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第一章

彼女を探し求めて

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 一日中、考えていた。彼女のことを。ちゃんと礼を言いたいと。
 隙あらば外を眺め、彼女の姿を探した。
 移動教室のときも、昼食のときも、体育のときも。ばったり会えないかと期待していた。
 だが、そんなに事が上手くいくはずもない。
 そもそもこの学校は、学年によって校舎が分かれている。よほどのきっかけがなければ、彼女に会うチャンスは訪れないだろう。
 だとすれば──

 帰りのホームルーム。一日のさよならを告げる号令がかかった直後、俺は鞄を持って猛ダッシュで校門へと向かった。
「おい、ファーマー! 廊下は走るな!」と、ガチ鬼の怒号が聞こえたが、気づかないふりをして昇降口を抜け出した。
 一年の棟は敷地内の一番奥側にあって、他学年に比べると校門から多少の距離がある。
 すでに上級生たちが下校を始めていた。
 彼女は、まだ帰っていないよな?
 わからないが、今日はバイトが休みだし時間ならいくらでもある。校門前で待っていれば、きっと会えるはず。
 会いたい気持ちはあるのだが、礼を伝えたい気持ちも大きかった。礼を伝えるなら、早い方がいい。

 頭を巡らせ校門に行き着いた頃には、すっかり息が上がっていた。ひとまず呼吸を落ち着かせ、俺は帰路に就く生徒たちを一人一人確認していく。
 何人かが不思議そうな顔をしながらチラチラとこちらを見てきて、怪訝な表情を向けてくる輩までいた。相手と目が合ってしまったときには、やたらと気まずい空気が流れた。
 中には「こいつはなぜ赤毛に染めてやがるんだ?」と思った奴もいるのかもしれない。明らかに文句がある顔をしているクセに、直接絡んではこないんだ。
 俺の赤毛が憎たらしいか? そう問いかけてやってもいいが、無駄な揉め事はやめておこう。好奇の目で見てくる輩なんて無視するが一番。
 多少のイラつきを抱えながらも、俺は彼女の姿を探し続けた。

 ──だんだん帰宅する人数が増えていく。
 同級生たちも校門にぞろぞろとやって来た。その波に紛れたクラスメイトの数人が「まだ帰らないのか、イヴァン!」と声を掛けてきたりもした。
 だが俺は、首を横に振って適当にあしらうのみ。つまらなそうに去っていく同級生たちを横目に、俺はその場から微動だにしなかった。

 人の波がピークに達した頃、一人ずつ目で追うのがさすがに難しくなってきてしまう。前が詰まるのほどの数。下手をすれば、彼女を見失ってしまうかもしれない。
 門の隅に寄り、俺はとにかく集中して目を配る。
 十分、二十分と時が経ち、やがて人の流れは落ち着きを見せてきた。

 校庭から、運動部が盛んに活動をするかけ声が鳴り響いてくる。活動のない生徒たちはほとんど帰っただろう。

 ……ダメだな。彼女を見つけられない。もしかして、見失ってしまったのか。それとも、彼女は部活に入っているのだろうか。
 最終下校時刻は六時。現在は、四時半。あと一時間半は待ってみるべきか。

 正直、そこまで待つのは退屈だ、なんて思った。せっかくここまで粘ったのに、帰るのも惜しい。
 ひと目でいいから彼女に会いたい。そんな想いが、俺の中に存在していた。
 退屈だっていい。最後まで待ってみよう。

 その前にひと休みをしたいと、俺の喉は飲み物を欲していた。
 校内にはいくつか自販機がある。ここから一番近いのは、食堂前だったかな。たしか、二年の棟の一階にあったはず。

 まだ一度も利用したことがない食堂を目指し、迷いそうになりながらも歩みを進めた。二年の昇降口を通り過ぎ、全くひと気のない道を進む。こっちで合っているのだろうかと不安を抱えながらも、とりあえず奥の方へ進むと──

「あった」

 思わずひとりごとが漏れる。
 食堂入り口のすぐ横に立つ自販機。やっと見つけたところで、俺はハッとした。

 自販機の真横にあるベンチに、一人の女子生徒が座っていた。足を組み、何かの分厚い本を読みながら、ワイヤレスイヤホンを耳に当てている。
 綺麗な黒いショートボブは、西陽に照らされ、今日も一段と輝いて見えた。

 間違いなく、彼女だった。

 本来の探しものを見つけた瞬間、俺の胸が高鳴った。勢いよくベンチの前に立ち、彼女と視線を合わせるためにサッと跪つく。

「こんなところにいたんだね!」

 彼女がイヤホンをしていてもお構いなしに、俺はガツガツと話しかけてみせた。
 こちらの存在に気づいた彼女は、案の定というべきか、驚いたように目を見開くんだ。
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