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1章.無能チート冒険者になる
5.無能チートは渡り人
しおりを挟むここはノルデン王国の東に位置する街。その近郊にある森の中だという。
鈍色の全身鎧の先導に従って、その森の中を歩いている。
「トンボは、『渡り人』、なんだね」
セヨンさんは美少女ドワーフだった。
この世界のドワーフは、男性はよくあるファンタジー設定そのままみたいだけど、女性はセヨンさんのように、成人しても小柄なままな合法ロリ仕様らしい。
ちなみにセヨンさんは成人しており、お酒も大好きらしい。
当然、鍛冶もするため、今着ている鎧もお手製で、『念動』という無属性魔法で動かしているとのこと。
声が渋くなるのは、たんに声が篭っているかららしい。
「渡り人ですか?」
ゴブリンを始末した後、街に戻るというセヨンさんに同行することにした私は、道すがら私が異世界から転生し、ゴブリンに教われた経緯を正直に話した。
うっかり神のチートが信用できない以上、この世界を自力で生き抜かなければならない。そのためには、この世界に信用できる知人を作る必要があると思ったからだ。その点、見ず知らずの私を助けてくれたセヨンさんは信頼できると思う。
そして、私の話を聞いたセヨンさんが教えてくれる。
「伝説の中に語られるような話、別の世界から渡って来て、超常の力を振るう人、だと」
あー、じゃあ私渡り人じゃないっすわー。超常の力とかないっすわー。チクショウ!
「私の壁魔法は役立たずでしたけど、セヨンさんは信じてくれるんですか?」
「伝説では、壁魔法を使った渡り人、古龍のブレス、防いだ、役立たず違う。それに、ドワーフ、嘘嫌い、だから嘘わかる」
ドワーフって人間嘘発見器なの? でも、信じてもらえたのは嬉しかった。
そして、何故私の壁魔法はあんなに弱いのか。
「壁魔法使った渡り人、魔力量多い、トンボ、魔力量少ない、だから?」
「なるほど! ってことはあのうっかり神、絶対うっかり私の魔力量増やすの忘れたな!」
なんなのあの神、祟り神なの?
「トンボは、どうする?」
「いつかうっかり神は殴ります!」
「……ちがう、街ついたら、どうする?」
その一言で、うっかり神に対する怒りで忘れていた不安を思い出した。
チートもない女子高生が生きていくにはどうすればいいんだろう。
私が何の言葉も返せないでいると、セヨンさんが続けて質問してきた。
「前の世界、トンボなにしてた?」
「……女子高生です」
「じょしこうせい?」
「私のいた世界だと、私ぐらいの年の子は、高校って所で勉強をして、色んなことを学ぶのが一般的で、高校に通っている女の子を女子高生って言うんです。だから、仕事は、していません……でした」
最後の方は消え入りそうになりながら、セヨンさんに答えた。
中には働いている人もいるけど、高校に進学する人の方が多いだろう。お小遣い制で部活をしていた私は、バイトの経験もなかった。
「…………」
鎧の中は伺えず、沈黙するセヨンさんがどんな顔をしているのか、どんな眼を私に向けているのか、知るすべはない。
軽蔑されただろうか、それとも呆れられただろうか。セヨンさんにそんな視線を向けられたかと思うと、何故か泣きたくなった。
「大丈夫」
そんな私の心を見透かしたように、とても優しい声音でセヨンさんが言った。
「ちゃんと、独り立ちできるまで、ついている。ドワーフ、良い子は見捨てない」
「っ……セ、ゼヨンざんっ! うう~、ありがどうございます~!」
その言葉に、思わず私はセヨンさんに勢いよく抱きつき、泣いてしまった。硬い鎧が少し痛かったけど、構わなかった。
セヨンさん、あなたが女神か!
「よしよし」
ゴツゴツの手甲で頭を撫でられ、落ち着いてくると、途端に気恥ずかしくなった。
手の甲で涙を拭い、セヨンさんから離れた。
「とりあえず、トンボは、冒険者になる、いい」
「冒険者!」
異世界行くなら就きたい職業No.1。
憧れの職業、冒険者。
でも、ただの女子高生の私に勤まるだろうか。
「私も冒険者。冒険者なると、冒険者カード貰える」
セヨンさんは何処からか、手のひらサイズの金属板を取り出して、私に見せてくれた。
「これ冒険者カード。身分証なるし、冒険者仕事沢山。安全なのある。自分に合うのゆっくり探す」
つまり、冒険者になれば身分証を獲得できるし、安全な仕事もあるから、それをこなして生活費を稼ぎつつ、自分に合った仕事を探そうということらしい。
「わかりました。セヨンさん私冒険者になります!」
「うん。トンボ、ゴブリン一人で倒した。きっと良い冒険者なる」
倒したには倒したけど、金的で気絶したままのゴブリン。結局止めはセヨンさんがやってくれたんだ。
戦っていて、勢いで殺してしまうことはあるかもだけど、無抵抗の生き物を殺すのは、躊躇してしまったのだ。
冒険者になったら覚悟を決めなければ。
「トンボ、街見えた」
森を抜けた。
どうやら、私達は少し高い丘のような所にいるらしく、セヨンさんが指差した先、見下ろす形で、高い壁に囲まれた街が目に入った。
「あれが、貿易街道の街、『ラプタス』」
ーーーーーーーーーー
街の名前は、目に映ったものを適当にもじって着けました。
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