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 1章.無能チート冒険者になる

1.業務上過失致死では?

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「本当に申し訳ない」


 気が付いたら、真っ白な空間にいて、知らない人に頭を下げられていた。
 『ここはどこ?』そう疑問を口にしたつもりだったが、声が出ない。
 いや、そもそも身体の感覚が曖昧だ。
 身体が動かないとかではない、身体が丸ごと無くなってしまったようだ。


「この度は私のミスにより、貴女に多大な迷惑をお掛けしてしまいました」


 私の戸惑いを無視するように話を続ける目の前の人?
 しっかりと頭を下げているため、後頭部しか見えず顔はわからない。
 ただ、気配というか、存在感がおかしかった。これが、芸能人にリアルで会ったら感じるという、オーラみたいなものなのかも。


「つきましては、何らかの形でお詫びをさせていただければと思います」


 さて、訳がわからない事が多いけど、何となくわかった事がある。


「しかし、貴女の身体はすでに消滅しておりますので、私の管理する別の世界での再生をもってお詫びに代えさせていただければと……」


 この人、他人の話を聞かないタイプだ。
 色々と気になる単語が出たけど、このままだと話にならないので、仕方なく『すみません!!』と大きな声で話かける。
 まぁ、相変わらず声は出ないんだけど。


「へっ? あ、ああ、なんでしょうか『真壁蜻蛉』さん」


 それでも伝わったらしい。
 頭を上げた目の前人の顔は、何故か逆光のようになり、見えなかった。
 というか名前。真壁蜻蛉。私の名前。
 父が戦国時代好きで、お気に入りの武将の名前を付けようとしたけど、『女の子に男の名前を付けるな』と母に怒られて、それでも駄々をこねた結果、その武将が使った武器の名前から取られた名前。
 おおよそ女の子に付ける名前じゃないよね。母よ、できれば武器というか虫の名前も止めてもらいたかったよ。
 そんな、鳥人間みたいな自転車飛行機で空を飛びそうな名前を、目の前の人は何故か知っていた。


「ん? ああ、ログを確認しました。説明不足でしたね。真壁さんに分かりやすく言うと、ここは天国で、私は神になります」


 ログ? 私の心の声がチャットみたいに残ってるわけ?
 信じる信じないは別として、何となくここが私の知っている現実ではなく、目の前の人が普通ではないことはわかった。
 では、何故私はここにいるのか?


「それは私の管理ミスで、つい貴女の肉体を消滅させてしまってですね……いや、36万5795徹なんてするものじゃないですね。ちょっと欠伸をした瞬間にミスをしまして」


 ナチュラルに心を読まれてしまった。
 ここが夢の中じゃなければ、マジで神様?
 というか、徹夜してミスしたって、完全にそっちの過失じゃないですか?


「はい、ですのでお詫びとして、私の管理する別世界での再生を」


 待った。元の世界に戻る選択肢は?
 先程の話からわかっていても聞かずにはいられなかった。


「元の世界に肉体を再生させることは、可能ではあります。しかし、その場合新しい肉体に引っ張られる形で、貴女の築いてきた関係は全て初期化されます」


 初期化とは?


「貴女を知る人間はいなくなります。貴女の両親も、友人も、新しい貴女を、自分のよく知る『真壁蜻蛉』だとは認識しません。同じ名前を名乗っても、同姓同名の別人だと認識します」


 別人だと認識される。それはつまり、側に肉親がいるのに天涯孤独になるということだ。
 その情景を思い浮かべたら、何故か、無性に両親と友人に会いたくなった。
 そして、目の前の神様が何故それを勧めないのかがわかった。


「今一度、本当に申し訳ない」


 再び頭を下げる神様。
 何故か、もう目の前人が神様だと確信している自分がいた。


「ですので、お詫びとして、私の管理する別世界で再生をしませんか?」


 別世界……まさかとは思うけど、最近よく聞くあれですか?
 ファンタジー世界に、チートスキル貰って転生! みたいな。


「チートスキル? えっと……はい、参照しました。そうですね。再生させる予定の世界は剣と魔法、真壁さんに合わせて言うとファンタジーの世界です。お詫びとして、身を守る術に、特別な能力もお付けしましょう」


 マジか?!
 先程までのしんみりした気持ちが吹き飛んだ。
 親不孝で薄情と思われるかもしれないけど、戻れないものはしょうがないし、私の父と母だ。悲しんでくれるだろうけど、それでも強く生きてくれるに決まってる。友人達だって同じだ。

 何より私は、異世界転生とか嫌いじゃないですよ!


「では、真壁蜻蛉さんを『ルスカ』と呼ばれる世界に再生させていただきます。先程も言った様にファンタジー世界ですので、当然危険も多いです。貴女には身を守るためのスキルを付けますので、どうか新しい人生を楽しんで下さい」


 三度頭を下げ、見えないコンソールを操作するように、空に指を踊らせる神様。
 すると、私の視界に光が満ちていく。
 異世界への旅立ちに心を踊らせる中、私という存在が光に埋め尽くされる。
 その瞬間、私は見た。
 逆光で見られなかった目の前神様の顔。

 その深い隈に覆われた虚ろな眼を。

 そういえば、とんでもない徹夜明けなんだっけ。そりゃミスもするわ。



 この時、私は思い至らなかった。



 徹夜のせいでミスをした人が、そのままの状態で同じようなミスはしない、なんてことは無いのだと。





ーーーーーーーーーー

 神様だって睡眠は必要ですよ。
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