヘンテコバッグを、おっちゃんに持たせたって事か。
絶対ウルさんが、おっちゃんに貧乏クジを引かせただろこれ。
「待たせたな! これだこれ!」
そう言ってカウンターの上に置かれたのは。
「…………ガマ口財布?」
紛うことなき、唐草模様のガマ口財布だった。
ーーーーーーーーーー
ガマ口財布ってかわいいよね。
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