【完結】Good Friends

朱村びすりん

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第三章:毒の煙

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 それは,ユイコがまだ幼い頃の話。
 和国のとある町に住んでいたユイコは,日々平和な毎日を過ごしている――はずであった。
「ぞ,賊の襲撃だ!!」
 真夏の昼下がり――ユイコの住む市内が賊に襲われた。奴らの目的は,リフェイル合衆国と同盟を結んでいる和国を,全土侵略しようとしたものであった。
 その時は国内全体が賊に立ち向かい,ユイコも両親に守られた。
「こわいよぉ……こわいよぉ……」
 初めて見る賊のイカれた表情,殺し合いによって飛び散るどす黒い液体……幼いユイコにとって,恐ろしいものであった。
 野外で汗を流しながら,必死に両親の後をひたすら付いていった――。
 だが――
 賊が所持していた大砲で,和国の象徴でもあった「巨大塔」を破壊された。その際に毒の煙が発生し,被害はおよそ半径1kmにも及んだ。
 ユイコとユイコの母親も,被害者の一人となった。
 母は喉を潰され,完全に声を奪われた。女性では珍しいことであった。
 そして,ユイコも下半身が完全に動かなくなってしまった。育ち盛りのこの時期に二度と運動することができなくなったのを,両親は涙が枯れるまで流し,哀しんだ。
「守ってあげられなくて,すまん……」
 父のその言葉に,ユイコも瞳から冷たい滴を流した。
 そしてユイコの父は直接,煙の害は受けなかったが,賊と戦ったことによって右腕をなくした。
 ユイコの家族を始めとする,その町の多くの人々が悲劇の人生を歩むことになってしまった――。
 だが,それだけでは済まされなかった。賊は,煙を吸って一時期意識を失った町人たちを徹底的に拉致していった。拉致被害者は,全国内で約十万人以上。彼等の生死は不明。
 破壊された建物の修復は保険で補いきれなかった。これには,貧しい人々を悩ませる原因の一つにもなった。
 襲撃の哀しみも癒えないある日,避難所生活をしていたユイコに衝撃な話がされた。
「国外に避難しなさい」
 両親に言われた一言。ユイコはしばらく理解ができないでいた。
 ユイコの住む和国は,長年リフェイル合衆国と友好関係にあった。戦乱の中,互いに安全地を提供しあい,少しでも賊の襲撃からの被害を減らしていこうと協力している。
 ただし,避難できるのは十六歳未満の子供のみであった。避難後に十六歳になったとしても帰国する義務はないが,安全地も限られているため,これは絶対条件であった。
 子どものユイコでもそれは知っていた。
 渇ききった喉で,恐る恐る両親に聞いてみた。
「……お父さんとお母さんは,どうするの?」
 ユイコの顏を見ながら,両親は苦笑した。そして父が,重い口を開けた。
「……お父さんたちは,ここに残るよ。ユイコは,安全な場所で生活しなさい」
 それを聞き,ユイコは激しく首を横に振った。
「……やだ!」
 髪が乱れるまで,言い続けた。
「やだ! やだ! お父さんとお母さんが一緒じゃないとやだ!」
 普段あまりわがままを言わないユイコでも,この時だけは両親を困らせるほどであった。
 どんなに「嫌だ」と首を振っても,わがままだけでは逃れられない現実がそこにはあった。
「いつまた賊が来るか分からないんだぞ。戦争が終わったらまた三人で暮らせるから,それまでの我慢だ」
 父が目に涙を浮かべながら話していた。その時はまだ純粋だったユイコは,その涙も気にせずにいた。
「ホントに? またお父さんとお母さんとあたしの三人で,一緒にいられるの?」
「……もちろんだ」
「やったぁ!」
 ユイコの中では,戦争などすぐに終わるものだと思っていた。
 何も喋れない母も無音で泣いていたというのに,ユイコはそれを無視するのに精一杯だった。
 こうして,両親との長い長い別れがはじまった――。
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