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第十七章
150,リュウキの願い
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それを聞いて、リュウキは安堵した。と同時に、どうしようもない虚しさを感じてしまう。
彼女が遠い存在になったような気がしてならない。
「きっかけは、きっと身近なところにあります。リュウキ様も大丈夫です」
ヤエにそう言われるが、リュウキは頷くことも出来なかった。彼女から目を逸らし、小さく息を吐く。
「僕に出来ることは、もう何もない」
「……え?」
「僕の望みは君の記憶を取り戻し、幸せになってもらうことだ。だけどもう、大切な人が誰なのかも思い出せたんだろう……?」
束の間、ヤエは口を閉ざす。じっとリュウキの瞳を見つめ、ゆっくりと頷くのだ。
リュウキはたちまち目尻が熱くなった。やがてぬるい涙が一粒流れ落ちる。
「リュウキ様、どうなさいましたか……?」
「いや、ちょっと。──嬉しくてね」
リュウキは拳を強く握った。身体が勝手に震えてしまう。
「ヤエ、どうか幸せでいて。大切な人のそばで、ずっと……」
笑顔を作ろうとした。しかし、どうしても顔が引きつってしまう。全身が熱を帯びている。今までのどんな炎よりも熱く燃え上がり、どうしたって止まらない。
「何を仰っているのです?」
ヤエは困ったように眉を八の字にする。
闇に包まれた意識の中が、真っ赤に燃えていった。リュウキの炎の力が、暴れ回る。
「お願いだ、ヤエ。僕の力がどんどん肥大化してしまう。まだまだ止まらない。世界を焼き尽くすまで暴走するだろう。だから、君の氷で僕を殺してくれないか……?」
リュウキがそう言い放ったときだ。目の前の景色がパッと変わった。
闇の意識から抜け出し、現実世界へと戻されたようだ。
耳の鼓膜が破れそうになるほどの爆撃音。辺り一面炎の地獄化とし、城壁や木々、城が燃え崩れている。
こんな状況で、無数の動物たちが──いや、化け物たちが人間の遺体を貪る姿まであった。
生臭い血の匂いが鼻の奥を刺激する。
熱い、息が苦しい……。
リュウキは、自ら形成してしまった炎の龍に閉じ籠ったまま項垂れた。
「リュウキ様!」
絶えず鳴り続ける爆撃の空間から、焦りを乗せた絶叫が聞こえた。
ヤエだ。
意識の底に響いてくるものではない。たしかに今「ここで」聞こえる。
リュウキはどうにか気力を取り戻そうとした。彼女が自分を呼んでいる。それに答えたい。
「ヤ、エ……」
目に映るもの全てが赤。熱気で視界が揺れている。
求めれば求めるほど、彼女の姿を捉えるのが難しくなってしまう。なんてもどかしいのだろう。
「リュウキ様、こちらを向いてください。私はあなたのそばにいます」
下方に目をやると──こちらに向かってくる人間がいた。一人は青色の見たこともない剣を握り、厳しい顔をしている男。立派な鎧をまとい、汗が流れる額には大きな傷の跡がある。
シュウだ。道中、幾度かリュウキたちの前に現れた謎の男。なぜかリュウキに対してうやうやしい態度を取っていた。しかし──今思い返すと納得できてしまう。
彼のすぐ後ろには、ヤエがいた。寄り添う形で、守られるようにシュウの背中に身を寄せている。
その様を目にして、リュウキの心がうずく。
彼女は、ヤエは、怯えたような眼差しでこちらを見ていた。
「心を静めて……!」
震えた声だ。不安感や緊張、戸惑いなどがひしひしと感じられる。
(ヤエ……僕を怖がっているんだね?)
彼女の悲しみに包まれた瞳を見て、リュウキは感情が昂ぶってしまう。
喉の奥が痛くなるほど熱くなり、息を吐くと同時に発熱した。
(やっぱりだめだ、自制が効かない)
リュウキの負の感情が形成した炎の龍から、再び火の玉が放出された。その一部が、彼女の所まで飛んでいく──
「伏せろ!!」
瞬時にシュウが剣を振り、巨大な火の玉を切り込んだ。刃と火がぶつかり蒸気が吹き出る。真っ二つに割れた火の玉はそのまま地に落ち、じゅわじゅわと音を立てて消滅した。
シュウが手に持つ剣の刃先から、冷気が漂う。
(あれは……氷で出来ているのか? まさか、ヤエが作ったもの?)
初めて見る氷の剱に、リュウキは目を丸くする。
彼女が遠い存在になったような気がしてならない。
「きっかけは、きっと身近なところにあります。リュウキ様も大丈夫です」
ヤエにそう言われるが、リュウキは頷くことも出来なかった。彼女から目を逸らし、小さく息を吐く。
「僕に出来ることは、もう何もない」
「……え?」
「僕の望みは君の記憶を取り戻し、幸せになってもらうことだ。だけどもう、大切な人が誰なのかも思い出せたんだろう……?」
束の間、ヤエは口を閉ざす。じっとリュウキの瞳を見つめ、ゆっくりと頷くのだ。
リュウキはたちまち目尻が熱くなった。やがてぬるい涙が一粒流れ落ちる。
「リュウキ様、どうなさいましたか……?」
「いや、ちょっと。──嬉しくてね」
リュウキは拳を強く握った。身体が勝手に震えてしまう。
「ヤエ、どうか幸せでいて。大切な人のそばで、ずっと……」
笑顔を作ろうとした。しかし、どうしても顔が引きつってしまう。全身が熱を帯びている。今までのどんな炎よりも熱く燃え上がり、どうしたって止まらない。
「何を仰っているのです?」
ヤエは困ったように眉を八の字にする。
闇に包まれた意識の中が、真っ赤に燃えていった。リュウキの炎の力が、暴れ回る。
「お願いだ、ヤエ。僕の力がどんどん肥大化してしまう。まだまだ止まらない。世界を焼き尽くすまで暴走するだろう。だから、君の氷で僕を殺してくれないか……?」
リュウキがそう言い放ったときだ。目の前の景色がパッと変わった。
闇の意識から抜け出し、現実世界へと戻されたようだ。
耳の鼓膜が破れそうになるほどの爆撃音。辺り一面炎の地獄化とし、城壁や木々、城が燃え崩れている。
こんな状況で、無数の動物たちが──いや、化け物たちが人間の遺体を貪る姿まであった。
生臭い血の匂いが鼻の奥を刺激する。
熱い、息が苦しい……。
リュウキは、自ら形成してしまった炎の龍に閉じ籠ったまま項垂れた。
「リュウキ様!」
絶えず鳴り続ける爆撃の空間から、焦りを乗せた絶叫が聞こえた。
ヤエだ。
意識の底に響いてくるものではない。たしかに今「ここで」聞こえる。
リュウキはどうにか気力を取り戻そうとした。彼女が自分を呼んでいる。それに答えたい。
「ヤ、エ……」
目に映るもの全てが赤。熱気で視界が揺れている。
求めれば求めるほど、彼女の姿を捉えるのが難しくなってしまう。なんてもどかしいのだろう。
「リュウキ様、こちらを向いてください。私はあなたのそばにいます」
下方に目をやると──こちらに向かってくる人間がいた。一人は青色の見たこともない剣を握り、厳しい顔をしている男。立派な鎧をまとい、汗が流れる額には大きな傷の跡がある。
シュウだ。道中、幾度かリュウキたちの前に現れた謎の男。なぜかリュウキに対してうやうやしい態度を取っていた。しかし──今思い返すと納得できてしまう。
彼のすぐ後ろには、ヤエがいた。寄り添う形で、守られるようにシュウの背中に身を寄せている。
その様を目にして、リュウキの心がうずく。
彼女は、ヤエは、怯えたような眼差しでこちらを見ていた。
「心を静めて……!」
震えた声だ。不安感や緊張、戸惑いなどがひしひしと感じられる。
(ヤエ……僕を怖がっているんだね?)
彼女の悲しみに包まれた瞳を見て、リュウキは感情が昂ぶってしまう。
喉の奥が痛くなるほど熱くなり、息を吐くと同時に発熱した。
(やっぱりだめだ、自制が効かない)
リュウキの負の感情が形成した炎の龍から、再び火の玉が放出された。その一部が、彼女の所まで飛んでいく──
「伏せろ!!」
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シュウが手に持つ剣の刃先から、冷気が漂う。
(あれは……氷で出来ているのか? まさか、ヤエが作ったもの?)
初めて見る氷の剱に、リュウキは目を丸くする。
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