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第六章:終ワラナイ遊ビ
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これほどまでに自分がイカれたことがあっただろうか。
「スウェン……。いつ見てもその狂い様は,オレでもドン引きだ」
苦笑しながらジャックに言われた言葉。スウェンは我に返る。
――エイダの仇敵,ルーカスとボビーを倒したというのに全く気が晴れなかった。あんなやり方では,エイダは喜ばない。……最も,復讐という名のものに道理など存在しないが。
あまりにも残酷な自分の仕打に,スウェンはたちまち頭が痛くなった。
「ふふふふふ……」と,いつの間にかエドガーが2つの遺体の前に立っていた。そして,意味不明な話を始める。
「パーフェクトだよ,スウェン。 ……いや,我が息子と呼ぶべきかな」
一瞬,誰に言っているのか,スウェンは迷う。
(俺,とうとう耳までおかしくなったのか)
本気でそう思った。困惑するスウェンを嘲るかのようにエドガーは再び喋る。
「おやおや。意外に驚いていないな? お前はおれ様の息子だぞ。つまり,お前の父親は目の前にいるこのおれ。エドガー・シュタイナーだ」
「…………」
スウェンは目を白黒させる。 開かない口を無理矢理動かした。
「……嘘。嘘だろう」
「本当だ」
「いや,ありえない! 俺の父親は,俺が生まれてからすぐに死んだはずだ。なんでお前が,死んだ父さんになるんだよ」
足音を響かせ,エドガーはこちらに近づいてくる。極太の声質でエドガーは言う。
「その話,あいつから聞いたのか」
「あいつ……?」
「お前の母親のことさ」
スウェンは曖昧に頷いた。 聞いた,というよりもただ幼い頃から父親は死んだのだと教えられていたのである。
敵国の帝王から父親だ,と打ち明けられても信じられるわけがなかった。
「ま,落ち着いて聞いてくれよ」
冷静な様子で,エドガーは語り始める。
「では,お前のI・Bの真実を全て教えよう。お前がそんな身体になった一番の原因はおれにある」
「……あ?」
するとエドガーは着ていた鎧の内側から,何か液体が入ったビンを取り出す。それを見たとき,スウェンの息は一瞬だけ止まった。
「この――“ドラッグ”という液体」 淡々と話は続けられた。
「これは,飲用した人間の身体を長い年月に掛けて不死身にしてしまう」
「……それを,俺に飲ませやがったのか」
「そうだ」
「何のために?」
エドガーの姿にだけ目を集中させスウェンはいつでも戦闘できる構えを取った。
「毒味してもらったんだ」
「毒味?」
「これは,おれ様が作り出した物だ。 とにかくたくさんの化学物質を調合し,開発に成功したが――ドラッグを飲用して人体に害があるかという有無は分析できなった。 だから生後間もない息子のお前を,実験台として使ったんだよ」
大きく息を吐き出し,スウェンは鎌の柄が折れそうになる寸前まで強力な力で握った。するとジャックがスウェンの前に立ちはだかり,静かに言う。
「……続けろ,エドガー」
奴はほくそ笑む。
「赤ん坊のお前は,ドラッグを飲み込んだ途端に大量の排出物をし,おかしなくらい泣き叫んでいた。『死んじゃうか?』と思ったが,お前は生存した。 翌日には何事もなかったかのような面してやがったし」
心臓がドクンとした。 無論スウェンはそのようなこと全く覚えていないのだが……。スウェンはうつむき,自身の両手を眺めた。
――I・B。それは不思議な力を持つ,原因不明の病気。その真実は今明かされているが,信じていいのかもよく分からなかった。
「――安全を確認したおれは,お前と妻を捨てて海外へ赴いた。それがデザイヤ帝国だ。そこで,おれもドラッグを飲用したんだ。ゲロは止まらないわ過呼吸になるわで大変な思いをしたなあ。だが,それくらいなら耐えられるものだ」
話の途中で,ジャックが低く呟く。
「貴様……」
彼はいつの間にか,エドガーを弓で狙っていた。
「エドガー・シュタイナーがなぜあれほどまでに恐れられていたのか理解した。……やはり貴様もI・Bの力があったんだな……」
「くくく。なんだ,ジャッシー王子。さんざんこちらにスパイを送ってきたわりには,おれ様の徹底調査はできなかったようだな?」
「…………」
怒りの表情をしながら,ジャックは無言で矢を射る。そのまま矢はエドガーの喉に突き刺さる。 しかし苦しむこともなく,奴は死なない。
「残念だったな。 I・Bの力を持つ者に,武器は無効。痛くも痒くもない!」
顏をしわくちゃにし,エドガーは矢を喉から引き抜いた。
それを見て,ジャックは乱暴に弓矢を地面に放り投げる。
「ふざけた物作りやがって。……そんなに不死身になりたかったのか!」
「――いや」
エドガーはさりげなく,ジャックの足元に矢を投げつける。
「おれには他に,求めることがあった。人間なら誰もが欲しがるだろう」
「もったいぶるな。さっさと言え」
そんな言葉も無視し,奴は間を置いてから答えるのだ。
「……それはな,『快楽』だよ」
「快楽?」
「そうさ。 おれは昔から,心を刺激するような楽しいことに触れられなかった。他人といると疲れるばかり。どれだけ酒を飲んでも酔うことはない。どんな美女を抱いても欲求は満たされない。機械のように……おれは何にも感じなかったんだ」
スウェンたちは,黙って話を聞いた。
「そんなおれに,ある日転機が訪れた。それは数十年前起きたクロックス連邦での内戦だ」
エドガーは急に気味悪く笑みを浮かべた。
「おれは内戦中にクロックス連邦に住んでいたんだ。そこで見たのは人が殺し合いをする姿だ。町に溢れる真っ赤な血,絶えることのない悲鳴と奇声,そしてゴミのように積まれた人間たちの死体。初めて見るもの全てが,おれの胸をわくわくさせたんだ!」
狂ったようにエドガーは大声を上げた。
「おれ様はあの時,思ったんだよ。 殺し合いが許される世界になったら,どんなに楽しいだろうと! だから,あの内戦で満足せずに,おれはドラッグを作ったんだ! 殺意を持ち,血を浴びることを一生楽しむためにな!」
「スウェン……。いつ見てもその狂い様は,オレでもドン引きだ」
苦笑しながらジャックに言われた言葉。スウェンは我に返る。
――エイダの仇敵,ルーカスとボビーを倒したというのに全く気が晴れなかった。あんなやり方では,エイダは喜ばない。……最も,復讐という名のものに道理など存在しないが。
あまりにも残酷な自分の仕打に,スウェンはたちまち頭が痛くなった。
「ふふふふふ……」と,いつの間にかエドガーが2つの遺体の前に立っていた。そして,意味不明な話を始める。
「パーフェクトだよ,スウェン。 ……いや,我が息子と呼ぶべきかな」
一瞬,誰に言っているのか,スウェンは迷う。
(俺,とうとう耳までおかしくなったのか)
本気でそう思った。困惑するスウェンを嘲るかのようにエドガーは再び喋る。
「おやおや。意外に驚いていないな? お前はおれ様の息子だぞ。つまり,お前の父親は目の前にいるこのおれ。エドガー・シュタイナーだ」
「…………」
スウェンは目を白黒させる。 開かない口を無理矢理動かした。
「……嘘。嘘だろう」
「本当だ」
「いや,ありえない! 俺の父親は,俺が生まれてからすぐに死んだはずだ。なんでお前が,死んだ父さんになるんだよ」
足音を響かせ,エドガーはこちらに近づいてくる。極太の声質でエドガーは言う。
「その話,あいつから聞いたのか」
「あいつ……?」
「お前の母親のことさ」
スウェンは曖昧に頷いた。 聞いた,というよりもただ幼い頃から父親は死んだのだと教えられていたのである。
敵国の帝王から父親だ,と打ち明けられても信じられるわけがなかった。
「ま,落ち着いて聞いてくれよ」
冷静な様子で,エドガーは語り始める。
「では,お前のI・Bの真実を全て教えよう。お前がそんな身体になった一番の原因はおれにある」
「……あ?」
するとエドガーは着ていた鎧の内側から,何か液体が入ったビンを取り出す。それを見たとき,スウェンの息は一瞬だけ止まった。
「この――“ドラッグ”という液体」 淡々と話は続けられた。
「これは,飲用した人間の身体を長い年月に掛けて不死身にしてしまう」
「……それを,俺に飲ませやがったのか」
「そうだ」
「何のために?」
エドガーの姿にだけ目を集中させスウェンはいつでも戦闘できる構えを取った。
「毒味してもらったんだ」
「毒味?」
「これは,おれ様が作り出した物だ。 とにかくたくさんの化学物質を調合し,開発に成功したが――ドラッグを飲用して人体に害があるかという有無は分析できなった。 だから生後間もない息子のお前を,実験台として使ったんだよ」
大きく息を吐き出し,スウェンは鎌の柄が折れそうになる寸前まで強力な力で握った。するとジャックがスウェンの前に立ちはだかり,静かに言う。
「……続けろ,エドガー」
奴はほくそ笑む。
「赤ん坊のお前は,ドラッグを飲み込んだ途端に大量の排出物をし,おかしなくらい泣き叫んでいた。『死んじゃうか?』と思ったが,お前は生存した。 翌日には何事もなかったかのような面してやがったし」
心臓がドクンとした。 無論スウェンはそのようなこと全く覚えていないのだが……。スウェンはうつむき,自身の両手を眺めた。
――I・B。それは不思議な力を持つ,原因不明の病気。その真実は今明かされているが,信じていいのかもよく分からなかった。
「――安全を確認したおれは,お前と妻を捨てて海外へ赴いた。それがデザイヤ帝国だ。そこで,おれもドラッグを飲用したんだ。ゲロは止まらないわ過呼吸になるわで大変な思いをしたなあ。だが,それくらいなら耐えられるものだ」
話の途中で,ジャックが低く呟く。
「貴様……」
彼はいつの間にか,エドガーを弓で狙っていた。
「エドガー・シュタイナーがなぜあれほどまでに恐れられていたのか理解した。……やはり貴様もI・Bの力があったんだな……」
「くくく。なんだ,ジャッシー王子。さんざんこちらにスパイを送ってきたわりには,おれ様の徹底調査はできなかったようだな?」
「…………」
怒りの表情をしながら,ジャックは無言で矢を射る。そのまま矢はエドガーの喉に突き刺さる。 しかし苦しむこともなく,奴は死なない。
「残念だったな。 I・Bの力を持つ者に,武器は無効。痛くも痒くもない!」
顏をしわくちゃにし,エドガーは矢を喉から引き抜いた。
それを見て,ジャックは乱暴に弓矢を地面に放り投げる。
「ふざけた物作りやがって。……そんなに不死身になりたかったのか!」
「――いや」
エドガーはさりげなく,ジャックの足元に矢を投げつける。
「おれには他に,求めることがあった。人間なら誰もが欲しがるだろう」
「もったいぶるな。さっさと言え」
そんな言葉も無視し,奴は間を置いてから答えるのだ。
「……それはな,『快楽』だよ」
「快楽?」
「そうさ。 おれは昔から,心を刺激するような楽しいことに触れられなかった。他人といると疲れるばかり。どれだけ酒を飲んでも酔うことはない。どんな美女を抱いても欲求は満たされない。機械のように……おれは何にも感じなかったんだ」
スウェンたちは,黙って話を聞いた。
「そんなおれに,ある日転機が訪れた。それは数十年前起きたクロックス連邦での内戦だ」
エドガーは急に気味悪く笑みを浮かべた。
「おれは内戦中にクロックス連邦に住んでいたんだ。そこで見たのは人が殺し合いをする姿だ。町に溢れる真っ赤な血,絶えることのない悲鳴と奇声,そしてゴミのように積まれた人間たちの死体。初めて見るもの全てが,おれの胸をわくわくさせたんだ!」
狂ったようにエドガーは大声を上げた。
「おれ様はあの時,思ったんだよ。 殺し合いが許される世界になったら,どんなに楽しいだろうと! だから,あの内戦で満足せずに,おれはドラッグを作ったんだ! 殺意を持ち,血を浴びることを一生楽しむためにな!」
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